95.ナルシスト魔法って一体?
考えろ、私!
何かイイ方法があるはずだよ!
とは言っても、今、私に残された魔法は、
『こんな魔法って、何の意味があるんだろう?』
って自分でも思っていたレベルのヤツしか無いんだよね。
もはや、詰んだも同然って気がする。
でも、何もしないで終わるより、ムダと思えても足掻いてダメな方が、まだマシか。
だったら、一つ試してやる。
「超高速稼働!」
私は、再び超音速での助走(?)から空高くジャンプし、黒いバケモノの背中に乗った。
そして、今までバカらしくて放ったことの無かったエロ系魔法の一つを最大出力で、このバケモノ目掛けて撃ち放った。
「変身ナルシスト魔法!」
取扱説明書:アキ-108号は、女性にナルシスト的要素を植え付けることが出来ます。これにより、女性にはボディラインが浮き出るラバースーツとか、肌の露出が極めて多い超ビキニを着る勇気が与えられ、実際に女性が、それらを着用することで、男性達の目の保養を促します。
取扱説明書:アキ-108号の行為は、基本的に男性が喜べるかどうかが判断ポイントになります。
今まで、こんな魔法の何処に意味があるんだろうって思っていたけど、今は、こんなアホな魔法に賭けるしかない。
ナルシスト的要素が芽生えたら、いくら何でも黒く醜いバケモノの状態でいることを拒否し出すだろう。
それが狙いだ。
思った通り、次の瞬間、黒いバケモノの身体は、一気に収縮して行った。
そして、十秒もしないうちに、一人の女性へと姿を変えた。
この女、たしかに、前世で宇井と一緒にいるのを何回か見たことがあるな。
それにしても、ユキのヤツは、よく覚えていたよ。
この小松照代のこと。
ユキに言われていなかったら、多分、私は、この姿を見ても思い出せなかったんじゃないかって思う。
ただ、上空で元の姿に戻ったからね。
私も照代も地面に向けて急降下し始めた。
このままでは地面にぶつかってペシャンコだよ!
なので、
「出ろ!」
私は尋常じゃない数のソープマットを魔法で出した。
しかも、膨らませた状態でね。
Hに使う道具なら、私は魔法でいくらでも出せるんだ。
ただ、いくら大量のソープマットが積み重なった上に落ちても、怪我は免れないな。
打ち所が悪ければ、照代は死んじゃうかも?
私は死なないけど。
でも、落下する私達をレッドドラゴンが空中でキャッチしてくれた。
そして、そのままゆっくりと地上へと運んでくれたよ。
ありがとう、ミチルさん!
一先ず、私も照代も無事だ。
でも、町は一部、照代によって破壊された。
同時に私の日常もね。
照代も、ある意味、被害者なんだろうけど、でも、一応、文句は言ってやる。
でも、その前に、
「ディスペル!」
一応、ナルシスト魔法は解除しておいた。
ナルシストも度が過ぎると生活に支障が出るからね。
「アナタが小松照代さんね」
「どうして私の名前を?」
「アナタの彼氏、宇井武司さんの大学時代の友人で、槍田一朗ってのがいたでしょ?」
「えっ? あっ! はい。何回か会ったことがあります」
「私は、槍田一朗の元カノでね」
「えっ?」
「アナタにも前世では会っているんだよ。私の前世での名前は篠原亜紀」
「えぇっ?」
「覚えてないかも知れないけど」
「覚えています。でも、全然、姿が違っていて、凄く綺麗になりましたね」
「あ……ありがとう。ただ、言いたいことは、それじゃなくて、私が住んでいる、この町を破壊したでしょ?」
「ああ……」
照代が、私から目を逸らしたかと思うと、俯いて涙を流し始めた。
自分の犯した罪の大きさを認識したようだ。
「ゴメンなさい」
「ビナタに来る前にも、いくつかの町で同じことをやったんじゃない? あれじゃ、人も死んだだろうね」
「ゴメンなさい。私、完全に自我を失って……」
「それも、宇井さんにフラれたから?」
「良く分からないんです。たしかに武司から、マリカって女の元から離れられないって言われたけど、そうしたら、急に心のコントロールができなくなって……」
多分、それでスイッチが入るようにラフレシアに設定されていたんだろうね。
なので、多分、照代も被害者なんだろう。
でも、だからと言って、町を破壊し、住人達を殺した罪は消えない。
せめてビナタの町に、コイツが来なければって思ってしまうよ。
他の町の人達には悪いけど。
「大学で私と同じサークルにいた女性で、根岸由紀ってのがいたけど」
「根岸さんですね。覚えています」
「実は、ユキも、この世界に召喚されているのよ」
「そうなんですか?」
「ええ」
ただ、これだけ大変なことになっているのに、ユキは、全然姿を現さないな。
やっぱり、働かない女って言われているだけのことはあるよ。
それとも、商業ギルドの仕事が偶々入っていて来られないだけなのかな?
まあ、後で会ったら聞いてみよう。
「実はね。ユキは召喚主から色々聞いていてね。それによると、宇井さんは誰かに召喚されてこの世界に来たんじゃなくて、偶然、時空の狭間に足を踏み入れちゃって、こっちの世界に飛ばされたんだって」
「そうだったんですか?」
「ええ。だから、召喚者特典の魔法とか、言語に不自由しない能力とかを与えられていなかったらしいの。だから、言葉が通じなくて大変だったみたい」
「アキさんは、武司とは直接、話をしていないんですか?」
「一回だけ見たことがあるけど、私は姿が変わっちゃったし、混乱させるとイケナイから話しかけたこともない」
「そうですか」
本当は、元彼を連想させる存在に近付きたくなかったってのが、一番の理由だけど、別に言う必要は無いよね?
それにマリカが囲っている男性に声をかけると、マリカが発狂するだろうし。
まあ、ムリに全部話す必要は無いか。
「ただ、これだけは言っておきたくてね。マリカ教の教祖マリカは日本からの転生者でね。日本語も理解できる。宇井さんは、言葉も分からず辛い状態だったところ、マリカに出会って救われたの」
「そんなこと、全然、武司は言っていなかったけど……」
「言い訳みたいなことをしたくなかったんじゃないかな? あと、ここからは私の憶測になるけど、その恩義がある以上、どんなことがあっても宇井さんは、絶対にマリカの傍を離れようとはしなかったんじゃないかなって気がする」
それでも照代の立場からすれば、照代を選んで欲しかっただろうけどね。
婚約していたわけだし。
でも、宇井は、マリカの超高HPを年がら年中受けまくっていたから、今更、照代に再会したところで何も感じなかったんじゃないかって気がするけど……。
あと、マリカが私の中学校時代の同級生だったってことは隠したよ。
一歩間違うと、私とマリカがグルになっているんじゃないかって勝手に勘違いされても困るし、それに、これこそムリに言う必要のない内容だと思ったから。
丁度この時だった。
突然、照代の身体が宙に浮いた。
本人の意思とは完全に無関係だったみたいで、照代自身も驚いた顔をしていた。
そして、一気に地上百メートルくらいのところまで急上昇したかと思うと、今度は、空一面に真っ黒な雲が立ち込めて来た。
お陰で、辺り一帯が日中なのに薄暗くなったよ。
これって、マジで沼尾とかカナコの時とパターンが似ている。
ただ、そう私が思った直後のことだ。
空に閃光が走り、照代は、その直撃を受けた。
雷に打たれたんだ。
これによって、照代の身体は消滅。
この世界から消えてしまった。
死んだのか、それとも地球に戻されたのかは分からないけどね。
「ラフレシア。いるんでしょ?」
私は、天に向かってそう叫んだ。
でも、ラフレシアからは何の返答も無かった。
やっぱり、ラフレシアが前に言っていた通り、私との直接対峙を避けているんだろう。
ただ、照代がビナタに来たのは、ラフレシアの意思だったのか、それとも偶然だったのかは分からない。
何となく、前者のような気がするんだけどね。
ふと周りを見渡すと、既にレッドドラゴンの姿は無くなっていた。
さすがに、あの姿のまま町の人達と会うわけには行かないからね。ミチルさんも、さっさと逃げたってところだろう。
でも、これから町の再建か。
私も何か、手伝わないとイケナイね。
力仕事は出来ないけど、こんな私でも何か役に立てることがあるよ、きっと。
エロ系統以外で。
そんなことを考えていると、
「アキ」
マリカが背後から私に話しかけてきた。
「マリカ。何とか、あのバケモノを倒せたよ」
「そうだね。ただ、最後はラフレシアに消滅させられたみたいだったけど?」
「まあ……ね。でも、一先ず、これでマイ達の仇は取れたかな?」
「勿論……。ありがとう」
「それと、マリカ教の信者達は、まだ残っているんでしょ?」
「随分減ったけどね。でも、絶対にマリカ聖教国を再建するからね」
「ただ、ビナタの町までは勧誘に来ないでね」
「勧誘しなくても、来ちゃったらしょうがないでしょ?」
「私が行かせないから。でも、マイがいなくなっちゃうと、対外的なこととか大変なんじゃない?」
「そうなんだよね。なので、新しい人をラフレシアにお願いすることにする。あんなバケモノが送り込まれたせいで、マイも多くの信者も犠牲になったわけだからね。責任とれって言ってやる」
「そうだね」
「じゃあ、私はこれで」
そう言うと、マリカは連続転移でランゲルハンス島へと帰って行った。
ただ、マリカとしては、照代をマジで一発殴りたかっただろうな。
きっと、今日は『追悼』と言いつつ、これから生き残った信者達とヤリまくって、イヤなことを忘れようって考えているんじゃないかな?
一方の私は、一先ず自分の店に戻ったんだけど……。
そうしたら店の前では、ヴァナディスが大粒の涙を流していた。
「ヴァナディス。ただいま」
「もう。あんなバケモノ相手に戦いを挑むなんて自殺行為でしょ! アキが死んじゃったらどうするのよ?」
「ゴメン。でも、私は壊れないから」
「そんなの分からないじゃない。本当に心配したんだから」
そう言うと、ヴァナディスは私のことを思い切り抱き締めてきた。
呼吸ができなくなるくらい強く。
って言っても、私は美少女フィギュアだから呼吸は不要なんだけどね。
それはさておき。
今まで、色々な敵と戦ってきたけど、今回は相手がバカデカかったし、それで今まで以上に心配してくれたんだろうな。
多分、ヴァナディスは私が人形じゃなくて人間って認識しているんだろう。
勿論、彼女は、私が人間じゃないことを知っている。
その上で、私を人間として愛してくれているんだ。
ヴァナディスには感謝しているよ。
でも、私が戦わないって選択肢は……、多分無いんだろうな。
私の生活圏内にラフレシアからの刺客が勝手に飛び込んでくる以上はね。




