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女王

 窓の外では深々と雪が降り続いている。降り始めて既に三日目になるそれは、辺り一面を見事な銀世界に変えていた。石造りの白い城は静まり返り、すっかり冷え切っていたが、最上階に位置する部屋だけは、心地よい温度で満たされていた。

 暖炉の火が、伸び縮みをするようにしてその形を変えている。床にできた影が鏡のように同じ動きを繰り返している。それをぼんやりと見つめながら、女王は、無表情で最後の行に記された文字を爪を立てるようにしてなぞった。足元には、円形に固まった蝋が落ちている。つい先刻までその手紙に封をしていた赤茶の蝋には、獅子の紋様が刻まれていた。


 女王はゆっくりと首を回した。白で埋まった窓の外の景色を眺める。城から北に行って深い森を超えた先には、彼の王の国があった。


 王はどうやら死んだらしい。ギロチンで首をはねられて、たわいもなく、あっけなく。彼の王の首はとんだらしい。


 女王は、しばらく前から扉の外で控えていた大臣を呼んだ。重厚な木の扉が開く。


「大臣。彼の王が置き土産をくれた。やはり西の諸侯が反乱の糸を引いていたようじゃ。即刻北の諸侯どもに使者を送れ」

「それでは陛下……」


 ああ、と頷いて女王は微笑んだ。


「彼の国を我が物に」

「御意に」


 音もなく大臣が下がってゆく。後はあの老人がうまくやってくれるだろう。そろそろいい年だが、まだ使える男だ。


 椅子に座りなおすと、いつの間にか握りつぶしていた手紙が、カサリと音を立てた。手紙は所々赤く染まっている。これを城に届けた使者は、そのまま事切れたそうだ。


「王よ。どうやら(わらわ)の勝ちのようじゃ。そなたは死んで、妾は生きておる」


 女王はもう一度羊皮紙に視線を落とした。血で汚れた紙には、しかしいつもと変わらぬ流麗な字が並んでいる。



 王は、ついに最期まで、何も言わなかった。



 女王はおもむろに立ち上がると、暖炉へと足を向けた。柔らかな真紅のカーペットが足を受け止める。女王は笑っていた。


「王よ。妾たちは確かに終生相容れんかった。しかし、最後の最後にどうやら気が合ったようじゃな」


 女王の顔が炎に照らされて赤く染まる。その様は、さながら彼の王の血を浴びたようだった。


「王よ」


 女王の細長い指が、躊躇いもなく手紙を手放した。


「妾もおぬしが大嫌いじゃよ」


 そうして踵を返した女王は、二度と振り返らなかった。



 パチパチと爆ぜる赤い火が、王の残したさいごの手紙を侵食していった。







I don't know whether you love me,

but,

I know that I don't love you.


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