7
次の日。
私は朝から機嫌が良かった。
とても良かった。
なぜなら。
(今日から剣術イベントだから!)
ついに来たのだ。
主人公育成編。
努力。
友情。
成長。
レベルアップ。
異世界には欠かせない要素である。
私は気合十分で訓練場へ向かった。
そこには父様と。
一人の男性が立っていた。
短く刈られた髪。
引き締まった体。
いかにも強そうな雰囲気。
私は確信した。
(剣術師匠だ!)
「おはようございます!」
元気よく挨拶する。
男性は少し驚いた後、笑った。
「おはようございます、お嬢様」
優しそうだ。
良かった。
異世界の師匠は厳しいイメージがあった。
父様が口を開く。
「リリア」
「はい!」
「今日からこの者に基本を教わる」
「はい!」
「まず礼儀作法からだ」
私は固まった。
「……はい?」
父様は真顔だった。
「礼儀作法だ」
「剣は!?」
「まだだ」
そんな。
私は師匠を見る。
助けを求めるように。
しかし師匠も頷いていた。
「まずは姿勢ですね」
「剣は?」
「その後です」
おかしい。
剣術イベントでは普通。
まず木剣を渡されるはずだ。
そして才能を見出される。
そういうものだ。
なのに。
「背筋を伸ばしてください」
「はい」
「顎を引いて」
「はい」
「お辞儀を」
「はい」
剣が出てこない。
⸻
三十分後。
まだ出てこない。
⸻
一時間後。
まだ出てこない。
私は耐えられなくなった。
「先生」
「何でしょう」
「剣は?」
先生は優しく微笑んだ。
「焦ってはいけません」
違う。
そうじゃない。
「主人公は最初から剣を持つものなんです」
先生が固まった。
父様も固まった。
「……主人公?」
しまった。
また口に出ていた。
私は慌てて誤魔化した。
「しゅ、主人の公認です!」
意味が分からない。
父様が頭を抱えた。
先生は困った顔をしている。
私は咳払いした。
「とにかく剣です」
「まずはこちらを」
先生が差し出したものを見る。
本だった。
『剣術入門』
本だった。
「えっ」
「基礎知識は大切です」
「えっ」
「まずは読むところから」
「えっ」
私は本を見る。
本だ。
どう見ても本だ。
(戦闘イベントじゃなかった)
私は衝撃を受けた。
⸻
その日の夜。
日記にこう書いた。
『剣士ルートは座学から始まるらしい』
父様はその日記を見て。
静かに天を仰いだ。




