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レッドファイル  作者: タイシ


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レッドファイル四話

第4話:国家公安委員長の暗殺

永田町の夜は、底冷えのする重苦しい沈黙に包まれていた。


「日本は、もはや独立国家としての矜持を失いつつある」


国家公安委員長・大内輝政は、漆黒の公用車の後部座席で独りごちた。手元の革製鞄には、警察庁警備局から極秘裏に引き継いだ「レッドファイル」の写しが入っている。局長の不審死を経て、この「呪われた記録」は今、彼の手に委ねられていた。


中国共産党員全データ。それが公になれば、隣国の支配体制は根底から覆る。しかし、同時にそれは、日本国内に根を張る「赤い触手」をも白日の下に晒すことを意味していた。大河内は決意していた。明朝の緊急会見で、このファイルの一部を公開し、国民に警鐘を鳴らすことを。


「先生、間もなく首都高速に入ります。警備車両との距離、異常ありません」


運転手の声に、大内は短く頷いた。だが、その直後だった。


猛火の咆哮


銀座の入り口付近、防音壁に囲まれた緩やかなカーブで、異変は起きた。

大河内の乗るセンチュリーの背後にいたはずの警護車両(SP車)が、突如として車線を変更した大型トラックによって強引に遮断されたのだ。


「なんだ、あのトラックは!」


運転手が叫ぶ。次の瞬間、高架下の暗闇から、無灯火のスポーツバイクが二台、猛スピードでセンチュリーの側面に並びかけた。ヘルメットのシールド越しに、冷徹な視線が大内を射抜く。


「伏せろ!」


大内が叫ぶより早く、バイクの男が後部座席の窓に、吸盤状の小さな黒い物体を貼り付けた。

粘着性のC4爆薬。


ドォォォォォン!!


凄まじい衝撃波が車内を駆け抜けた。強化ガラスが粉々に砕け散り、爆発の指向性は車体の内部へと向かう。センチュリーは木の葉のように舞い上がり、中央分離帯を乗り越えて対向車線へ。火だるまとなった鉄塊がアスファルトを削り、火花と悲鳴を撒き散らしながら横転した。


遅れて駆けつけたSPたちが目にしたのは、夜空を焦がす紅蓮の炎と、骨組みだけになった公用車の無惨な姿だった。大内輝政は、その中で炭化し、非業の最期を遂げた。


隠蔽の力学


翌朝、日本中のテレビ画面に「国家公安委員長、事故死」のテロップが躍った。


「警察当局は、車両の整備不良、あるいはガソリンタンクの引火による事故と見て慎重に捜査を進めています。テロの可能性については、現段階では否定されています」


ニュースキャスターの事務的な声が、官邸地下にある「危機管理センター」のモニターに響く。

公安部外事課の捜査官、高城たかぎは、その放送を苦々しい表情で見つめていた。


「事故なわけがあるか。現場には軍用爆薬の成分が検出されているんだぞ」


高城がデスクを叩く。しかし、上司の参事官は視線を合わせようともせず、冷淡に答えた。


「上の判断だ、高城。これは『事故』でなければならない。もしこれが中国による暗殺だと公式に認めれば、日中関係は完全に断絶する。それだけじゃない、国内に潜む協力者たちがパニックを起こし、経済も治安も崩壊するぞ」


「だから隠蔽するんですか? 警備局長に続き、大臣まで消されたんですよ!」


「レッドファイルがどこにあるか、それがすべてだ」


参事官は声を潜めた。大内の車内から回収された鞄の中身は、すべて灰になっていたという。だが、高城は知っていた。あの日、大河内はファイルの「原本」ではなく、特定のリストを抽出した「複製」を持ち歩いていたはずだ。


原本はどこへ消えたのか。


侵食される日常


疑心暗鬼の毒は、すでに日本の中枢を侵していた。

高城が捜査を進める中で突き当たったのは、驚愕の事実だった。


「劉の甥」を日本へ引き込んだはずのルート、警備局長の死を「心不全」と処理した検視官、そして大内の車列を分断したトラックの運転手。彼らの背後を洗うたびに、不可解な「圧力」がかかり、証拠は砂のように消えていく。


さらに、警察内部の通信傍受記録から、ある事実が浮上した。

大河内の移動ルートをリアルタイムで「外部」に漏らしていたのは、警察庁内部の端末だった。


「味方の中に、奴らがいる……」


高城は背筋に冷たいものを感じた。

かつては「静かなる侵略」と呼ばれた工作活動は、今や「公然たる処刑」へとフェーズを変えていた。レッドファイルに名前を連ねているのは、何も中国共産党員だけではない。その「協力者リスト」には、日本の政治家、官僚、メディア幹部、そして警察上層部の名も含まれているのではないか。


その疑念は、捜査員たちの結束を内側から引き裂いた。隣に座る同僚が、もしかしたら「向こう側」の人間かもしれない。交わす言葉一つひとつに裏の意味を探り、誰もが沈黙を選ぶようになった。


第五話への序章:深淵からの呼び声


深夜、高城のスマートフォンに一通の暗号化されたメールが届く。

差出人は不明。本文には、地図の座標と短い一言だけが記されていた。


『ファイルは死んでいない。新宿の地下で、真実が待っている。』


それは罠か、それとも最後の希望か。

大河内が命を賭して守ろうとした「切り札」は、まだこの国のどこかで脈打っている。

しかし、その封印を解くことは、日本の形を永遠に変えてしまう禁忌の扉を開くことに他ならなかった。


街の監視カメラが、無機質なレンズで高城を追う。そのレンズの向こう側で、北京の冷徹な意志が嘲笑っているかのように

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