第46話 勇者VS魔王
前回のあらすじ
心を写す部屋に入った
アリュシーザが完全に姿を現すのと同時に、部屋の風景も変化していた。
薄暗い室内から、木々が鬱蒼と生い茂る森の中へと様変わりしていた。
それにこの森には見覚えがあった。
そう、ここは――魔王が勇者に討たれた森だった。
それにしても……。
わたしが強者だと思っていた相手が、わたしの前世だったとは……。
無意識の内に、自分が一番強いと思っていたのかな?
わたしは忖度抜きで、アレンが一番強いと思っていたんだけど……。
そんなことを考えていると、アリュシーザ―の形をした霧の集合体―が動いた。
彼女はいきなり、《ボルテクスバースト》を放ってきた。
「!? 《ボルテクスバースト》!!」
わたしも慌てて同じ魔法を放つけど、咄嗟に放った分威力は普段よりも落ちていた。
だけどなんとか相殺させることは出来た。
二つの雷撃が消え去った後、アリュシーザは人型から九つの尾を持つキツネへと姿を変えた。
魔族だけが有する特殊能力である魔獣化だった。
キツネの姿に変化しているけど、獣人族ではない。
アリュシーザは、妖族と呼ばれる魔族だった。
それにあのキツネの姿は、所謂先祖帰りだった。
というのも、ブロッサム家の始祖の母親……つまり『原初の魔王』の妻の一人が、キツネのような姿を持つ妖族だったからだ。
閑話休題。
アリュシーザは九本ある内の八つのシッポを輝かせて、全属性の初級魔法を放ってくる。
その魔法、《マルチショット》を、わたしは《ギガサンダー》で迎撃する。
その隙に鞘から剣を引き抜いて、魔法を迎撃し終わるのと同時にアリュシーザに斬りかかる。
「はあああっ!」
気迫の籠った掛け声と共に、剣を上段から振り下ろす。
けれどその斬戟を、アリュシーザは軽い身のこなしで空中へと避ける。
そして再び人型の姿になると、懐から幾何学模様が描かれたお札を取り出す。
わたしはアレが何なのか知っている。そしてその用途も……。
彼女はそのお札に魔力を通すと、ソレをわたし目掛けて投げつけてくる。
けれどお札はわたしに届く前に空中でピタリと止まり――そして巨大化する。
巨大化したお札は形を歪め、瞬き程度の時間でその形を変化させていた。
お札は剣の形を模していた。大きさは……わたしの持っている剣くらいか。
するとその紙の剣は、わたし目掛けて飛んできた。
ソレを文字通り紙一重でかわすと、その剣はわたしの後ろにあった木に突き刺さる……ばかりか、木の幹に風穴を空けて貫通していた。
とても紙で出来ているとは思えないほどの威力だけど、あの魔法ならそれすら可能だ。
あの紙の剣の正体は、妖族の固有魔法である妖術魔法、その中にある《付喪紙》と呼ばれる魔法だった。
その魔法はお札を武器の形に変化させて、ソレで相手を攻撃する。
そしてこの魔法が術者にとって便利、相手にとって厄介なところは、この魔法がかかったお札は自律行動するという点だった。
だからわたし―もちろんアリュシーザの方―は、この魔法を好んで使っていた。むしろ得意だったと言っても過言ではない。
その点は、偽者(?)のアリュシーザも踏襲しているらしい。
木を貫通した紙の剣が、再びわたしに襲い掛かってくる。
一瞬だけアリュシーザの方に目を向けると、彼女は地面に着地していた。
けれども、わたしに攻撃を仕掛けてくる様子はない。
「くっ……! 《メガファイア》!」
視線を正面に戻し、わたしはダメ元で火属性中級魔法を紙の剣に向かって放つ。
それで燃え尽きてくれれば苦労しないけど、現実はそんなに甘くない。
《付喪紙》の掛かったお札は、魔法耐性が飛躍的に向上する。
だから、本来は紙を燃やせるハズの火属性の魔法を受けても、燃え尽きることは基本的にない。
……火属性超級魔法なら話は変わってくるだろうけど、残念ながらわたしにその魔法は使えない。
無い物ねだりをしても仕方ないので、今のわたしで出来ることをする。
わたし目掛けて飛んでくる紙の剣を再びかわし、射線上にいたアリュシーザに向かって飛んで行く。
……《付喪紙》には安全装置があるから、アリュシーザに傷は付かないだろうなぁ……。
わたしの予想は的中して、紙の剣は彼女の目の前でピタリと止まった。
そしてくるくると回転し、剣先をわたしの方に向けながら彼女の後ろに浮遊する。
アリュシーザは懐から複数枚のお札を取り出すと、それらにも《付喪紙》を掛ける。
彼女が《付喪紙》を掛けたお札の数は最初のも含め、合計十二枚だった。
それらは全て剣の形を模している。
……一本だけでも厄介なのに、ソレが十二本とか……。
我ながら、厄介極まりない魔法を得意としていたモノだ。
コレを真正面から何度も相手取っていたアレクには、敬意を表さざるを得ない。
無事にこの試練を終えたら、アレンの言うことを何でも一つ聞いてあげよう。そうしよう。
そんなくだらない(?)ことを考えていると、十二本の紙の剣が一斉に襲い掛かってきた。
けれどやはり、アリュシーザ自身は攻撃を仕掛けて来ない。
その理由を考える暇など与えないとでも言うように、紙の剣はわたし目掛けて飛んでくる。
致命傷になりそうなモノは剣で軌道を逸らし、そうでないモノは攻性魔法をぶつけて足止めする。
けれど徐々に押されてきて、迎撃が追い付かなくなってくる。
その証拠に、軌道を逸らし損ねた剣が乙女の柔肌を抉って行く。
かすり傷程度のダメージだけど、その傷の数がだんだんと増えていく。
「くっ……!?」
はっきり言って、わたしは追い詰められていた。
けれどこの状況を打破する手立ては……ないこともない。
だけどその手段は、博打のようなモノだった。
わたし自身、ソレを試したことは一度もなかった。
前世は種族的な問題で出来ず、今世はその存在をすっかり忘れていたからだ。
けれど竜人の里でソレが記載されていた本を読んだ時に、ソレの存在を思い出した。
ソレが使えていれば、偽りの魔王にモミジとエミリが連れ去られることはなかったかもしれない。
だけど過去を悔やんでいても、現在を変えることなど出来ない。
ならば―――。
「《ボルテクスバースト》!」
わたしはソレを発動させる隙を作るために、雷属性超級魔法を放つ。
いつもは直線状に放つけど、今回は放射状に放った。
いくら《付喪紙》で魔法耐性が上がったと言っても、超級魔法が相手では分が悪い。
雷撃を受けて紙の剣が空中で止まっている隙に、わたしはソレを発動させる。
ソレは元々、『原初の魔王』と『最後の魔王』にしか使えない魔法だった。
だけど『原初の魔王』は、後世の人々のためにその魔法の存在を密かに書き記し、遺していた。
その魔法を発動させるにはいくつか条件があって、まず一つ目は、超級魔法を連発出来るほどの魔力を有していることだった。
これは、その魔法が超級魔法並みの魔力消費量を誇るからのようだ。
二つ目が、魔族以外の種族であることだった。
この条件があったから、前世の時は使うことが叶わなかった。
そして最後の条件が――自分と最も深い関わりのある魔族を思い浮かべることだった。
この条件が一番重要で、この魔法の成否はコレが出来るかどうかと言っても過言ではないらしい。
それと面白いことに、この条件の副次的な効果として、この魔法を発動している間はその魔族の固有魔法を使えるようになる。
奇しくもわたしは、この三つの条件を満たしている。
そして一番重要な三つ目の条件も、今わたしの目の前にいる。
後はその魔法を発動させるだけだ。
その魔法は『魔獣化』と同じく、特に詠唱の類いはない。
ただ、イメージすればいい。
そしてわたしはその魔法――『擬似魔獣化』を発動させる。
最初に感じたのは、身体の芯が熱くなる感覚だった。
その感覚はすぐに身体全体へと広がって行き、ある二ヶ所にその熱は集中していく。
最初の違和感は、頭だった。
見ることは出来ないけど、感覚で獣耳が生えているのが分かる。
そして尾てい骨の辺りからも違和感があった。
こっちも感覚だけだけど、九本のシッポが生えている。
わたしの見た目は、色は違うけどアリュシーザと同じような姿になっていた。
そしてその状態でしか使えない妖術魔法を発動させる。
この魔法は唯一、お札を媒介にしない魔法だった。
「《花鳥風月》!!」
この魔法は、相手の魔法をそっくりそのまま一寸の狂いもなくコピーするという、反則染みた魔法だった。
わたしの周りに十二本の紙の剣が出現し、それらはアリュシーザが出現させた剣へと向かって行く。
剣同士はぶつかり合い、そして互いに消滅し合った。
立て続けに魔力を激しく消費する魔法を発動して満身創痍だけど、わたしは最後の力を振り絞る。
「はあああっ!!」
自分の身体に鞭を打つつもりで、掛け声を上げる。
そしてアリュシーザに最短最速で接近して、袈裟斬りにする。
彼女は何の防御行動も取らず、わたしの剣を受け入れた。
それは奇しくも、アレクに討たれた時と似ていた。
彼女の顔に目を向けると、その顔には笑みが零れていた。
「―――アレンと、ずっと仲良くね……」
アリュシーザはそう言い遺すと、その身体が崩れ去り空気に融けていった。
それと同時に辺りの風景も、森の中から薄暗い部屋の中へと戻った。
「……分かってるわよ、アリュシーザ。貴女が幸せになれなかった分、わたしは幸せになるから……」
そう呟き、剣を納める。
この試練を無事に終えることが出来た。
擬似魔獣化という新しい力と、前世からの祝福を伴って―――。
『擬似魔獣化』という新しい力を手に入れた勇者。
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。




