第41話 勧誘
前回のあらすじ
魔法学院に入学した
わたし達の自己紹介とホームルームが終わり、そのまま一時限目の授業が始まった。
一時限目は、マリーベルさんの担当教科の座学のようだ。
わたし達の席は、一番後ろの窓際の席だった。
三人掛けの長机に窓際からフレイル、わたし、アレンの順で席に座る。
そしてわたしは魔法袋からペンとノートを取り出して、真面目に授業を受けた―――。
◇◇◇◇◇
一時限目の終わりを告げるチャイムが鳴り、マリーベルさんが教室から出ていく。
するとそれを見計らっていたかのように、クラスメイト達がわたし達の周りに集まってくる。
「なぁアンタら、どこから来たんだ?」
「得意な魔法って何?」
「あなた達はどんな関係?」
「ここに来る前は何をやってたんだ?」
矢継ぎ早に質問が飛んで来て、わたしだけでなくアレンとフレイルも困った表情を浮かべていた。
するとそんな人垣をかき分けるようにして、一人の女の子がやって来た。
彼女は金色の髪を縦ロールにしていて、いかにも高飛車なお嬢様という雰囲気を纏っていた。
彼女の背後には、取り巻きとおぼしき女の子が二人、彼女に付き従っている。
金髪縦ロールの女の子はわたし達の前に仁王立ちすると、年齢の割には豊満な胸を張りながら喋り始める。
「わたくしはフランシスカと言います。ライン家の令嬢と言えば、分かるでしょう?」
「いや、知らないです」
ホントに知らなかった。
この国の貴族の家の子らしいのは、立ち振舞いからなんとなく察せた。
けれども自分の故郷ならともかく、異国の貴族の家名なんて知るハズもなかった。
わたしの答えに肩透かしを食らいながらも、彼女はズビシッ! とわたしを指差してくる。
「……まぁいいわ。貴女! わたくしの派閥に入りなさい!」
「え、嫌です」
素で拒否していた。
派閥争いとか、御免被りたい。
そんなこと、十中八九ロクなことになりはしない。
わたしの答えにしばらく固まっていたけど、彼女―フランシスカは気を取り直してわたしに食い下がってくる。
「どうしてですか!?」
「だって派閥とか、どう考えてもメンドクサそうですもん」
「面倒臭いとは聞き捨てなりませんね! わたくしの派閥は勇者様を応援するという、崇高な使命があるのですよ!?」
「なら尚更遠慮しておきます」
……何が悲しくって、自分が勇者の応援をしなければいけないのか。
わたしの答えに納得していないフランシスカは、更に食い下がってくる。
「貴女には勇者様への憧れというものがないのですか!?」
「あ〜……微塵もないですね」
「きぃ〜〜〜!!」
フランシスカはヒステリックな悲鳴を上げる。
……「きぃ〜!」って言う人、初めて見た……。
そんな場違いなことを考えていると、隣に座るアレンが何故かフランシスカに質問していた。
「質問いいかな、フランシスカさん?」
「……なんでしょう? それとわたくしのことはフラン、とお呼びください」
「じゃあそうするね。フランはなんで、勇者に憧れているんだ?」
「そんなの当たり前です!」
そう言うとフランシスカ―フランは両手を組み、瞳をキラキラと輝かせる。
その様はさながら、恋する乙女のようだった。
「だって勇者様ですよ! 魔王を討伐するという使命を帯びた偉大なお方が、勇者様なんです! そんな人に憧れない乙女なんてこの世にいません! きっと容姿端麗で、白馬が似合うお方に違いありません!」
フランは饒舌に憧れの勇者様について語る。
……その憧れから遠く離れた実態の勇者が、目の前にいるわたしだって知ったらフランはどうなるんだろう?
そんなことを思っていると、アレンが視線をわたしに向けていた。
たぶん、わたしが勇者だということを言っていいか、視線だけで尋ねているのだろう。
フランの憧れを壊す気は全くないので、わたしはアレンに「言わないで」という視線を送る。
わたしの意図を理解したのか、彼は頷きフランに向き直る。
「その勇者って、ここにいるアリシアなんだけど」
「………………えっ???」
その言葉にフランだけでなく、わたし達の周りにいたクラスメイト達も固まってしまった。
……わたしの意図を理解してないじゃない!!
わたしがそう心の中で毒づいていると、やっと現実を認識し始めたフランがアレンに聞き返す。
「……えっ? 嘘、ですよね? 彼女があの、勇者様だなんて……」
「ホントだよ。アリシア、冒険者カード貸して」
「ん」
アレンにそう言われ、魔法袋からカードを取り出して彼に手渡す。
アレンはカードの裏面をフランに見せる。
「ほら。アリシアが勇者だ、って書かれてるでしょ?」
「……本当、です、ね」
フランはショックがとても大きかったのか、よろよろと後退り、近くにあった机に手をついて身体を支える。
そして彼女は覚束ない足取りで、教室のドアへと向かう。
「……わたくしは早退いたします。それでは皆さん、ごきげんよう……」
そう言ってフランは、教室から出ていってしまった。
「お待ちください!」
「フランシスカ様!」
フランの後を追うようにして、彼女の取り巻き達も教室を出ていってしまった。
するとチャイムが鳴り、わたし達の周りにいたクラスメイト達は慌てて自分の席へと戻る。
それを見ながら、アレンがわたしに冒険者カードを返してくる。
「はい。ありがとう、アリシア」
「……」
それをわたしは無言で受け取り、魔法袋にしまう。
わたしのただならぬ様子に気付いたようで、アレンは恐る恐る尋ねてくる。
「えっと……。アリシア、怒ってる……?」
「……ふん!」
返事の代わりに、アレンの左足をおもいっきり踏みつける。
……なにも、年頃の女の子の憧れを壊さなくったっていいじゃない!!
そんなことを思いながらわたしはぷりぷりと怒り、アレンは踏まれた左足を押さえながら悶え、フレイルはやれやれと溜め息を吐きながら首を横に振っていた。
そんなこんなで、二時限目の授業が始まった―――。
フランシスカ、強く生きて!
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