蝶林さゆり、そして妹になる
第三十四幕 海
秋葉原での対決の日からは、夏休み前半のゆったりした日々とは打って変わって、演劇部は濃密な毎日を過ごすことになった。
アイドル部の夏休み全国ツアーに彼女らも同行することになったからだ。
学校側としては文化祭の当日までに、少しでも演劇部の顔を売っておきたいわけだ。
といってもCDデビューするわけではなく、基本的にはフラワーパネルのバックダンサーとして踊ることがメイン。演劇部はダンスの猛特訓がスケジュールに追加された。
他にも前座やグループの交代のつなぎの時間に、これまでのコントを披露したりすることもあった。
雑誌やネット媒体含め、取材も初めて受けた。(僕は受けてないが)
握手会にも初めて参加。
芽理沙さんが拒否するかと思ったが、意外にもちゃんとやってくれていた。むしろ心や蜜葉さんよりもずっと上手だった。さすが数々の男を手玉にとってきただけはある。マロンもその点では同じ。ちょっと露骨に媚びすぎて嘘臭いけど。
さて、そんな風に慌ただしい夏休みの中、僕はミュージカルの第一稿をなんとか上げることができた。いつもの部室に演劇部員を集め、その報告ともう一つ大事な連絡を伝えることにした。
「水着で写真撮影ですって!?」
芽理沙さんが恐怖で顔をひきつらせながら立ち上がった。
「いやよ!それは死んでも嫌!」
「いよっしゃー!任せとけ!私のこの魅惑のボディで男共を悩殺してやるぜ!」
死にそうなほど悲観している芽理沙さんの横で対照的に喜ぶ蜜葉さん。
水着になった時に、魅惑のボディなのも、男共を悩殺するのもどう見ても反対だろうと思うが、命が惜しいので突っ込まない。しかし命知らずのマロンは容赦しない。
「あらぁ、そんな平坦さでぇ一体どこの層を悩殺するのかしらぁ。やっぱり私みたいに出るとこ出てないとねぇ」
「お前は胸と一緒に腹もでてるだろうが!以前よりは痩せたみたいだけど、まだまだたゆんたゆんだろうが」
蜜葉さんがマロンのお腹をゆさゆさ揺する。マロンは嫌がる素振りもせず。快活に笑いながら、逆に出るとこ出ている胸部を揺すってみせた。
「どうしよう、水着なんて中二の時のやつしかない。ちょっと子供っぽすぎるかも。急いで買いにいかなきゃ」
心も一人ではしゃいでいる。
アイドル部との合同ミュージカルの合宿が決まったことをみんなに伝えたところだ。
しかし急に決まったミュージカルだけに、練習をする時間があまりない。
しかも夏休みは多忙なアイドル部の三人。その三人とのスケジュールを合わせようとすると、彼女達が予定していた海でのファーストシングルのPV撮影と写真集の撮影に同行せざるを得なくなったのだ。彼女達の撮影の手伝いと、その合間合間で練習をするのだ。
と、そう伝えたのだが、どこをどう間違ったのか、アイドル部と一緒にPV撮影、写真撮影されると勘違いしてはしゃいでいる。
僕らはあくまで手伝いと練習だけなのだが……
ただ真実を言うと蜜葉さんはついてこない可能性があったし、何より面白いので勘違いを訂正しておかないことにした。芽理沙さんには後で本当の事を言っておこう。
あと水着になるなんて一言も言ってないのだが……さすがに生徒に学校サイドが水着を着せるのは如何なものかと、という判断で水着ではなく、あくまでワンピースとか夏の衣装で撮影は行うらしい。
あのアイドル三人のワンピース姿はきっと様になることだろう。
※※※※※※※※※
「うーーみーーー」
蜜葉さんが海に向かって吠えた。そして見事な健脚で、海に向かって砂浜を駆けていく。
「いやっほー。海だー」
心もはしゃいで、同じように波打ち際に走り出す。
やれやれと、それを見守る芽理沙さんとマロン。そして女優四人の荷物を必死で運ぶ僕。
僕ら演劇部は合宿が行われる海辺に来ていた。
砂浜は完全プライベートビーチで観光客はいない。
所有者に許可をとっての撮影になっていた。スタッフ陣もあとから来るが砂浜にはまだ僕らしかいない。
「さあ!ここから私のアイドルの道が始まるんだ!真夏のシンデレラに私はなる!」
蜜葉さんが輝く海に向かって拳を突きだす。
心も真似して「私もー」と同じポーズをとっている。
すっかり信じきっている彼女達を見ると少し心が痛む。
※※※※※※※※※
「騙したな……」
殺意のこもった怨みがましい視線を僕に投げつける蜜葉さん。
「騙してはいないです。ちゃんと海で写真撮影しているじゃないですか。ただ被写体が僕達じゃなくて、アイドル部の三人だけってだけで」
「テメエアトデコロス」
怒りのあまり片言になる蜜葉さん。
そこでカメラマンから怒号が飛んできた。
「ちょっとレフ板係!ちゃんと光当てて!」
「ぐ……は、はい!」
蜜葉さんはとっさに持っているレフ板の角度を修正し、僕らに向かい勝ち誇った笑顔を向ける蝶林の顔を照らした。
人気のない美しい砂浜で、さっそく写真撮影がはじまっていた。
猪島、蝶林、鹿野の三人が三人で仲良く談笑しながら砂浜を歩くという体で、写真と映像を撮っている。
僕らは、撮影助手と言う名の雑用係だ。
僕ら演劇部はレフ板という、光を反射させる撮影道具を持ち、被写体であるアイドル部三人を左右あらゆる角度から光を当てていた。
僕らが食堂ライブの時に手作りで作ったアイルミホイルとは違う、ちゃんとした高級レフ板だ。
重くはないがずっと手を上げたり一定の姿勢でいるのはなかなか苦しい。
しかもこの真夏なのに、日焼けしてはいけないからと、女優四人は長袖長ズボンに帽子という、蒸し風呂状態での手伝いとなる。
涼しげな白のワンピース姿のアイドル部三人とは、まったく偉い違いである。
ちなみに鹿野も勝ち誇ったような笑顔だ。
夏休み前のお手製レフ板を持たされた仕返しが出来て心底嬉しいのだろう。
猪島はもちろんアイドルとして正統派な爽やかな笑顔で、ちょっと眩しそうに海辺を歩いたり、跳ねたりしている。その姿は相変わらずこの世の妖精そのものである。
猪島は心との対決以降、憑き物が落ちたように険しい表情が消え、僕らに対しても普通に接してきた。
「いいよお、いいよお!蝶林ちゃん、その笑顔いい!何か凄く嬉しそうなのが伝わってくるよお。鹿野ちゃんも嬉しそうなのはいいけど、何だろうちょっと邪悪っぽいよお。もっと自然にリラックスしてねー」
プロのカメラマンが、胡散臭い誉め言葉を良い続けている。
「なんという惨め……写らないだけならいいけど、何で私たちがあいつらの撮影の手伝いしてるんだよ!」
蜜葉さんは変わらず僕に恨み言をぶつける。
「ですから撮影手伝いだって言ったじゃないですか……騙してはいないですよ。誤解を解かなかっただけで」
「それを騙したっていうんだろうが」
蜜葉さんが今にもレフ板を放り投げて、僕に向かって飛び蹴りをしそうなオーラをだしている。そんな狂犬をなだめるように、背後から美沢先生がやってきた。
「まあまあ、仕方ないよ。急に六人分の旅費やら宿泊費が発生しちゃったんだもん。予算オーバーだよ。撮影助手のスタッフを削るしかないのさ。その分働かないとね」
彼女はセパレートの水着にパーカーを羽織った格好で、この海を堪能する気満々だった。手伝う気は皆無のようだが。
実は教頭と対決以降、まともに先生の顔が見れない。
先生の不倫をネタに勝ち取った舞台だけに、土下座しても謝罪と感謝をしても物足りないぐらいだが、僕の脅し文句って教頭から伝わっているのかは聞いていない。先生も言ってこない。とてもじゃないが怖くて聞けない。
「はい、カット!ここで一旦チェックさせてもらうね。その後は藻乃ちゃんと鹿野ちゃんのツーショットを撮ろうかな。それまでちょっと休憩しようか」
カメラマンがアイドル部の三人に休憩の声をかけ、それぞれパラソルの下に戻って休憩を取り始めた。といっても、休憩中にもプロのメイクさんが彼女達のメイクの状態をチェックしたり直したりしているのだが。
「だあ、やっと解放されたあ」
僕と蜜葉さん達四人も、汗だくになりながらそれぞれパラソルの影に隠れようとする。
しかし僕は休ませてもらえそうにない。
「おい、鏑木男のほう!ちょっと喉渇いた。飲み物くれよ!」
蝶林がにやにやしながら僕に向かって言ってきた。僕がクーラーボックスからお茶でも取ろうとすると、
「あーその中に飲みてえのねえな。お前ちょっとホテルまでダッシュで走って自販機でコーラ買ってこいよ。撮影再開されるまでにな、急げよ!」
ホテルまでは徒歩で十分くらいだ。しかしのんびり歩いてるわけにはいかない。蝶林のいう通りダッシュでいかなくては、業務に支障が出る。
先日の僕の行動に対しての嫌がらせだろう。こっちが公表する気がないのがバレてしまえば別に喫煙写真は脅しにもならない。お礼参りみたいなことはないが、こういった小さい嫌がらせが後をたたない。
くそこのアマ……アイドルじゃなきゃぶん殴りたい。でもアイドルだから許しちゃう!
「わーかりましたよ」
僕がホテルまで急いで戻ろうとすると、大谷が急に立ち上がった。
「薫風く~ん。カメラマンさんが呼んでわたよぉ。コーラは私が買ってきてあげるねぇ」
「お、おい何もお前がいかなくても」
俺と蝶林が止める間もなく大谷はホテルに向かって走っていった。
その姿が見えなくなり、カメラマンに「呼んでないよ?」と言われたところで僕ら四人は気がついた。
「あ……あいつ逃げやがった!」
僕を含めた演劇部四人が顔を見合わせる。
そして皆次にこう考えているのがわかった。
「その手があったか!」
僕を除く、心、蜜葉さん、芽理沙さんの女子三人が、盗塁する走者と投手のように牽制しあっている。
「マロンのやつちょっと遅いんじゃないかな」
蜜葉さんが口火を切った。
「ええ、そうね。心配だわ。何せあのでぶ、じゃない、肥満、でもない、人より重力の影響を強く受ける体型だもの。日射病で倒れているかもしれないわ」
芽理沙さんが憂いの表情をする。台詞はひどいけど。
「私探してくる!だって中学からの友達だし!」
殊更、友達であることを主張する心が追いかけようとすると、芽理沙さんがそれを阻止した。
「待って心。以前に逃げ出した私を追ってくれた恩をまだ返せていないわ。ここは私に任せて」
「そんな遠慮しないでください。先輩を走らせるわけにはいきません!」
「いえいえいいのよあなたこそ遠慮しないで」
「二人とも、とにかくいいから、ここはなんとなくこの文月蜜葉に任せろー!」
女優三人がこれまでに培った演技力で、それぞれ追いかけようとする。あと蜜葉さんはもうちょい建前をなんとかしろ。
「おーい、撮影再開するよー。レフ板もってー」
しかし時既に遅し。カメラマンから撮影再開の合図が来てしまった。
「あれ?一人足りない?じゃあ美沢先生でいいや。先生もちょっと手伝ってください」
「へ?嘘?本当に?」
一人ビーチベッドに優雅に寝転がり、バカンスを満喫していた美沢先生に白羽の矢が立った。
「こうしちゃいられない、大谷が心配だ。迷子かもしれない。探しにいかないと」
「おっと逃がしませんよ、先生。先生もちゃんと働きましょうか」
慌てて逃げようとした美沢先生の手首を、しっかり掴んで話さない蜜葉さん。
「く、くそ~。大谷のやつ~」
美沢先生の恨みが美しい海にこだました。
こうして海辺での撮影が終わり、撤収しようとした時だった。
撮影機材を片づけていた僕、芽理沙さん、蜜葉さんの三人の所に蝶林が一人でやってきた。
「ご苦労だったな。レフ板係。明日も頼むぜ」
人を小馬鹿にした蝶林のその一言で、我慢の限界だった蜜葉さんがとうとう切れた。
「てめえ、年上にはお疲れさまだろうがあ」
意外とちゃんとマナーは知っているようだ。空手道場通ってたからか。
だが腹がたっても蹴りをだしてはいけないとは習わなかったらしい。彼女は最初に出会った時と同じようなドロップキックを蝶林に炸裂させる。
しかし蝶林は予想していたのか、蜜葉さんの蹴りを横に飛んでかわす。
ひーやめて、アイドル部員に怪我させたら、僕ら絶対停学ですよー。
「いきなりかよ!そういや、先輩とのバトル、お預けになってたよなあ。ここで”決着”つけるかよ~」
ファイティングポーズをとる蝶林。なんつう血の気の多いアイドルだ。八十年代かよ。
そんな蝶林の前に芽理沙さんが立ち塞がる。
「ち、何だよ。怪我したくなきゃどきな」
「いいえ、どかないわ。蜜葉を馬鹿にするのは私だけの特権よ」
「馬鹿にはするなよ!」
背後から蜜葉さんが突っ込む。
「あと私を馬鹿にするのは万死に値するわ。あの男はどうでもいいけど」
「知るかよ、ちょっと美人だからって演劇部が調子のるなよ。ちょっとどいてな」
蝶林が芽理沙さんを突き飛ばそうと肩に腕を伸ばした次の瞬間、その腕を芽理沙さんが掴んで引き寄せた。そしてそのまま芽理沙さんの足払いが綺麗に決まり、蝶林の細身の体が空中で弧を描いて一回転した。
「へ?」
一瞬理解が遅れたからか、蝶林はまともに受け身もとれず背中から砂浜に叩きつけられた。激しい痛みと呼吸困難に陥ったはずだ。さらに間髪をいれず、みぞおちにハンマーで打ちつけるような正拳突きが入った。
これだけで十分勝敗は決したと思うのだが、とどめに背後から首の頸動脈を絞められ蝶林はあっという間に落とされた。
つ、強い!この人こんなに強かったのか。
「ふう、スッキリしたわ」
芽理沙さんは何事もなかったように、爽やかな笑顔で立ち上がる。
「あわわわ、な、な、な何してるんですか」
僕は慌てて周囲の様子を伺う。今の一連の行為を大人達に見られていたら大変だ。
しかし幸いなことに誰も見ていないようだった。
「ちょっと芽理沙さん、あいつ大丈夫なんですか?死んだりしてないですよね?」
「大袈裟ね。ちょっと気を失ってるだけよ。全然平気よ。それより今のうちに何か脅迫するような写真でも撮る?好きでしょ?」
「好きじゃありません!それより早く起こしてくださいよ。何かあるんでしょ。背中とか押すやつ」
「はいはい。仕方ないわね」
彼女は失神している蝶林の上半身だけを起こし、背中から活入れを行った。横隔膜を強制的に動かされ無理矢理呼吸をさせられると、蝶林の体と意識が呼び戻された。
「かはっ……ぐ……いて……どうなった。あ……ま、負けたのかあたしが」
自分が数秒間気絶し、勝負に負けたことを理解したようだった。
正直この後蝶林がどう出るかまったく未知数だった。今のことを上の人間に報告されたら一大事だ。やっぱり写真撮っておけばよかったかな。
「これに懲りたら二度と私たちに軽口は叩かないことね」
芽理沙さんはそんなことはまったく気にせず、敗者を余裕たっぷりの表情で見下ろしていた。
恨み言をいい敗走するか、もしくは再度立ち向かってくるか、どちらかかと予想していたが、蝶林の次の行動はそのどれでもなかった。
「敗けた。あたしの完敗だ。身の程知らずに反抗してすいませんでした!」
蝶林は驚くほど素直に頭を垂れて謝罪した。逆にその変わり身が怖い。
そしてその後に続くセリフはもっと驚いた。
「それで剣条先輩!どうか一つお願いを聞いてください!先輩のこと、あたしにどうか姐さんって呼ばせてください!」
「は、はあ?あなた何を言ってるの?」
突然の申し出に困惑顔の芽理沙さん。
「私、姐さんに惚れました!その強さ!美しさ!姐さんこそ女の中の女!アイドルの中のアイドルっす!私の姐さんになってください」
アイドルの評価ポイントの中に「強さ」があるとは知らなかった。
「い、いやよ。ちょ、ちょっと近づかないで」
恐怖の表情を浮かべ後ろへ後退する芽理沙さん
「待ってくださいよ、姐さん。撮影助手でお疲れでしょう。荷物私が持ちますよ」
「姐さんと呼んでいいなんて言ってないわよ。それに荷物なら自分で持つわよ」
「そういうわけにはいかないっす!私姐さんの力になりたいっす」
喧嘩に勝った負けたで、こうまで態度が変わるとは……これが謎のベールに包まれているヤンキーの生態か。
二人のやりとりを呆然と見つめる蜜葉さん。
「よくわからんがどういうことなんだ」
彼女の理解を越えているのか、蜜葉さんが不思議そうに首をかしげる。
「昔からのお嬢様学校だと、スール制度という上級生と下級生が姉と妹の契りを交わす制度があるらしいと、昔鹿野から聞きました。そんなアニメがあったらしいですが」
「ほうほう。男子校で俺様系先輩と可愛い系後輩が兄と弟の関係になる、ってことか。いいじゃんいいじゃん!」
「なんで男子に設定しなおしたのか突っ込みませんよ」
「いや、でも待てよ。むしろ逆の方が兄と弟ということを考えるといいかもしれないな」
一人で人間掛け算の考察を続ける蜜葉を無視して話を続ける。
「とにかくそのスールとかいう姉妹制度のヤンキー版ですね。ヤンキーらしく、「お姉さま」が姐さんになってますが」
「なるほどな。あいつ芽理沙の義理の妹になったということか」
「妹なんていらないわよ!ちょっとこの娘どうにかして!」
ひっついてくる蝶林をぶん投げながら、芽理沙さんが助けを求めてきた。
むしろ蝶林は投げられると、余計に嬉しそうに芽理沙に向かっていく。
「どうします?」
今度は僕が蜜葉さんに質問する。
「なんであれ芽理沙に知り合いが増えるのはいいことだ」蜜葉さんはうんうんと頷く。「新しい出会いを祝福して、私たちは先に帰るか」
「そうしましょう」
僕と蜜葉さんは荷物を持ちそそくさとホテルに帰りはじめた。
背後からは二人の声が聞こえる。
「あ、こら待ちなさい!ちょっと待って!」
「姐さん!お疲れでしょう!私ホテルまで姐さんを背負っていきます!その後お風呂でお背中流させてください!女同士裸のつき合いも大事っす。その後ベッドもご一緒させて……」
「嫌~」
芽理沙さんの叫びは波がさらっていった。
どこまで本気なのかはわからないが、こうして彼女に熱烈なファンというか、妹というかあほな後輩が出来た。
蜜葉さんしかいない、狭い社会科準備室から歩き出した成果といえるだろう。彼女は弊害と言うかもしれないが、どちらであっても間違いなく実りなのだ。
以後、蝶林が僕らに敵対心を見せることはなくなったので、それはとてもありがたい。芽理沙さんは非常に迷惑していそうだが。




