第22話 決闘
前回のあらすじ
決闘を申し込まれた
先に動いたのはセリアさんだった。
彼女は目にも止まらぬ速さでわたしに接近すると、短剣を持った右手を繰り出してくる。
それをかろうじて防ぎ、反撃として剣を振り下ろすけど、空を斬っただけだった。
セリアさんは一瞬で離脱して、再びわたしに攻撃を仕掛ける。
それも防ぎ反撃するけど、またしても当たらなかった。
そしてまたセリアさんは攻撃を仕掛け、それをわたしは防ぐ。
そんな攻防が何度も続いた時、アレンが声を掛けてきた。
「あ、そういえば言ってなかったけど、アリシア。セリアはSランクに近いAランク冒険者だから、結構強いよ」
「それを早く言って!!」
セリアさんの攻撃を防ぎつつ、アレンにそう毒づく。
彼は悪びれもせずに、「いや〜、ごめん」と軽い調子で謝っていた。……まぁ、許すけど!
セリアさんがわたしに攻撃を仕掛けて、また離脱して距離を取ろうとしたその時、わたしは逆に距離を詰める。
そして下から剣を斬り上げるけど、セリアさんに避けられてしまった。
再び距離を詰めて攻撃を仕掛けようとした時、セリアさんが反撃してきた。
「《メガエアロ》!」
風属性中級魔法を放ってきて、わたしは耐属性魔法でそれを防ぐと同時に、足を止めてしまった。
その隙を見逃さなかったセリアさんが接近してくる。
「《アイス》!」
わたしは氷属性初級魔法を放った。
放ったけど、何も起きなかった。つまり不発だった……見かけ上は。
不発だと思ったセリアさんは勝利を確信して、口角を吊り上げる。
そしてセリアさんが短剣を繰り出そうと足を踏み込んだその時、カクンと彼女の体勢が崩れた。
セリアさんが体勢を崩した原因は―氷だった。
わたしが発動した魔法は不発だったのではなく、気付かれないように罠として設置していた。
攻性魔法の本来の用途とは違うけど、戦闘ではこんな使い方もしていた。
体勢が崩れたところを攻めることも出来たけど、わたしはセリアさんから距離を取って呼吸を整える。
この決闘、わたしは負けるつもりでいた。
セリアさんは気付いてないようだけど、彼女が勝った時の報酬には、致命的な『穴』があった。
それを指摘する気はさらさらないので、ずっと黙っていた。
それにその『穴』のおかげで、わたしは精神的に余裕があった。
だから開始早々、わざと攻撃を受けて負けるつもりでいた。
だけどすぐに決着がつくと、セリアさんの気が晴れないと思ってしばらく戦闘に付き合う気でいた。
それなのに、アレンからセリアさんの実力を伝えられて、予定を変更せざるを得なかった。
わたしは全力を出しつつ、ある程度は手を抜いていた。
体勢を立て直したセリアさんが、わたしに問いかけてくる。
「なんでさっき攻撃してこなかったの?」
「簡単に勝ってもつまらないですし?」
わたしはあえて煽るように言ってみる。
するとその効果はテキメンだったようで、セリアさんが怒りの表情を露にしながら攻撃を仕掛けてきた。
彼女の攻撃を捌きつつ、氷を張った部分まで気付かれないように移動する。
そして予定通り、わざと氷に足を取られて体勢を崩す。
体勢を崩し、尻餅をついたわたしの首筋に、セリアさんが短剣をあてがった。
彼女は勝ち誇った顔をしながら、わたしに言ってくる。
「私の勝ちのようね?」
「……ですね」
上辺だけの返事をすると、彼女は短剣を引いた。
「そこまで! 勝者、セリア!」
アレンがそう宣言をすると、観戦していた人達からワッと歓声が上がった―――。
◇◇◇◇◇
「さぁ、早速約束を果たしてもらいましょうか?」
セリアさんは未だに勝ち誇った顔をしながら、わたしとアレンに向かってそう言う。
わたしはアレンの方を見ると、静かに頷いた。……どうやら、彼も『穴』に気付いているようだ。
アレンはわたしの目を真っ直ぐに見つめる。
「アリシア、僕と別れて」
「……まぁ、そういう条件だったからね。はい、分かりました」
わたし達がちゃんと別れたのを確認したセリアさんが、アレンに近寄る。
「それじゃあ、アレン。私と―――」
「それでアリシア。キミに一目惚れして好きになりました。僕と付き合ってください」
「はい、喜んで」
「は、はあああ!?」
わたし達のやり取りを間近で見たセリアさんが、叫び声を上げる。
「ちょ、ちょっと! どういうこと!?」
「どういうことって……。アリシアと別れたから、アリシアに告白しただけだよ」
「なんでよ!?」
「……その様子だと、まだ気付いてないみたいだね」
アレンがそう言うと、セリアさんは首を傾げる。
そんな彼女に対して、アレンは懇切丁寧に解説する。
「まず最初に、セリアが勝ったらアリシアは僕と別れる。それは間違いないね?」
「ええ、そうよ」
「その時点で、こうなることはもう決まっていたも同然なんだ」
「なんでよ?」
「セリアはアリシアに『僕と別れろ』と言っただけで、『僕と付き合うな』とは一言も言っていない。アリシアもこれには気付いてた」
「あっ……!?」
セリアさんもやっと気付いたようだ。
「だから僕とアリシアは、また付き合うことにした」
「だけどそれは……」
「それにどっちみち、セリアはアリシアに負けてたよ」
「なんでよ? コイツは私に負けたじゃない」
「……こうなることを予想して、わざと負けたとしてもかい?」
……やっぱりアレンには見抜かれてた。
アレンの言葉に、セリアさんがわたしをまじまじと見つめてくる。
「こんなちんちくりんが、私より実力が上だって言いたいの?」
「そうだよ。今から証明して見せるよ」
そう言うや否や、アレンは突然両腰の鞘から剣を引き抜き、わたし達に攻撃してきた。
わたしも剣を引き抜き、アレンの斬戟を受け止める。
だけどセリアさんは反応出来ず、アレンの剣は彼女の喉元でピタリと止まっていた。
「これで分かっただろう? アリシアの実力が」
「う……、あ……」
「僕の本気の斬戟を防げる人なんて、三人もいない。つまりそれだけ、アリシアの実力が高いっていうこと。分かった?」
アレンがそう言うと、セリアさんはコクリと頷く。
それからアレンは剣を納めた。
「……私の負けでいいわ。それじゃあ……」
セリアさんはそう言うと、とぼとぼとわたし達の前から去って行った。
こうして、決闘と言う名の茶番は幕を閉じた―――。
セリアが不憫な気がしなくもない。
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