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かろりに会いに  作者: かろりんぺ
3/20

日常

 かろりさんはこん棒で、あたしは木の棒で。緑色のスライムを倒してレベルを上げた。初めて敵から攻撃を受けた時はびっくりした。ほんとうに痛いんだもん。

 そんなあたしにかろりさんはやくそうをくれた。最初

 え! なんでこんな刻まれたまずそうな物飲まなきゃいけないのよ。

 と、思って飲んだら、味もまた苦かった。そのままじゃん。

 かろりさんの見た目はあたしよりも上の感じがしたけどだったけど、なんとなく本当は年下なんじゃないかなと思った。かろりさんは敬語で話してくるし、あたしはため口を続けていたけど嫌そうじゃなかったし。

 きっとあたしはわがままなんだと思う。そして、それを出し合える高校からの友人といるととても楽。

 社会人として働いてみると、そんな自分はどこへ行ったんだとでもいうような遠慮がちなあたし。

 かろりさんとは会って何日か経ったけど、あたしはとても気が楽だった。というか、自分を出せている気がする。


 朝の駅前は嫌いだ。歩く人がみんな無表情に見えるし、そんなあたしも同じ表情で駅前のビルに入っていく。

『feeling』のロッカールームでは先輩の女性がもうすでに、まだ勤務時間でもないのに作業をしていた。

「おはようございます」

「おはよう」

 先輩女性は作業の手を続けながら顔を合わせず言った。早く帰りたいな。

 出勤して早々そんなことを想う。

 朝礼で挨拶の掛け声が始まった。

「声が小さい」

 そんなことを言われ、あたしは一人、やり直しをさせられた。もちろんあたしが悪い。高校の時のバスケの部活動では

「お前は声がでかいな」

 ってことで監督から副キャプテンに任命されたし、元気がモットーだったのに……

 

 残業をしていく先輩たちを尻目に、私は

「お疲れさまでした」

 と言って帰宅する。

 ビルの外に出てもあたしの気持ちは陰鬱としていた。きっと彼氏が帰ってきても、ご飯を食べ、お風呂に入り、特段会話もすることもなく。そんな光景が目に見えていた。

 日の入りが早くなったと感じる。駅前の数少ない街路樹の葉がもうすぐなくなりそうだ。もうすぐ12月か……


 帰宅してからあたしは彼とあたしのご飯を作った。今日はおでんにしようと思った。おでんの素を使う。大根を切り、あらかじめ作っておいたゆで卵、昆布は彼が嫌いだから入れないことにした。

 お風呂の浴槽もざっと洗う。シャンプーを買ってくるのを忘れた。彼は買ってきてくれるだろうか。

 ためしに一口大根をかじってみたけど、あまり味は染みていなかった。


 帰宅した彼はシャンプーを買ってきてくれた。そしてそのままお風呂場に行って補充してきてくれた。

 おでんも残さず食べてくれて

「腹いっぱい」

 と言ってソファに寝ころんだ。「おいしい」とは最近言ってくれないけど、それはそれで、期待はしてないけど、慣れたと言えばそんなとこかもしれない。

「お風呂は?」

 あたしが言うと

「朝入る」

 と彼は言い、ソファに寝ころんだままスマホをかざし、トラあなをプレイしだしたようだ。

 あたしはお風呂に入ることにした。


 湯船の蓋を開けると湯気が上がった。少しお湯が熱く感じた。

 彼とあたしは似た者同士なのかもしれない。ずっとそんなことを思っている。ただ、あたしのほうが弱い。だって、いまだに自分を出せていないんだから。

 乳白色の入浴剤であたしの身体が見えない。お湯の中の自分は本当は身体がなくなってしまっているのではないか?

 もう何年もしていないことをした。

 あたしは乳白色のお湯の中に頭から潜った。まるで、トラあなのプロフィール決定場面のように感じた。白い世界を想像する。

 このお湯からあがったら、あたしは新しい自分に変わっているのか。

 息が苦しくなってお湯から顔を出す。

 変わるわけないじゃん。なら、せめて……

 トラあなをしよう。

 あたしは湯船に蓋をした。

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