二月《ルーセント》の贈り物
「ルエリア」
私室の扉の方を向くと、フレンがげっそりと疲労困憊といった表情で立っていた。そして、私の方にふらりと抱きつくように倒れ込む。
私は彼をふわりと包むように抱き止める。そして、髪をそっと撫でる。
「お疲れ様。そうだ、こっそりラヴィニアと作った林檎のパイがあるんだけど、食べる?」
彼は、顔を上げて目を少し輝かせ、口角が緩んでいる。そういう時のフレンは、国王というより年相応の青年………だと思う。
私も彼もあれから私室にいる時はこうして二人の時間を大事にするようになった。
「そういえば、明日は休みだけど……賑やかになりそうだぞ」
フレンがにっと笑う。ああ、そうだった。明日は久しぶりに皆で集まる日だ。
次の朝、静かな朝……はすぐ終わりを告げた。
コンコン!
いつもより軽やかな音が扉から響く。そして―――賑やかな人たち。
「よぉ! 元気か?」
兄がニカッと笑って元気に入ってくる。その後にラヴィニア……そして最後にアミが遠慮がちにおどおどと入ってきた。
従者という名目でいつもの面々が揃うのが最近の休日になりつつある。
最近、兄とアミがいい感じだとラヴィニア経由で聞いていたが、彼女の雰囲気も以前の明るさを少しずつ取り戻しつつある気がする。
ラヴィニアがキラキラした顔で口を開く。
「見て! ふたりの好きなお菓子と、城下町の喫茶のお茶。特別に持ってきたよ!」
それを見て私は心が踊りだした。喫茶で二月限定販売のお茶とお菓子ではないか。ロマンチックな雰囲気のそれは、毎年買っていたお気に入りのものだ。
ラヴィニアが一瞬ニヤリとし、こそっと私に耳打ちする。
「これ、陛下に渡したら?」
私の顔が急に熱を持ち、胸の鼓動が早鐘を打つ。そして、こくこくと頷いた。
ちらりとフレンを見る。兄と軽口を言い合い、兄の横にはアミがいる。それを見て私の心はふっとあたたかくなった。
(ようやくお兄ちゃんにも春が来た、か)
賑やかな様子を眺めていると、兄がクッキーを皿に広げ、ニヤリと笑い口を開く。
「……この中に一つだけ激辛があります!」
たぶん、作ったのは料理好きな父だ。騎士団長お手製となれば誰も文句は言えない。
四人でひとつずつクッキーを口に入れた――その瞬間フレンが咳き込む。ゴホゴホとしながら恨めしそうに彼は兄を睨むが、どこか楽しそうだ。
「……フラヴィオ! 最初から俺に食べさせるつもりで持ってきただろ!?」
「んなわけないだろ? 残念だったな、フレン」
兄は飄々と笑っているが、最近のフレンの様子を気にしていた。おそらく元気づけようとしたのだろう……少し手段は手荒な気がするが。
「ちょ……辛い! 飲み物を……!」
フレンがまだ咳き込んでいる。その時、ラヴィニアがつんつんと私をつつき、二月限定のお茶を差し出しながら目で頷く。
「フレン……これ、飲んで」
彼は、私からカップを切実な眼差しで受け取り、飲み干す。そして口のひりつきが引いたのか、ふぅとひと息ついた。
「……助かった。これ、すごくいい匂いがするな。そして、甘い」
私の頬が少し緩む。ラヴィニアがふわっと笑って頷く。
「うん、二月限定の特別なお茶なんだって。フレンにも飲んでほしくて、ラヴィニアにお願いしたの」
途端にフレンがふっと笑う。
「ルエリア……皆、ありがとう」
兄がにっと口角を上げて、フレンの肩を叩く。
「国王陛下がお疲れのご様子だったからさ、俺たちからのプレゼントだよ!」
外は雪が積もっているというのに私たち四人を春のような暖かい空気が包む。
さしこむ光が、橙色をおびてきたのを見て、ラヴィニアが口を開く。
「さ、私たちは帰りましょう。あとは、ふたりにさせてあげよ?」
彼女は私の方を見てパチッと片目を閉じる。……さっきの喫茶のお菓子包みを渡せと目が伝えている。私はコクリと頷いた。
パタンと扉が閉じる音がしたと同時に私の全身が熱くなる。私はラヴィニアからもらった包みを手に取って、呟く。
「フレン……これ、私から」
包みを受け取ったフレンの顔が少し赤くなる。そして、ふわっと私を抱き寄せて、声を落とす。
「ありがとう。今日は、最高の日だ」
私は彼の瞳を見上げる。やわらかい眼差しが私に落とされ、彼の顔が近づき……唇が触れる。
ドアの外でクスクス笑っている声は、今は気にしないでおこう。




