エピローグ「時の止まった塔で、僕たちは終わらない夢を見る」
塔の最上階から見下ろす森は、深い緑の絨毯のようにどこまでも続いていた。
外界の時間は絶え間なく流れ、王国がどうなったのか、あの愚かな者たちがどのような末路を辿ったのか、今の僕たちには知る由もなかった。
風の噂すら届かないこの場所で、僕たちはただ二人きりで生きている。
塔の周囲に張られた結界は、サイラスの魔力と僕の増幅の力によって、いかなる干渉も許さない絶対の壁となっていた。
僕は窓辺に座り、サイラスが淹れてくれた温かいお茶の香りを胸いっぱいに吸い込む。
背後から彼が近づいてくる足音が聞こえ、僕は振り返らずに微笑んだ。
「外の世界が、恋しくなることはないか」
サイラスが僕の背後に立ち、その長い腕を僕の肩に回す。
彼の大きな手で包み込まれると、世界中のどんな寒さからも守られているような安心感があった。
「ありません。僕の望むものは、すべてこの塔の中にありますから」
僕は彼の手のひらに頬をすり寄せ、その熱を確かめる。
「それに、師匠が僕をどこにも行かせてくれないでしょう?」
「当然だ。お前は僕の契約者なのだから」
サイラスは僕の耳元に唇を落とし、低い声でつぶやく。
「僕の命が続く限り、お前をこの箱庭に閉じ込めておく」
「あなたの命は、僕が永遠に繋ぎ止めます。だから、僕たちは一緒に永遠を生きるんですよ」
僕の言葉に、サイラスは満足げに目を細めた。
かつて彼を蝕んでいた呪いは完全に消え去り、彼の魔力は今や僕たち二人を生かすための穏やかな泉となっている。
傷つき、居場所を失った僕たちは、互いの欠けた部分を埋め合わせるようにして、完璧な円を描いた。
彼が僕を過保護に扱い、僕が彼を深く甘やかす。
それは外から見れば異常な関係かもしれない。
しかし、僕たちにとってはこれこそが真の幸福だった。
枯れ果てていた中庭には、今は色とりどりの花が咲き乱れ、豊かな果実が実っている。
その景色は、まるで僕たちの心をそのまま映し出しているようだった。
サイラスが僕を抱き上げ、窓辺からベッドへと向かって歩き出す。
彼の腕の中で、僕は静かに目を閉じた。
過去の痛みも、未来への不安も、ここには何一つ存在しない。
時の止まった灰色の塔で、僕たちはこれからも終わらない夢を見続ける。
ただ一人、最愛の人と交わした永遠の契約と共に。




