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泣いても笑っても試験は終わり、お芝居は泣いて笑って終わり

第二十六幕 教室


土曜日の撮影は順調に終わった。

マロンがクーラーボックスくらいのジェラルミンケースから、望遠レンズを取り出した時はその大きさに軽く驚いた。バズーカと評していたのも頷ける。他にも普通のレンズなど様々。

レンズは物にもよるがカメラ本体よりも高いこともある。これだけあればカメラはアイドル部には負けてなさそうだ。(むろん女子たちだって負けてないが)

最初は教室で撮るだけなのだし、そこまでの望遠は必要ないだろうと思っていたが、望遠カメラで近い距離を撮ると、画角が狭まり遠近感が薄くなるので、懸念事項だった四人の大きさ問題も解消された。

またいいレンズだと綺麗に背景をぼかすこともできるので、素人なりに女優達が目立つかなりいい写真が撮れた。カメラとレンズっていうのは大事なんだな。

背景をぼかすには、シャッター速度と露光量の関係がどうとかこうとかマロンが教えてくれたが、そこらへんはよくわからないので、設定だけしてもらってあとはシャッターを押すだけ。

さてそろそろお手伝いが来る頃だが。

その時扉が勢いよく開かれ、鹿野が無駄にポーズをつけて入ってきた。


「くっくっくっく。どっど、どうしてもいうので来てやったぞ。ぼ、凡民ども感謝するがよいぞ」


今日だけは鹿野にも手伝いで来てもらった。


「あれアイドル部の奴じゃん。どうしたん?」


蜜葉さんが疑問を口にする。


「ちょっとヘルプに来てもらったんですよ。人手が足りなくて。鹿野ありがとうな。わざわざ休日の学校まで来てくれて」

「と、と、常夜の闇より我を召喚してまでの契約履行。よ、よ、よほどの事なのであろうな」

「ああ、鹿野じゃなきゃだめなんだ。頼む。心を助けると思って協力してくれ」

「くっくっくっく。そ、そのような殊勝な態度でおればよいのじゃ」

「じゃあ早速これを頼む」


僕は手に持っていた段ボールの板を鹿野に手渡した。


「な、なんじゃこれは?」

「これはレフ板。というやつだ。アイドル部なら見たことはあるだろう。それの手作り版だ」


段ボールの板には一回くしゃくしゃにしてから伸ばしたアルミ箔が貼られてある。

ネットで見た手作りレフ板である。全部家にあるやつだけで作ったのでほぼタダだ。

ちなみにレフ板というのは、光を反射させる板で、これを撮影対象に向けることで、対象が明るく撮れるのだ。レフ板のあるなしで写真の出来は全然違う。

アイドルと女優は光が命。


つまり彼女は手作りのレフ板を持ってもらう役だ。


「な、ただの雑務ではないか!」

「お願いカノン!カノンにしか出来ないことなの!」


心が手を合わせる。


「そうよぉ。大丈夫簡単だから。カノンでも出来るお仕事よぉ」


マロンも褒めるような貶すような相槌をうつ。


「くっくっくっく。そこまでいうなら仕方ない。我に任せよ」

「ちょろいわねぇ。あほな美人って恰好の獲物よねぇ。ちょっと彼女の将来が心配だわぁ」

「しっ!カノンも納得してくれたんだからいいの」


そんなわけで雑務以外の何物でもない作業を引き受けてくれた鹿野。こんなことでも心と同じ部活動が出来たことが嬉しかったのかもしれない。


「はい!撮るよ!」


しんとした教室にカメラのシャッターが高速で閉じられる音だけが響いた。

撮れた写真はその場でノートパソコンで編集。これらも暇そうな鹿野に一任である。


「ま、待つのじゃ!わ、我はパソコンは、DVDのリッピングや、撮り貯めたアニメの編集、およびネットの放送チャンネルに生配信くらいしか、し、したことがないのじゃ」

「高一でそれだけ出来ていたら十分だと思うぞ」


 というか生配信とかしてたのか。中三の時は一人で暇そうだったもんな。そういうことしてたのか。


「が、画像ソフトも安価なペイントソフトしか使ってきておらんし、い、イラストだって投稿サイトにアップしてもブクマは全然つかんし、ぽ、ぽ、ポイントもなかなか百いかんぐらいじゃ」

「あー十分だ十分だ。お前こそ僕たちが求めていた人材だ」


何だか彼女のプライベートがぼろぼろ出てくるが、即席デザイナーとしての戦力としては十分いけそうだ。


「良くわかんねえけど頼んだぜ!」

「そうね。パソコン関係は私もさっぱりだし」


蜜葉さんと芽理沙さんも適当に応援してくれる。


「カノン色々出来てすごいじゃん!」

「放課後暇だったのねぇ」


多方向から褒められて(一人褒めてないが)満更でもない顔をする鹿野。


「よし!じゃあ頼むぞ!」


こうして鹿野を無理やり椅子に座らせ、マウスを握らせる。


「く、何故我がこんなタダ働きを」


文句を言いつつも、プロ用の画像ソフトを立ち上げ写真を取り込み始める。


「で、でも本当によくわからないのじゃが……」

「大丈夫だ。こういう時の為に切り札がある」


僕はそっとスマホを鹿野に手渡す


「これが?」

「これでググれ」

「や、闇に沈め!」


こうして鹿野にすべてを丸投げする。HDR画像を通常画像にデジタル現像することから始まり、露光量の調整、レイアウト変更、色味補正、その他ちょっとだけニキビなんかを消したりするスタンプ修正などを、鹿野一人に作業してもらう。

僕にはわからない事が多かったが、鹿野が頑張ってくれた。


僕らはその横で、なんとか書き上げてきた恋愛物の脚本をみんなに読んでもらい、気になるところはその場で修正し、通し読みなどを行っていた。

物語は、友人である蜜葉さんに恋い焦がれる芽理沙さんと、僕が出会うところから始まる。

友人への偽装工作の為、芽理沙さんの偽彼氏になるが、彼女の人柄に触れそんな百合属性の彼女に惚れてしまう。一方で蜜葉さんは僕を好きになっていく。

といった定番ともいえる三角関係をコメディタッチで描く。

目玉シーンは蜜葉さんと芽理沙さんのキスシーンだ。軽いの重いのとで計二回ある。

あとは笑いどころとしては僕の女装シーンか。彼女の気を引こうと女装したりするのだが、その着替えを食堂のどこで行うかなども相談する。

鹿野のデザイン作業が完成する頃には、陽もどっぷりと沈んでいた。

これに『泣いても笑っても試験は終わり、お芝居は泣いて笑って終わり』というキャッチフレーズと日時をつけてポスターは完成。

なかなか良い出来映えだと思った。


撮影後は持ち帰るのが重い、また使うかもしれないという理由で、カメラとパソコンは部室に放置。こんな高級品をこんな部室に放置できるとは、さすがベリー金持ち。


翌日のクラス公演からは、ポスターを小さくしたチラシも配ることを始めた。それだけではなく各種SNSに投稿。個人レベルでやれることはどんどんやった。

これまで大々的に宣伝しないで、口コミレベルでやっていたのは、ギリギリまでアイドル部の上層部から目をつけられたくなかったからだ。

アイドル部の上層部イコールこの学校そのものだ。

学校を敵には回したくない。部の承認だって困難になる。

しかし今回のアイドル新人ライブへの妨害にも似た挑戦は、ハッキリとアイドル部に対して敵対心があることを表してしまう。

食堂が借りられたのも、生徒会長や美沢先生の口利きのお陰なのだが、今後は何らかの圧力や妨害工作で、借りることが困難になるかもしれなかった。

でも賽は投げられたのだ。勝負どころではやるしかない、結果をだすしかない。賽を投げたカエサルだって、勝ったから名言になったのだ。ここは一気にできるだけ宣伝していくしかない。

試験勉強なんてほとんどやらず、試験期間中ですらひたすら練習練習。そしてあっという間に運命の試験最終日を迎えた。


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