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第9話 伝来の魔石

 縛ったままグランツを小部屋に閉じ込め、報酬を受け取ってからアドリアに話を聞いた。


 グランツは国王直下の武官であり、そもそも彼に襲撃を命じることができる人間はさらに高位の人間に限られるのだが、宮廷魔導師長ならあり得るそうだ。


 動機にも心当たりがあるという。


「実はジョゼフは先王が女官に生ませた子どもなのよ。いわゆる非嫡出子ってわけね。それで、母親の出身が私の治めるこの辺りだったから、先王の頼みで預かって手もとで育てたの。そしたら、だんだん情が移ってしまって。ある時、水浴びしているのをふと見たら、いつのまにか私好みのとてもいい体になっていて、もうたまらなくなってしまって…」


 …聞いとらんよ、そんなこと。



 話を本筋に戻させて聞いたところ、つまりジョゼフは王権の相続者なのだ。現国王は近年、次々と子どもを事故や病で失い、挙げ句に現在、国王本人も病に臥せっているらしい。国王が崩御した場合、ジョゼフが次期国王に引っ張り出される可能性が高い。


 一方、宮廷魔導師長のシュミットはどうやら王権の簒奪を狙っているらしく、国王の子どもたちも事故や病を装って彼に暗殺されたとアドリアは疑っているそうだ。もしそうであればジョゼフはシュミットのプランの邪魔者でしかない。


 アドリアの推測によればジョゼフが不始末をしでかしたのは本人の責任だが、孕んだ娘の親たちが激昂するよう裏で焚きつけたのはシュミットであり、ワイバーンを魔法で操ってけしかけたのも彼ではないかという。たぶんそれでケリがつくと踏んでいたが、俺とキャメロンがジョゼフの奪還に成功してしまったため、あわててグランツたちに襲撃させた、ということのようだ。



 俺はシュミットの人となりを訊いてみた。


「そうね、権力好きというか、人を自分の管理下において統制するのが大好きな男よ。そのためだったら、何でもするわ。若い頃から他人の手柄も平気で横取りしていたし、裏金にワイロ、脅迫、暴力沙汰と、とにかく手段を選ばない。一言でいえば最低のゲスよ」


 やれやれ、自由を何より愛する俺としては、どうあっても近づきたくない輩だな。だが、そもそも王権奪取の暗闘なんて、一介の冒険者である俺には縁もゆかりもない話である。管理好きのバカが国王になるのは少し不愉快だが、この国が住みづらくなれば他国へトンズラするまでだ。


 珍しく傍らで黙って話を聞いていたキャメロンに目配せする。長居は無用だ。



 ふいにアドリアが腕を組み、顔を前に突き出した。


「あんたたち、ここで手を引くのは許さないわよ」


「何、言ってるんですか。愛しいジョゼフの救出に成功したじゃないですか。しかも、グランツたちからも守ってやった。俺たちの仕事はここまでだ」


「感謝はしているわ。でも、あんたたちが行ってしまったら、この家を守る手勢がいないの。あたしはごらんの通りお忍びで来ているから衛兵は動かせない。こっちの都合で悪いけど、ジョゼフの警護を続けて欲しい。もちろん、ただでとは言わないわ」


 やおらアドリアは自分の胸元に手を突っ込んだ。大きなバストがぶるんと揺れる。さては色仕掛けか、と思いきや黄金のチェーンでできたペンダントを引っ張り出す。先端には暗い紫色の大きな宝石が付いていた。


「報酬としてこれをあげるわ。アドリアーノ家伝来の魔石よ」



 俺はペンダントを受け取って、先端の魔石に見入った。


 魔石は高級な魔物の体内から採れる魔力結晶の塊だが、こんなに見事な代物は見たことがない。冷たく澄んだ光沢が眼を射る。美しいのも確かだが、輪郭がぼやけて見えるのは内蔵している魔力量の膨大さゆえだろう。


 間違いなくひと財産だ。ジョゼフに対するアドリアの思いの深さが痛いほど伝わってきた。


 俺は尋ねた。


「いつまで守ればいいんですか?」


「ジョゼフが安全圏へ逃げ切るまで-」


 アドリアはいったん口をつぐみ、ほの暗い笑みを浮かべて続けた。


「それとも、あんたたちが殺されるまでかしら」



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