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レッドファイル  作者: タイシ


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レッドファイル七話

凍結された真実:レッドファイル密録

第一章:亡命の火種


深夜の羽田空港、降りしきる雨が滑走路を黒く光らせていた。プライベートジェットから降り立った一人の男、**劉慶リウ・チン**は、防寒コートの襟を立て、震える手で小さなUSBメモリを握りしめていた。


彼はかつての国家主席・劉少奇の血を引く男でありながら、党内部の凄惨な権力闘争に敗れ、一族の破滅を目の当たりにしてきた。彼が持ち出したのは、全党員9,000万人の実名、顔写真、そして海外資産の隠し口座を網羅した通称「レッドファイル」だ。


「……これを渡せば、私は自由になれるのか」


出迎えたのは、内閣情報調査室(内調)の志村誠治。無彩色のスーツに身を包み、感情を削ぎ落としたような眼差しを持つ男だ。


「自由ではなく、生存を保障する。今の君にはそれ以上の贅沢は望めない」


志村の背後には、警察庁外事課の佐久間正吾が控えていた。武骨な体格と鋭い洞察力を持つ佐久間は、周辺の動向に神経を尖らせていた。


「志村さん、北京が動いています。工作員グループ『長征』が国内に潜伏したとの情報が入った」

「分かっている。これより劉慶をセーフハウスへ移送する」


静かなる侵略の幕が、東京の闇で切って落とされた。


第二章:禁断の解析


翌日、赤坂の地下シェルター。志村と佐久間は、持ち込まれたファイルの一部をモニターに映し出した。


「信じられん……」佐久間が絶句した。

「日本の政財界に深く食い込んでいる協力者の実名まで載っている。これが公に出れば、北京の支配体制は瓦解する。だが同時に、日本国内もパニックに陥るぞ」


志村は冷静だった。彼はこのファイルを「究極の外交カード」として、首相官邸との調整に入った。しかし、その解析に関わった内調の若手官僚、高橋がその日の夜、自宅マンションのベランダから転落死した。


「事故じゃない。見せしめだ」

佐久間は現場に残り、高橋の遺体の指先に残された微かな紫色の変色を見逃さなかった。中国工作員による特殊な即効性毒物の痕跡だ。


第三章:警備局長の警告


「志村、この件からは手を引け」

警察庁警備局長の室田は、自室の書斎で志村に告げた。室田はレッドファイルの管理責任者でもあった。

「警察内部にも、あちら側と繋がっている人間がいる。これ以上踏み込めば、お前の命はない」


その数時間後、室田局長は「急性心不全」で急逝した。遺体からは、高橋と同じ毒物反応が検出された。ファイル自体は厳重に保管されていたが、暗殺は「我々はいつでもお前たちの喉元に刃を突き立てられる」という明確な警告だった。


佐久間は警察内部の徹底調査を志願したが、上層部によって差し止められた。

「誰が味方で、誰が敵か分からなくなってきたな」

佐久間は雨に濡れる警察庁の庁舎を見上げ、独りごちた。


第四章:血塗られた沈黙


事態を重く見た国家公安委員長が、情報の限定的な公開を閣議で提案しようとした矢先、悲劇は起きた。

平河町付近を走行中だった委員長の車が、爆発炎上。ガードレールを突き破り、炎に包まれた。


メディアは「車両の不具合による事故」と報じたが、志村は爆発の瞬間の監視カメラ映像を手に入れていた。そこには、遠隔操作のドローンが車に接触する一瞬が映っていた。


「日本の中枢が、あいつらに完全にハックされている」

志村の言葉に、佐久間は拳を握りしめた。


第五章:セーフハウスの崩壊


事態は最悪の局面を迎えた。劉慶を保護していたはずのセーフハウスが襲撃され、彼自身が姿を消したのだ。

「争った形跡がない。内通者が手引きしたんだ」

佐久間が現場の惨状を見て吐き捨てた。


劉慶は、万が一のためにファイルの「バックアップ」をどこかに隠したと言い残していた。内調の志村と外事の佐久間は、組織の垣根を越え、独断で劉の行方を追う。

一方、中国側からは「処刑人」と呼ばれる暗殺者、チェンが来日。ファイルに関わった官僚たちの「清掃」を開始した。


第六章:拷問の連鎖


一週間後、劉慶と共に逃走を図った内調の職員が、横浜埠頭の倉庫で無残な遺体となって発見された。爪は剥がされ、全身に執拗な拷問の跡があった。

「……ファイルの隠し場所を吐かされたか」


志村の元に、チェンから連絡が入る。

「残るは、最終的な隠し場所を知る唯一の生存者。君たちだ」


志村は、自身が「逆転の切り札」として用意していた、ファイルの暗号化キーを手に取った。

「佐久間、最後の賭けだ。これを見せ球にして、奴らを誘い出す」


第七章:東京潜伏戦


雨の新宿歌舞伎町。ネオンの光が水たまりに反射する中、志村と佐久間は、チェン率いる工作員グループとの隠密戦に突入した。

銃声はサプレッサーによって抑えられ、人混みの喧騒に紛れて命のやり取りが行われる。


「レッドファイルが公開されれば、日本経済は一晩で死ぬ。中国は全力で報復する」

無線越しに聞こえるチェンの冷徹な声。

日本政府上層部は、既に中国側と「ファイル返還」を条件とした和平交渉に入っていた。しかし、志村と佐久間にとって、それは殉職した仲間たちへの裏切りでしかなかった。


「政治家どもが国を売るなら、俺たちは地獄まで付き合うだけだ」

佐久間がサブマシンガンを火を噴かせ、チェンの側近を排除した。


第八章:凍結された真実


最終的に、ファイルは奪還された。だが、それは日の目を見ることはなかった。

深夜の首相官邸裏。志村と中国政府の密使が対峙した。

「ファイルは存在しなかった。そういうことでいいな」

「……ああ。劉慶の消息も、爆破された委員長の真相も、全てだ」


日中両政府の間で、破滅的な衝突を避けるための「密約」が交わされた。ファイルの内容は永久に封印され、関わった人間たちの記録も抹消された。


一ヶ月後。

冷たい雨が降る谷中霊園。佐久間は、名もなき墓石の前に立っていた。

「結局、何を守ったんだろうな、俺たちは」

背後に立った志村が、静かに答える。

「国家という名の幻想だ」


劉慶の消息は今も不明だ。一説には中国へ送還され処刑されたとも、東南アジアへ逃れたとも言われている。

志村は手の中にある古いライターを見つめた。その中には、誰にも知られていない「バックアップ」へのアクセスキーがまだ眠っている。


「いつか、真実が光を求める時が来るかもしれない」

二人は傘も差さず、雨に煙る東京の街へと消えていった。

そこには、昨日までと変わらぬ、嘘で塗り固められた平和が続いていた。


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