第56話 確認作業
前回のあらすじ
偽りの魔王の正体が判明した
翌日。
オロチさん宅の庭を借りて、日課の朝の鍛練をするけど、今日はいつもと違うことをする。
それは―――。
「それじゃあ、この世界でも魔法が使えるか試してみよう?」
「そうだね」
わたしがそう言うと、アレンは頷く。
この世界に来てから、わたし達は一度も魔法を使っていなかった。
もし使えなくなっていたら、ヴリトラと再戦した時に大きなハンデとなる。
だから魔法が使えるかどうか、今から確かめる。
「《サンダー》」
「《ファイア》」
わたし達はそれぞれの得意属性の初級魔法を、最低限の威力まで絞って発動させる。
そしてわたしからは静電気くらいの威力の雷が、アレンからはマッチの火くらい小さな火が放たれた。
それらはお互いに向かって直進する。
「「《レジスト》」」
わたし達は声を揃えて、今度は耐属性魔法を発動させる。
初級魔法を威力を絞って放ったこともあってか、全くダメージを受けなかった。
それを確認して、わたしは一人頷く。
「……うん。攻性魔法も防性魔法もちゃんと発動出来てるね」
「あとは補助魔法だけか。何がいいかな?」
「身体強化魔法でいいんじゃない? この後のことも考えると、さ」
「……そうだね。そうするか」
そうしてわたし達は身体強化魔法を発動させる。
「どう、アレン?」
彼にそう尋ねると、その場で反復横跳びをする。
ものすごい速さで左右に行ったり来たりしている。
その動きを肉眼で追えているから、補助魔法もちゃんと発動している。
アレンは動きを止めて、頷く。
「……うん。補助魔法もちゃんと発動してるよ。これで全部の魔法が使えることが分かったね。それじゃあ……」
「ええ。始めましょう」
わたしがそう言うと、お互いに鞘から剣を引き抜く。
わたしの朝の鍛練は、アレンと一緒に旅するようになってから少し変わっていた。
一人の時は剣の素振りとか魔法の訓練だけだったけど、アレンと一緒になってからは毎朝模擬戦をするようになった。
ルールは、お互いに使う武器は剣だけ。聖剣の使用は禁止。
魔法は初級魔法、防御魔法、耐属性魔法、身体強化魔法の四つだけ。
その他の攻性、防性、補助魔法の使用は一切禁止。
そして制限時間は十五分間。
わたしとアレンは剣を交差させてから、すぐにお互い真後ろに飛び退く。
そしてどちらかが地面に足を着けたその瞬間から、模擬戦は開始される。
わたしが地面に足を着けたその時、一足早く地面に足を着けていたアレンが地面を蹴り飛ばしてわたしに接近する。
そして右手の剣を振り下ろしてくる。
それを剣で受け止めると、アレンは左手の剣に氷を纏わせながら斜め下から振り上げてくる。
「《アース》!」
地面から土の壁が盛り上がって、その氷の剣を防ぐ。
その隙にアレンの右手の剣を押し返して、すぐに《サンダー》を放つ。
アレンはすぐさま後ろに飛び退き、耐属性魔法で雷撃を防ぐ。
今度はわたしから接近して、アレンの胸の中心目掛けて突きを放つ。
アレンはやや強引に身を捻り、その突きをかわす。
その勢いを利用して、彼は左手の剣を横薙ぎに振るってくる。
それを上体を倒すことで避ける。髪が二、三本持っていかれた。
アレンはそのまま回転して、今度は炎を纏わせた右手の剣を横薙ぎに振るう。
「《シールド》!」
剣から右手を離して、右腕全体に防御魔法を展開してその剣を防ぐ。
あと念のため、耐属性魔法もその下に展開しておく。
ガッキィィィン! と甲高い音を響かせ、炎の剣はわたしの盾に阻まれる。
上体を戻して、左手一本でアレンの背中目掛けて斬戟を繰り出す。
けれどその斬戟を、アレンは背中に回した氷の剣で受け止める。
防ぎ防がれ、わたし達は膠着状態に陥る。
だけどその状態も長くは続かなかった。
アレンはグッと二本の剣に力を込めて、わたしを押し返す。
そして反転して、わたしに斬り掛かる。
わたしも両手で剣を握り直して、アレンの剣と斬り結ぶ。
何合、何十合と斬り結んで、鍔迫り合いとなる。
その状態で、わたしはアレンに尋ねる。
「どう、アレン? 何か違和感とかは?」
「ないよ。雲の上にあるから空気が薄いんじゃないかと思ったけど、そんなことはないみたいだね。息切れすることなく、いつも通り動けているし。アリシアはどう?」
「わたしもアレンと同じ。普段通りの動きが出来てるよ」
「それじゃあ、今日はここまででいい?」
「うん」
そう返事をして、お互いに数歩後ろに下がる。今日の朝の鍛練はここまで。
剣を鞘に納めると、パチパチとどこかから拍手が聞こえてきた。
音がした方に目を向けると、オロチさんが縁側に立っていた。
「あ、おはようございます」
「おはようございます、オロチさん」
「ああ、おはよう。鍛練か?」
「はい」
「そうか……。それにしても、アレン殿は不思議な剣技を使うな? 後学のため、詳しく教えてくれないか?」
「はい、いいですよ」
「かたじけない」
するとアレンは、オロチさんに魔法剣を教え始めた。
わたしは家に戻る前に、オロチさんに尋ねる。
「オロチさん。お風呂借りてもいいですか? 汗を流したいので」
「ああ、構わない。朝早くに沸かし直したから、まだ温かいハズだ」
「ありがとうございます」
彼にお礼を言ってから、わたしは家に戻る。
そして汗を流すために、お風呂場へと向かった―――。
◇◇◇◇◇
オロチさんに魔法剣のことを教えてから、家に戻った。
彼は熱心にアレコレ聞いてくるから、僕も興が乗って色々と教えた。別に秘伝の技とかじゃないしね。
そして僕も汗を流すために、風呂場に向かう。
さすがにアリシアはもう上がっているだろう。
そう思い脱衣場の扉をノックせずに開けると、そこには一糸纏わぬアリシアの姿があった。
「え……?」
突然の事態に、彼女は思考停止して固まっている。
僕も似たような状態だけど、視線だけはしっかりと彼女の身体を凝視していた。
アリシアの栗色の髪は水分を含み、艶々と輝いている。
そこから視線を下げると、彼女のややボリュームに欠ける胸に行き着く。
さらに視線を下げ、キュッとほどよくくびれた腰に目が行き、その下の―――。
とそこまで行った時に、僕は見なかったことにしようとして、そっと脱衣場の扉を閉めた。
そのすぐ後に再び扉が開かれる。
アリシアは身体にバスタオルを巻いていたけど、僕に裸を見られた羞恥からか、顔を真っ赤に染め上げていた。
「…………………………見た?」
アリシアはたっぷりと間をおいてから、そう問い質してくる。
僕はブンブンと首を左右に振る。
「見てない見てない。アリシアの小さな胸なんて…………あ」
……ヤバい、死んだ。
直感的にそう思った瞬間、首がもげるんじゃないかと錯覚するほどの強烈なビンタを、勇者サマから喰らった―――。
アレンはさあ……ハァ……(クソデカ溜め息)。
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