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ゴブ次郎は誰かの命令に従って生きてきた。フィーブルゴブリンの主な仕事は雑用である。ゴブリンソルジャーやゴブリン達の命じるままに仕事をする。食料を集めてきても己の口に入る事は無かった。運が良ければ残飯にありつけるくらいで、2、3日食べられない事もザラであった。これは食欲旺盛なゴブリン種族にはツラい事である。


砦の中に入ったゴブ次郎が見た光景はいつも通りであった。息絶えたコボルトやゴブリンの遺体を奪い合い、その生肉を(むさぼ)っている。食べ物にありつける、という考えから駆け付けたゴブ次郎であったが唖然としていた。遺体を貪る者達をあさましいと感じる己を知ってしまったのだ。ゴブリンへと成り上がったからなのか、名を与えられ自我を持ったからなのか。

ゴブリンソルジャーが傷の手当てをしろと喚いている。死にかけているゴブリンソルジャーの命令に従う者はいない。皆が食事に夢中か、負傷で動けない者ばかりなのだから。

ゴブ次郎は動けないゴブリンソルジャーへとゆっくり近付き、槍で突き刺した。断末魔の叫びに屍肉を貪っていたゴブリン達の動きが止まり、ゴブ次郎の行動を理解して恐怖した。

下の者が上の者に逆らうなどあってはならないのだ。ましてやゴブリンとゴブリンソルジャーの力の差では逆らう事自体が不可能なはずである。叫びながら逃げる者の中にはもう1体のゴブリンソルジャーもいた。背後から槍で突いたが仕留められない。剣や槍で何度も攻撃を加えるが、恐怖に囚われたゴブリンソルジャーは身を固める事しかできないでいる。剣を何度も何度も叩き付け、ゴブリンソルジャーの頭を叩き潰す事で決着は着いた。


逆らう者は殺し従う者を引き連れて、異種族の主人の元に帰還した。

『コイツらが従いたいそうだ。』

「※※※※」

相変わらずこの主人の言う言葉はわからない。だが周りの連中の従属は認められたようだった。

「※※※※※※」

主人が何かを言いながら虚空から拳大の赤い実を取り出して放り投げてきた。食べてみると僅かな酸味と強い甘味、豊かな果汁が溢れ出す。


これは王の食べ物だ。


食とは上位の者が残した物を奪い合わねば喰えなかった。それ以上の食べ物を容易く分け与える。ゴブ次郎がこの主人は恐ろしいと感じた瞬間であった。


この地に住むゴブリン達にはいくつかのルールが存在する。だが要約すれば1つとなる。『強い者が正しく、強い者が全てを手に入れる』。それこそが絶対のルールであり、コブ次郎にしてもこのルールに従っているつもりである。

ゴブリンソルジャーを殺したのも、奴が自分より弱くなっていると思ったからだ。自分より上位の種を殺せる事は主人に教わっていたのだから。

『お前ら、わかってるな。』

この場の強者は異種族の主人である。ならば連れてきた連中も何をすべきかわかるだろう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

コブ次郎が連れてきたゴブリン達もリンゴを咀嚼している。そんな中でケイの頭を悩ませるのは1つの問題であった。

「コイツら、どうしよう。」

宿屋にまでゴブリン達を連れて行けば人間達との戦闘が開始されるだろう。何よりケイとすら会話が成立しないのだ。今のゴブリン達は『ケイだけには襲い掛からない』状態に過ぎないのだ。

・・・・。

あれ?俺はなんでゴブリン達の事を考えていたんだろう。此処には自分のレベルアップの為に来たのに。『抵抗するな』と命じて殺せば経験値は入手出来るんだろうけど、それは自分の流儀ではない。ここに放置するか?他のゴブリン達に紛れて生活できるのではないのか。


ケイが思考の海に沈んでいる間にも新手のコボルトが現れて混戦となっていく。これこそがこの世界の日常。世界のどこかで常に戦いが繰り拡げられているのだ。目の前の戦いもその一部分でしかなく、たまたま今日は此処だったに過ぎない。

そしてケイは恐怖を目にする事になる。

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