さん、に、いち、
掌編
大掃除の日が好き。整理整頓が苦手な私のために時折片付けをしに来てくれる陸が、一日中入り浸ってくれるから。
小さい頃はついでに一緒に年を越したけど、流石に高校生にもなるといくら時間が遅くなっても帰っちゃう。そうじゃなくても学校が離れたし、年齢が上がってくにつれて普通に会う回数も陸がうちに上がる回数も減っている。
帰るようになったのは中学生からで、同時期に私は新年を迎えるのが嫌いになった。
(いつも思うけど、こんなところでどうやって生活してんの)
フローリングが広がってる。雑巾掛けまでしっかりしたからぴかぴかだった。私は目の横の浅い溝を、近いところから壁までずうっと視線で辿って行く。
なんて広いんだろう。あんなに在った物が、消えたみたいに押し入れや机に体を納めてる。(きっと陸は、魔法使いなんだ。)
でもこの魔法はかなしくなる魔法みたいだった。広い。広い。
(まだ遣り足りないとこあるけど…もうこんな時間か、)
(ねー、陸ぁー)
(何?)
陸がいなくなるから新年がくるなら、私来年なんていらない。
帰りがけの陸にいうと、陸はしばらく呆けたみたいにこっちを見たまま動かなかった。
それから、ちょっとだけ笑って、「絹香、」と私を呼んだ。
(じゃあ、今から次の大晦日待ってていいから
新年が来るから、次があるんだろ)
だから、それまでいつも通り散らかしたらいい、って。
床から起き上がる。時計を見ると、あとちょっとで新年が来る。
一秒一秒、次また陸と会うときへ近づいていく。次の大晦日に近づいていく。
新年ははじめの一歩なのかもしれない。そう思ったら、あんまり嫌いでもなくなった。
『さん、に、いち、』
(次君に会うまで、たった一年)
20120101




