REV.16
この世界には、三つの種類の人間がいる。
全部の人間の数を十人だとすると、そのうちの三人くらいはまともな仕事に就いている人間だ。
まともな仕事、なんて言ってもピンキリで、結局本当にきちんと働いているやつは本当にごく僅か……0.1人くらいではないだろうか。
みんなきちんと働いているように見えて、裏では何をしているのかわかったものではない。 別に誰かがそうなのではなく、みんなそうなのだ。 とりわけ今更騒ぐほどの事じゃない。
最も割合の多い……十人のうち、五人程だろうか? この五人――まあ要するにこの世界の半分くらい――は、まともではない職業に就いている。
さて、それでは私はどうだろう? まともな職業? ああ、確かにそうだ。 OZ社というこの世界において最高の市場を誇る企業に就職し、研究室を一つ与えられているのだから。
しかしさて、それと人間的に『まとも』であるかどうかという点についてはそれほど関係がないのではないかと思う今日この頃。 勝手に頻繁に休憩しては研究室を抜け出し、私はこの場所を訪れる。
地球を望む元フロンティア管理塔、その最上階。 六年前のあの日、私が彼女と別れた場所。 彼女と共に見た景色。 安物の缶コーヒーでさえ、ここから見下ろす地球があればましに思える。
深く息をつき、ネクタイを緩めた。 ここ数日寝ずに作業を進めていたので、この休憩はれっきとした由緒正しい休憩であり、誰かに咎められる事も無いだろう。 普段はどうかと言うのは、とりあえず置いておくとして。
「もう六年、か」
過去に想いを馳せ頬を緩ませる。 疲れた吐息は透き通る蒼い星に吸い込まれ、それさえも浄化されそうだ。
そんな風に思うようになってくると、いよいよ時の流れと言う物を実感する。 あの頃は管理塔だったこの場所も今は唯一フロンティアから実際に地球が見下ろせる場所として観光スポットになっている。
この六年でフロンティアは拡大され、巨大な第二の楽園となった。 それと同時に地上の街も地下調査や組みなおしが始まり、滅びの足音はどこかへ遠ざかったように思う。
月面の街にはファウンデーションと言う名前が生まれ、空と大地をと阻んでいた偽者の空は消え去った。 今は誰もが宇宙と地上を行き来する事が出来る時代が訪れたのである。
まあ、それが自分のお陰だとは思わない。 それはおこがましい事だ。 だが、REVという知識が徐々に解析され、人々を豊かにしていると考えると、それなりに胸にこみ上げる物がある。
鮮やかな蒼に輝く星、地球。 あれから私は何度か地球に降り立った。 地球を覆っていた結界は、REVに認められた人間――すなわち私を拒絶する事は無く。 私が地上に降り立つと同時にその拒絶はだいぶ薄まったように思う。
現状では地球は閉ざされたまま、一般の立ち入りは禁止されているが、人々が地球に帰る日はそう遠くはないように思う。
あれだけの破滅を乗り越え尚、地球と言う星は蘇っていた。 広大な自然と生命を復活させ、まるで人類の帰りを待っているかのように美しく。 そんな風に思うのは、恐らくは人のエゴなのだが。
地球は滅びかけ、人はそれを守るために囲い、そしてレヴィアンクロウというメッセンジャーを残した。 それを確かに受け取った私たちはそれを後世に伝えていく義務がある。 この、REVという蒼い星の悲しみと喜びの記憶を。
「室長! やっぱりここですか……。 社長がお見えになってますよ! 早く戻ってください!」
と、考え込んでいると背後から声が聞こえた。 聞こえないふりをしてコーヒーを飲み干し、一息つく。
「室長! ウラさんっ!! ほら、聞こえないふりしても無駄ですよ! 早く来てくださいっ!!」
「…………やれやれ」
首根っ子を捕まれずるずると引き戻されていく。 空き缶をダストシュートに投げ込み、深く息をついた。
そう、あれから六年。 私はもう、二十歳を過ぎていた。
REV.16
REVからは今はもう残されていない想像を絶するような力が発掘される事がある。
その仕事はトレジャーにも良く似ていて、私は毎日のようにREVにアクセスしては過去の技術を発掘した。
今の技術よりも余程進んだかつての地球の技術。 それらを見つめ、私は時々思う。 それだけの力を持っていても、人間はあの星を愛し、捨てきれなかったのだと。
月という異なる環境に身を置き、宇宙空間に居住区を作れるような人類が、そうしてまで尚守りたかった物。 それは大いなる存在であり、決して蔑ろにしてはいけない。
だから私は繰り返される毎日の中、それらの記憶に敬意の念を抱く。 一つ一つ愛しむように、思い出を解体する。 それは確かにヤクザな商売ではあったが、過去とは違う。 少しだけ心の温まるような、そんな仕事だった。
しかしそれも連日凄まじいスケジュールで展開されれば流石に疲れるというもの。 時々逃げ出したくなるのだが、オズワルドは流石にわかっている。 私が逃げずに必ず戻ってくると踏み、放っておくのだ。
結局今もこうして部下に連れられて部屋に戻ってきてしまった。 オズワルドは私とは違い高級なコーヒーを高級なマグカップで飲んでいた。 何が高級なのかはよくわからなかったが、社長なんて物はそんなイメージだ。
「やあ、ウラ君。 相変わらず元気そうで何よりだ」
「この様子が元気そうに見えるのならば眼科に行った方が宜しいかと、社長」
「ふふふ、本当に相変わらずだな。 何、そう気構える必要はないよ。 今日は研究成果の催促ではないからね」
今日は、か。 まあそうだろうな。 次に来るときは催促すると暗に警告しているんだろうな。 本当に嫌になる。
「何はともあれ、君にこれを」
手渡されたのは一枚のデータディスクだった。 媒体は古いものだが、最近記録されたらしい日付がつけられている。
怪訝に思っているとオズワルドは六年前のように私の肩を叩き、そのまま振り返らずに去ってしまった。 当然忙しい身である彼にこんなところでモタモタしている暇はないのだろうが。
「室長、なんですかそれ? もしかして社長からラブレターですか?」
「引くわ……。 後は任せるから、とりあえず内容を確認してくるよ」
「でも、室長と社長ってお似合いかも……」
いや、話を聞けよ。
そんな風に騒ぐ職員連中に背を向け部屋を後にする。 与えられた自室に入り……尤も仕事場で寝ることが多い私には無縁だが……パソコンにディスクを読み込ませる。
息を付き、読み込んでいる間冷蔵庫の中をチェックする。 ちょっとしばらく寄り付かなかった所為で大分色々な意味で目を逸らしたい状態になっていたが、何とか生存していたらしいドリンクを取り出し蓋を開く。
『ウラ、元気にやってるか?』
懐かしい声に思わず振り返る。 読み込みが終了し自動的に再生が始まった映像には、懐かしい顔が映し出されていた。
「……ゼン」
そこはあのじいさんの工房だった。 六年経ってよりボロくなっていたが、それでもあの頃と変わらない空気がある。
ゼンの顔を見るのも声を聞くのも六年ぶりだった。 思えばゼンと再開して共に過ごしたのは二週間ほど。 大切な友人なのに共にいる事の方が少ない。
椅子にかけ、頬を緩ませながら画面を眺める。 ゼンは六年経っても相変わらずと言った様子で、無邪気な笑顔を向けていた。
『色々あったが、今もこうしてピンピンしてる。 そっちもまあ、オズワルドの奴と元気にやってるだろうと俺は勝手に信じてるぜ』
「また勝手だな……」
『お前は今もレヴィを直してやるのに頑張ってるって聞いた。 それに……REVを解析しているんだってな。 マリーもきっと、それを願ってると思うから……。 俺の方から代わりに礼を言わせてくれ。 ありがとな、ウラ』
「どういたしまして」
今思うに、マリーとゼンの関係は複雑だったのではないだろうか。
二人とも何とも言えない関係だったはず。 二十歳になってもそれはよくわからないが、まあ仕方ない。 彼がマリーの想いを大事にしているという事実だけ、覚えておくとする。
『でだ。 何でまた今になってこうしてメッセージを送ろうと思ったのかと思うと……いやまあ、今更じゃないんだが。 俺は何度もお前に会いに行こうと思ったんだが、イクスが我慢しろってうるさくてな……。 まあともかく、報告する事があるんだ』
画面に飛び込んできた景色を見て流石に驚いた。 ゼンが画面外から抱き上げたのは小さな女の子だったのだ。
『あー。 あれから色々あって、今はイクスと二人で暮らしてる。 こいつが生まれたのも随分前だが、色々とバタバタしてて報告が遅れてな』
「…………まあ、そんな気はしてたからいいけどね」
素直に祝福するとしよう。 それにしてもイクスの子供……ということは、じいさんの曾孫? 私の姪のようなものなのだろうか? そのうちプレゼントの一つくらい無駄に高い給金から送ってやるとしよう。
金髪のウェイブした髪はどう見てもイクスにそっくりだ。 イクスに似てよかったなあ、と何となく思うが、無邪気に笑っている様子を見るとどうにもゼンっぽい気もする。
ああ、こんな事を考えていると歳を取ったとつくづく思うが仕方ない。 子供というのはかわいい物だと思う。
『パパー? 何でビデオとってるの?』
『パパの親友にちょっとな。 で、ウラ。 お前に報告しなきゃいけないことはもう一つあるんだ』
そうして私は二度目の驚愕を目にする。 思わず椅子を弾き飛ばし立ち上がってしまうほどの衝撃だった。
画面からゼンの姿が消え、カメラが動き出す。 恐らくゼンが手にしたのであろうそのカメラが映し出したのは、髪を伸ばしたイクスとその傍らに立つ――R2の姿だった。
『ウラ、久しぶりね。 あんたに無断でというのもどうかと思ったんだけど……今、あたしたちはR2と暮らしているの。 あの後回収して、修理してね』
「馬鹿な……っ!? 殺戮兵器だぞ!? それと暮らすなんて……っ」
『あーるつーっ!』
しかし、その言葉は言葉にならなかった。 あろうことかR2に懐いた様子で駆け寄る少女の姿。 そしてR2がその少女を無表情ながらにもそっと抱き上げるのを見て、思わず空いた口が塞がらなくなる。
『ほら、マリー。 R2の事紹介してあげて』
『うん! あのね、あーるつーはわたしのメイドさんなの!』
「ま、まりぃ……? メイドぉっ!?」
思わず頭を抱えた。 どういう状況だ、それは……。 しかし、R2は感情を宿さないその表情で、しかしゆっくりと誰に命じられたわけでもなく少女の頭を撫でる。
驚きのあまり妙な笑いが浮かんできてしまった。 忘れもしないあの六年前、レヴィを破壊したもう一つのREVの遺産が、あの兵器が少女を抱き寄せている。
『イクス、マリーを連れて行ってやってくれないか。 R2にも、話したいことがあるだろうから』
『そうね。 ほらマリー、こっちよ』
画面からイクスとマリーの姿が消え、中央にはメイド服を着たR2が映し出された。
『R2はあれからイクスが修理して、今は人間の事を勉強している。 覚えているか? レヴィからダウンロードした『レヴィアンクロウ』としての思考データや感情データ、それがこいつを暴走させた事を。 だがそれは、R2が心を感じていたということじゃないかってイクスは推測したんだ。 それからイクスは新たにAIを組みなおし……後は本人から聞いてくれ』
思わず息を呑む。 R2はレヴィに比べると相変わらずロボットといった様子で、どうにも動作は硬い。 表情も何を考えているのかわからなくてのっぺりとしているが、その唇は確かに動いた。
『…………ごめん、なさい』
たった一言だけ呟き、R2は頭を下げる。
『ごめん、なさい』
途切れ途切れの合成音声。 今の技術では完全に彼女をレヴィアンクロウにしてあげることは出来ないだろう。
そして彼女は彼女としての人生を歩み始めた。 マリーが作り、イクスが直し、そしてイクスの娘が愛を教えたロボットは、私に頭を下げて何度も謝罪の言葉を繰り返していた。
気づけば長い間乾いていた自分の両の瞳から涙がこぼれ、笑みが浮かぶ。 ただ、R2という存在を恨んでいたわけではない。 憎んでいたわけではないのだと、自分でも始めて気づく。
『R2は俺たちが責任を持って育てる。 だからお前は、レヴィを目覚めさせてやれ。 そうしたら今度はちゃんと、またこの場所で』
「ああ。 約束の場所で会おう、ゼン――」
映像が途切れると同時に広がる暗闇。 涙を拭う事をせず、椅子に腰掛け深く身体を預ける。
見上げた天井。 ゆっくりと瞼を閉じ、涙が乾くまで私はそうしていた。
それから数ヵ月後。 レヴィアンクロウの再起動実験が行われた。
初めに耳にしたのは、誰かの声だった。
その声は暖かく、優しく私に語り掛ける。
眠り続ける私に、その人はずっと語りかけていた。 ずっとずっと、何日も何日も。
そうして振り返ると、自らの過去が何も無い事を知る。 生み出されて目覚めるまでの間に見る、僅かな夢の欠片なのかも知れない。
かつてあった地球という星は蒼く美しく、そしてそれを守る為に人類は大地を捨てた。
そして、棺に私を入れ、時の彼方――。 棺に備えられた時を越えるからくりで私を遠い未来の自分たちの子孫に向け、放った。
長い長い時を越え、私は出会う。 遥か彼方、彼らが望んだ未来を生きる人々に。 与えられた役目は判断――そして、力を分け与える事だった。
暗い海の中を漂っているのは恐ろしかった。 誰にも会えないまま、誰にもつながれないまま、いつか壊れて朽ちて行くのではないか? そう考えるだけで震えが止まらなかった。
しかし、人はめぐり合ってくれた。 私という過去に。 しかし私の存在は彼らに不幸を齎す。
力を巡り人は争う。 それが人の本質と言うのであれば、私は力を彼らに託せない。 託せ無いだろうと思っていた。
「ほ〜ら、高い高〜い」
声が聞こえた。
それは初めて聞いた声とは違う声。 それでも優しく、誰かを愛する気持ちに満ちた声であることは変わらなかった。
目を開く事はないまま、外の景色を見る。 棺の中の私にとって目は意味を持たず、外部を監視するセンサーによって周囲を捉える。
そこに居たのは夫婦だった。 そして父親が抱き上げるのは生まれたばかりの赤ん坊。 きらきらとした瞳を浮かべ、無邪気に笑う人の姿。
その子の周りに広がる愛の欠片。 誰かを愛することで自分を愛し、そして愛されるという事。 人が持つ美しい物を、私はその時初めて知った。
やがて時が流れ、父も母も失われ、その子の命が悪意に吹き消されそうになった時、私は思わず棺を開け放っていた。
生まれて初めて振るう自らの暴力は殺意と悪意に満ちていて、小さな命を吹き消そうとする彼らを私は容赦なく肉片へと変えて行った。
「……逃げましょう」
気づけば私は赤子を抱えて走っていた。 敵をなぎ払い、ただただひたすらに走り回った。
そうして何日も夜が過ぎ、私は赤子を守り通したつもりになってした。 しかし赤子は見る見る衰弱していく。 私は人間を育てる手段を知らな過ぎた。
赤ん坊を抱きしめても、守ろうとしても、それを守れない私に人間を選定する権利などあるのだろうか。 人を知らず、人を理解せず、人ですらない私は――では一体、何を判断すると言うのか。
下した決断は赤子の救済だった。 そして私は棺に入り、彼らの下眠りについた。
それからずっと、また眠りについて。 長い長い間に、自分が何者なのかさえ忘れてしまったのかも知れない。
自分の主が誰なのか。 自分が心の底から守り、救おうと思った人は誰なのか。 そして、その時自分が何を願っていたのか。
誰かに幸せを振りまく純粋な存在を守ることで、私は人間になれると思っていたのかも知れない。 『愛する』事を理解出来ると思っていたのかも知れない。
垣間見る夢――その果てにあるものはいつも暗闇。 何もかもいつかは忘れてしまう。 だから……。
「おはよう、レヴィアンクロウ」
気づけば目の前に誰かの顔があった。 薄っすらと瞳を開き、誰かに抱き起こされる。
身体が上手く動かず、その人を姿を凝視する。 高い背と優しく力強い声。 私は思わず口にした。
「貴方が……私のマスター、ですか?」
すると彼は答える。
「そうだ。 私が君のマスター……名前はウラと言う」
「う、ラ……」
どこかで聞いた名前だった。 けれどそれは思い出せない。 なにやら心にフィルターがかかってしまっているかのように、記憶はもやに包まれていた。
不安になる私の手を握り、ウラと名乗ったマスターは微笑む。 そうして指差した先、もう一人『私』が眠っていた。
「レヴィ、聞いてくれ。 大事な事だ」
「……はい」
「わた……ボクの名前はウラ。 ハンドルネームはAsh。 トレジャーという違法ハッキングで生計を立てている」
「……はい」
「ボクはこれから君を過去に飛ばす。 今から三十年前だ。 ただ、そこが過去であると言う記憶は君から奪ってしまうけれど……。 見てご覧、レヴィ」
抱きかかえられ見つめる先のもう一人の私。 そこから伸びる沢山のコードが、私の身体につながっていた。
「ボクは、君を守れなかった……。 力がなくて。 壊れてしまったレヴィアンクロウを直しながら、ボクはもう一つレヴィアンクロウを作ったんだ。 二人目のレヴィ……それが君だ。 君はボクが知っているレヴィアンクロウの記憶と心、そしてREVのダウンロードデータを持って過去に飛ぶんだ。 そして、もう一度ボクに出会って欲しい」
「…………もう一度、出会う……?」
「君に過酷な運命を背負わせてしまって申し訳ないと思う。 でも君にしか任せられない。 君にしか救えないんだ。 だから――命ずるよ、レヴィ」
悲しそうに、懐かしそうに。 彼は複雑な感情を湛えた表情で言った。
「『人間になりたければボクを探せ。 本当のボクを見つけた時、お前を人間にしてやる』」
「人間、に……?」
「そうだ。 君を愛し、永遠に君を守る……。 愛し、愛される思いはきっと、君を人間にしてくれるから。 だから……おやすみ、レヴィアンクロウ」
棺が閉じられる。 私はまた、長い眠りに付くだろう。
マスターがずっとずっと、棺に手を当て傍にいてくれた。 だから眠るのは怖くなかった。 また会えると信じているから。
今度は、この暗い一人の夜から私が彼を救ってあげる事が出来るだろうか……。 そんな事を、僅かに願う。
そうしてマスターはもう一人の私の元に歩み寄った。 彼女は目覚める事が出来たのだろうか? マスターは……ウラは、もう一人の私を抱きしめていた。
ああ、そんな結末も悪くない。 いつか彼の元に戻れるのであれば。 私は彼を、愛してもいいのだろうか。
愛される事で、人間になるという事を知ってもいいのだろうか。
意識が途切れる前に、私はもう一度二人を見た。 二人は涙を流しながら口付けを交わし、そして――――。
「あなたが、ウラですか――?」
棺桶の蓋が吹っ飛んだ。 いや、爆発的な力で内側からこじ開けられたのだ。
大空を舞う鉄板。 ああ、かわいそうに。 何度も何度も空中に舞い上がる残骸。 それを片手で受け取り、『彼女』はマンイーターに全く怖気ず振り返った。
「もう一度、問います」
そう、『彼女』。
棺の中から飛び出してきたのは、蒼い蒼い女の子だった。
「あなたがウラ――」
蒼い髪と、蒼いドレスが熱い風に靡いて、蒼い瞳には火を点して。
荘厳とした。 それでいて涼やかで、力強い。 とにかく、見る者を魅了するような圧倒的な存在感。
「あなたが、私を『人間』にしてくれるのですか――?」
そう、だからボクには彼女が人間であるようには思えなかった。
人というものは、必ずしもどこか不完全なものだ。
だというのに彼女は余りにも美しすぎた。
それはもう、『生き物』ではなく、
だからきっとそう。 それは生きた『人形』だった。
見下ろす瞳は真っ直ぐにボクを見つめている――――。
REV
REVの帰るべき場所を知っているか――?
画面に浮かび上がったメッセージは、静かに消えていった。
〜あとがき〜
読みたい人だけ読んでね!
と、いうわけで……。全十七部もかかってしまいましたが、何とか完結でございます。
まあ、色々言いたいことはあると思いますが……! 思いますが石を投げないでーっ!
はい。今回は空想科学祭――SF競作企画に参加する運びになりまして、その為に書き下ろしたわけですが、何か企画小説なのに長かったですね。ごめんなさい。
というわけで、裏話コーナー。
SF企画そのものが正式に始動したのは恐らく七月前だったのだと思うのですが(曖昧)その当時から実は参加してみたいなと考えていました。ただ当時レーヴァテインの連載も終わっていなかったので、レーヴァテインが終了して間に合いそうだったら参加しようかなと思っていたのですが、何とかレーヴァテインが完結したので滑り込んで参加したわけです。
元々競作には興味が無いと言うか、てきとうにやってるだけの自分が他人と交わると言うのもなかなかおこがましい話だとは思ったのですが、実際にやってみると他の作者さんの存在はなかなか刺激になって面白いです。それが生かせているかどうかはまた別の問題で。
本当はロボットに乗って戦うようなのを出そうかと思ったのですが、出来る限り短く纏めるという事を主眼にすえてボツに。結局こうしてREVという作品が生まれてしまいました。
元々は別タイトルで大昔に企画するだけして執筆しなかった小説を短く纏めただけのものなので特に苦労せず書くことが出来ました。いつかやりたいと思っていたから楽しかったしね。
ただ、真面目に七年前くらいのデータから再現した為、今の自分とは作風が違ったような気がしないでもない。
今回はとにかくわかりやすい話にしようと思いました。参加者さんは結構濃厚なSFを書かれる方もいますが、濃厚さで比べても自分に勝ち目はないというか面白みはないので、もうだったらSFっぽい何かを思い切りやってやろうと思い至りました。開き直りです。
事実ちゃんとしたSFは素晴らしいものがいくつもありますので、そちらの方を期待していただけるとありがたいです。ボクも読みましたがええ、レベルが違いますよ。
そんなわけで王道……ちょっと一昔前のマンガかアニメのSFみたいな感じ、80年代的なものを感じ取っていただけたらありがたいですが、大分今風ですねええええええ!!
王道な始まり、王道な設定、王道な終わり方。よく言えば王道ですがありきたりと言い換える事も出来ます。
出来はボクには定かではないので、あとは読者様の方に色々指摘していただいて力に出来ればなと思います。
そんなわけで、下の方に投票ボタンがあったりしますのでコメントつけて送って戴けると喜びます。特に悪いところは作者メッセージでもいいので指摘していただければ次回作への力になるのでお願いしたいところです。
さて、久しぶりに真面目にあとがきを書いたところでそろそろお開きにしたいと思います。残りの企画開催期間、他の参加者さんの作品を読み漁って見るのはいかがでしょうか?
いや、元々俺は他の参加者のついでに見てやってんだよというそこの貴方!ごめんなさい!
というわけで、神宮寺飛鳥でした。 さようなら〜。