11.やっぱり年金が欲しいよね?
フロギスもグラビィも、プロタックの治癒魔法ですっかり元気になっていた。
さすが国王陛下に使える治癒魔法使いだね。
そして、フロギスから私に一言二言……。
「凄いですね、アキさん。まさか、レッドドラゴンを説得してエメラルドを差し出させるとは」
予想はしていたけど、やっぱりそう思われていたか。
「龍語を話せるんですね!」
うーん。
それも、傍から見たら、たしかにそう思われても仕方が無いんだろうね。龍語じゃなくて日本語なんだけどさ。
宇都宮さんからもらった巨大で重いエメラルドは、グラビィが持ってくれた。
女性の私が抱えているのを見るに見かねてってとこだろうね。
やっぱり、屈強な身体つきをしているだけあって、私なんかよりも軽々持つし、表情に余裕がある。
地球よりも、こっちの男性達の方が、ずっと好感が持てる気がするよ!
前世の責任転嫁野郎とかだったら、絶対に持ってくれないよね!
あの『沼尾』ってヤツ!
イヤだなぁ。責任転嫁野郎の名前を思い出しちゃったよ。
そして、私達はフロギスの転移魔法でアデレー王国の王都へと戻った。
しかも直接城内へと移動。
国防って言うか、王族に危害を加えようとする者が、直接城内に入り込んで来たらマズイからね。
基本的にお城には結界が張られているんだ。
なので、転移魔法では直接入れないはずなんだけどさ。
でも、フロギスの場合は国王陛下直属の転移魔法使いだからね。ちょっと特別みたい。
国王陛下を連れて転移することもあるから、直接城内に入れるように登録されているってことみたいだね。
ただ、みんな驚いていたよ。
今朝出発して、その日の午後にはビスカス国王陛下の依頼の品を手に入れての帰還だもんね。
私達四人は、そのまま国王陛下の下へと通された。
「ただいま戻りました」
「もうエメラルドを手に入れたのか?」
「はい」
「それにしても、出発したのは今朝だったはず。こんな短時間で七首のレッドドラゴンを倒したのか?」
この国王陛下の問いにフロギスが代表して答えて……と言うか説明してくれた。
「いいえ。僕達の魔法ではレッドドラゴンを倒すことは出来ませんでした。むしろ、強烈な反重力魔法で返り討ちに合いました」
「なら、どうやって?」
「アキさんがレッドドラゴンを説得してエメラルドを譲渡してもらったのです」
「なにっ? ドラゴンを説得?」
「はい」
「そんなことが出来るのか?」
「このエメラルドが証拠と言って良いでしょう」
「まあ、たしかにな」
「僕達だけでは、絶対にレッドドラゴンに殺されていたでしょう。今回の功績は全てアキさんの力によるものです」
「そうか……。アキ殿」
「はい?」
「エメラルドを手に入れたことを、心より礼を言う。それからアキ殿には褒美を与えよう。何か所望のモノはあるか?」
うーん、何だろう?
考えていなかったな。
平穏な生活?
それとも……。
やっぱり、これかな?
「では、年金が欲しいですね」
「年金!?」
「はい」
「年金ねぇ……。分かった、考えておこう」
「有難うございます」
本当は、
『上玉性奴隷を買うお金!』
って言えば、お金を能力で出すことが出来るんだけどね。
でも、やっぱり、それだとズルい気がしてさ。偽金を作っているみたいで罪悪感があるんだよ。
それで褒美にお金を要求してみました!
しかも、年金にすれば死ぬまで貰えるはず。
私は人間じゃないから歳をとらないし、病気にもならない。
壊れない限り死なないんじゃないかな?
なので、細く長く、ずっと貰い続けてやる!
なーんてね。
その日の夜は、急遽、城内で祝いの席が設けられた。
ラージェスト王国からリクエストされた超巨大エメラルドを手に入れたんだもんね。当然っちゃ当然か。
ただ、私は人間じゃなくて魔玩具だからね。
勧められたお酒をガバガバ飲んだけどさ。全然酔わないんだよね、これが。
身体の中をアルコール消毒しただけで終わったよ。
まあ、雰囲気には酔ったかな?
色々な人と話が出来るように、今回は立食形式にされた。
さすがに王族貴族が集まる席だから、地球で経験してきた飲み会みたいな下品な飲み方は誰もしないね。
極めて上品だよ。
これはこれで、慣れない雰囲気なんで疲れたけどさ。
でも、絡み酒のジジイとかがいなくて助かったよ。
そう言えば、会社の新人歓迎会の時なんて、歓迎される側なのに上司にお酌して回ってさ、それで返杯で飲まされて大変だったもんなぁ。
地球じゃ、あんな飲み会しか記憶に無いもんね。
自発的な飲みじゃなくて強制的な飲みね。
そして、吐いてさ……。
こっちの世界だと、この身体のせいでエロい目で見られることは多いけどさ。でも、マジでこっちの方が色々と平和な気がする。
そんなことを思っていると、一人の女性が私に声をかけてきた。
「アキさんですね?」
「はい」
「私はリンドラー公爵の妻です」
「公爵夫人ですか?」
「ええ」
それにしても、中々お綺麗な方だし品があるなぁ。
あと、珍しく女性なのに私に敵意剥き出しの視線を浴びせてこない。
かと言って同性愛者でもなさそうだ。
HP……ハレンチパワーを見ると7/95って、今まで出会ってきた人間の中では、一番最大値が高い!
しかも、平常時ではHなパワーを随分と抑えているし、これだけのHパワーを潜在的に持っているのに男性経験は夫だけだって。
凄くお堅い女性だ!
取扱説明書:アキ-108号は、精神を集中すると、見ただけで相手のHの履歴を霊視できます。いつ頃に何人とやっているかを全て見抜きます。
完全に昼は淑女で夜は娼婦のパターンだね!
勿論、この方の場合は夫に対してだけ娼婦であって、他の人を相手にはしていない。マジで男性にとって理想の女性じゃないかな?
こっちが、かしこまってしまうよ。
「わざわざ、お声がけいただき有難うございます」
「そんな気にしないで。アキさんは、ビナタの街で八百屋を開いているんですって?」
「はい。良くご存知で」
「しかも鮮度が良くて美味しい野菜だって評判らしいじゃない。何処で仕入れているのかしら?」
うーん。まさか能力で出していますとは言えないしね。
しかも、その能力がHな能力で、野菜をHなことに転用する人がいるから私の能力で出せるんですなんて口が裂けても言えないよ!
「それは企業秘密です!」
「あら残念。それから、薬も売っているって話だけど?」
「まあ、扱っているのは、うつ病の薬くらいですけど」
「実は、それが男性を長持ちさせる薬だって噂よね?」
「たしかに、そうなんですけど……」
「今度、うちの者が何か買い物に行くと思うけど、その時はよろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしく御願い致します」
本当に雰囲気の良い人だ。
人間として余裕があるって感じがするよ!
一応、立食の席と言うこともあって、入れ代わり立ち代わり私に声をかけてくれる。
超巨大エメラルドを手に入れた立役者ってことにしてくれているからね。なお更なんだろうな。
ただ、殆どは敵意ある視線を浴びせる女性とエロい目をした男性なんだけどね。
全体の割合から考えれば仕方が無いか。そう言う人間の方が、どうしても多いからね。
さすがにリンドラー公爵夫人のような方は、極々々々少数派ってことだよね。
でも、それでいて、こっちの方が平和に感じるんだからね。
地球での生活が、私は本当にイヤだったんだろうなぁ。
厳密には、就職先に恵まれなかったってだけのこと……なのかも知れないけどさ。
そろそろ宴もたけなわに近付いているのかなと思った丁度その時だった。
アスタトス王子が私に声をかけてきた。
「この度のアキ殿の活躍には感謝する」
「まあ偶々です。運が良かったのだろうと思います」
「そんな謙遜なさらずに。聞いたところでは、レッドドラゴンを説得したとか?」
「別に大したことではありません」
「いや、大したものだ。それと、あの巨大なエメラルドだけど、実物を見ると、あれをみすみすラージェスト王国に渡すのは、正直マズイ気がしてなぁ」
「でも、メリル姫とのご婚約には必要なものなのでしょう?」
「最初はそう思っていたけど、こんな巨大なエメラルドを差し出すのは、さすがに国の面子に関わる」
「まあ、見ようによってはラージェスト王国の支配下にあるようにも見えますね」
「そうなんだ」
「たしかに舐められていると言うか、見下されていると言うか、面白くはありませんね」
「ああ。それに、これをきっかけに、アデレー王国がラージェスト王国に今後も色々と搾取され続けるんじゃないかって気もしてな」
「彼らは自分達の国の強大さを知っていますしね」
「それに、このエメラルドの見返りがメリル姫ってのもな。大して美人でもないし」
「でも、人間外見だけじゃありませんから」
「そう言ってあげたいところだが、実は中身も大したことないしなぁ」
「……」
「なので、陛下と俺で、出方を少し考えてみたいと思う。もしもの時には、君には再びアデレー王国のために力を貸してもらいたい」
「私がですか?」
「そうだ。暴君魔獣を倒したり龍を説得したり、君は、まさに超人だよ」
「そんな超人だなんて……」
随分と持ち上げてくれるなぁ。
たしかに私は人間の振りをしているだけで人間じゃないけどさ。
でも、さすがにここで、
『実は超エロ仕様の魔玩具なんですけど……』
とは言えないけどね。
それと、アスタトス王子が私を見る目が、最初の時ほどエロくなくなった。
むしろ尊敬の念が混じっている感じだ。
それだけ、レッドドラゴンからエメラルドをいただいたことは、功績としてインパクトが高いってことなんだろうね。
それから少しして祝いの宴は終わった。
私は、国王陛下に挨拶をすると、その足で連続転移魔法を使って自分の店へと戻った。
臨時休業の張り紙が一日で済んで良かったよ。
明日は普通にお店を開くからね!