第55話 偽りの魔王の正体
前回のあらすじ
オロチ夫妻の家にお世話になることになった
「ふわあああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜……」
ほどよく温かいお湯に身体を沈め、わたしはとても気の抜けた声を上げる。
木製―たぶんヒノキ―の湯船にはお湯が並々と溜められていて、温かいお湯がわたしの身体を包み込む。
そのお湯に、今までの疲れが溶け出していくような気がする。
ククルさんお手製の夕飯を食べた後、わたしとアレンはお風呂をいただいていた。
最初にアレンが入って、彼が出た後にわたしが入った。
そしてわたしは湯船に浸かりながら、夕飯前まで話していたことを思い返す。
オロチさん達は天竜族と呼ばれる種族で、人の姿と竜の姿を使い分けるらしい。
わたし達の世界の竜人族に似た種族だった。
ただ、竜人族と異なる点は、人の姿になっても背中の翼は無くならないらしい。
そしてこの世界には天竜族の他にも、人間族やエルフ族、ドワーフ族も少数だけど存在するようだ。
それと魔法体系も少し異なっていたけど、攻撃系の魔法が火、風、土、水、氷、雷、光、闇の八属性なのは同じだった。
それから人口密集地はこの白羊宮の里の他にも、あと十一ほどあるらしい。
だけど一番驚いたのは、偽りの魔王の正体だった―――。
◇◇◇◇◇
「答えられることはだいたい答えたか。……今度はこちらから質問してもいいか?」
「はい。答えられることでしたら何でもどうぞ」
わたしはそう返し、先を促す。
「それではお言葉に甘え。……貴殿らが口にする偽りの魔王の特徴を教えて欲しい」
「? 偽りの魔王の……ですか?」
質問の意図が分からず、首を傾げる。
そんなわたしに代わり、アレンがその質問に答える。
「偽りの魔王は六枚の翼を持つドラゴンでした。人型だと、くすんだ金髪をオールバックにした男でしたね」
「六枚羽……くすんだ金髪……やはりヤツか……」
アレンから偽りの魔王の特徴を聞いたオロチさんは、顎に手を当てて俯きながらそう呟く。
「オロチさん。偽りの魔王について、何か心当たりでもあるんですか?」
わたしがそう尋ねると、彼は顎から手を離して顔を上げる。
「……ああ。貴殿らの情報を頼りにしただけなので確証はないが、心当たりはある。もしその偽りの魔王とやらが拙者達が知っている存在ならば……名前も、そして異名も広く知れ渡っている」
「その……名前と異名は?」
「………………『魔王』」
オロチさんは少し間を空けた後、そう答える。
その縁と所縁しかない異名を聞いて、わたしは目を見開く。
チラリと横を見ると、アレンもわたしと同じく目を見開いていた。
そんなわたし達に構うことなく、オロチさんは続ける。
「または『暴竜』と呼ばれている。そしてヤツの名は―――ヴリトラ、だ」
◇◇◇◇◇
オロチさんによると、ヴリトラはかつてこの世界に破壊と殺戮をもたらした恐怖の存在らしい。
だけどオロチさん含む魔王討伐隊の尽力によって、討伐は出来なかったけど封印することには成功したらしい。これが三年前の出来事。
だけど今から半年ほど前にその封印が解けて、ヴリトラはどこかに逃亡したらしい。
手分けして捜索し、魔力反応を探査しても何の手掛かりも得られなかったようだ。
その際、異世界を渡り歩く魔道具が一つ紛失していたので、異世界に逃げたのでは? との意見が大多数を占めたようだ。
……というか、異世界を渡り歩く魔道具なんてあったんだ。
そのことをわたしが指摘すると、希少ではあるけどこの世界では普通に流通しているとオロチさんは答えてくれた。
思わぬ形で、元の世界に戻る手段を聞くことができた。
そして今日、突如としてヴリトラの魔力を観測したらしい。
そのことにオロチさんは驚いたらしいけど、さらに驚くことが起きた。
その魔力を追うように、二つの大きな――ヴリトラ並の魔力反応が現れた。
言わずもがな、わたしとアレンだった。
その二つの魔力反応が異世界人のモノだと直感で理解したオロチさんは、弟にその異世界人を里まで案内するように指示を出した。
その目的はヴリトラの情報を得ることと、その異世界人達の保護だった。
だけどその弟クンの独断で、わたし達は彼らに矛を向けられたわけだ。
オロチさんが止めに入らなければ……わたし達もどうなっていたか分からない。
◇◇◇◇◇
そんなことを思い返していると、脱衣場に誰かが入ってくる気配があった。
「アリシアさ〜ん! 湯加減はどうですか〜?」
曇りガラス越しに、ククルさんが声をやや大きめにしてそう尋ねてきた。
曇りガラスには、彼女のシルエットがぼやぁ〜っと映っている。
「あ、は〜い! ちょうどいいです〜!」
そのシルエットに向かって、わたしも声を少し大きくしてそう返す。
こちらの世界では、お風呂は薪で沸かすらしい。
わたし達の世界では入浴用の魔道具でお風呂を沸かすから、とても新鮮だった。
「それは良かったです〜! 着替え、籠の中においておきますね〜!」
「は〜い! ありがとうございます〜!」
そう返事をすると、ククルさんは脱衣場から出ていった。
それから少しして、わたしはお風呂からあがる。
脱衣場の籠には、ククルさんが用意してくれた寝間着―浴衣が入っていた。
それに腕を通して、わたしは脱衣場から出ていった―――。
偽りの魔王は異世界の魔王でした。
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