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策動の太平洋 第7章 オペレーション・スウェルフィッシュ 4 ヴァジュラの一撃

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 CH-47JAが1機、対空兵器と思われる攻撃で墜落した時、地上にいた陸自隊員たちは墜落の光景を傍観している場合では無かった。


 CH-47JAは被弾により、バランスを崩し、回転しながら、二つに割れて地面に激突した。


 その際、地上で着陸誘導と着陸地点を確保していた隊員たちを、墜落したCH-47JAの爆発が巻き込み、火の塊と化した航空燃料の一部が彼らの身体に飛び散り、次々と隊員たちを火だるまにした。


 だが、他の隊員たちはそれを助ける余裕はまったくなかった。


 CH-47JAがもろに地面に激突したため、機体の破片が四方に飛び散った。


 さらに爆発したため、その破片が周囲に降り注いだ。


 陸自隊員たちだけなら、この二次災害を回避する事もできたが、CH-47JAに乗せるために、難民たちを着陸地点近くに誘導していたため、彼らにも破片が容赦なく降り注いだ。


 そのため、二次災害を回避する事ができなかった。


「各部隊に連絡!展開中の全隊員はすべてここに集まれ!普通科隊員たちは二手に別れて、1つは防御態勢、もう1つは負傷者の搬送だ!衛生隊員は負傷者の手当てをしろ!急げ!!」


 圀際が無線員に叫ぶ。


「は、はい!」


 無線員が展開中の隊員たちに圀際の指示を飛ばした。


「た、隊長!もう1機のヘリが!」


 1人の陸士が上空を指差しながら、叫ぶ。


 圀際が空を見上げると、もう1機のCH-47JAが空域を離脱していた。


「お、俺たちを見捨てるのか!」


「戻って来い!」


 隊員たちが離脱していくCH-47JAに叫ぶ。だが、聞こえる訳が無い。


 その時、防御態勢に入っていた軽装甲機動車から緊急連絡が入った。


「敵襲!」


 その言葉と同時に単発音が周囲に響いた。


 突然の襲撃で隊員たちはすぐに対応できず、数人の隊員が負傷した。


「トラックを盾にして難民を武装グループから守れ!各自、正当防衛射撃を許可する。武装グループを近づけさせるな!」


 圀際はすぐに指示を出し、2つの不測の事態に対処した。


「無線員![いずも]に緊急連絡!至急救援を請う。だ!」


 無線員は慌てて、大型の携帯無線機で[いずも]に連絡した。


 圀際も89式5.56ミリ小銃を持って、即席の防御陣地に駆け出し、陣頭指揮をとった。


 武装グループは巧妙に樹木に身を潜めて、発砲している。


 その射撃はお世辞にもうまいとは言えないが、撃っている以上は何もしない訳にはいかない。


 圀際は89式5.56ミリ小銃の安全装置を解除し、武装グループに戦意を損失させるために3点射制限射撃装置にして、撃ち返す。


「敵は、素人集団だ!きちんと狙って撃てば、敵も逃げ出す!訓練通りにうまくやれ!」


 圀際は瞬時に敵の武装勢力が素人集団と判断し、部下たちにそう叫んだ。


 年間数100発の射撃訓練をしている普通科隊員である。射撃に必要な動作は、身体が覚えている。


 頭で考える前に、身体がきちんと動く。


 それに彼ら中央即応連隊の隊員たちは、中小規模の実戦を経験している(これはこの時代で緒戦に参加していた陸自部隊も同様だ)。


 どうやら敵は小火器のみで、うまく使いこなせていないようにも見える。圀際は89式5.56ミリ小銃を発砲しながら、武装グループをそう判断した。


 軽装甲機動車の上面ハッチに装備されている、5.56ミリ機関銃MINIMIが火を噴く。


 軽装甲機動車は防御陣地に展開する普通科隊員たちを守るため、武装グループと普通科隊員たちの間に停車し、敵の銃火を受けている。


 海外派遣仕様の軽装甲機動車であるから、車体を守る装甲板も防弾ガラスも強化されている。


 自衛官たちの時代でも7.62ミリ小銃強化弾でも、この時代に投入にされている軽装甲機動車の防弾性能を破る事はできないだろう。





[いずも]のCICでは騒然となっていた。


 CH-47JAが1機、対空兵器による攻撃で撃墜され、現地に展開している陸自部隊が武装勢力から襲撃されている事と、2番機のCH-47JAが地上にいる陸自隊員と難民を見捨てて空域を離脱した報せが立て続けに報告されたのだから、CIC内は蜂の巣をつついたようになるのは当然だ。


「・・・空域を離脱したCH-47JAのパイロットの判断と、銃を突きつけてまで、その行動を止めようとした看護官の行動はどちらも正しいし、どちらも間違っている・・・と言うべきだな」


 内村は目を閉じ、そうつぶやいた。


「だが、どうやって、対空砲を隠蔽したのだ・・・あの地域は念入りにOH-1が偵察したのに・・・」


 南アメリカ在留外国人救出隊で情報担当の科長(3佐)が、つぶやいた。


 今回の無茶な難民救助も、派遣された自衛隊は何もせず、隊員たちを現場に向かわせてはいない。きちんと航空機による偵察活動はしていた。


 周辺の状況確認と監視のためにOH-1が1機、南アメリカ在留外国人救出隊に配備されていた。


 OH-1は、中高度で周辺の地域に敵が潜んでいないか、念入りに目視確認と赤外線カメラによる航空偵察を行った。


 この時代に派遣されているOH-1は、すべて能力向上型でOH-1改と言うのが正しい。


 ゲリラやコマンドを捜索できるよう索敵機材も最新型に取り換えられていた。だが、周囲に敵影は確認できなかった。


「そんな事を言っている場合では無い!敵中に孤立している隊員たちと難民をどうやって救助するか、それが先決だ!」


 土川が怒鳴る。


「だが・・・」


 内村が言葉を濁す。


 これは極めて対応が難しい問題である。


[こんごう]と[いかづち]の主砲の射程外である以上、ハープーンの対地攻撃による対空砲陣地攻撃という手があるが、ミサイル攻撃は過剰であると釘が刺されている。


「司令。本艦にはSH-60Kがあります。このヘリにはヘルファイア・ミサイルであるAGM-114が搭載できます。これは対艦用ですが、対地攻撃も可能です。これで対空砲陣地を攻撃し、展開中の陸自部隊に攻撃を加えている武装グループに攻撃してはいかがでしょうか?」


 村主が具申する。


 しかし、その表情にはいつもの自信が感じられない。


 それはそのはず、海上自衛隊も状況によれば地上戦もあると判断し、その訓練もつんでいたが、あくまでも地上戦は沿岸部に限定しており、内陸部等の地上の奥深くに侵入させ、対地攻撃する等、前例どころか訓練すらしていない。


 当然ながらSH-60Kに地上目標を攻撃する精密な地形データを把握し、処理するシステム等ない。


 それは陸上自衛隊の役目だ。


 村主もその事は承知している。しかし、この状況下ではこれしかないのだ。


「時間をかけ過ぎだ!」


 突然、CICにイングランド訛りの日本語が聞こえた。


 その声はかなり棒読みだ。


 内村や村主たちが振り返ると、氷室に連れられたイギリス陸軍少佐と海軍中佐がCICに現れた。


 氷室が内村たちに告げた。


「司令。先ほど、イギリス艦で編成された派遣艦隊からWAH-64とSAS(特殊空挺部隊)を乗せたリンクスAHが出動しました。イギリス艦隊司令であるドゥルイト少将がOH-1の出動と、危険排除のため[こんごう]のハープーンによる対空砲陣地の破壊を要請するそうです」


 氷室の言葉に内村たちは驚いた。


 しかし、ここで、議論や説明を求めている場合では無い。


 内村はすぐに決断した。


 SASにしてもWAH-64もこのような事態は慣れたものだ。自分たちより、適任だろう。


「わかった。土川1佐。OH-1を発進させてくれ」


「はっ!」


 土川は、即座に指示を出す。


「司令。ハープーンの攻撃座標データ収集と誘導のために、SH-60Kの発艦を具申します」


「しかし、首席幕僚。SH-60Kはそんな訓練は積んでいません。ここは、OH-1にまかせるべきでは」


 村主の具申に幕僚の1人が反対する。


「確かに、訓練はしていません。でも、していないからできないでは言い訳です。GPS誘導がない以上、SH-60Kによる誘導が必要です。OH-1はWAH-64とリンクスAHを誘導しなくてはいけません。ここは、我々海自がやるべき事です。もちろん、護衛としてAGM-114と74式車載7.62ミリ機関銃を搭載したSH-60Kを同行させます」


(さっすが、それでこそ僕の姉さん!)


 氷室は自分の自慢の従姉が、この不測の状況下でも、その明敏な思考に少しの曇りも生じていない事に、内心で誇らしく思い、うなずいていた。


「首席幕僚の具申を受ける。SH-60K2機にAGM-114を搭載。現場に急行させ、OH-1のデータを[こんごう]に中継せよ。ハープーンの攻撃終了後は、WAH-64とリンクスAHを支援して、制空権を確保せよ。よろしいですね、防衛法務事務官」


 命令の後、内村は防衛局から派遣されて来ている背広姿の男に振り返った。


「攻撃を受けた以上、自衛隊法に明記されている自衛のための攻撃の範疇です。過剰防衛には該当しません」


 法務事務官は無表情で告げた。





 ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍揚陸艦隊から派遣された多目的揚陸艦[フューリアス]級1番艦[フューリアス]は、護衛艦として随行している23型フリゲート艦[ティーザー]と周辺海域と空域を警戒していた。


 多目的揚陸艦[フューリアス]は近年のイギリス海軍の外洋艦隊としての情勢により、新しく建造された揚陸艦だ。


 それまでイギリス海軍が運用していたヘリコプター揚陸艦をさらに発展したものだ。


[フューリアス]の艦橋で司令席に腰掛ける50代後半の男はヒック・ドゥルイト少将である。


 イギリス人男性の平均身長より低い彼は、白くなった髪に綺麗に整えた白い口髭が特徴の中年男性だ。


 イギリス海軍軍服を着ていなければ、どこかの名門大学の教授と間違われる風貌だ。


 しかし、そんな風貌からは想像できないが、彼は元イギリス海軍空母戦闘群の指揮官でもある。


 なぜ、そんな彼が揚陸艦に乗艦しているかと言うと、本来、この任務の指揮官は揚陸部隊の指揮をする別の少将だったのだが、彼は体調を崩し、任務に付けなかった。


 だから、彼が選ばれたのだ。


「提督。日本艦隊指揮官内村海将補より、入電」


 通信文を持った長身のイギリス海軍将校が声をかけた。


 30を過ぎたばかりのこの男はドゥルイトの副官であり、もっとも彼が信頼する将校だ。


 彼はイアン・クリントン少佐である。


 顔立ちや立振る舞いからイギリス貴族を思わせるが、クリントンは男爵家の三男であるから、貴族であるのは間違いない。


 平民出身であるドゥルイトとはとても良好な関係であり、どちらかと言うと親子のような仲だと周りは口を揃えて言う。


「内容は?」


 ドゥルイトは司令席で頬杖をついたまま、聞いた。


「日本艦隊はOH-1の発進とハープーンの対地攻撃を承認しました」


「よし、これで、日本の面子を守る事もできる」


 ドゥルイトはそう言って、司令席を立ち上がった。


「SASの指揮官に伝えろ。テロリストどもに情けや容赦は無用だ。徹底的にぶちのめせ」


「はっ!」


 クリントンは挙手の敬礼をした。


 ドゥルイトは艦橋に設置されているモニターに視線を向けた。


 SASの隊員たちがヘルメットに装着している小型カメラの映像がモニターに映し出されている。


 敵からの襲撃を受けている陸上自衛隊員にもだが、彼らを救出に向かうSASの隊員にもドゥルイトの亡くなった息子と同じ歳の若者たちが大勢いる。


 だから、例え危険な戦場でも国のために戦う事を決めて、志願した若者の兵士を見捨てる選択肢は無い。


「また、儂は若者の命を救うために、若者に死ねと命令する・・・」


 ドゥルイトが小声でつぶやいた。


 これまで彼はいくつかの戦場を経験した。そして、国や勢力を問わず多くの兵士たちの命を奪った。


 そのほとんどが、息子と同じ若者だった。


 彼はこのニューワールド連合軍に志願した時に決めた事がある。


(この第2次世界大戦が、世界と我が愛する祖国の最後の戦争だ)と。





「SH-60Kより、攻撃目標の座標データを受信!データを入力します」


「・・・こうなると、思っていたけどね。カサンドラの予言は皆嫌がるから・・・」


「はい?」


「何でもないよ」


「・・・・・・」


[こんごう]のCICで、1人つぶやきを漏らす橘田に、砲雷長はため息をついた。


 橘田の癖で、どうでも良い所で、どうでも良い雑学を口にするのはいつもの事だ。


「データ入力完了」


「ハープーン発射用意!使用弾数2つ」


「に!2発!?」


 思わず砲雷長は聞き返した。


 敵勢力の対空砲は1門。1発でも十分なはずである。


「敵に見せつけるんだよ。弱い者いじめは大概にしろ、とね。こちらに強力な報復手段があるとわかれば、今陸自を襲撃している連中も撤退するだろう。もっとも、SASが相手じゃ逃げ切れるかどうかは疑問だけどね」


「しかし、ハープーン2発はやりすぎでは・・・」


「なあに、過剰防衛を正当防衛にするために、給料をもらっている防衛法務事務官もいることだし。問題ないっしょ。それに、いざとなれば総隊司令官の命令書もあるし・・・」


 そう言って、橘田は[あしがら]の向井も使った命令書を見せる。


(無茶苦茶だ・・・)


 時代劇のご隠居が使う、印籠じゃないのですよ。と思った。


「それに・・・ノーフォークを空爆した時に西海岸にばら撒いたビラにもちゃんと書いてある。日系人に危害を加えた場合、然るべき措置を取るとね。この警告は僕にとっては、単なる脅しじゃ無いのだよ。あちらさんには、あちらさんの、事情も大義もあるだろうけど、日本人を傷つけた時点でアウトだね。絶対に許さない!」


 橘田の最後の言葉には、全てを凍り付かせるような凄味がある。


「は・・・ハープーン発射用意!使用弾数2つ!」


 得体の知れない恐怖に声を詰まらせながら、砲雷長が復唱する。





 アメリカ合衆国海軍駆逐艦[メイヨー]。


 海軍司令部からの極秘命令を受け、日本艦隊を監視していた艦長のベン少佐は、巡洋艦から発射され、白い筋を引いて空高く飛翔していく2つのロケット弾をはっきりと見た。


「・・・あれは・・・ミラ・フローレス閘門を破壊したロケット弾?」


 双眼鏡を覗きながら、ベンはそう確信した。


「・・・あんな、とんでもない兵器をどうやって開発したのだ?こちらの射程外から攻撃できる手段を持っている敵と、どう戦えというのだ」


 ベンは呆然と、ロケット弾の軌跡を眺めていた。


 閘門を破壊された後、僚艦と共に潜水艦の捜索に当たったが、全く発見できなかった。


 ハワイから帰投してきた太平洋艦隊の将兵たちから、水上レーダーで探知できない程微弱な反応の艦隊についての噂を聞いた。


「・・・ゴーストフリート(幽霊艦隊)・・・」


 海軍ではそう呼ばれているが、陸軍では[スペースアグレッサー(宇宙からの侵略者)]という呼称が定着しているらしい(これは、あるタブロイド誌の記事が元になったらしい)。


 ただ、ベンは思った。それは、ただ思っただけなのだが。


 彼らの兵器は現在ある兵器が発展したものではないのか?後、何10年か何100年か経てば実現可能なのではないか?


 だとすれば・・・


 宇宙人や幽霊など得体の知れないものではなく、[フューチャー・ザ・フォース(未来の軍勢)]ではないのか?・・・と。





 圀際に率いられた普通科隊員たちは、89式5.56ミリ小銃を武装グループに向けて乱射していた。


 圀際も89式5.56ミリ小銃の空の弾倉を外し、弾が装填されている弾倉を叩きこんだ。


(どうなっている。ここまで火力の差が見せられ、なぜ、引かない?)


 89式5.56ミリ小銃を構え、木影に隠れて発砲している武装グループに撃ち込む。


 日本国内で大規模な反政府活動が軍民問わず発生したが、その度に自衛隊と共に派遣された警察の対テロ対策部隊が対応したが、火力の差を見せつけると、退却する者や投降する者もいた。


 だが、今、自分たちと戦っている武装グループは全然違う。


 単なる己の身の程がわからない無能集団なのか、それとも何か策があっての事か・・・


 その時、普通科隊員の陸曹長が叫んだ。


「隊長。弾薬が少なくなっています!」


(そうか!奴らの狙いはこれだったのか!)


 陸曹長の報告に、圀際は気がついた。


 敵は素人の武装集団では無い。


 待っていたのだ。


 我々の弾が尽きる事を・・・


「俺とした事が!」


 圀際は奥歯を噛みしめた。


 これは戦場で銃が主力になった時から、戦術だけでは無く、力量等で劣る敵が何度も仕掛けてきた戦法だ。


 日本に限って例を出せば、明治に入って最大の内乱となった、西南戦争で、兵器、資金、兵力等で上回っていた日本の政府軍と戦った西郷軍が使った戦法である。


 刀、弓、火縄銃では、政府軍が持つ銃火器にはまともに戦っても勝てなかった。


 そこで西郷軍は彼らを挑発し、必要以上に弾薬を消耗させ、弾が切れた所を襲い掛かった。


 こうなれば西郷軍と政府軍は五分五分の戦いができる。


 この方法を卑怯と思う者もいるだろう。しかし、西洋列強から輸入した強力な武器兵器で攻撃する政府軍もまた、卑怯と言わざるを得ない。


 これが、戦争というものを単純為らざるものにしているのかも知れない。


 確かに、最新鋭の武器兵器を取り揃えた軍隊は強い。


 しかし、絶対とは言い切れない。


 ベトナム戦争でのアメリカ軍、アフガニスタン侵攻のソ連軍が結局どうなったかを見ればわかるだろう。


 圀際はこれまでの戦闘で自衛隊や警察が勝っていたから、こういう軍人が持たなければならない危機意識が欠如していた。


「各員に告ぐ!これは敵の罠だ!俺たちが弾切れになるのを敵は待っている!弾薬を節約しながら撃つんだ!機関銃も可能な限り使うな!」


 今さら、そんな命令をしても遅い。


 防御陣地に展開している普通科隊員たちが節約しながら発砲を開始すると、敵は突然、木影等から飛び出し、一斉に突撃を開始した。


「くっ!やはり・・・」


 圀際は弾薬の消耗が早くなる事を覚悟して、89式5.56ミリ小銃を連発射撃に切り替えて、銃弾をばら撒いた。


 だが、その時、上空からローター音が響いた。


 圀際が音のする方向に振り返ると、1機のAH-64Dが匍匐飛行しながら彼の視界に入った。


「違う。あれはイギリス陸軍・・・という事はAH.1(WAH-64)だ!」


 AH.1はほとんどAH-64Dと同じである。


 ただ、機体のマークがイギリスを示すものだから、それが理解できたのだ。


 AH.1の機首下に装備されている機関砲が火を噴き、機銃掃射を開始する。


 ロケット弾、対戦車ミサイルを撃ちこみ、武装グループを吹き飛ばす。


 さらに別の方向から凄まじい爆発音が響いた。




 それは、死の直前に見た幻影だったのかも知れない。


 飛来してきた、黒っぽい緑色の航空機。それが、襲撃部隊に攻撃を加えている。


 即座に対空砲を発射しようとしたが、低空をチョコマカと動き回るそれに狙いが付けられない。


「何だ、あれは?」


 自分たちを見張るように、静止している航空機。


 その白い機体に、照準を合わせた。


「撃っ・・・!!・・・!!?」

 

 砲撃命令を出そうとした時、白い機体の背後に異教の戦神の姿を見た。


 刹那。


 周囲は白銀色の闇に包まれた。





 圀際が、爆発音のした方向に振り返ると、CH-47JAを撃墜した対空砲が設置されている高地は、爆発の衝撃で、大きく抉れていた。


「対地ミサイル?いや・・・ハープーンか・・・」


 恐らく、対空砲陣地にいた人間は、その威力でほとんど死亡しただろう。


 イギリス陸軍の攻撃ヘリコプターの攻撃誘導や周辺の状況把握のため、OH-1が偵察活動をしていた。


 さらに、白い機体のSHー60Kが、上空を旋回している。


 OH-1からの誘導により、攻撃ヘリコプターは攻撃し、武装グループが退避するルートを予測したSASの部隊はそのルートに待ち伏せしていた。





「各チームへ、奴らが来るぞ」


 ニューワールド連合軍多国籍特殊作戦軍第24SAS連隊B中隊A戦闘小隊長のバーナーズ大尉はサプレッサー、可視レーザーサイト、ACOG、M26MASSを装着したL119A1(M4A1カービン・ライフル)を腰側に移動し、小型無人偵察機から送信された画像を端末機の液晶画面で確認しながら、彼の指揮下で行動している3チームに教えた。


 小型無人偵察機は最新式の画像処理システムを搭載した小型カメラであり、いくらジャングルでもあんな逃げ方では発見するのはたやすい。



 バーナーズの部下であり、チーム・リーダーのヒース・マニオン少尉はSASの訓練過程を終了したばかりの新人隊員だ。


 彼はHK417に装着したダットサイトを覗きながら、引き金に指をかけた。


 HK417は5.56ミリライフル弾を使用弾薬とするHK416を7.62ミリライフル弾が使用可能に拡大されたアサルトライフルだ。


 いくつかの対テロリズム戦等で高く評価された本銃は狙撃銃からCQB(近接戦闘)まで幅広くバランス良く使用できる。


 主に軍や警察の特殊部隊用に導入され、興奮状態やその他の状態で歩兵携行火器の使用弾薬である5.56ミリライフル弾では致命傷を与えるのが困難な場合に確実に致命傷を与える危害射撃や拘束を目的とした行動不能射撃に最適なアサルトライフルである。


「各チームに告ぐ、いつもの通りにやれ。1人若しくは2人は殺すな。1人ないし2人は拘束を目的とした射撃を行え。それ以外は殺しても構わない」


 世界に即応展開する事を目的として整備された軍の特殊部隊では、このような命令がでるのは珍しくない。


 これはテロリストやゲリラ等を全員殺害しても、意味が無いからである。


 これが単に自分たちの思想なのか、それともどこかの国家又は勢力の陰謀なのか。で、今後の国家戦略が大きく変わるからだ。


 そのため、世界各国に即応展開する各国軍の特殊部隊では武力攻撃(自衛隊では武器使用に相当)に関しては時には厳しい制限を受ける事もあるそうだ。


 だが、SASの隊員等のなかには、そのような無茶な命令を政府や背広組に受け、ぶつぶつ文句を言う者もいる。


 そういう時は、「敢えて挑んだ者が勝利する」(SASの言葉である)と言って、黙らすそうだ。


「サー」


 マニオンが短く返答すると、バーナーズから射撃命令を待つ。


「スタンバイ、スタンバイ、ファイア!」


 バーナーズの射撃命令で各チームはこれまでの訓練と実戦で獲得した戦闘技術を駆使して、敗走中の武装グループに銃弾を浴びせた。


 さらに武装グループの何人かを拘束する役目を負った1個チームがすばやく彼らの中に突入し、SASが独自で編み出した拘束術で武装グループの何人かを拘束する。


 その間も射撃は止む事は無い。


 日々の訓練で味方に誤射しないための射撃訓練が成果を出し、武装グループに攻撃するSAS隊員と拘束するSAS隊員は確実に武装グループを排除した。


 マニオンも新人SAS隊員ではあるが、SASにいる以上は新米も熟練者もいない。


 正確な精密射撃で確実に武装グループにHK417の7.62ミリライフル弾を撃ち込み、確実に仕留める。


 わずか10分にも満たない戦闘で50人程度の武装グループを全滅させた。そして、生き残った武装グループは全員が拘束された。


 世界の軍隊の特殊部隊の中でももっとも古く歴史があるSASはまさに精鋭中精鋭部隊の名に恥じない行動をした。





「どうやら、今回は俺たちに天が味方してくれたな・・・」


 圀際は弾が切れた89式5.56ミリ小銃を下ろしながら、つぶやいた。


「隊長。5分後に予備のCH-47JAともう1機のCH-47JAをここに送るとの連絡です」


 無線員が報告した。


「わかった」


 圀際は肩を落としながら、つぶやいた。


 全身から急激に力が抜けていく。ほんの少しで良いから休みたい。そう思った。


 策動の太平洋 第7章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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