12.年金は諦めるか!
やっぱり作り物の身体だからだろうか?
アキ-108号になってから、全然、疲れないんだよね!
嬉しい誤算だ!
なので、毎日働いても元気いっぱいでいられる。
生身の人間じゃないのは残念なんだけどさ。でも、考えようによっては、これはこれで有難く感じることもあるんだよね。
城から帰ってきて一週間が過ぎた。
この日、私の店の前に上品な馬車が止まった。
下品に飾り立てた感じがない。本当に趣味の良いお方が乗っているんだろうって容易に想像つく。
言ってしまえば、クローマ子爵のような感じじゃないってことだね。
クローマって誰だって?
国王陛下の使いで私のところに手紙を持って来た人だよ。横柄な感じのエロオヤジね。
馬車から降りてきたのはリンドラー公爵夫人。
そりゃあ、趣味が良くて当然か。
でも、本人がワザワザお越しくださるとは、やっぱり、こっちが恐縮するよ。
「遠路はるばる有難うございます」
「そんな堅苦しい挨拶は不要よ。先ずは、お野菜を見せてもらおうかしら?」
「はい、どうぞ」
「これね。たしかに噂になるだけのことはあるわね。色も形も良い出来だわ。じゃあ、高級メロンを十個ばかり」
「ええと、一つ5,000Wenですけど」
「じゃあ、二十個にするわ」
「えっ?」
「思ったより安かったもので」
「(公爵夫人の感覚だと安いんだ!)」
「これなら一個、10,000Wenしてもおかしくないもの」
「あ……有難うございます!(うわぁー、ブルジョワだー!)」
「あとバナナを五房」
「はい……」
「それから……」
…
…
…
と言うわけで、リンドラー公爵夫人は、とんでもない大人買いをしてくださいました。
もの凄く感謝です!
「それとね。今日来たのは他でもないわ。ちょっとアナタにお願いがあってね」
「私にですか?」
「ええ。実は、アナタを私の家の養女にできないかと思ってね」
「私が公爵家にですか?」
「ええ」
「お言葉は非常に有り難いのですけど、私は貴族の振る舞いとか全然無縁でしたし、逆に迷惑をかけてしまわないかって気がします」
「でも、公爵家なら王族年金がもらえるわよ。国王陛下に褒美は何が良いかを聞かれて年金って答えたらしいじゃない?」
「よくご存じで……」
「王族とは親戚だからね」
「(たしかにそうですね。公爵だもんね)」
「それで、国王陛下と私で考えて出した結論が、うちの養女になってもらうことだったりするのよ。これなら合法的に年金が出せるし、アナタをアスタトス王子に嫁がせることもできるようになるしね」
「ちょっと待ってください。私が王子とですか?」
「ええ、そうよ。アナタが相手ならアスタトス王子も喜ぶわ!」
うーん……。
王子と結ばれるって話が浮上するとはね……。
異世界転生少女じゃ、何作かに一作はありがちなパターンかな、これ?
でも、もう白馬に乗った王子様とかに憧れる年でもないしなぁ。
普通に平民やっている方が、気が楽なんだけどな。
だけど、私とってことは、ラージェスト王国の方はどうなるんだろ?
「メリル姫のことは?」
「ああ、あれね。一応、あのエメラルドは、ラージェスト王国に渡すことになったみたいよ」
「じゃあ、アスタトス王子はメリル姫とご婚約されるんですよね?」
「一応ね」
それなら、なんで私がアスタトス王子に嫁ぐことになるんだろう?
もしかして側室か?
でも、子供が産めない身体だしなぁ。
側室になる意義がないよね?
それ以前に王族に興味がないけど。
「でも、メリル姫のことをアスタトス王子は、どう思っていらっしゃるのでしょうか?」
「前ほど積極的じゃないわね」
まあ、たしかに、
『エメラルドの見返りがメリル姫ってのもな。大して美人でもないし』
とか言っていたくらいだからね。
ラージェスト王国の脅威からアデレー王国を守るために割り切っていたってことなんだろうね。
日本だって、世襲制の大企業では、いまだに本人の恋愛感情で結婚させてもらえないパターンがあるみたいだし。
その場合は本人のための結婚じゃなくて会社のための結婚だもんね。
まあ、それと大同小異だよね。
「あのエメラルドを、みすみすラージェスト王国に渡すのは、正直マズイ気がするとも王子は仰ってましたけど」
「そうなんだけどねぇ。ただ、ラージェスト王国内に生息するレッドドラゴンから取ったエメラルドなので、ラージェスト王国側が所有権を主張してきてねぇ」
「何ですか、それ? セコいですね、ラージェストのくせに。スモーレストの間違いじゃないですか? 精神構造的に!」
「あら、結構言うわね」
「クソ威張っているだけのヤツが嫌いなもので」
「なるほどねぇ……。それで当初の予定通りエメラルドとメリル姫を交換するっていうのが実情みたいなんだけどね」
「なんだか人身売買みたいですね」
「取りようによってはそうね。でも、まあ、そう言ったことなので、アナタにはアスタトスの側室にでもなってもらえればって思ってね」
うーん。
側室って言ったって状況次第じゃ国の象徴になり得るもんね。さすがに、それはね。
そもそも王室に入ったらプライベートがないじゃん。
それに、いつも笑顔じゃなきゃいけないだろうしさ。普通の人間じゃ、やっていられない職業だよね、きっと?
私は、前世でテレビに映る皇室の方々の姿を見た時から、そう言うイメージを持っているんだよ!
それに、いくら正室じゃないって言っても、さすがに『性なる魔玩具』として作られた私がお妃様ってのはマズイでしょ。
どう考えたって変質的な道具だしさ。
万が一、それが誰かにバレたら大変なことになるもん。
大スクープだよ!
アデレー王国自体が恥をかきそうだもんね。
と言うわけで、答えは一つ!
「それは辞退致します!」
「良いアイデアだと思ったんだけどねぇ」
うーん。
確かに普通の女の子なら、王族相手だし側室でもOKするかも知れないよ。相当な権力者になれるし、お金も使い放題だろうし。
なので、普通なら凄く有難い提案だと思う。本当に、これが『普通の人間』の娘ならね。
「済みません」
「でも、養女の件はどうかしら?」
さて、どうしよう?
だけど、この場合も同じだよね?
結局のところ、私の正体がバレたらリンドラー公爵夫人に迷惑をかける。
ってことは、方法は一つしかないだろうね。
「それも、辞退させていただきます。申し訳ございませんが、やっぱり私には貴族はムリですので」
「そう。残念ねぇ」
「それに、貴族にならなければ年金が貰えないってことでしたら、年金の件は諦めますので」
「でも、それは褒美として受け取る権利があるわよ」
「そう言っていただけると有難いんですけど……」
「もしかして、貴族になることを避けているのかしら?」
「……」
「そのようね。でも、どうしてそこまで避けるのか、良かったら話してくれないかしら?」
困ったな。
私の正体を話して良いのかな?
でも、まあ、半分くらいならイイか。
少なくとも性なる魔玩具だってことだけ言わなければ。
「ここだけの話にしていただけますでしょうか?」
「内密にってことね。わかったわ。じゃあ……」
リンドラー公爵夫人が、付き人に店の外に出るように命じてくれた。
勿論、この世界には録音機器もないし、盗聴器もない。魔法で聞き耳を立てる者がいない限り秘密が漏れることはない……と思う。
「わざわざ済みません」
「気にしないで。それで、理由は何なのかしら?」
「実は、私は異世界から転生してきたんです」
「えっ?」
「しかも、人間ではなく等身大の人形として生まれ変わったんです」
「ええと、そう言う設定の遊びかしら?」
この反応が普通なんだろうなぁ。
そもそも、異世界から来ること自体が信じられないし、人形が生きていることも普通はあり得ない話だもんね。
まあ、この世界は魔法があるから普通じゃないことが起こりえるんだけどさ。
「遊びではなく、実際にそうなんです!」
「信じられないけど?」
「でも、事実は事実なんです。ですので、私は子が宿すこともできませんし……」
「それなら、浮気相手としては最高かもしれないわね。子供ができないってことは避妊無しでも100%安全だし」
「あのですねぇ」
「冗談よ、冗談」
「たしかに安全なのは事実ですけど、ただ、このことが第三者にバレたら王子が人形オタクの変態と勘違いされてしまいます!」
「でも、それって、どうやって証明するのかしら?」
「医者なら判定できると思います」
「たしかに、それなら可能かもね。でも、そこまで言うってことは本当なのね」
「はい」
「じゃあ、側室じゃなくて、アスタトス王子のオモチャになってもらうっていうのはどうかしら?」
うーん。それだと、本来の仕様になってしまう可能性が……。
さすがに、それは避けたいなぁ。
「正直、シャレになりませんが……」
「ダメかしら?」
「辞退申し上げます」
「でも、アスタトス王子は、アナタが相手なら喜ぶと思うんだけど……」
「やっぱり人形オタクにするわけには行きませんので」
「でも、人形ってことは歳をとらないってことかしら?」
「だと思います」
「そうすると、年金の件は無しかしら。死なないんじゃ、半永久的に年金を支払うことになるでしょうから」
うーん。こっちの企みがバレたか。
じゃあ、仕方がない。褒美は平穏無事な生活ということにしてもらおう。




