第51話 VS偽りの魔王 後編
詰め込んだら長くなっちゃった……。
反省はしてる、後悔はしていない(ドヤ顔)。
前回のあらすじ
モミジとエミリを救出した
わたしは全身に身体強化魔法を掛けて、玉座の前に立つ偽りの魔王に最短最速で接近する。
そして彼の首目掛けて聖剣を一閃する。
けれどその攻撃を、三枚ある右翼の内の一枚で防がれてしまった。
それ自体は予想していたことなので、わたしは間髪入れずに次の手を撃つ。
「《ボルテクスバースト》!!」
至近距離で雷属性超級魔法を放射状に放つ。
これには流石の魔王も予想外だったようで、右翼全てを使ってわたしの雷撃を防ぐ。
だけど彼は失念している。
この場には、もう一人の勇者がいることを―――!
「死ね!」
わたしの聖剣による一閃と雷撃を右翼で受け止めながら、魔王は左手もドラゴンのように変化させて貫手を放ってくる。
だけどその手を、二本の剣が跳ね上げる。
「チッ……! 斬れないか!」
偽りの魔王の意識の外から接近したアレンが、そうごちる。
それでようやく、魔王もアレンを認識する。
「キサマ!」
「《フレイムバースト》!!」
魔王は跳ね上がった手をそのままアレンに振り下ろすけど、アレンの方が早かった。
超が付くほどの至近距離で、火属性超級魔法を放つ。
その兆候が見えた時点で、わたしは魔王から離れていた。
豪炎が偽りの魔王の身体を包み込み、魔法の余波を利用してアレンが魔王から距離を取る。
そして炎の勢いが徐々に弱まってきたその時、魔王が三対の翼で残った炎を吹き飛ばし、姿を現す。
「……小賢しい真似をする」
炎の中から姿を現した偽りの魔王は、怒り心頭といった様子だった。
「それはこちらのセリフよ。さっさとくたばりなさい、偽りの魔王」
聖剣の剣先を向けながらそう言うと、偽りの魔王は右手もドラゴンのように変化させる。
「どうやら死にたいようだな! 勇者っ!!」
魔王はそう言うと、六枚の翼を羽ばたかせてわたしに向かって飛んでくる。
けれどその前に、アレンが動いた。
「させない! 《フリーズバースト》!!」
アレンはわたしと魔王の間に、天井に届くほど高く分厚い氷の壁を造り出した。
氷壁越しにあちら側を見ると、魔王は壁にぶつかる前に急制動を掛けて止まったようだ。
そして魔王は、恨みがましそうな視線をアレンの方に向ける。
「……悉く我の邪魔をしてくれるな、小僧」
「そりゃあ邪魔するさ。アリシアを……勇者を絶対に死なせるわけにはいかないからな!!」
◇◇◇◇◇
僕はそう宣うと、最短最速で偽りの魔王に接近し、斬り掛かる。
魔王は竜の鱗で覆われた両手で僕の斬戟を防ぐと、翼を振動させ始めた。
その振動は次第に大きくなっていき、そして衝撃波となって放たれた。
「くっ!? 《メガエアロ》!!」
衝撃波を喰らってダメージを負うよりも、自分の魔法でダメージを負う方がまだマシだと思い、至近距離で風属性中級魔法をやや暴発気味に発動させる。
そして強引に魔王と距離を取り、衝撃波によるダメージを最小限に抑える。
それと幸いにも、自分の魔法によるダメージもそれほど大きくはなかった。
僕が体勢を立て直す前に、魔王が翼を羽ばたかせて接近して来た。
そして鱗に覆われた右手で、僕の心臓目掛けて貫手を放ってくる。
両手の剣を交差させてその軌道を逸らし、僕自身も身体を捻ってソレを避ける。
だけど魔王は左手も貫手の形にして、それを放とうとする。
けれどそれが放たれる前に、別のモノが彼の背後から放たれた。
「《ボルテクスバースト》!!」
◇◇◇◇◇
魔王がアレンに標的を変えたので、わたしは魔王の背後を取るために氷壁を迂回する。
高さと厚さはそれなりにあるけど、横幅はそれほど長くはないから迂回は容易だった。
アレンは魔王に斬り掛かり、そのすぐ後に衝撃波か何かによって彼の身体が吹き飛ばされた。
そして距離の空いたアレンに急速接近して、貫手を放つ。
右の貫手はアレンが双剣を使って軌道を逸らしたけど、魔王は左手でも貫手を放とうとしていた。
今のアレンにアレを防ぐ手立てはない。
だから――わたしがアレンを助ける!
「《ボルテクスバースト》!!」
魔王の背後に回り込んだわたしは、本日二度目となる超級魔法を今度は直線状に放つ。
その攻撃を察知したのか、魔王を真上に飛ぶことでその雷撃を回避する。
そうすると雷撃はアレンに直撃してしまうけど……心配など微塵もしていない。
直線状に放たれた雷撃を、アレンは魔王が離れたと同時に真横にステップすることで避ける。
そして彼はそのまま、天井付近まで避難した魔王に向かって魔法を放つ。
「《ギガファイア》!!」
アレンの放った火球は、魔王の翼によって防がれてしまった。
けれどわたしも魔王に向かって魔法を放つ。
「《ギガサンダー》!!」
わたしの放った稲妻も魔王の翼によって防がれるけど、彼の顔は少し歪んでいた。
魔法を魔王に向かって放っている間に、わたしはアレンと合流する。
「チッ……! 人間ごときが……小賢しいわ!!」
偽りの魔王は怒気の孕んだ声音でそう言うと、火球と稲妻を力任せに弾き返した。
そして彼は大きく息を吸い込むと、赤黒いブレスを放ってきた。
「っ……!? 《花鳥風月》!!」
わたしは擬似魔獣化して、一か八かで唯一使える妖術魔法を発動させる。
そしてその賭けは――勝った。
わたしの魔法はきちんと発動し、魔王のブレスとわたしが模倣したブレスが正面からぶつかり合う。
同等同質の攻撃は、わたしと魔王の中間付近で拮抗している。
だけどこちらには、もう一人いる。
「《フレイムバースト》!!」
アレンは魔王目掛けて三度超級魔法を放つ。
その豪炎はわたしのブレスと混ざり合い、そして――魔王のブレスを徐々に押し返していく。
「ぐっ……うおおぉぉぉ……!」
「「おおおおあああ!!」」
わたし達の気迫の籠った声が揃い、炎はその勢いを増す。
そして――わたし達の炎が魔王のブレスを撃ち破り、魔王の身体を包み込む。
それだけでなく、勢い余った炎は王の間の天井を撃ち抜いて、空の彼方まで飛んで行った。
炎が消えた後、わたし達の目の前―玉座の前に、魔王がボトリという鈍い音を立てて落下してきた。
受け身も取れないほどの深刻なダメージを負っているようだ。
その証拠に、炎を防ごうとしたらしい魔王の左翼は全て焼け落ち、彼の左半身も焼け爛れていた。
左半身に比べてダメージの少ない右半身も、所々火傷を負っていた。
だけどこちらも無傷ではない。
わたしは、魔力消費量が激しい魔法の連発で魔力欠乏症に陥りかけていて、視界が霞む。
アレンの方に目を向けると、彼も顔面蒼白だった。
彼も度重なる超級魔法の発動で、魔力欠乏症になっているのだろう。
だけどまだ倒れるわけにはいかない。
わたしは擬似魔獣化を解除して聖剣をしっかりと握り締め、警戒しながらゆっくりと魔王に近付く。
「フ……フフ……フハハハハハ……」
すると偽りの魔王が、突然笑い声を上げる。
それが不気味で、わたしは思わず足を止める。
「まさか、我がここまで追い詰められるとはな……。だが……タダでは死なん……死ぬものか!!」
魔王のただならぬ気迫にわたしは本能的な恐怖を感じて、一歩二歩と後退る。
すると魔王は懐から、不思議な光を放つ宝石が填められた指輪を取り出す。
それを目の前にかざすと――突如として空間に亀裂が入った。
突然の出来事に呆気に取られていると、その隙に魔王は地面を這いつくばって、その亀裂の中へと入って―逃げて行った。
「待ちなさい、魔王!!」
偽りの魔王を逃がしてはいけないと、本能が警鐘を鳴らす。
ソレに従い、わたしもフラつく足取りで亀裂へと向かう。
その亀裂は徐々に小さくなっていた。
だけど途中で膝から力が抜け―すぐに身体を支えられた。
横に目を向けると、アレンがわたしの身体を支えてくれていた。
「偽りの魔王を追いかけよう、アリシア」
「うんっ」
アレンの言葉に笑顔で頷く。
そしてアレンに支えられたまま、わたし達はその亀裂へと足を踏み入れた。
すると次の瞬間、不思議な浮遊感がわたしの身体を包み込み、そして意識を喪った―――。
◇◇◇◇◇
私が王の間に入った時、偽りの魔王の姿はどこにもなかった。
その代わり、玉座の前の空間に不思議な亀裂が入っており、ソレに向かってアリシアさんとアレンさんが歩いていた。
「アリ……」
二人の名前を呼ぶ前に、二人はその亀裂の中へと姿を消した。
そしてその亀裂は役目を果たしたという風に、急速に小さくなっていく。
二人を追いかけようと、私は背中の翼を全力で羽ばたかせて、その亀裂へと向かう。
自己最速で飛んで行き、亀裂が目前まで迫った時に手をおもいっきり伸ばす。
だけど――一歩遅かった。
私の手は、亀裂が完全に塞がれた空間を通り抜けるだけだった。
私はそのまま、勢い余って玉座にぶつかる。
だけど今の私には身体的な痛みよりも、精神的な痛みの方が酷かった。
「アリシアさぁぁぁん!! アレンさぁぁぁん!!」
虚空へと消えた二人の名前を叫び、私は慟哭した―――。
◇◇◇◇◇
「―――シア……。―――アリシア……。―――目を開けてくれ、アリシア!」
とても愛しく、そして頼り甲斐のある声に導かれるようにして、わたしはゆっくりと目を開ける。
すると、心配そうな眼差しでわたしの顔を覗き込んでくるアレンの顔が目に入った。
わたしは上体を起こして、彼の名前を口にする。
「アレン……?」
「アリシア……。無事でよかった……」
アレンはそう言うと優しく、だけど力強くわたしを抱き締める。
わたしも身を委ねるように、彼の身体を抱き締め返す。
しばらくしてから抱擁を解いて、アレンに尋ねる。
「ねぇ、アレン。わたし達は今どこにいるの?」
「…………実際に目にした方が早いか。アリシア、僕についてきて」
アレンはそう言って立ち上がり、わたしの手を引いてわたしも立ち上がらせる。
そして彼に手を引かれ、近くの崖の縁までやって来る。
眼下に広がっていたのは海――だけど、正確には違う。
その海は分厚い雲で覆われた、所謂雲海だった。
「アリシア、上も見て」
「上……?」
彼の言葉に導かれるように、わたしは視線を上へと向ける。
そして――言葉を失った。
―――空に、島が浮かんでいた。
夢でも見てるんじゃないかと思って、ほっぺたをつねってみる。痛かった。
そしてその痛みが、「これは現実だ」ということを突きつけてくる。
目を疑うような光景だけど、わたしの脳裏にはある言葉が浮かんでいた。
その言葉は、いろんな創作小説や娯楽小説に出てくる、非現実的なモノだった。
だけどその言葉を信じてしまうほど、目の前の光景は現実離れしていた。
つまり、わたしとアレンは……。
……『異世界』に、来ていた―――。
次回から新章開幕です!
果たしてアリシアとアレンは元の世界に帰れるのか?
そして逃げた偽りの魔王との決着は!?
どうぞお楽しみに!
(次回更新は1〜2週間後を予定しています)
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