番外編「銀の髪を梳く指先と、甘すぎる朝のまどろみ」
窓から差し込む光が、ベッドカバーの上に柔らかな陰影を描いている。
王都での出来事から数ヶ月が経ち、時の塔には完全に穏やかな時間が戻っていた。
僕は微睡みの中からゆっくりと感覚を取り戻し、まぶたを押し上げる。
目の前には、いつものようにサイラスの整った寝顔があった。
彼の長い腕が僕の腰を抱き込み、逃がさないようにしっかりと拘束している。
呪いが解けた事で、彼の周囲に常に渦巻いていた凶悪な魔力の圧迫感は消え去り、今はただ静かで温かな力が僕の肌を包み込んでいた。
僕はそっと手を伸ばし、彼の銀色の髪を指先で梳く。
絹のように滑らかな感触が、指の間を滑り落ちていく。
かつて孤独に命を削っていた彼が、今こうして僕の腕の中で無防備に眠っていることが、不思議でたまらなかった。
「……起きているのか」
突然、彼が低い声でつぶやく。
閉じていたはずの金緑石の瞳が、静かに僕を見つめていた。
「起こしてしまいましたか」
「いや。お前の指の感触が、心地よかっただけだ」
サイラスは僕の手首を掴むと、その手のひらに唇を押し当てた。
骨張った大きな手から伝わる熱が、僕の血脈を甘く焦がしていく。
「今日は、何をしたい」
「そうですね……書庫の整理の続きをして、中庭の花に水をやりたいです」
「掃除などしなくていい。魔法で一瞬で終わることだ」
サイラスは眉間にしわを寄せる。
彼の過保護ぶりは、呪いが解けた後もまったく変わることがなかった。
いや、むしろ僕が一度王都へ戻ったことで、彼の中の独占欲は以前よりもさらに強くなっていた。
「自分の手でやりたいんです。ここは僕たちの家なんですから」
「お前の手が汚れるのが気に入らない」
「師匠は本当にわがままですね」
僕が小さく笑うと、サイラスは僕の腰を引き寄せ、自身の胸元に深く埋めた。
彼の長い脚が僕の脚に絡みつき、逃げ場を完全に塞がれる。
「お前が僕を甘やかすからだ」
耳元で囁かれた声に、背筋がゾクッと震えた。
彼は僕のうなじに顔を埋め、ラベンダーの香りを深く吸い込む。
そのまま微かに肌を噛まれ、僕は思わず身をよじった。
「師匠、くすぐったいです」
「動くな。まだお前の魔力が足りていない」
「昨日の夜、あんなに混ざり合ったじゃないですか」
「足りない。お前のすべてを僕の中に満たさなければ、気が済まない」
サイラスの指先が、僕の背中の薄い皮膚をなぞる。
そこから流れ込んでくる彼の魔力は、熱く、重く、そしてどこまでも甘やかだった。
僕の透明な回路が彼の熱に呼応し、ゆっくりと色づいていくのを感じる。
窓の外では、青い鳥が中庭の木の枝でついばみ合うように鳴いていた。
僕たちを縛るものはもう何もない。
この塔の中で、彼に溺れ、彼を溺れさせるだけの甘い時間が、ただ静かに流れていく。
僕はサイラスの首に腕を回し、自らその熱い唇を求めた。




