第68話 旅人の指輪
前回のあらすじ
ヴリトラを討伐した
その日はお祭り騒ぎだった。
魔王ヴリトラが討ち取られたことはすでに里中に広まっているようで、僕達が里に戻ってきた時には至るところで人々が騒いでいた。
僕はアリシアを抱き抱えたまま、オロチさんの家に一足先に戻ってきていた。
僕の腕の中では、アリシアが規則正しい寝息を立てていた。
この家の主であるオロチさんは、祝勝会に出席するとのことでここにはいない。
ククルさんも家にいなかった。お祭り騒ぎに参加しているのだろう。
僕は部屋には行かずに、縁側へと向かう。
そこに腰掛けて、アリシアの身体を下ろす。
そして彼女の頭を僕の膝に乗せて、頭を撫で擦りながら目の前に広がる景色に目を向ける。
陽が雲海の果てに沈もうとしていて、空は茜色に染まっている。
もうすぐこの世界から去るのかと思うと、妙な感慨が沸き上がってくる。
「う…………ううん……」
するとアリシアが身動ぎして、ゆっくりと目を開く。
そして僕の顔を見上げると、はにかんだ笑みを浮かべる。
「……おはよう、アレン」
「おはよう、アリシア。ゆっくり休めたかい?」
「うん……」
「そっか……それはよかったよ」
僕はそう言ってアリシアの頭から手を離すと、彼女は何が気に入らないのか唇を尖らせる。
彼女がそんな態度を取る理由が分からずに、僕は首を傾げる。
「どうかした?」
「……頭、撫でて」
「えっ?」
「だから……頭、撫でて」
アリシアは頬を赤く染めながら、そうおねだりする。
「仰せのままに、勇者サマ?」
そんな態度を取る僕の可愛い彼女の行動に苦笑しながら、僕は再びアリシアの頭を撫で始める。
すると彼女は心地良さそうに目を細め、僕の手に身を委ねる。
そんなことを、陽が暮れるまで続けた―――。
◇◇◇◇◇
ヴリトラ討伐から一夜明けて―――。
わたしとアレンは、オロチさんからある物をもらった。
ソレは、不思議な光を放つ宝石が嵌められた指輪だった。
「オロチさん、コレは?」
「ソレは、『旅人の指輪』と呼ばれる魔道具だ」
そう言ってオロチさんは、この魔道具の説明を始める。
この『旅人の指輪』と呼ばれる魔道具は、異世界を渡り歩くのに必要不可欠なモノらしい。
コレなくして、世界間の移動は不可能のようだった。
右手の指に嵌めるか持つかして使うと、自分の望んだ世界に渡れる。
逆に左手で使うと、ランダムな世界に渡れるようだ。
「へぇ〜、便利ですね。……ところで、この指輪に嵌められている宝石って何なんですか?」
アレンがそう尋ねると、オロチさんは顔をしかめる。
「それか……。それは、う〜む……説明が難しいな」
「えっ? もしかしてヤバい代物なんですか?」
「そういうわけではないのだが……」
「「???」」
アレンと揃って首を傾げていると、オロチさんはようやく説明してくれた。
「その宝石はな……この世界の物ではないのだ」
「えっ? それじゃあどこから?」
わたしがそう尋ねると、オロチさんは無言で天井を指差す。
それにつられる形で、わたしとアレンも天井に目を向ける。
だけどそこには、木目の天井があるだけだった。
「『旅人の指輪』に使われている宝石は……ソラの向こうから降ってくるのだ」
「「…………………………は???」」
あまりにも突拍子なさ過ぎて、すっとんきょうな声を上げるしかなかった。
そんなわたし達に構うことなく、オロチさんは説明を続ける。
「その宝石……いや、鉱石か。その鉱石はソラから降ってくる特殊な鉱石で、我々は天玉と呼んでいる。天玉には、世界を繋げるという不思議な効果があってな。天玉がなければ、異世界の移動など不可能だ。指輪の形をしているのは、持ち運びしやすいからに他ならない」
「はあ……そうなんですか……」
説明を聞いてもちんぷんかんぷんだったので、生返事を返すしか出来なかった。
とにもかくにも、わたし達は元の世界に戻る手段を手に入れた―――。
◇◇◇◇◇
それから一週間後。
わたしとアレンが、この天空世界を立ち去る日がやって来た。
わたし達の見送りに、オロチさん夫妻が来ていた。
「オロチさん、ククルさん。お世話になりました」
わたしはそうお礼を述べて、頭を下げる。
アレンもわたしと同じように頭を下げている。
「いや、こちらこそ世話になった。貴殿らがいなければ、ヴリトラの討伐は叶わなかっただろう。この恩は一生忘れない」
「こちらこそ、オロチさん達から受けた恩は忘れませんよ」
「そうか……そう言ってもらえると拙者も嬉しい」
アレンの言葉に、オロチさんは相好を崩す。
お別れの挨拶も済んで、わたしは魔法袋から『旅人の指輪』を取り出す。
オロチさんはわたしとアレンが使う分の他に、予備の指輪を二つずつ渡してくれた。
正に至れり尽くせりだった。
そしてその指輪を、右手の中指に嵌めて頭上に掲げる。
するとわたし達の目の前の空間に亀裂が入り、そして砕けた。
それは、ヴリトラがこっちの世界に逃げた時と同じ様相だった。
わたしは後ろを振り返り、オロチさん達と最後の言葉を交わす。
「それじゃあ二人共、さようなら!」
「またご縁があれば、どこかで会いましょう!」
わたしの後に、アレンが続く。
「ああ、またいつか!」
「二人共、お元気で!」
オロチさん夫妻は、笑顔を浮かべて手を振る。
「……行こうか」
「ああ……」
わたしの言葉に、アレンは頷く。
そして彼と手を繋いで、その亀裂へと足を踏み入れる。
そうしてわたしとアレンは、わたし達の元いた世界へと戻って行った―――。
元の世界へと戻って行った二人。
そして新章へ―――。
(次回更新は一週間後を予定しております)
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