第90話 事の経緯
前回のあらすじ
アイナの能力が露見した
アリシアは未だに泣きじゃくるアイナの手を引いて、教会の中に入る。
僕も地面に落ちていたアイナの剣を拾い上げて、二人の後を追う。
表には件の帝国兵の亡骸が無惨に転がっているけど、野次馬の誰かがこの町に駐屯する騎士に報せに行くだろう。
「アイナ!? そんなに血だらけで、いったいどうしたのです!?」
アンジェリカさんは今までに見たことがないほど血相を変えて、アイナに詰め寄っていた。
言葉の端やその態度から、アイナのことをとても心配しているのだと感じ取れた。
「アンジェリカさん。事情は後で話しますから、今は……」
「……っ。ええ、そうね……お風呂場に行って、その汚れを洗い流した方がいいですね」
アリシアの言葉にアンジェリカさんはそう返し、二人に道を譲る。
そしてアリシアはアイナの手を引いて、風呂場の方へと姿を消していった。
その場に一人残された僕は、魔法袋の中から買い出しを頼まれた物を取り出しながらアンジェリカさんに近寄る。
その際、アイナの剣を魔法袋の中に仕舞った。
「アンジェリカさん。頼まれてた物、買ってきました」
「あ、ああ……ありがとうございます」
アンジェリカさんはそう言って僕から品物を受け取るけど、どこか上の空だった。
「……アイナのことが気になるのは分かりますけど、今は……」
「そうですね……しっかりしないといけませんね。さて……これらを仕舞っちゃいましょう」
「手伝いますよ」
「ありがとうございます」
気を取り直したらしいアンジェリカさんと共に、僕は食堂の方へと向かった―――。
◇◇◇◇◇
血糊がべったりと着いた服を洗濯籠の中に放り、わたしはアイナと一緒に汚れを落とす。
アイナはまだどこかボーッとしていたので、彼女の身体も隅々まで綺麗に洗ってあげた。
湯船には浸からずに、身体だけ綺麗にしてお風呂から上がる。
そして水分をきちんとバスタオルで拭ってから、新しい服に着替える。
それからお風呂場を出て、アレンとアンジェリカさんを探して教会内をうろつく。
二人はすぐに見つかり、食堂に二人の姿があった。
「上がったんだね、アリシア。アイナも」
「うん……」
「さあ、そこに座って。今温かいモノ用意しますからね」
アンジェリカさんにそう促され、わたしはアイナと並んでテーブルに腰掛ける。
アレンはわたしの向かい側に座る。
五分くらいして、ハチミツたっぷりのホットミルクが人数分差し出される。
それに一口口をつけると、アンジェリカさんが切り出す。
「それで……アイナ。何があったか教えてもらってもいいかしら?」
「はい……」
アイナは小さく頷き、両手で持っていたマグカップをテーブルに置いてからポツリポツリと事の経緯を喋り始めた―――。
◇◇◇◇◇
アイナの話を纏めるとこうだ。
アイナは僕達が買い出しに出掛けた後、最初の内は自分の部屋で大人しく帰りを待っていたらしい。
だけどアリシアの帰りを待ちきれなくなり、外に出て彼女の帰りを待つことにしたらしい。
外でただじっと待っているのも手持ち無沙汰なので、一人で剣の自主練をしていたらしい。
しばらく外で一人剣を振るっていると、表が騒がしいことに気付いたようだ。
教会の門の所までやって来て外を窺うと、馬車が横転していて、その近くに見たことのない格好をしている兵士がいたとのことだった。
話の流れからして、その兵士とやらが帝国兵なのだろう。
その兵士は闇雲に暴れ回っていた様だが、アイナを見ると彼女の方へと駆け寄ってきたらしい。
恐らく、アイナを人質か何かにしようとしたのだろう。
その兵士が魔法を放ってきたので、アイナは無意識にその魔法を無効化したらしい。
魔法が消されて兵士は驚いた様だが、今度は地面に転がっていた剣を拾い上げて、それを構えてアイナに斬り掛かってきたようだ。
その剣はたぶん、その兵士を護送していた王国兵の物だろう。
剣……というか武器が、都合良くそこら辺に転がっているハズがないからだ。
アイナはそのことに驚いて、自分の剣を無造作に振るったらしい。
アイナの剣の腕は、僕の判断基準からするとまだまだ拙い。
だけどたまに、良い振りをする時もある。
幸か不幸か、今回はその「たまたま」を引いてしまったらしい。
その兵士が振り下ろした剣を、アイナは弾き返したようだ。
そしてそのまま、錯乱しながら兵士を斬り刻んでいったらしい。
気を取り直したのは、兵士が事切れてからのようだ。
人を殺したという事実に茫然自失していると、アリシアが駆け寄って来たらしい―――。
◇◇◇◇◇
アイナのたどたどしい説明を聞いて、食堂に重苦しい空気が流れる。
その空気を変えようと、僕はアンジェリカさんに尋ねる。
「アンジェリカさん。アイナのやったことは正当防衛になりますかね?」
「どうでしょう……相手の動機も今では分からず仕舞いですからね。正当防衛を主張するのは、恐らく難しいでしょうね」
「そうですか。なら……ねぇ、アイナ」
アイナの名前を呼ぶと、彼女はビクッ! と肩を揺らす。
彼女の反応に若干傷付きながらも、それを気にする素振りを見せずに続ける。
「もしアイナさえ良かったら……僕達についてくる気はない?」
「え……? それって、どういう……?」
「僕とアリシアと一緒に、世界を旅しようってこと」
「え? でも……」
「アイナはわたしのこと……嫌い?」
アリシアがそう言うと、アイナはブンブンと激しく首を左右に振る。
「ううん、嫌いじゃない! おねえちゃんのことはすごく好きだよ! ずっと一緒にいたい!」
「なら、わたし達と一緒に旅しましょう?」
アリシアはそう言うと、隣に座るアイナの身体を優しく抱き締める。
アリシアに抱き締められながら、アイナは無言で頷く。
そしてアイナは、アリシアから離れたくないという意思を示すかのように彼女の背中に腕を回した―――。
ここで終われば良い話になるんですが……。
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