第59話 死線(?)
前回のあらすじ
異世界の勇者を初手で倒した
チュンチュンと、小鳥の囀ずる声が聞こえる。
その声に導かれるように、僕の意識が夢の世界から現実世界に徐々に戻ってくる。
意識が微睡んでいる中、最初に感じたのは身体の前面から感じる柔らかい温もりと、右手にすっぽりと収まるほどの柔らかいナニかだった。
「んっ…………はうん…………」
何とはなしに右手に力を込めると、そんな艶っぽい声が聞こえてきた。
その声を聞いて、僕の意識が完全に覚醒する。
バチっと両目を見開くと、栗色の頭の後頭部が視界に入った。
この髪色は見慣れているし、コレによって僕が今抱き締めているモノの正体も分かった。
僕が抱き締めているのは、アリシアの身体だった。それも後ろから。
「…………………………んん??」
僕は必死に頭を働かせて、昨日のことを思い出し始めた。
確か昨日の夜、僕が寝ようとした時に、アリシアが僕の部屋にやって来た。
用件を聞くと、僕と一緒に寝たいと言ってきた。
詳しい理由は教えてくれなかったけど、僕としても断る理由はなかったので、彼女と一緒に寝た。
以上、回想終了。
アリシアの身体を抱き締めているのも、僕の右手が彼女のアレを揉みしだいているのも、寝ている間に無意識の内にしてしまったことだろう。
なら最初にやることは……アリシアが目覚める前に右手をアレから離すことだろう。
今すぐにでも、この死線から脱却しなければ。
そう思い、アリシアを起こさないようにゆっくりと、だけど一刻も早くこの事態から脱却しようと素早く右手を引く。
その際、指先が突起物に掠った。
「あんっ…………」
起き……………………てないね、よし。……いや、全然よくないけど。
そして無事(?)に右手を引き抜き、続いてアリシアの腰に回している左腕も引き抜く。
こっちはさほど苦労せずに引き抜くことが出来た。
それからアリシアを起こさないようにゆっくりと布団から抜け出して、アリシアに背を向け立ち上がる。
「ふう〜〜〜……。緊張したぁ〜」
「何が緊張したのかな?」
息を吐いて緊張の糸を解していると、後ろから聞こえるハズのない死神の声が聞こえてきた。
ゆっくりと後ろを振り返ると、アリシアは胸元を左手で押さえて顔を真っ赤にし、右手で僕の浴衣を掴みながら膝立ちで見上げてくる。
……あ、死んだな。
直感的に、僕はそう思った。
「アレン。わたしが寝ている間に、いったい何をしたの?」
「な……何もしてないよ」
「ウソ。わたしのむ……胸を、触ってたクセに」
「……起きてたんじゃん」
「そっ、それは……あんなに触られたら、いくらわたしでも起きるわよ」
「そ、そうか……」
「って、そうじゃなくて。アレン、何か言い残すことは?」
そう言うアリシアの目は据わっていた。
とても怒っているのは、誰の目からも明らかだった。
何を言っても無駄だと悟った僕は、遺言を言い残す。
「アリシアって……胸が弱いんだね」
「っ!?!? ……バカ!!」
僕の遺言を聞いたアリシアは立ち上がり、渾身の右ストレートを僕の顔面に叩き込んだ―――。
◇◇◇◇◇
「すみませんごめんなさい申し訳ございませんアリシア様僕が悪かったですだから機嫌を直してはいただけませんでしょうかというかいい加減口を利いてくれよアリシア僕が全面的に悪かったからさぁ」
やや早口でそう謝罪の言葉を述べる変態男子が、わたしの後ろをついてくる。
それに対してわたしは―――。
「…………ふんっ」
―――とだけ返す。
自分でも子供っぽいとは思うけど、今朝のことはそう簡単に赦せそうにはなかった。
たとえ、寝ている間に無意識の内にしでかしたことであっても、だ。
だから朝の鍛練もわたし一人でやったし、朝のあの一件以来彼とは一言も口を利いてなかった。
するとわたし達の前を歩くオロチさんが、心配そうに声を掛けてくる。
彼には、昨日途中で中断してしまった里の案内を、今日改めてしてもらっている。
「何かあったのか? 朝食の時もずっとその調子だったが……」
「何にもないですよ。ねえ、アレン?」
笑みを浮かべながらアレンの方を振り返ると、彼は首が取れるんじゃないかと錯覚するくらい、激しく頭を上下に振る。
「うんうんうん。アリシアの言う通りです。何でもありませんよ」
「そ、そうか……貴殿らがそう言うのであれば、これ以上は聞かないが……」
オロチさんはやや納得しない表情を浮かべながらも、それ以上聞いてくることはなかった。
アレン、強く生きて!(他人事)
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。




