表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/454

こぼれ話 伊藤軍令部次長の懸念

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 1941年12月31日。


 世間ではどこも年越しの準備を終えて、各地の神社等では初詣に来る参拝客に対する準備をしていた。


 もちろん、今年の1月1日に東京府の神社で発生した神社占拠事件等での教訓から、各国家地方警察本部(東京は警視庁である)では、テロ等のあらゆる重大事件に備えて国家地方警察官と自治体警察官(未来の日本人による関与で、警察法の一部が改正され、これまで存在していた国家地方警察と自治体警察の大規模な組織改編が行われた)を総動員して、重大事件に備える。


 東京府警視庁で編成されていた特別警備隊を改変し、警備隊を新しく創設した東京府警視庁は保有する全3個聯隊のうち、1個聯隊を緊急展開部隊として待機させ、残りの2個聯隊は東京府内の重要警備区域の警備に出動している。


 もちろん、警備予備隊と呼ばれる同じく警備隊の予備部隊も出動待機している。


 東京府警視庁を除く、他の国家地方警察では、重要大都市に認定されている道府県では聯隊編成の警備隊が2個編成されている。


 それ以外の地方は1個聯隊又は大隊規模の警備隊が編成されている。


 警備予備隊は東京府警視庁が3個聯隊、それ以外の道府県は1個聯隊又は2個大隊規模で編成されている。


 もちろん、陽炎団の機動隊も関東地区でもっともテロの攻撃目標にされる地区の警備に出動している。


 テロを含むあらゆる重大事件が発生しても、警察力で対処できる態勢が整えられている。


 国内では、真珠湾奇襲作戦の成功とアメリカの領土であるハワイ諸島の占領、ノーフォーク海軍施設の空爆の成功、パナマ運河の破壊の成功が大本営から発表され、多くの大日本帝国国民が「万歳!万歳!」と叫んでいる。


 少し前まで、政府や軍部を非難していた主戦論派たちは手の平を返したように政府や軍部を支持している。


 すでに長期の対外戦争に備えて、糧食は配給制になっているが、史実のように配給品が足りないから小さな飲食店が店を閉めるような事態にならないように配慮された。


 しかし、戦時下であるから、あらゆる物資が軍隊や自衛隊に優先的に送られているため、国民に負担を与えているのは事実だ。


 さらに配給制にしているため、各自治体に設置された糧食配給所では、配給要員が不正を働かないように統合省農林水産局で特別に教育された監督官が配給所に配置され、配給要員を監督する。


 配給要員も臨時の地区公務員として雇われて、きちんと教育された役人が対応している。


 この際、不正と買収を防止するため、配給所での勤務期間が短く、勤務期間が過ぎると、すぐに別の配給所に転勤する。


 配給要員が一度勤務した配給所は短くても1年間はその配給所に勤務しないと規定された(監督官はもっと短い)。


 大日本帝国は軍民一体となって、第2次世界大戦を戦っている。


 それは、すべての国民が兵士になる必要もなく、それぞれができる事をやる事で第2次世界大戦を乗り切ろうとしている。


 アメリカを含む西洋列強との戦争に踏み切って、弱腰だと思っていた政府と軍部の評価は変わったが、すべての人々が同じ気持ちでは無い。


 それはそれぞれの立場で、その思いは異なる。


 国民側の意見では中国との戦争が終わり、夫や息子が無事に帰ってきたが、再び戦争に送り出さなくてはならない事に、複雑な感情を抱いている者もいる。


 未来の日本人は軍国主義の大日本帝国に同化する事もなく、あくまでも民主主義の日本国として行動する事を表明しているし、それを形で理解できるような政策も行っている。


 強力な軍事力(彼らは防衛力と呼称しているが)と警察力を保有し、その力は完全武装の陸海軍の軍事力でも彼らの軍事力どころか、警察力にも敵わない。


 政界、議会、司法でも、同じ事が言える。未来からの日本人たちの介入により、これまで守っていた事がどんどん変えられていく。


 彼らの存在は歓迎する者もいれば、彼らの存在に危機感を覚える者もいる。それぞれの視点でその危機感、不安感は違う。





 東京府にある海軍軍令部。


 軍令部庁舎の応接室では、海軍の冬服姿の男が2人、応接用テーブルを挟んでソファーに腰かけていた。


 1人は今年の10月に海軍中将に昇進した軍令部次長の伊藤(いとう)整一(せいいち)中将と軍令部第1部第1課に所属する桜川(さくらがわ)典則(すけのり)大佐だ。


 2人は先ほど軍令部に所属する海軍の兵卒が持ってきたコーヒーが入ったカップを口に運び、一口すすった。


「桜川君。君の考えを聞きたい。未来の日本人たちの力を借りて、この日米戦争を乗り切ったとして、今後の我が国の未来はどうなる?」


 伊藤はコーヒーカップを置いて、桜川に聞いた。


「私の考えでは、彼らの介入で、我が大日本帝国は未来の日本人たちの政策により、崩壊するでしょう。それが大日本帝国の国民にとってより良い未来になるか、地獄を見るかはわかりません。しかし、彼らは日本人ではありますが、我々の知る日本人ではありません。それが、私なりに彼らを研究した答えです」


 桜川の言葉に伊藤はうなずいた。


「ああ、その通りだ」


 伊藤も信頼する部下を使って、未来の日本人と接触させ、彼らの人柄や価値観等についての報告書に目を通した。


「山本長官を含む陸海軍部の過半数の者は彼らを信頼しているが、私にはどうも彼らを信頼する事ができない」


 伊藤は立ち上がり、応接室の窓際に立ち、窓から外を見た。


「異なる文明同士が遭遇した時、どういう結果が生まれるか、それは歴史が証明している。わかりやすく言えば、ヨーロッパ人がアメリカ大陸で何をしたのか、歴史を知る者なら誰でも知っている事だ。アジアで有名な話なら中国史を見ればわかる。劣る文明は、より進んだ文明に滅ぼされる。この場合、劣っているのは我々だ」


 伊藤の視線の先には各種テロを警戒し、軍令部敷地外を巡回している国家憲兵隊(陸軍憲兵隊を改変し、陸軍からも独立させた事で国家憲兵隊に改名した)の憲兵が巡回している。


 軍令部敷地内も海軍陸戦隊から編成された軍令部保安隊の保安隊員が警備している。


「彼らの軍事力、警察力はとても高い。彼らの事を快く思わない陸海軍の将校たちが何度かその事を主張したが、誰も耳を貸さない」


 伊藤がそうつぶやくと、桜川がコーヒーをすすりながら言った。


「私のところにもそれを主張する士官がいましたが、私はこう言いました。第2次226事件の結果を思い出せと」


 桜川の言葉に伊藤はうなずいた。


「そうだ。未来の日本を防衛する軍事組織である自衛隊と治安を守る警察組織、どちらの武力も我が帝国陸海軍の総力を持ってしても、排除できない。彼らと互角に戦うには全世界の軍隊が結集して、どうにか勝てる・・・彼らの機嫌を損ねないようにするのがやっとだ」


 伊藤は窓越しに、青い空を見上げた。


「この時代は恐らく、もっとも悲惨な時代であろうな。確かに彼らの言う通り、数10年後は世界の人々が夢に見た恒久的世界平和があるだろう。だが、本来それは何世紀もかけて、ゆっくり実現していくものだ。それを彼らは自分たちの都合に合わせて、短期間で実現しようとしている。恐らく、彼らの歴史に刻まれている第2次世界大戦の犠牲者等、とるに足らん。それ以上の人命が消える・・・」


 伊藤は目を閉じて、今後の未来を思い浮かべた。


 それは大日本帝国の町並みが炎に包まれる想像ではない。


 世界が戦国時代に突入する想像である。


「新世界を構築するには旧世界を破壊しなくてはならない」


 桜川がつぶやいた。





 桜川と会談を終えた後、伊藤は数人の随行員と共に公用車に乗り込み、横須賀鎮守府に向かった。


 新しく航空母艦として改装された空母と就役した空母を合わせて4隻の視察に向かうのだ。


 横須賀鎮守府の正門に到着すると正門に立っている海軍陸戦隊の兵卒2人が未来からの技術提供で生産された一式半自動小銃を捧げ銃の姿勢で出迎えた。


 大日本帝国海軍ではほとんどの艦艇、基地に配備されている半自動小銃であり、帝国海軍の施設を視察すると必ず、装備しているのが同銃だ。


 伊藤も陸海軍と航空予備軍、その他の準軍事組織に導入された64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型、一式半自動小銃、一式半自動短小銃をそれぞれ20発、試射した。


「陸軍ならともかく、海軍のほとんどの部隊には自動小銃よりも半自動小銃の方がいい」


 と、伊藤は試射を終えた後に述べた。


 事実、陸海軍を問わず、64式7.62ミリ小銃改はあまり高い評価はされなかった。


 それは部品数が多く、分解結合を戦場で行う場合にかなりの時間がかかり、それを早くできるようにするにはかなりの時間をかけて分解結合をさせる必要があるし、熟練した兵士でなければ、戦場で使用した場合、すぐに携帯弾薬を使い切る事も指摘された。


 この指摘は早い段階で実証される。


 ハワイ諸島占領の際に第1艦隊の海軍陸戦隊が64式7.62ミリ小銃改Ⅰ型を装備し、上陸作戦を行ったが、火力、精度等はまったく問題ないが、連発射撃で射撃を行うとすぐに弾倉が空になった。


 もっとも、自動小銃が戦場の主力小銃になった戦後の戦争の戦闘報告でもかなり、そのような報告が挙がっているため、ある程度は予想されていたし、その対策もきちんと行っていたが、伊藤はその結果を聞いて、軍令部会議でこう述べた。


「将来的には64式7.62ミリ小銃改が戦場の主力になるだろうが、武器の性能がよくなってもそれを扱う兵士が昔のままでは話にならん。そもそも、小銃の歴史を見る限り、手動装填式から始まり、半自動装填式、自動装填式と順番を持って、進歩した。しかし、未来から技術提供で、それらの手順が無視された。いくら資料があっても、実際に使うのは兵士たちだ。手順を無視した以上は、それだけの反動は返ってくる。だから、これらの実戦報告を慎重に検討し、自動小銃の使用に関する教本の作成が必要だ」


 伊藤の主張はすぐに採用され、海軍では64式7.62ミリ小銃改の調達数を減らし、一式半自動小銃と一式半自動短小銃の調達数を増やすのと、自動小銃使用に関する教本の作成と研究にその予算を回した。


 横須賀鎮守府の司令部前で公用車が停車すると、司令部で出迎えのために待機していた黒色のセーラー服を着た兵卒の女性兵が車のドアを開けた。


 帝国海軍では1期生として横須賀海兵団新兵女性訓練隊の訓練期間を終了した女性兵たちが各学校に入校又は、陸上施設に配属されている。


「お待ちしておりました。伊藤軍令部次長」


 伊藤が公用車から降りると、横須賀鎮守府司令長官の平田(ひらた)(のぼる)中将が出迎えた。


 平田が挙手の敬礼をすると伊藤も答礼する。


「ご苦労」


 伊藤と平田は簡単な挨拶を交わすと、そのまま横須賀軍港に向かった。


 随行員は伊藤と平田の双方を合わせると6人である。





 横須賀軍港を訪れると、4隻の空母が出港に向けて準備をしていた。


「あちらが、戦艦[伊勢]と[日向]を航空母艦として改修し、航空母艦[伊勢]と[日向]として生まれ変った正規空母です」


 平田の説明に伊藤が戦艦から改装された2隻の空母を見上げる。


「かなりの急改装だったが、心配事は無いと報告を受けている。この2隻の空母は来年の1月3日にフィリピンで作戦行動に出ている第2航空艦隊に編入され、当艦隊は正式に航空艦隊になる」


 伊藤が空母[伊勢]と[日向]を交互に見ながらつぶやいた。


 第2航空艦隊が正規の艦隊に格上げされた事で、艦隊司令長官の南郷伊之(なんごういの)(すけ)は少将から中将に昇進した。


「少将の方が気楽だったのだが、まあせっかくくれたのだから、ありがたく頂戴するとしよう」


 フィリピンのマニラで、つかの間の休息を楽しんでいた南郷は、昇進の辞令を受けた時にそう答えたという。


「空母として就役した[瑞鳳]型航空母艦2隻は、あっちか?」


 伊藤が指をさした方向に2隻の空母の[瑞鳳]と[祥鳳]が錨を降ろしていた。


[祥鳳]型航空母艦は大日本帝国本土防衛の航空艦隊である第3航空艦隊に編入される事になっている。


 第3航空艦隊は航空母艦[龍驤]を旗艦とする航空艦隊だ。


 基本的には菊水総隊海上自衛隊第5護衛隊群(予備艦隊)のヘリ搭載護衛艦[ひゅうが]、イージス護衛艦[みょうこう]、汎用護衛艦[きりさめ]の3隻と共に、大日本帝国本土への空襲又は海上からのあらゆる攻撃に備える。


 ヘリ搭載護衛艦[ひゅうが]は空母では無いが、対潜作戦、対艦作戦でも回転翼機を駆使した戦闘ができるため、聯合艦隊司令部では軽空母として扱っている。


 東京府が行政上の管轄する式根島には破軍集団海上自衛隊第1多任務群が停泊し、新島に固定翼機と回転翼機を運用する航空基地がある。


 伊藤はヘリ搭載護衛艦[ひゅうが]には何度か乗艦したし、練習艦[かしい]に乗艦し、山本以下海軍の主だった将官、参謀たちと共に4泊5日間の公開演習に参加した。


 ある程度は彼ら菊水総隊の軍人とは交流したが、破軍集団の軍人とはまったく交流していない。


 それどころか、山本や陸軍の石原莞(いしはらかん)()中将も視察の許可を取ろうとしたが、許可は下りなかった。


「彼らは何が目的なのだ・・・?」


 伊藤は小さく横須賀海軍港から太平洋の海を眺めながら、小さくつぶやいた。


「は?」


 随行員であり、伊藤の副官である海軍中尉が首を傾げた。


「いや、なんでもない」


 伊藤は副官に顔を向けて、つぶやいた。


 その時、上空からジェット音が耳に入り、伊藤は空を見上げた。


「あれは・・・」


「きっと、破軍集団海軍の対潜哨戒機の定時演習ですね」


 副官が空を見上げながら、答えた。


 高度はそれなりに高いが、機影は確認できる。


 海上自衛隊が運用する固定翼機のP-1対戦哨戒機である。


 白い機体が、轟音を響かせながら、冬の空を飛び去って行った。





「終わりの始まりにならなければ良いがな・・・」


 伊藤とは別の場所で、P-1の機影を見ながら1人の海軍中尉は独り言をつぶやいた。


 彼は、軍令部付きの設楽(したら)敬一郎(けいいちろう)中尉だ。


 設楽は半年前まで、聯合艦隊の司令部付きの大尉だったが、菊水総隊を含む未来の日本人に対して、否定的な発言をしたため、直属の上官の不興を買い、中尉に降格させられた。


 だが、優秀だったため山本の口利きで軍令部に配属された。


「わからないから否定するでは、未来への道を閉ざすのではないか?」


 山本に、そう諭され設楽は、自衛官だけでなく警察官、民間人等の未来の日本人と接触し、彼らを知る事に努めた。


 正直、個人としては信用できる人間も多い。官民を問わず、彼らの知る大日本帝国の悲惨な歴史を防いで、多くの日本人を救いたいと本気で考えている。


 それには賛同するし、好感も持っている。


 だが、彼らを率いる統合省の連中には疑問を感じている。


 まったく、何を考えているのか理解できないのだ。


「確かに改革すべきところは改革するべきだが、大日本帝国は大日本帝国として存続するべきではないのか?」


 設楽のつぶやきは、寒風に乗って太平洋の彼方へ吸い込まれていった。

 こぼれ話をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回から第4部に入ります。初回は序章と第1章を投稿いたします。

 投稿予定は5月10日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ