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かろりに会いに  作者: かろりんぺ
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新しいフレンド

 ほんの少しだけ。うん、ほんの少しだけだけど。

 ハンガーの束を整理しているときだった。

「最近なにか良いことあったの?」

 職場の先輩にそんなことを言われた。

「え? なんでですか?」

「なんでって、なんか前より顔がやわらかくなった感じがするんだよね。仕事に慣れてきたのかもね」

 そう言って先輩はあたしの肩をポンと叩いた。

 帰宅して家事をしていても、なんでこんなことしなくちゃいけないのかなんて考えていたあたしなのに、近頃では軽快に食器を取り出し、リズムよく鍋をかき混ぜたりしている。鼻歌までは歌わないけど。

 ほとんど彼と話すこともなくご飯を食べ、食器を片付けリビングに戻る。夜の窓の外を電車が横切っていく。薄緑色のカーテンを閉める。

 いつもはソファに寝ころんでいる彼が、めずらしくまだゲームをしてなくて床にあぐらをかいてテレビを見ていた。

「お前さ、最近なんかあった?」

 彼にも言われる。

「べつになにもないよ」

「あっそう」

 なにかあったかなんて聞かれても、なにがあるの? 

「これからトラあなするんだろ? 俺とさフレンドなってよ」

 いきなりそんなことを言われた。なぜ? と思った。

「べつに一緒にプレイしようってわけじゃないからさ」

「じゃあなんで?」

「いいじゃんべつに。ダメなの?」

「ダメじゃないけど……」

「なんて名前でやってんの?」

「……メロン」

「ラーンの川辺の、一本木が生えているとこにいて」

 彼はそう言ってだるそうにソファに寝そべり、トラあなにログインした。

 時計を見ると21:05。あたしもログインする。


 ラーンの武器屋の前。あたしの手には昨日買った『鉄のツメ』が装備してある。そして、陰鬱な気持ちで川辺に向かう。

 今日も川は穏やかに流れ、村の子供がジャンプして飛び越えていた。川沿いを歩くと大きな木が一本立っていて、その下に水色の髪をした男性が立っていた。

 近づくと男性は

「おう」

 と手を上げた。

「フレンド申請しとくから」

 それだけ言ってどこかへ行ってしまった。

 あたしの頭にチリリリンと音がして

『フレンドになりますか?』

 という文字が空中に浮かんだ。あたしは迷った。迷ったというか、『はい』にするのがためらわれた。でも、する。

 あたしは、あたしの彼『カクテル』とフレンドになった。


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