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借金転生した元社畜、残高千円のスマホで辺境村の事務員になる〜気弱な最強騎士に胃袋を掴まれ絶対防衛で溺愛されています〜  作者: 月神世一


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第一章 社畜OL異世界転生して借金掴まされる

自由を手に入れたと思ったら、残高1000円(借金100万)でした

「おめでとうございます! これであなたもチートスキル持ちの自由な異世界人よ♡」

激務で過労死寸前だった私は、女神の放った甘い言葉と手渡された『魔法のスマホ』に歓喜の涙を流した。

――画面に輝く【ご利用残高:1,000円】【リボ払い借金残高:999,000円】という絶望の文字を見るまでは。

   ◆

それは、ほんの三十分前のことだった。

秋野リカ、二十四歳。中堅IT企業の総務課で働く、絵に描いたような社畜OLである。

連日の深夜残業。終わらないエクセルの入力作業。上司からの理不尽なダメ出し。そして、休む暇もなく鳴り続ける内線電話。

『リカちゃーん、明日の会議の資料、まだぁ?』

『あ、秋野さん! 備品のボールペンが切れてるんだけど!』

『秋野くん、この経費精算書のフォーマット、古いから全部やり直しておいてね』

(……もう、嫌だ。仕事辞めたい。人生、やり直したい……)

終電の揺れる車内で、私は吊り革にすがりつきながら、うわ言のように呟いていた。

目の下にはくっきりとしたクマ。髪はボサボサ。ストッキングは伝線している。心も体も、とっくに限界を超えていた。

「あらあら、可哀想に。そんなに人生やり直したいなら、私が手伝ってあげよっか?」

ふと、隣から声をかけられた。

見ると、そこにはピンク色の芋ジャージを着て、足元にツボ押しの健康サンダルを履いた、やけに顔立ちの整った女性が座っていた。年齢は……私より下だろうか。だが、その瞳には年齢不詳の深い光が宿っている。そして、なぜかほのかにピアニッシモ・メンソールの香りがした。

「あなたは……?」

「しがない女神よ。ルチアナって呼んで。ねえ、あなた、今の生活から抜け出したくない?」

「抜け出せるなら……今すぐ抜け出したいです。でも、明日も朝九時から会議が……」

「いいのいいの! そんなクソみたいな会社、今日でバックレちゃいなさい!」

ルチアナと名乗るジャージの女神は、ウインクをして私の手に何かを押し付けた。

それは、やたらとゴツいゴールドの特注耐衝撃ケースに入れられたスマートフォンだった。ケースの裏には、なぜか地球のイケメンアイドル(朝倉月人、と書かれたシールが貼ってある)の満面の笑みがプリントされている。

「これは『エンジェルすまーとふぉん』。ネット通販からステータス改変、なんと惑星創造までできちゃう超絶チートアイテムよ! これを使って、異世界で好きに生きなさい! じゃあね、応援してるから! 月人君のドームツアー最高ォォォ!!」

「えっ、ちょっと待っ――」

私が声を上げるより早く、視界が強烈な光に包まれた。

   ◆

光が収まると、私は見知らぬ森の中に立っていた。

ひんやりとした夜の空気が頬を撫でる。見上げれば、地球では考えられないほど満天の星空が広がっていた。

遠くから、フクロウのような鳥の鳴き声が聞こえる。排気ガスの匂いもしない。何より、上司の怒鳴り声も、パソコンの駆動音もしない。

「……異世界、転生……?」

手の中には、先ほどのイケメンアイドルケースのスマホが握られている。

私は、震える手でそれを天に掲げた。

「やった……やったあああああ! これで私は自由だあああああ!!」

深夜の森に、私の歓喜の絶叫が響き渡る。

もうエクセルのマクロを組まなくていい! 稟議書にハンコをもらうために走り回らなくていい! 毎朝、満員電車に揺られなくてもいいんだ!

「女神様、ありがとう! ジャージ姿でメンソール臭かったけど、あなたは間違いなく本物の女神様です!」

私は感動の涙を拭いながら、これからのバラ色のスローライフを思い描いた。

この『エンジェルすまーとふぉん』があれば、ネット通販もできるし、ステータスをいじって無双することもできるらしい。まさにチート。異世界転生モノの王道だ。

とりあえず、今の私のステータスを確認してみよう。

画面をタップすると、見慣れたスマホのホーム画面に、天使の羽が生えたようなアイコンがいくつか並んでいた。

その中から【ご利用明細・ステータス】と書かれたアプリを開く。

『ポロン♪』

軽快な音と共に、画面に文字が表示された。

┌──────────────────────────────────────┐

│ 【ご利用残高照会】 │

│ ご利用可能枠:1,000,000円 │

│ 現在ご利用額: 999,000円 │

│ 実質残高 : 1,000円 │

│ ───────────────────────────────── │

│ 次回お引き落とし日:毎月27日(月々68,000円 / 36回払い) │

│ ※年率15% │

└──────────────────────────────────────┘

「…………はい?」

私は目を瞬かせた。

視力が落ちたのだろうか。いや、ブルーライトカット眼鏡越しに見ても、数字は変わらない。

現在ご利用額、九十九万九千円。

実質残高、千円。

「な、なにこれ!? 私、まだ何も買ってないんだけど!?」

慌てて利用履歴のタブを開く。

そこには、目を疑うような項目がズラリと並んでいた。

・『朝倉月人 福岡ドームアリーナツアー VIP席チケット』 120,000円

・『朝倉月人 アクリルスタンド全種盛りセット』 45,000円

・『アイドル育成ソシャゲ「月人アイカツ」 ガチャ100連』 30,000円

・『アイドル育成ソシャゲ「月人アイカツ」 天井完凸』 90,000円

・『銀座 高級エステ スタンダードコース』 80,000円

……以下略。

「ぜ、ぜんぶアイドルのオタ活と美容代じゃないですかぁぁぁ!!」

その時、画面上にポンッと小さなマスコットキャラクターのポップアップが現れた。

丸いスライムのような体に、ふざけたサングラスをかけている。

『ピコーン。はじめまして、内蔵AIの「賢者君(無料版)」です。何かご質問ですか?』

「あ、AI!? ちょっと賢者君! この借金どういうこと!? 私は今、このスマホをもらったばかりなのよ!」

『一回目の質問を消費します。お答えしましょう。前所有者である第3種惑星創造神格公務員ルチアナ様は、端末の所有権および【すべての債務】を、秋野リカ様に譲渡されました。規約に同意して受け取ったため、法的に譲渡は成立しております』

「同意なんてしてない! 押し付けられただけよ!」

『二回目の質問を消費します。クーリングオフ期間は存在しません。月額一万円の有料プランにご加入いただければ、さらに詳細な債務整理の相談に乗りますが、いかがなさいますか?』

「誰が払うか! というか、残高千円しかないから払えないでしょ! じゃあ、この六万八千円の引き落としができなかったら、私どうなるの!?」

『三回目の質問を消費します。本日の無料質問上限に達しました。簡潔にお答えしますと、支払いが遅延した場合、天界の「大宇宙管理局カスタマーハラスメント部」より、サングラスをかけた屈強な黒服の天使レスラーが取り立てに伺います』

黒服の天使レスラー。

文字面だけで恐ろしすぎる。

『債務者は身包みを剥がされた後、スーツケースに詰められ、シーラン国の「マグローザ漁船(遠洋蟹工船の過酷版)」へとドナドナされます。そこで船内通貨「ケツフキ」を賭けたチンチロ労働に従事し、借金と利息を払い終えるまで一生地上には戻れません。では、また明日』

プツン。

ポップアップが消え、画面は静寂を取り戻した。

「…………」

森の静寂の中、私はスマホを持ったまま硬直した。

異世界でチート無双? 自由なスローライフ?

冗談じゃない。

私は、ブラック企業の社畜から、異世界の『多重債務者』にジョブチェンジしただけだ。

しかも、このスマホのチート機能である『ステータス編集』は一回十万円。『惑星創造』に至っては一回百万円が必要らしい。

残高千円の私には、地球のネット通販で「カップラーメン」か「ボールペンの替芯」を買うくらいしかできない完全なハズレ端末だった。

「マグローザ漁船……一生、海の上……」

想像しただけで血の気が引く。

私はブラック企業の激務に耐え抜いてきた。理不尽なクレーム処理も、終わらない経費精算も乗り越えてきた。

それなのに、異世界に来てまで黒服に怯え、蟹工船に乗せられるなんて絶対に御免だ。

ギリッ、と奥歯を噛み締める。

私の中に眠っていた、総務課仕込みの『絶対に定時退社してやる』という社畜のド根性が、メラメラと燃え上がってきた。

「……やってやろうじゃない。借金が百万だろうがなんだろうが、絶対に稼いで完済してやるわよ! そして――」

私は夜空の星々に向かって、肺活量の限界まで息を吸い込み、思い切り叫んだ。

「あのクソ女神ぃぃぃぃ!! 絶ッ対に訴えてやるからなああああああ!!」

私の怒りの絶叫が、夜の森にこだまする。

ガサッ。

その時、背後の茂みが不自然に揺れた。

「ん?」

振り返ると、暗闇の中から、ギラギラとした下卑た笑い声が聞こえてきた。

「ゲハハハ! おいおい、こんな夜更けに森の中で叫んでるたぁ、とんだお転婆なお嬢ちゃんだなァ」

「見ねえスーツ着てやがるが、高く売れそうだぜ。ヒヒヒ……」

月明かりの下、ボロボロの革鎧を着た、明らかにガラの悪い男たちが三人、下卑た笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってくる。手には錆びた剣や斧が握られていた。

野盗だ。ファンタジー世界名物、治安の悪さの象徴。

「えっ……嘘でしょ」

チート能力なし。所持金ゼロ。残高千円のスマホと、借金百万。

丸腰の事務員(24歳)に、初日から絶体絶命のピンチが迫っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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