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時間跳躍 終章 ハワイ占領 そして2人の復讐者

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 太平洋艦隊司令長官であるハズバンド・キンメル大将は太平洋艦隊司令部で頭を抱えていた。


 オアフ島は第1次、第2次航空攻撃で太平洋艦隊、航空基地等の軍事施設はすべてが壊滅し、機能していない。


 さらに追い打ちをかけるように空母2隻の撃沈である。


 そこで日本軍の上陸である。


 キンメルが頭を抱えるのも無理はない。


 陸軍のハワイ方面軍司令長官であるウォルター・ショート中将からの報告で、ハワイを守る事は絶望的であると伝えられた。


「こんな事になるとは・・・」


 キンメルはつぶやいた。


「長官。いかがいたしましょうか?」


 幕僚が尋ねる。


「そんな事はわかりきっているではないか!」


 キンメルは怒鳴った。


「我々には最早戦う力はない。降伏するか死ぬかだ」


「・・・・・・」


 幕僚が黙る。


「長官、日本軍はジュネーブ条約に調印しておりません。ここで降伏しましたら、捕虜たちに待っているのは地獄ですぞ」


 幕僚の1人が進言する。


「わかっている。だが、将兵たちに死ねとは命令できない。将兵たちの命は何ものにも代えられない。それに、このまま戦闘を継続すれば、民間人にも被害が出るだろう。それだけは出来ない」


 キンメルの言葉に幕僚たちは顔を見合わせた。


「長官。それでしたら降伏の条件として、捕虜の安全と民間人の安全と保護を要求してはいかがでしょうか?」


「効果があると思うか?」


 キンメルが幕僚に振り向く。


「はい。これは[エンタープライズ]の通信士が最後の通信で、日本軍は撃沈する前に警告を出したとの報告がありました。日本軍の中にも人道的な将がいるという事です。それに賭けてみてはいかがでしょうか?」


 幕僚の言葉にキンメルは腕を組んだ。


 確かに誰も本気にはしなかったが、日本は宣戦を布告すると同時にハワイ諸島に避難勧告を出した。


 その時である。


 通信士が作戦室に飛び込んで来た。


「長官。日本軍の指揮官から電文です!」


「なんだと!」


 キンメルが通信士から電文を受け取った。


 彼は電文を黙読した。


 日本軍からの電文はこうだ。


 発、聯合艦隊司令長官山本五十六。宛、太平洋艦隊司令長官キンメル大将。ハワイ諸島は菊水部隊と第1航空艦隊、第1艦隊により、完全な包囲下にある。また、ハワイ全島に上陸部隊が上陸した。貴軍に勝ち目はない。降伏する事を勧告する。降伏した貴官等はその後、捕虜にはならず、ハワイから脱出を求める民間人と共にアメリカ本土に帰投するよう申告する。そのため、輸送船団を攻撃しなかった、以上。


 というものであった。


「ううむ」


 キンメルは悩んだ。


 幕僚たちは順番に日本軍からの電文を黙読した。


「輸送艦を攻撃しなかったのは、このためか」


 幕僚たちは顔を見合わせた。


「諸君。私は決断した」


 キンメルは覚悟を決めた。


「私は山本長官の申し出を受け入れる事にする。将兵たちの命は何物にも代えられない。さらにハワイには多くの民間人がいる。民間人を巻き込んで徹底抗戦する事は私には出来ない。彼らの安全と保護を約束してくれるのなら、私はこの申し出を受け入れるとする」


 キンメルの決断に幕僚たちは異議を唱えなかった。


「それでは、旗を降ろして、降伏旗を掲げよ。それと、日本軍に電文を送れ、我、降伏する、とな」


 キンメルはそう言うと、椅子に腰掛けた。


「通信士、ショート中将にも伝えてくれ」


「はっ」


 通信士が挙手の敬礼をして、退室するのを見送ったキンメルは窓を見た。


 太陽が沈みかかっている。


「これで、私も終わりか」


 キンメルは本国に戻れば更迭される事を思った。しかし、それが嫌だとは思わなかった。自分は最善の選択をした、それを後悔する事はない。





 ハワイ諸島は日本軍に占領された。


 小規模な戦闘があったが、日本軍側の損害は軽微だった。


 降伏したアメリカ軍将兵はパールハーバーに停泊している輸送艦に乗り込むアメリカ市民と共にアメリカ本土に脱出した。

 

 輸送艦に乗り込めなかった人々は、民間の客船、輸送船、[レキシントン][エンタープライズ]を護衛していたために、撃沈を免れた巡洋艦、駆逐艦等に乗り込んだ。


 残留を希望したハワイ市民、現地人、移民の人々等には、山本に託された天皇の公文書により、ジュネーブ協定とハーグ陸戦協定の規定に従い、安全を保障する旨が伝えられた。





「つまらんな・・・」


 彼はそうつぶやいて、地面に唾を吐いた。


 日本軍の上陸という、想定外の出来事に初動の遅れたアメリカ陸軍は、信じられない程脆かった。


 予め、上陸地点に潜入していた特戦群が陸軍の上陸に呼応して破壊工作を開始すると、防衛線はあっさりと寸断された。


 帝国陸軍に先駆けて、兵站拠点確保に上陸した水陸機動団は、AH-64D[アパッチ・ロングボウ]とAH-1S[コブラ]の上空支援を受け、信じられない速さで拠点を構築した。


 そこへ、揚陸艇による帝国陸軍の戦車隊と、見た事のない奇妙な大型の揚陸艇らしき物(LCAC)から揚陸した日本兵の姿を見て、たちまち降伏する部隊が続出した。


 何しろ、戦闘機とは違う飛行物体は小回りの利く機動性で、上空から凄まじい銃弾と砲弾の雨を降らせ、押っ取り刀で駆け付けた戦車隊を次々と撃破したのだから無理もない。


 戦闘は短時間で決した。


 そこに、太平洋艦隊司令部とハワイ方面軍司令部からの降伏勧告受諾の報であった。


「糞ヤンキーどもが・・・どうせなら、死に物狂いで立ち向かって来やがれ。お前らは自分より弱い者にしか牙を剥けないのかよ・・・尻尾を巻いて逃げるなんてサイテーだな・・・」


 水陸機動団第2連隊第1中隊第2小隊隊長の比嘉岳斗(ひがたけと)3等陸尉は吐き捨てた。


 彼の視線の先には、星条旗を掲げて遠ざかって行く輸送艦があった。


「必ず戻って来いよ。その時はこれ以上にない程残酷に殺してやる」


 比嘉は胸ポケットから1枚の写真を取り出した。そこには、自分と高校の制服姿の少女が映っていた。


「由香里・・・兄ちゃんが必ず仇を取ってやるからな・・・お前の人生を滅茶苦茶にして死に追いやった糞ヤンキーの親やジジイどもを、1人残らず地獄に叩き落としてやる」


 妹は、一部の在日米軍の不心得者が起こした犯罪の被害に遭い、それが元で心に深い傷を負い自殺した。


 日本政府には、どうすることも出来なかった。


 報せを受けて実家に戻った比嘉は、小さな箱の中に入った変わり果てた妹を前に泣くしか出来なかった。


 そんな折、この派兵の極秘命令を受けた比嘉は、躊躇いなく志願した。


 彼の心には、消せない昏い炎が燃えていた。





「・・・多くの部下を死なせてしまった・・・」


 ハワイ失陥の報を受け、旗艦[エンタープライズ]を失った第2空母戦隊は、ハワイから脱出してきた輸送艦隊と合流後、アメリカ本土へ舵を切っていた。


 九死に一生を得て、ほとんど無傷で巡洋艦に救助されたハルゼーは、濃い紺色に変わりつつある空を甲板上で眺めながら、嘆息した。


 酷い悪夢としか言えなかったが、これが紛れもない現実である事を彼は認識していた。


 そして、それを苦い経験として受け止めていた。


「日本軍、俺は必ず戻って来る。それまで首を洗って待っていろ」


 無意識のうちに、ハルゼーは血が出るほど拳を握りしめていた。


 恐らく本国に帰れば、自分は降格か更迭されるだろう。それでも、必ず戻って来る。


[エンタープライズ]と共に、海に消えた部下たちのためにも自分は戻らなくてはならない。


「I shall return」


 ハルゼーはうめくような声で、つぶやいた。


 その両眼は炯々とした光を放ち、ハワイの方角を睨んでいた。


 時間跳躍篇 終章をお読みいただきありがとうございます。

 次回は番外編です。

 第2部では、今回置いてけぼりになってしまった大日本帝国軍にも活躍してもらう予定です。

 また、アメリカ軍もやられっぱなしではなく、反撃に転じてもらおうと思っています。

 その中心になるのが、ハルゼー提督という事で・・・

 彼のラストのセリフは、皆様がご存知のあの人の言葉を拝借させていただきました。

 再戦への強い決意を表すのに、あの言葉しか思いつきませんでした。(泣)

 第2部では、その人も登場の予定です。

 頑張って書いていこうと思っていますので、よろしくお願いします。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は8月17日に投稿予定です。

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「そんな折、この派兵の極秘命令を受けた比嘉は、躊躇いなく志願した。 彼の心には、消せない昏い炎が燃えていた」 良いね。民間人を対象にした東京、大阪、神戸隊空襲、また原爆投下とジュネーブ協定違反やり放…
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