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策動の太平洋 第3章 毒を孕む魚

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 統合省防衛局統合幕僚本部からの出動命令を受けた、菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群は護衛艦3隻を引き抜き、輸送艦1隻と掃海母艦1隻、新世界連合軍連合海軍から派遣されたイギリス海軍籍の揚陸艦、フリゲート艦2隻と共にオアフ島真珠湾軍港を出港した。


 艦隊名は[南アメリカ在留外国人救出艦隊]である。


 艦隊の指揮官は第1護衛隊群司令である内村(うちむら)(ただ)(すけ)海将補、首席幕僚は同じく第1護衛隊群首席幕僚の村主が任命された。


 イギリス海軍籍の軍艦の指揮は、イギリス海軍の軍人が指揮する。


 派遣艦はヘリ搭載護衛艦[いずも]を旗艦としてイージス護衛艦[こんごう]と汎用護衛艦[いかづち]であり、[いずも]には陸上自衛隊から300名の隊員が乗艦し、中隊戦闘群を編成している。


 輸送艦は[おおすみ]型2番艦である[しもきた]が同行し、救出対象者である外国人を艦内に収容する。


[しもきた]の上部甲板には野外手術システムを展開し、[いずも]から発艦したCH-47JA等が外国人を収容し、手当てが必要な場合は直ちに必要な医療処置を行う。


 掃海母艦は[うらが]型掃海母艦の後継艦として建造された[のつけ]である。


[のつけ]は機雷掃海と機雷敷設機能は前型の[うらが]とはあまり変わらないが、今後の発展を考慮して、すぐに改装が可能なように設計がされている。


 前型と異なるのは海外への災害派遣にも多様な任務を遂行できるようにされた事だ。


 医療設備と入院設備の充実と民間人の避難が必要になった時、その民間人を収容する居住区設備が確保されている。


 もちろん、自艦防衛用の武装も前型とは比較にならない。


 この編成で南アメリカ大陸に向かうのである。


 出動内容は統合省外務局の外交的判断で、PKO(国際連合平和維持活動)としての出動であった。


 そのため、南アメリカ在留外国人救出艦隊に所属する自衛官の武器使用は、PKO法に規定されている範囲内で認められている。


 ハワイ残留組の第1護衛隊群の護衛艦は第5護衛隊司令が残留艦5隻の指揮をとり、不測の事態に備えている。


「ふぅ~、久々の船だ。やっぱり気持ちいいな~」


 どこかふざけたような口調だ。


[いずも]の艦橋でつぶやくのは、統合省防衛局統合幕僚本部運用部運用1課に所属している氷室だった。


 統合幕僚本部とは統合省防衛局に設置されている制服組(陸海空自衛官)で、主に菊水総隊の陸海空自衛隊が行うあらゆる行動について防衛局の責任者である防衛局長官に報告し、自衛隊の行動についての作戦の立案、情報収集及び分析等を行う。


 指揮官は統合幕僚本部長であり、菊水総隊司令官である山縣幹也(やまがたみきや)海将と同じく統合幕僚議長経験者がその職務を行う。


 わかりやすく軍隊で説明するならば統合省防衛局が軍政を担当し、統合幕僚本部が軍令を担当する。


 菊水総隊司令官は現場のトップに過ぎない。


 しかし、大日本帝国政府や陸海軍との調整等はすべて山縣が行う事になっている。


 あくまでも統合幕僚本部長は統合大臣や防衛局長官に作戦の承認や助言、現場の自衛官がやらかした事の後始末をするのが役目だ。そのため、かなり地味である。


 内村は、司令席から氷室を一瞥した。


(まったく、面倒な仕事を押しつけてくれたものだ。我々はこの時代のアメリカと交戦状態なのだぞ。その状況下でアメリカの庭と言える南アメリカの西海岸で日本人を含む在留外国人の救出とは・・・)


 内村は少しやりきれない感じであった。





[いずも]は14機の回転翼機を搭載する能力を有しており、前型のヘリ搭載護衛艦[ひゅうが]型より大きい。


 この時代の空母と比較すれば日本海軍の空母[飛龍]よりも大きく、アメリカ海軍の空母と比べれば[ヨークタウン]級空母と同格である。


 レイモンドとマーティの2人は整備員たちの邪魔にならないように格納庫を見学していた。


 ちなみに、2人の着用している服は、アメリカ海軍の軍服でも私服でもなく、防衛省の職員が、災害時等に着用する作業服である。(村主の好意で貸し出された)


 2人の視線の先に白く塗装された見慣れない航空機。ヘリコプター、と呼ばれる回転翼機が並べられている。


 その1機1機を青い作業服を着た水兵(海上自衛官)たちが整備点検をしている。


「僕たちの国はとんでもない軍隊と戦っているのだな・・・」


 レイモンドはまるで他人事のような口調でつぶやいた。


 80年後の軍艦。


 言葉にすれば一言だが、80年とはかなりの日数だ。レイモンドも80年後では100歳を超えている。


 言葉で言われても実感はわかないが、そう考えると想像がつく。その技術力の差がどれほど違うか、問うまでもない。


 レイモンドが何より驚くのは格納庫で回転翼機の整備点検をしている整備員たちだ。誰も手を抜く者がいない。


 勤務年数が長い士官や下士官が仕事熱心なのは理解できるが、経験の浅い若い士官や兵卒の者でも自分の仕事に手を抜かない。


 もちろん、アメリカ海軍でも仕事は熱心だが、ゆとりのある仕事をしている。


 しかし、ここにいる青い作業服を着た下士官や水兵たちはあくまでもレイモンドの感想ではあるが、自分の仕事に忠実だ。


「でも、あれですね。男所帯の中に女性がいますとかなり目立ちますね」


 マーティがつぶやく。


「そうだね」


 レイモンドはうなずく。


 格納庫で作業している整備員たちは、当然ながら圧倒的に男が多いが、その中で少数の女性が働いていると女性の方が多いように見える。


「しかし・・・」


 レイモンドは格納庫の一角で機体を休めている大型の回転翼機に視線を向けた。


 緑色等が混じり森林地帯に溶け込むような迷彩塗装された前後に大きなローターが垂直に設置されている回転翼機だ。


 CH-47JA[チヌーク]である。


「海軍の艦に陸軍の航空機や上陸部隊が普通に乗るのは珍しいな」


 アメリカ軍でも陸軍が海軍籍の軍艦に乗る事はあるが、それは輸送船であり、戦闘部隊を含む陸軍部隊が空母に乗艦し、そこから作戦行動をするのは稀である。


 レイモンドもそんな経験をした事はない。それはマーティも同じである。


「おやおや、こんなところにアメリカ海軍の軍人さんがいるとは、スパイ活動でもしているのか?」


 人に安心感を与えるような口調の聞き取りやすい英語で話しかけられた。


 レイモンドとマーティが振り返ると、緑や茶色等が混じった迷彩服を着た中年の男が立っていた。


 顔つきからとても軍人には思えない程の温厚な顔だ。


「菊水総隊陸上自衛隊第1ヘリコプター団に所属している東御勘三(とうごかんぞう)3等陸佐だ。あんたたちが見ているCH-47JAの機長だよ」


 3等陸佐という単語に2人は反応し、同時に挙手の敬礼をした。


「自分は・・・」


「知っている。ラッセル少尉とシモンズ2等水兵だろう。あんたたちは有名だからな」


 東御と名乗った陸軍のパイロットは温厚な表情で言った。


「そうですか」


 レイモンドとマーティは東御から答礼を受けると腕を降ろした。


 2人のアメリカ海軍軍人は東御から色々な話を聞くのであった。





 氷室が統合幕僚本部からの作戦命令書を持って、オアフ島に向かう2週間前。


 ハワイ諸島とミッドウェー諸島が陥落した現在の状況では北太平洋上に位置するアリューシャン列島に属する島を拠点として占領する必要が無く、大日本帝国陸海軍や防衛局統合幕僚本部、菊水総隊はアリューシャン列島攻略については検討すらしていない。


 アリューシャン列島西部に位置するラット諸島に属するアメリカ領のキスカ島の近海に巨大な黒色の物体が浮上した。


 菊水総隊海上自衛隊第1潜水隊群に所属する[そうりゅう]である。


[そうりゅう]はキスカ島を攻撃するために来たのではない。別な目的のためにこの海に姿を現したのだ。


[そうりゅう]の海曹士がハッチを開け、甲板上でゴムボートの準備をしている。


 1月でもあり、夜間であるため、北太平洋の外気はとても冷たい。


 2隻のゴムボートの準備ができると黒色で統一された特別警備服に身を包んだ海上自衛隊の特殊部隊であるSBU(特別警備隊)が、1個班ゴムボートの1つに乗った。


 もう1隻のゴムボートには動きやすい作業服に身を包んだ男がゴムボートを操縦する海曹士に助けられながら、乗り込んだ。


 動き方から作業服の男は自衛官では無い。


 彼は統合省外務局長官である小関(こせき)信男(のぶお)である。


 統合省外務局長官に就任する前は外務省のエリート官僚であり、将来を約束された人材だった。そのため、統合省に属する各局の長官の中では一番の年少であり、歳は45歳を越えたばかりだった。


 小関はSBUの指示に従いキスカ島に上陸した。


 すぐにSBUの隊員たちがHK416を構えて展開する。


「撃つな!」


 SBUが展開したと同時にアメリカ訛りの棒読みの日本語が聞こえた。


「今からそっちに行く」


 そう聞こえた後、2人のアメリカ兵が手を挙げながら姿を現した。


「合言葉は?」


 SBUの班長が英語でアメリカ兵に聞く。


「国は国民のために国民は国のためにそれぞれのできる事を尽くす」


 アメリカ兵の1人が答えると、SBUの班長は、「クリア」と言った。


 小関はアメリカからの手順通り、2名のSBU隊員を連れて、アメリカ兵に案内された。


 護衛の2人のSBUの隊員はHK416を持たず、P226拳銃のみを携帯し、小関に同行した。


「貴方と顔を会わせるのは初めてだから、ここは初めまして、と言うべきだな」


 外套を着込んだ男がそう告げた。


「初めまして、アメリカ合衆国国務長官コーデル・ハルだ」


「初めまして、日本外務省から派遣された特使のノブオ・コセキです」


 小関とハルは固い握手をした。


 この2人がこの日に顔を会わせた記録は、双方の国の公式記録には無い。


 会談の内容は南アメリカで発生した複数の国を巻き込んだ大規模騒乱だ。


 どういう訳かこの時期になって、アルゼンチンを除くほとんどの南アメリカの地域で、外国人を南アメリカ大陸から追い出せ、をスローガンに過激派勢力があらゆる銃火器を持って武装蜂起。次々と外国人を殺害している。


 ドイツ第3帝国国防軍とヴェルサイユ条約機構軍は軍をアルゼンチンに輸送用潜水艦で派遣し、アルゼンチン政府と共同し、ドイツ第3帝国に属するヨーロッパ諸国の人々をアルゼンチンに受け入れさせた。


 しかし、アルゼンチン政府はすべての外国人の受け入れを承認した訳では無い。


 あくまでもドイツと同盟をしている国の外国人だけである。


 それ以外の外国人は、広大な南アメリカの土地で武装勢力から逃げ回っている。


 日本(主に統合省外務局)は中立国を通じて南アメリカにいる在留外国人救出を交戦国に通知した。


 そして、トルーマン副大統領とハル国務長官がルーズベルト大統領に伝えず、独断で日本による南アメリカ地域内での在留外国人の救出を承認した。


 今回の2人の会談はそのためだ。


 双方とも、それなりに思惑がある。それが、この奇妙な救出作戦に繋がる事になる。





 大日本帝国の首都である東京府に隣接する千葉県北部にある[日本共和区]。そこに建設された統合省防衛局庁舎の隣に建設された統合幕僚本部庁舎。


 統合幕僚本部の内部部局は管理部、運用部、情報部、人事部、保安部、教育訓練部、衛生部等があり、独立組織として監察部、法務部等がある。


 統合幕僚本部の指揮官である本部長は山縣が統合幕僚議長だった時の前統合幕僚議長であり、山縣を次期統合幕僚議長に推薦した本財(ほんざい)保夫(やすお)陸帥だ。


 山縣が統合幕僚議長に就任した時に彼は定年退職したが、定年からしばらくしてから統合省統合幕僚本部長になる話があり、それを快く承諾した。


 本財の息子や娘は結婚し、家を離れたため、彼は実家で1人、寂しく暮らしていた。本財夫人は彼が自衛隊を定年退職する1年前に他界した。


 元の時代にいても楽しい事は無い。


「まったく、背広組も、とんでもない厄介事を押しつけてくれたものだ」


 60代前半ではあるが、とても初老には思えない顔立ちで、見た目はまだ50代ぐらいに見える本財はため息をつきながら、つぶやいた。


「外務局も焦っているのでしょう。イギリスの植民地であるインドの独立派との交渉が失敗し、フィリピンのケソン大統領の説得の手柄を警察の本庄警視監に取られたのですから、あのエリート意識の強い小関長官の事です、ここで結果を出したいのでしょう」


 陸上自衛隊の冬服の制服を着ている壮年の長身の男が呆れた口調で答えた。


 彼は統合幕僚本部監察官である(そく)()隆一(たかいち)陸将だ。


 側瀬は菊水総隊司令官付き特務作戦チーム副主任の石垣(いしがき)達也(たつや)2等海尉の補佐として配置されている(そく)()美雪(みゆき)3等海尉の父親である。


 統合幕僚本部監察官は制服組の監察官であり、その下に陸上監察官、海上監察官、航空監察官の3人がおり、3人の階級は将補である。


 彼らの補佐として陸海空監察官補が3人いる。階級は2佐である。


 もちろん、側瀬の補佐として監察官補が2人置かれている。1人は制服組の1佐でもう1人は背広組である。


「しかも、南アメリカでの在留外国人の救出はルーズベルト大統領からの直接の要請では無い。トルーマン副大統領とハル国務長官の独断だ。救出期間中の間だけ、南アメリカ西海岸への接近を許可すると言っても、派遣する自衛艦、航空機、隊員の安全面が心配だ。もし、攻撃を受けても協定違反だと、抗議する事もできない」


 本財は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


 そもそも自分の後輩である山縣にはかなりの無理難題を押しつけている。この上、さらに問題を押しつけるのは、正直、気が進まない。


 ちなみに説明しておくが、菊水総隊の陸海空自衛隊が行う作戦行動を決定するのは統合幕僚本部である。しかし、統合幕僚本部は大日本帝国陸軍参謀本部、海軍軍令部ともまったく打ち合わせはしない。


 統合幕僚本部が独自で作戦を立案し、これが統合大臣と防衛局長官が承認したら、菊水総隊司令部に送られる。


 それで山縣とその幕僚たちが陸軍参謀本部や海軍軍令部と協議し、作戦を調整するのだ。そのため、かなり問題や心配事が多い。


「ですが、我々には拒否権がありません。統合大臣が外務局からの要請を承認し、防衛局が正規の手続きをした以上、我々はその決定に従わなくてはなりません」


 側瀬も同情するような視線を向けているが、もっともな意見を告げた。


「わかっている。とりあえず、運用部に伝えて作戦を検討させてくれ」


「わかりました」


 本財の言葉に側瀬はうなずいた。





 数日後、運用部から上がってきた作戦計画書の作戦名を見て、本財は呆れた。


「こんな、作戦名をつけるとは・・・この時代に喧嘩でも売るつもりなのか。あいつは?」





 確かに成功すれば、外交的にも政治的にも有益となる事は認める。


 しかし・・・とんでもなく、ハイリスクであるのには違いない。


 その肝臓に毒を孕んだ魚の如く、危険である。


 作戦名[オペレーション・スウェルフィッシュ]。

 策動の太平洋 第3章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は5月31日を予定しています。

 大変長らくお待たせいたしました。IFの外伝である間章と第3部を6月1日に投稿する予定です。

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