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第89話 波乱の幕開け

前回のあらすじ

アレンが嫁(仮)に看病された

 

 アンジェリカさんの王都での用事は二日ほどで終わり、王都に来てから三日目の午前中に元の町に戻るために出発した。


 行きとは異なり、アレンの体調は王都を離れるほどにだんだんと快復していっていた。

 そのことにわたしだけでなく、わたしと一緒に彼の看病をしてくれたアイナもホッと胸を撫で下ろす。


 そして町に戻り、一ヶ月が過ぎた―――。




 ◇◇◇◇◇




 アンジェリカさんに頼まれて、アレンと一緒に食材の買い出しに出掛けていた。

 その時に、アレンからあることを尋ねられる。


「ねぇ、アリシア」

「何、アレン?」

「……いつまでこの世界にいるつもり?」

「えっ……?」


 ずっと目を逸らし続けていたことをアレンの口から言われ、わたしの心臓が跳ね上がる。


「それは……」

「まさか考えてなかったとか? それとも……未練があるとか?」

「そんなことはない、けど……」


 アレンの言葉に反論するけど、わたしは言葉が尻すぼみになる。


 別に今後のことを全く考えていなかったわけでも、この世界に未練があるわけでもない。

 だけど……。


「もしかして……アイナのこと?」


 アレンの口から実の妹のように可愛がっている少女の名前が飛び出し、わたしは無言で頷く。

 すると彼はわたしの反応を見て、フッと鼻で笑う。


「なんだ。そんなことか……」

「そんなことって……。わたしにとってはとても重要なことなんだけど?」


 アレンの反応が気に入らず、わたしは少し憮然とした態度で言い返す。

 だけど彼はわたしの反応に嫌な顔一つせず、逆に何故か優しい眼差しをわたしに向けてくる。


「そんなに離れ離れになるのが嫌なら、連れて行けばいいじゃないか?」

「え……? それって……わたし達の旅に、アイナを連れてくってこと?」

「そう言ってるんだけど? もしかしてアリシアは、アイナとずっと離れ離れになりたいの?」

「そんなわけないじゃないっ!!」


 わたしは思わず大声で返してしまっていた。

 その声に反応して、通行人達が何事かとわたし達の方に目を向けてくる。

 その視線を気にすることなく、わたしは足を止めてアレンに胸の裡を告白する。


「わたしはずっと、ずう〜っと! アイナと一緒にいたいわよ!」

「ふっ……もうアリシアの意思は固まってるじゃないか」

「あっ……」

「後はアイナ本人の意思を確認するだけだね。さて……買い物を済ませちゃおうか?」


 アレンはそう言うと、わたしの手を握ってきてそのまま歩き始める。


「うん……」


 わたしは小さな声でそう返事をして、アレンの手を握り返す。

 そして手を繋いだまま、買い出しを済ませて教会へと戻って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 教会へと戻る途中、僕達の行く先がなんだか騒がしいことに気付く。

 若干だけど、人垣も出来上がっていた。

 何が起こっているのか知りたくて、僕は近くの人に声を掛ける。


「すみません。なんだか騒がしいですけど、何かあったんですか?」

「ん……? ああ。捕らえた帝国兵を移送していた馬車が横転して、中にいた帝国兵が出て来てしまったみたいなんだ。その兵士がすぐ近くの教会に――」

「っ!? アイナ!?」


 教会という単語を聞くや否や、アリシアは慌てたような声を上げる。

 そして一目散に、教会の方へと向かって疾走していく。

 彼女は人垣が邪魔だと思ったらしく、民家の壁面を駆け抜けることで人垣を迂回していた。


「ちょっ!? アリシア! ……すみません! 情報ありがとうございました!」


 僕は状況を教えてくれた人にお礼を言ってから、アリシアの後を追った―――。




 ◇◇◇◇◇




 人垣をなんとか通り抜けてきて、教会へとたどり着く。


「はぁ……はぁ……」


 声を荒げているのは僕でもアリシアでもなく―帝国兵と対峙したらしいアイナだった。

 彼女の身体と剣は赤く染まっていて、帝国兵は倒れ伏していて真っ白な地面を赤く穢していた。


「アイナ! 大丈夫!?」


 その惨状を目の当たりにしながらも、アリシアはアイナのことを真っ先に気に掛けていた。


「おねえ、ちゃん……?」


 アリシアの声に反応して、アイナは彼女の方に目を向ける。

 だけどアイナの瞳は、どこか虚ろだった。


 アリシアはアイナの傍まで駆け寄ると、服が汚れることを厭わずにアイナの小さな身体をおもいっきり抱き締める。


「アイナ! 怪我とかない!?」

「おねえ、ちゃん…………おねえちゃん!」


 アイナは剣から手を離すと、アリシアの背中に手を回して抱き着く。

 そして堰を切ったかのように、大声を上げて泣き始める。

 僕はそれを、ただただ見つめていることしか出来なかった―――。




 ◇◇◇◇◇




 そしてそのことを眺めていたのは、野次馬達ばかりではなかった。


 アイナがたった一人で帝国兵をその手に掛けた場面を最初から目の当たりにしていたある人物は、とある場所までやって来る。

 その人物は王国兵の中でも諜報を担当する人物で、やって来た場所は駐屯所だった。


 その中にある建物のとある部屋に入り、室内にある水晶型の通信用魔道具を起動させる。

 そしてそれで、ある人物と通信をする。


「……陛下。陛下の耳に至急お伝えしたいことがございます」

「なぁに?」


 水晶に映し出されたのは、雪のように白いウェーブがかった長髪をした、蒼い瞳の女性だった。

 そして諜報員は、先ほどの出来事をその女性に報告する。


 一通り報告を聞き終わった女性は、静かに頷く。


「そう……。その少女をわたくしの前まで連れてきなさい。これは命令よ。……あ、そうそう。手段は問わないけど、くれぐれも怪我などさせないようにね? 王国の貴重な戦力になるのだから」

「はっ。畏まりました」


 諜報員はその女性に向かって深々と頭を下げると、その女性との通信が切れた。

 その後その諜報員は早速行動を開始する。




 水晶に映っていた女性の名は、アイリ・スノウホワイト。


 彼女はこのヴァイス王国を統べる女王にして―アイナの実の母親だった―――。






アイナの母親登場です。


それと次回から、毎週土曜日18時の定期更新となります。

あくまでも予定なので、更新されない時もあると思いますがその点はご了承ください。




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