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策動の太平洋 第6章 オペレーション・スウェルフィッシュ 3 ショットダウン

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 中央衛生団から派遣された第1中央衛生隊第106野外病院隊は、南アメリカ在留外国人救出隊に所属する普通科隊員で編成された警備部隊と共に上陸した。


 同部隊は到着後、救出ポイントで治療が必要な在留外国人の応急処置と予防注射をしていた。


 中央衛生団は、陸上総隊が創設される前に編成されていた中央即応集団に配備されていた、対特殊武器衛生隊と海外での専門的治療を行えるように教育し、国内外の災害時で18時間以内にどこでも展開できるよう編成した3個中央衛生隊で編成された団編成の部隊だ。


 ここで各種診察を受けて、感染性ウイルスやその他の感染症等がない事を確認し、負傷の具合を見て収容する艦を、どの艦にするかを判断する。


 感染症又はウイルスに感染している疑いがある者は、隔離機能がある掃海母艦[のつけ]に収容する。


 それらの疑いがまったくない者は、輸送艦[しもきた]の第4甲板に収容するが、負傷等により、それなりの手術が必要な者に対しては、第1甲板で設置されている野外手術システムで各種外科治療と本格的な手当てが行われる。


 中央衛生団第1中央衛生隊第106野外病院隊に所属する石垣(いしがき)梓(あずさ)1等陸尉は、防護服姿で在留外国人を慎重に診察していく。


 彼女は、菊水総隊司令官付特殊作戦チームに所属している石垣(いしがき)達也(たつや)の、5歳年上の姉である。


「ここ最近、身体がだるいとか、身体に違和感がある。といった事はありませんか?」


 石垣は丁寧な英語で、救出対象の外国人に語りかける。


「最近まともな食事をとっていないから、すぐに身体が疲れる。後、身体のあちらこちらが痛む」


 石垣はすばやいスピードで書類にペンを走らせる。


「はい、わかりました。血液検査と尿検査の結果が出ましたら、すぐに収容される艦が決まります。それまで待機所でお待ちください。炊事隊が暖かい食事を準備中です。そこで、おいしい物を食べて、休んでください」


 石垣はマスクをつけているからどんな表情をしているかわからないが、彼女の目を見れば誰でもわかるように笑っている。


「それは助かる」


 彼女が担当した患者が、嬉しそうな顔をする。


 次々と患者が入れ替わり、感染症等の疑いがないと判断されるとそれぞれの天幕に移動し、そこで食事が配られる。


「次の方、どうぞ」


 石垣は休む暇も無く、次の患者を呼び、問診を行う。


 ちなみに彼女は医官である。


 防衛医科大学校を優秀な成績で卒業し、外科医としてだけでは無く、大抵の事であればほとんどの医療活動ができる名医だ。


 菊水総隊がこの時代にタイムスリップした時、本格的な自衛隊の出動であった、山陰地方で発生した地震災害では、彼女が所属している部隊がいち早く被災地に到着し、被災者の治療が行われた。


 石垣は入官してから2度海外に派遣され、戦争被害者や、災害によって被災した被災者に医療活動を行った。


 彼女の方が弟の達也よりも、戦争の惨状を理解している。


(達也が歴史研究という仕事を選んだのは間違いではないわね・・・)


 この時代にタイムスリップして、彼女はそう考えるようになった。


 弟に厳しい兄よりは彼女の方が優しい方に入るだろう。もちろん、姉として厳しく接する事もあるが、それでも弟には甘い方だ。


 実を言うと弟の達也が菊水総隊に志願した時、梓は兄に弟を外すよう頼んだ事もある。しかし、兄はそれを受け入れなかった。


 その時、彼女は、どうしても弟を外さないのなら、自分もこの派遣に加えろ、と条件を出した。兄はそんな梓の条件を承諾した。


 石垣は自分が担当する患者のカルテをすばやく書き込んでいく。





 南アメリカ在留外国人救出隊指揮所である司令部天幕で土川は指揮官席に腰掛け、目を閉じていた。


「・・・・・・」


 土川は南アメリカにいる一部の日系人からの救助要請に、判断を迷っていた。


[しもきた]、[のつけ]に救出対象者を収容開始してから、2日経過した頃、土川の耳に入った内容である。


「隊長。救助要請を出している日系人グループは50人に上り、ほとんどが負傷により、これ以上の長距離移動ができない状況下です。彼らは、いつ武装グループに襲われるか、それに恐怖しています」


 南アメリカ在留外国人救出隊の幕僚がそう言った。


「[いずも]からの連絡はないか?」


 土川は連絡将校として配置されている海自の幹部に聞いた。


「いえ、まだです。統幕本部からもまだ何の連絡もありません」


 デジタル迷彩服を着た海自幹部が答えた。


 統合編成されている南アメリカ在留外国人救出艦隊は、菊水総隊司令部からは一時的に外されており、その現場の判断は内村に任されているし、当部隊の監督及び最高指揮権も統合省防衛局にある。


 だが、それは単に現場で判断できない事が発生したら、それをどうするかについて判断し、後の決断はすべて現場になっている。


 彼らが危惧する事は他にある。


 それは救助を待つ日系人グループはヘリなら問題なく行けるが、洋上にいる護衛艦の援護支援圏外であるのと、当地域は統合省外務局と防衛局の情報部から極めて危険な地域であると報告されている。


「この地区の武装グループの装備はどれもかなりの旧式歩兵銃や機関銃です。機関銃に関しては第1次世界大戦時に使われた物が多く。普通科部隊の装備する小火器でも十分対処できますが、抑止力に欠けます」


 幕僚が作戦地域の資料を見ながらつぶやいた。


「隊長」


 情報担当の幕僚が通信員から通信文を持って、告げた。


「来たか」


「内村海将補より、日系人グループからの救助要請を受諾し、救出部隊を編成して、現地に向かわせろ、との事です」


 幕僚の報告に幕僚たちはため息をついた。


「難問ですね」


 誰かがつぶやいた。


「即時、日系人グループの救出案を考えろ。部下たちを危険な場所に派遣する以上、全員無事に帰還できるよう最善を尽くせ」


「「「はい!」」」


 幕僚たちはすぐに作戦を議論した。


 当然、この地点の警備部隊を残した状態で隊員を引き抜き、現地に派遣する救助部隊を編成しなくてはならない。


 救助部隊は普通科隊員を基幹として編成し、日系人グループを誘導する誘導員、負傷者の応急処置を行う衛生員等で編成するため、隊員数は50名になった。


 念のために、いきなりヘリでは行かず車輛で陸路を移動し、その後、状況を把握し、ヘリで負傷者を乗せる事になった。


 警備部隊の装備として派遣されている軽装甲機動車2輌を派遣し、高機動車や1トン半トラックの護衛をする事になった。


 2輌の軽装甲機動車には5.56ミリ機関銃MINIMIを装備させているから火力はそれなりに高い。


 さらに展開する普通科の隊員にも予備として持ち込んでいる5.56ミリ機関銃MINIMIを渡し、襲撃に備えた。


 何の問題もなければ数時間で完了する任務だ。


 危険と言っても、これまで自衛隊がPKOとして派遣された国の武装勢力が装備する兵器よりは貧弱だ。


 この時は誰もがそう考えていた。





 指揮車である軽装甲機動車を先導に、その後ろから防弾仕様に改良された1トン半トラックが2輌、殿として軽装甲機動車が1輌という編成である。


 急遽編成された特別救助隊は50名の隊員で、隊員の安全と救助対象者の安全のために小火器の装備が普通科、衛生科を問わず装備するよう指示されている。


 特別救助隊の指揮官は中央即応連隊で中隊長をしている圀(くに)際(きわ)3等陸佐である。


「特救より、指揮所。現在順調に目標へ移動中」


 特救とは、特別救助隊の略称である。指揮所とは常に連絡を取り合う事が決められている。


「こちら指揮所。何も問題ないか?」


「今のところは問題ない」


 圀際がそう報告すると、交信を終えて、無線機を戻した。


「隊長。今回の任務はいろいろと規定を無視していませんか?本来であれば念入りの情報収集と現地の状況把握のために偵察隊を出すべきなのでは?」


 指揮車である軽装甲機動車の運転手である矢賀(やが)2等陸曹が言った。


 30歳になったばかりの彼の身長は高い方では無いが、レンジャー資格を有する隊員で陸士たちからは頼りのある兄貴分的存在だ。


「そうだな。しかし、今回は状況が異なる。こういう事もたびたび起きるだろう・・・まったく、背広組の我が儘にもうんざりだが・・・」


 圀際も矢賀と同じくレンジャー資格を有する幹部自衛官だが、彼は元特殊作戦群に所属していた隊員だ。


 肉体的問題で特殊作戦群を離れたが、身体が完治した後は中央即応連隊に身を置いた。


「でも、あれですね。アメリカと戦争をしているのに、アメリカの庭のような南米大陸でPKO活動って、おかしな感じです」


 後部座席に座っている陸士長が言った。


「そうですよ。俺たちと戦争をして、もう勝てないとわかっているのに何でまだ戦争を終わらそうとしないのかな?外交官たちはきちんと仕事しているのか、聞きたいぐらいです」


 同じく後部座席に座っている陸士長がつぶやいた。


「さあな、統合省や統合幕僚本部のお偉方がどんな思惑かさっぱりわからない。この任務もそのためかもしれんな」


 圀際は整備されていない道を座席で感じながら、目的地を印した地図を見た。


(今のところ武装グループはおろか、現地住民とも接触しない。これなら、戦闘になる事はないな)


 圀際はそう思いながらコンパスと地図を照らし合わせながら、道を間違えないようにした。


 目的地に到着したのは正午になろうとする時間であった。


 案内人の同行のもとで、民族浄化から逃れた日系人たちのキャンプに入った。


 キャンプと言っても、天幕がある訳では無く、70人ぐらいの日系人たちが木影等を利用して、休んでいた。


 彼らの服装はひどく破れ、身体中傷だらけだ。それとかなり疲労した顔をしている。


 圀際はここのキャンプの代表者と接触し、彼らに救出プランを説明した。


 代表者は快く受け入れ、救出プランはスムーズに運んだ。


 圀際は指揮所に連絡し、CH-47JAの出動を要請した。指揮所からは周囲の安全と着陸地点の確保を指示された。


 特救の普通科隊員を3つに別けて第1部隊を周辺の警戒、第2部隊を衛生隊員や救出対象者の日系人等の警護、第3部隊を着陸地点の確保と誘導に再編した。


 ヘリが到着する間に救出対象者の治療の優先順位を決めるのと、持ってきた食糧を提供した。





[いずも]から発艦した2機のCH-47JAは各機に2人のパイロットの他に機上整備員1名、機上誘導員兼保安要員3名、機関銃手2名、弾薬補給員2名、現地で初動的医療処置として医官2名、看護官4名が搭乗する。


 現地の状況が不明であるため、個人防衛のために全員が9ミリ拳銃を装備させている。


「アイビス1より、アイビス2。これより先は護衛艦の支援が受けられない。機関銃程度の武装だから飛行する時は細心の注意を払え」


 東御が後続機に注意する。


「アイビス2。了解」


 東御は風防ガラスから周囲を見回しながら、怪しい物は無いか、警戒した。もっとも、見えるのは南米のジャングル地帯である。


 待ち伏せされていても空からは発見する事は困難だ。


「アイビス1より、特救。応答せよ」


 東御は着陸誘導電波を受信した事を確認すると、特別救助隊に呼びかけた。


「こちら特救。感度良好」


 返答はすぐに来た。


「まもなく目標地点だ。着陸地点は確保しているか?」


「着陸地点は確保している。着陸地点周辺の安全は確保している。着陸は問題ない。襲撃の恐れは何とも言えないが、用心に越した事は無い」


「了解」


 特救からの連絡に東御は同じ気持ちだ。


「しかし、天気は晴朗で風も無風。着陸地点の発見も着陸も何も問題なくできそうですね」


 副操縦席に座る二宮が計器類を見ながら、言った。


「あそこが着陸地点か」


 東御の目で見て、CH-47JAなら3機ぐらいが横に並んで着陸できるような広い草原が確認できた。


「南米は森ばかりとイメージしていたんだが、そうでもないんだな」


 東御は南アメリカのイメージをつぶやいた。


「まあ、どんな森でも自然界が作り出した草原地帯もあるでしょう」


 二宮がつぶやいた。


 東御は操縦するCH-47JAの高度を下げ、着陸準備に入った。


 まず、着陸地点を一回りして着陸が可能か、どうかを確認する。


「よし、着陸態勢に入る」


 CH-47JAをホバリングさせ、ゆっくりと高度を下げた。


 地上では着陸誘導員が着陸誘導をしている。





 CH-47JAが1機、着陸態勢に入っている時、そこから4000メートル離れた距離にある高地に巧妙に隠蔽された高射砲があった。


 この高射砲はドイツ第3帝国国防軍が配備している8.8センチ対航空機砲に似ている代物だが、それもそのはず、ドイツ第3帝国が1940年代に入り、ドイツと友好関係の南アメリカの国家や民族に供与した輸出型の対航空機砲だ。


 ドイツ軍制の手動装填式小銃やアメリカ製、スペイン製の手動装填式小銃を装備した南アメリカの現地民兵(武装グループ)が双眼鏡で見慣れない航空機を確認した。


「あれは日の丸。日本軍機だ」


 髭を生やした中年男が双眼鏡を覗きながら、つぶやいた。


「こいつがどれ程のものか確認する、獲物が現れたな」


 中年男がそう言うと、部下たちに指示した。


 民兵たちは慣れない手つきで8.8センチ対航空機砲を操作し、日の丸のマークがある見慣れない航空機に照準を合わせる。


「射撃準備完了」


 操作指揮官が報告する。


「撃て!」


 中年男の号令で8.8センチ対航空機砲が火を噴いた。





 東御がCH-47JAの高度を下げていると、前部左右にあるキャビンドアの1つの右側のキャビンドアから解放し、地上の状況を確認していた機上整備員が、遠くの高地で閃光と砲煙を目視した。


「!?」


 それが何なのか理解した時にはすでに遅かった。


 東御が操縦するCH-47JAに凄まじい衝撃と爆発が襲った。


「な!なんだ!?」


 二宮が叫ぶ。


 コックピット内に警報アラームが鳴り響く。


「メーデー!メーデー!メーデー!武装グループからの攻撃によるものと思われる対空火器により被弾した!」


 東御はすぐに航空通信で緊急事態が発生した事を報せた。


 二宮が必死に計器類を操作する。


 東御も操縦桿等を操作し、対空砲と思われる攻撃で被弾したCH-47JAを必死に操作し、右に回転しながら墜落する機を不時着できるようにする・・・だが。


「制御不能!墜落します!」


 二宮が叫ぶ。


 被弾したところからとんでもない音が発せられ、そこから亀裂が入り、遂にはCH-47JAが真二つになった。


 高度300メートルからそのまま二つになり、地面に叩きつけられるように墜落した。


 墜落の衝撃と航空燃料が引火し、CH-47JAは原形をとどめず、爆発炎上した。





 ガシャーン!!


 床に落ちたコーヒーカップは、黒い液体をまき散らしながら粉々に砕けた。


「トウゴ少佐!ニノミヤ中尉!」


 後続のアイビス2から送られてきた映像を見て、レイモンドは叫んだ。


 同じように、映像を見ていたイギリス人将校たちは無言で立ち上がり、視聴室を出て行こうとした。


「少尉!?」


 マーティの声を無視して、その2人を無意識に押しのけて、レイモンドは通路に飛び出した。


 何処へ行くのか?もちろん、村主の所だ。


「はい、ストップ」


 いきなり、通せんぼうをされた。


「勝手に視聴室を出ちゃいけないって、言われてなかったっけ?」


 氷室が、眼鏡の奥の目を冷たく光らせながら立っていた。


「どいてください!!」


 レイモンドが叫ぶ。


「ダメダメ、今CICは取り込み中だからね」


「スグリ大佐に会わせてください!」


「会ってどうする気?具体的な打開策でも具申に行くならいいけど、単に撃墜されたCH-47JAの搭乗員の安否を聞きに行くってだけなら許可できないよ」


「・・・・・」


 レイモンドは無言で、氷室の横をすり抜けようとした。


 その背後から、肩を掴まれた。


「ラッセル少尉、氷室2佐の言う通りだ。君も軍人ならわかっているはずだ」


 アイルランド系イギリス人の陸軍少佐が静かな口調で言った。


「・・・・・・」


 立ち尽くし、肩を震わせているレイモンドを無視して氷室は海軍中佐に声をかけた。


「イギリス艦隊に、支援を要請したい」


 氷室が口を開いた。


「具体的な話を聞こう」


 中佐がうなずく。


「・・・・・・」


 通路に1人取り残されたレイモンドはよろめきながら、視聴室に戻った。


「少尉・・・」


 マーティが、慌てて支える。


「状況を聞いてきます。ラッセル少尉、少し休んでいてください。松荷さん、後は頼むよ」


「はい」


 福来が、視聴室を出て行ったが、レイモンドの目にも耳にもその様子は届いていなかった。


 脳裏に、東御と二宮の人好きする笑顔が浮かぶ。


(神よ・・・どうか、2人を・・・)


 イスに座り込んだレイモンドは、目を閉じて頭を抱えたまま、強く祈った。


 同時に、この願いが叶わない事を理解していた。





 爆発炎上しながら地上に墜落した、アイビス1。


 その光景を見ていた後続のCH-47JAは苦渋の選択を迫られていた。


 この近くに対空砲が存在する。それはつまりこの機も危ないという事だ。


 地上には救助を待つ多くの難民と陸自隊員たちがいる。しかし、対空砲がある状況下でヘリを着陸させるのは自殺行為もいいところだ。


 それに機内には医官や看護官といった貴重な人材がいる。


 ヘリだけでは無く、彼らの命を危険に晒し、もし、両方失えば、それはこの時代に来ている全自衛官の死活問題になる。


 機長はすぐに決断した。


「当空域は危険と判断し、当空域から退避処置をとる!」


 そう叫ぶとCH-47JAの機首を元来たルートに向けて、離脱した。


「ちょっと待て!地上には大勢の難民や自衛官がいるんだぞ!」


 男性看護官がコックピット内に突入して叫ぶ。


「お前たちとヘリを、危険には晒せない」


 機長が短く答える。


「彼らの方がもっと危険だ!今すぐ着陸しろ!」


 この看護官の階級と機長の階級はかなり離れているが、看護官は上位者に対して食ってかかる。


「できない!」


 機長が叫ぶ。


「ふざけるな!早く彼らを救出しろ!」


 看護官はホルスターに収納されている9ミリ拳銃を抜き、機長の頭に銃口を突きつけたが、すぐに他の隊員たちがその看護官を取り押さえる。


「放せ!お前たちは、それでいいのか?」


「黙れ!」


 保安要員の陸曹が叫び看護官を床に叩きつける。


 彼の上官である医官も看護官から武器になりそうな物をすべて奪い取った。


「仲間や避難民を見捨てるのか!?お前たちは人でなしだ!!」


 保安要員に取り押さえられながら、看護官の悲痛な叫び声が響く。


 そのまま、兵員室に引きずって行かれながら、看護官はあらん限りの罵声を周囲に浴びせていた。


「機長・・・私は貴方の判断を支持します」


 副機長は、計器類に視線を固定したままつぶやいた。


「あのまま、強行着陸をしようとすれば、我々もアイビス1の二の舞です・・・隊長と海自が次の手を考えてくれます。態勢を立て直して、戻ってきましょう」


 その口調は、自分の感情をねじ伏せるかのような、苦痛に満ちていた。


「・・・ソマリア、イラク、アフガン等で僚機を撃墜されて、救出を断念したアメリカ軍や多国籍軍のパイロットたちの気持ちがよくわかる・・・こんな、心どころか身体ごと引き裂かれそうな苦痛を彼らは味わったのだな・・・」


「あの看護官の罵声と銃口を、私は自分自身に突き付けたいです」


 2人の会話は淡々としていた。そうでなくては、感情の激流に心が引き裂かれそうなのだ。


(必ず、助けに戻る。だから、少しだけ耐えてくれ)


 機長は心の中で、地上の自衛官たちに語りかけた。




 遥か彼方の地平では、黒煙が立ち昇っている。

 

 もう1機の航空機は、すっ飛んで逃げていった。


「ざまあみろだ」


 双眼鏡を覗きながら中年男はつぶやいた。


「日本人に恨みはないが、侵略者の子孫に味方するなら肌の色に関係なく皆殺しだ。我々はこの数100年間、侵略者どもにすべてを奪われ続けたのだ。侵略者の子孫どもの脳天に1発ずつ鉛玉をぶち込むまで、復讐は終わらない。余計なお節介をした自分の浅慮を恨め。1人残らず殺してやる」


 また航空機が来ても、この対空砲で迎え撃つ。


 そう簡単に、ここの位置は特定できないだろう。そう彼はタカを括っていた。


 海上に日本海軍の軍艦が来ているのは知っているが、艦砲射撃でここは狙えない。そう決めつけていた。


 しかし、彼は知らなかった。


 由来は違うが、リグ・ヴェータ神話で、雷神インドラの武器と同じ意味の名を持つイージス護衛艦が日本艦隊に在る事に。


 策動の太平洋 第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は6月21日を予定しています。

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