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第29話 ワケアリ旅館

前回のあらすじ

現地妻(偽)が現れた

 

 女の子はユハナと名乗り、わたし達と同い年のようだった。

 わたしとアレンも彼女に軽く自己紹介をした。


 ユハナについていく道すがら、彼女がわたし達に尋ねてくる。


「ホントのところ、お二人さんはどう言ったご関係で?」

「恋人同士だよ」

「同じパーティーのメンバーだよ」


 わたしとアレンで、答えが違っていた。


「ん?」

「え?」

「え〜っと、どっちがホントのこと?」


 ユハナが困惑しながら、聞き返してくる。

 わたしは苦笑しつつそれに答える。


「あはは……。どっちも本当のことだよ。わたしとアレンはパーティーを組んでいて、それで恋人同士なの」

「へ〜。いいね、そういう関係」

「ありがとう」


 そうお礼を言ったその時、ユハナがある建物……建物? の前で立ち止まった。

 その建物(?)を見てアレンと共に呆気に取られていると、彼女はわたし達の方を振り返る。


「ようこそ、ウチの家族が経営する旅館へ」


 ユハナはそう言うけど、その旅館の見た目はあまりにも、その……。


 言葉は悪いけど、ボロッボロだった。


 旅館の壁は薄汚く、ひびが入っている箇所さえあった。

 窓も割れている箇所があり、無事な所でさえも窓ガラスが曇っていた。

 そして一番重要な部分だと素人ながらに勝手に推測する、旅館の名前が書かれた看板でさえも、旅館名の部分が汚れていて上手く読み取ることが出来なかった。


 わたしとアレンが何も言えないで呆然と突っ立っていると、ユハナが恥ずかしそうに頬を染めながら続ける。


「えっと……見た目はこんなだけど、中は大丈夫だから。さ、入って入って」

「え……? いや、でも……」

「遠慮しないで、入った入った」


 わたしとアレンの後ろに回ったユハナが、ぐいぐいと背中を押してくる。

 仕方がないので、彼女に言われた通りオンボロ旅館に入る。


 すると彼女の言った通り、旅館の中は塵一つ落ちていないんじゃないかと言うくらい綺麗だった。

 宿泊客を最大限もてなそうという心意気が、内装から見て取れた。

 だけど旅館の見た目があんなだから、何とも言えない気持ちになる。


 とその時、旅館の奥の方からここの従業員らしき女性がやって来た。


「いらっしゃいませ、『旅館 シラユリ』へようこそ。私は当旅館の女将を務めさせていただいております、イオと申します」

「あ、はい。これはご丁寧にどうも」


 イオさんが深々と頭を下げてきたので、それにつられてわたしも頭を下げた。


「それで、本日はどのようなご用件で?」

「ウチが連れてきたの、お母さん」


 わたし達の変わりに、ユハナが答えた。

 どうやら、ユハナとイオさんは親子のようだ。


 するとイオさんは、ユハナの方に目を向ける。


「ユハナ、お帰り。……それで、なんで連れてきたの?」

「あの男に絡まれたところを助けてくれたの。それで、絡まれた理由を教えようと思って」

「そう……」


 イオさんは目を伏せる。


 ……なんだか、ワケアリのようだった。


 そう思っていると、イオさんは顔を上げてわたし達を見てくる。


「娘を助けていただいたお礼がしたいので、私についてきてください」


 イオさんの言葉に従い、わたし達は彼女の後をついて行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 この旅館で働く従業員用の休憩室で、わたしとアレンはイオさんと向かい合って座っていた。

 彼女の隣にはユハナが座っている。


「この度は、私の娘を助けていただきありがとうございます」

「いえ、それほどでも。……それで、ユハナに絡んでいたあの男性はいったい?」

「それは……」


 わたしが質問すると、イオさんは言いづらそうに目を逸らしていたけど、やがて決心したのか、わたしを真っ直ぐに見据える。


「……隠していても仕方ありませんね。我が旅館は数年前から経営難に陥っておりまして、あなた方が遭遇した男から莫大な借金を抱えているのです」

「……ちなみに、借金はどのくらい?」


 興味本意で聞いたわたしの質問に、イオさんに代わりユハナが答えてくれた。


 その金額を聞いて、わたしは卒倒しそうだった。

 それだけの金額があれば、豪邸が余裕で二つ……いや、三つも建てられる。


 すると何を思ったのか、アレンは自分の魔法袋をごそごそとし、何かを探し出した。

 わたしだけでなく、イオさんとユハナが怪訝そうな眼差しを彼に向けていると、彼は魔法袋から何かがギッシリ詰まった麻の袋を取り出した。


「どうぞ。これだけあれば、返せると思います」


 そう言いながら、アレンは麻の袋をテーブルの上に置く。

 その際、カチャンと小さな金属音が鳴った。


 それだけで袋の中身を察したイオさんが、両手を激しく振る。


「受け取れませんよ、こんな大金! しかも、見ず知らずの方からなんて!」

「いえ、気にしないでください。僕がしたいからしているだけです」

「でも、受け取れません」


 頑なに拒絶するイオさんに、アレンは優しく語りかける。


「僕はこの旅館が気に入りました。次この町に来た時にココが無くなっていたら、とても悲しいです。なのでこのお金は……そう、先行投資、ということで」

「……分かりました。このお金はありがたく受け取らせていただきます。このお金の返済は必ず」

「いえ、返済は結構です。その代わりと言っては何ですが……」

「何でしょう? 私達に出来ることであれば、何でも仰ってください」


 するとアレンは、イタズラが成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべながら、それを口にする。


「三日後に僕とアリシアはこの町を出発するのですが、それまでの間この旅館に泊めていただけませんか?」

「そういうことでしたら、喜んで」


 イオさんは笑みを浮かべながら、アレンの提案を受け入れた―――。






気前が良すぎないか、アレン?




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