35.本物の三人目がいるのは、この星の反対側?
昼の三時頃。
店に一人の女性客が来た。
彼女は、この街の住人ではない。この世界に私が転生して以来、初めて見る顔だ。
ヴァナディスほどじゃないけど、結構な美人。
今のパラスレベルかな?
客を含め、付近の男性達の視線の一部が、その女性に注がれた。
飽くまでも男性の視線の一部ね!
この店には、ヴァナディスもパラスも、それに等身大の可動式超美少女フィギュアの私もいるからねぇ。
新参者の美女一人が来客してきた程度じゃ、この辺の男性達の視線の行き先は、ほとんど変わらないんだよ!(多分)
女性客の嫌悪の視線は一斉に注がれるけどね。
最近、ヴァナディスの顔を毎日見ているせいか、美的感覚が狂っているなぁ。
ヴァナディスが基準ってわけじゃないけど、でも、少なくともパラスのレベルが普通になっている気がするよ。
つまり、世の中の女性のほとんどが標準未満に感じてしまう。
勿論、私は基準を遥かに超えた超美人だけどね!
それ故だろうね。最近は鏡に映る自分の顔に飽きてきたよ。
だって、美人は三日で飽きるって言うじゃない?
ただ、この女の顔、どこかで見た記憶が……。
「いらっしゃいませ。お客さん、このお店は初めて?」
「なんか、イカガワシイ店のセリフみたいだねー」
「別にそういう店ではないんですが……」
「アナタがアキー?」
「はい。そうですけど。どこかでお会いしました?」
「初めて会ったのは、もう七年前になると思うけどー?」
「えっ?」
ちょっと待て。
私がこっちに来て二年半。
二年半前に私が死んだ日、地球ではクリスマスイブだった。
そのさらに四年半前ってことは、大学一年の前期?
思い出した。
こいつ、自分が美人で男が言い寄ってくるのをイイことに、なんでもかんでも男にやらせて、男に色々貢がせていたヤツだ。
レポートは男性に書かせ、
辞書持ち込み可の語学のテスト用に、辞書に挟んでおく用のカンペも男性に作らせ、
ノート持ち込み可のテスト用に、男性に綺麗なノートを作らせ、
エトセトラ、エトセトラ……。
男性に、ちゃっかり高額なモノをねだって、その結果、破産させられた男性は多数。
そんな感じでノウノウと生きていた女。
ちょっと天然っぽいけど、それが素なのか計算なのかは不明。
まさか、こいつも、この世界に転移してきたの?
って、もしかして、こいつがラフレシアの手によってこの世界に転移して来た輩か?
「いつこっちに?」
「転移して、もう三年になるかなー?」
「えっ?」
「就職して一年目の梅雨の時期にねー。いきなりこっちに飛ばされたのよー。いきなり冬になっていたからびっくりしたー」
驚くのは、そこかい!
普通、もっと別のところに驚くだろ!
異世界転移なんだからさ!
あっ! でも、最初に驚くのは風景が違うことか。
じゃあ、仕方ないね。
「じゃあ、私よりも半年前に来ていたんだ」
「そう言うことになるねー。アキが半年遅れでこっちに来たことは、私を転移した大天使セクロピアから聞いていたけどー」
「そうなんだ」
「まあ、本来なら私が転移者として戦わなくちゃいけなかったんだろうけどー、私が拒否しちゃったからー」
「拒否出来たんだ?」
「強引にねー。だって面倒はイヤだしー。それで、アキにお鉢が回っちゃったみたいだけどねー」
そうだったのか。
結局、こいつは自分じゃ何もできないし動かないからね。頼まれたって戦おうなんて展開にはならないだろうね。
言ってみれば、私が等身大フィギュアに転生した原因の一つは、間違いなくコイツだったってことだろう。
コイツの代わりに働く人材確保のためだ。
しかも、ラヤや沼尾を相手に戦える仕様でね。
でも、まあ、転生者として呼ばれなければ、まだ私は、あのビルの屋上から飛び降り自殺をひたすら繰り返す無限ループから抜け出せずにいたかも知れないけどさ。
それを考えると、この女には礼を言うべきか憎むべきか微妙なところだな。
「でも、アキは、こっちで大活躍ってセクロピアから聞いてるよー。性転換した中二病患者を倒したり、ナニが小さい魔王を倒したりって」
なんか、何気に言い方にトゲがあるな、コイツ。
正直、ラヤとか魔王のことを馬鹿にしていないか?
そりゃあ、どっちもイイヤツだとは私も思っていないよ。
でも、本人達だって気にしていることなんだからさ。そう言うことは、敢えて口に出さないであげるべきなんだと思うけど?
まあ、地球にいた頃から、コイツはそうだったけどさ。
だけど美人だったから、男子が大多数、こいつを庇うんだよね。
それが当たり前みたいに思っていたところは多分あるよね、きっと。
「別に、どっちもトドメを刺したのは私じゃないから」
「謙遜しないでイイよー。セクロピアが、『自分のメンツを潰された!』って私に対して怒っていたくらいだからー」
まあ、その大天使も、コイツを選んだ時点で負け組確定だったんじゃないかな。
どう言った経緯でコイツを選んだかは知らないけどさ。
「それで今日、ここに来たのはアキに伝えなきゃならないことがあったからー」
「何かあったの?」
「セクロピアからの伝言だよー。昨夜、転移者がこの世界に入ったって」
「それは、レッドドラゴンから聞いたけど」
「レッドドラゴンに知り合いがいるんだー!」
さすがにミチルさんの存在までは知らされていないか。
逆に知っていたら、そっち経由で私に情報を流せばイイじゃんって言い出して、コイツは私のところに来なかったかも知れないけど。
「まあね」
「じゃあ、その転移者が二十代の女性ってことはー?」
「それは初めて聞く」
「そうなんだ。どうもね。変な性癖を持っているっぽいから気を付けてねー」
変な性癖って何?
まあ、私は性癖には寛容に作られているんだけど、敢えてそう言われるとちょっと気になるな。
取扱説明書:アキ-108号は性癖の多様性を守ります
「分かった」
「それから転移してきた場所はコルダタ連邦だってー」
「もしかして、この世界……って言うか、この星の反対側?」
「そうみたいだねー。そのハウトゥイニアって町に降りたらしいよー。名前はケイコ」
「ケイコって日本人?」
「多分ねー。じゃあ、情報提供代にメロンを一つ貰って行くねー」
「えっ?」
「じゃあねー」
その女は、高級メロンを両手に一つずつ手に取ると、代金を払わずに、そのまま転移魔法で消えてしまった。
えっ?
さっき、一つって言わなかった?
それじゃ二つだよ。
しかも、あの野郎……。私がOKしていないのに勝手に持って行きやがった。
はっきり言おう。
万引きしやがった!
でも、追いかけようにも、何処に転移したのか分からない。
ニオベがいれば追跡できたのにな。仕方ないや。今回は情報提供代ってことで勘弁してやるよ。
そう言えばアイツ、マジで名前は何て言ったっけ?
全然思い出せないや。
まあ、イイか。
ただ、情報提供料に味を占めて、コイツは今後も、私のところに来ることになるんだけどね。
この時、私は、そんな風になるなんて考えていなかったけど。
その日の夜、丁度、閉店間際にミチルさんが店に来た。
「念のため、パラスを迎えにと思ってね」
「そうですね。一応、彼女も関係者ですからね。それで、今日の午後に、私の大学の頃の同期だったって女が来たんですよ」
「もしかして、転移者?」
「ええと、私がこっちに来る半年前に転移していたって」
「もしかして、働かない女性って噂の娘かな?」
ミチルさんにはアイツの話が行っていたか。
天界側も、相手を選んで情報を流しているってことかな?
「知っていたんですか?」
「僕がこっちに転生した時にリニフローラ様から聞いたんだ」
「そうですか。その女性が言うには、今回の転移者は二十代女性。コルダタ連邦のハウトゥイニアって町に転移してきたそうです」
「コルダタか。遠いね」
「はい。名前はケイコ」
「日本人?」
「多分……」
「でも、どうして、その女性が知っていたんだろう?」
「その女を転移した大天使。ええと、セクロ……なんだっけ?」
マジでド忘れしたよ。
だって、『セクロ』ってきたら、その後に続く文字は、どう考えても『ス』しか思いつかなかったんだもん。
取扱説明書:アキ-108号は、聞いた単語と語呂が近いHな単語しか思い浮かばないことが多々あります。
そんな機能は不要なんだけど……。
でも、今回の場合は、普通の記憶力を持っていても結果は同じだったかもしれないけどね。さすがに。
「セクロピアじゃないかな?」
「そう、そうです。その大天使から聞いたって言っていました」
「なるほどね。セクロピアは、大天使ミルメコディアの部下だから、多分、追跡調査を命じられたんだろうね」
ミルメコディアって、覚えにくい名前だな。
誰がつけたんだ、そんな名前?
「それと、変な性癖を持っているっぽいから気を付けてって言っていました」
「まあ、ある意味、ラヤも沼尾もノーマルじゃなかったからね。そう言うのを選ぶのがラフレシアの趣味なのかな?」
「どうでしょう?」
でも、何て言うかな。
今までの傾向……、つまり、ラヤとか魔王を見る限り、分不相応に高い支配欲を持った人間を送り込んできたって気がするんだよね。
だから、今回も同様の可能性があるし、私は早いうちに芽を摘んどいた方が良いように思っていたんだ。
「で、ミチルさんに相談があって」
「何だい?」
「お店の方は当分、雑貨とお酒だけに変えて、ヴァナディスとパラスに任せて私はハウトゥイニア町まで討伐に行こうかと思うんですけど」
「それも一つの手だね。でも、転移者が必ずしも転移させた側の思惑通り動くとは限らないよ。大天使セクロピアが召還した働かない女性みたいにね」
「それは、そうですけど……」
でも、逆に積極的に動く可能性だってあるからね……って、それが普通だし!
当然だけど、警戒は必要だと思う。
「まあ、様子を見に行くくらいならイイと思うけどね」
「ミチルさんも一緒に来てもらうことって、できます?」
「一か月先なら。もっとも、それまでケイコが変な行動を起こしていなければの話だけどね」
「じゃあ、一か月後でお願いします」
と言うわけで、一先ず話がまとまったかのように思ったんだけど、そうは問屋が卸してくれなかった。
私とミチルさんの会話を聞いていた者達がいたからだ。
「二人だけで行くのは絶対にダメです! 私も行きます!」
こう言ってきたのはパラス。
私とミチルさんが二人きりで行動するのが、そもそもイヤみたいだね。
別に寝取ったりしないんだけどな。
でも、そっち方面についてだけは、パラスは、私のことを全然信用してくれていないんだよね。
それから、
「私も一緒に行くからね!」
と言って来たのはヴァナディス。
「でも、危険かもしれないよ!」
「様子を見るだけでしょ! 危険って分かったら、そこで無理に戦わずに一旦逃げて、出直せばイイじゃない!」
まあ、二人とも置いて行かれるのがイヤなんだね。
ミチルさんは、パラスに言われたら絶対にノーとは言わないし。
結局、一か月後に四人で、ブルバレンと呼ばれるこの世界……この星の裏側まで旅に出ることになった。
アキの同期の女性の言葉遣いを修正しました。
後の方で出てくる表現に統一した方が良いと思いましたので。




