249【撤退して欲しい】
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少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
翌日。
自然に目覚めたということは、駐屯地の部隊は、動いていない、ということか。動いたら、索敵さんが起こしてくれるからな。
では、ようすを見てきますか。
オレは、隠遁して、上空から駐屯地のようすを見に行く。
あっ、門のところ、真っ赤になってる。触っちゃったのか。煉獄の実を見たことがないヤツばかりだったのか?
そこからだいぶ奥にならないと、人がいない。煉獄の実の効果を目の当たりにしたからだろうな。
さて、設営テントはいくつもあるが、おそらく一般兵のものだろう。冒険者ギルドを根城にしてそうだから、そっちに行ってみるか。
冒険者ギルドの扉は開いていたが、ふたりの衛兵が両脇に立っている。でも、オレは素通りするよ。
カウンターにも食事処にも人の姿はなく、閑散としている。
二階へと進む。ドアが開いていたので、覗き込んだ。部隊の隊長格と思われる男たちが顔を突き合わせて、侃々諤々と言い争っていた。
内容は、撤退か侵攻、だが、どちらにせよ、門を通らねばならぬ、とか。我々騎士団が塀をよじ登って逃げるような真似はできまい、とかなんとか。
これは、決定打が必要か。
そこで、オレは声をかけた、怪しい声で。
「帰還、した。帰還、した」
全員が周囲を見回す。
「誰だ!」
「馬が、いない。馬が、いない。連れ帰って、くれぇ」
「ふざけるなっ! 誰のイタズラか!」
では、みなさんに恐怖してもらいましょう。位置を指定して、ポチッとな。
一瞬、時間が止まった。彼らの時間が。
次の瞬間には、全員が悲鳴を上げた。
それもそうだろう、彼らの背中には、遺骸が背負われているのだから。
彼らは、遺骸を振り払おうとする。
回収。
唖然呆然の男たち。
しばらくして、落ち着いたらしく、ひとり、またひとりと席に着く。
「なんだったのだ、今のは?」
「まるで戦場でケガを負った騎士を背負っているようだった」
「ああ」
ほかの面々もうなずく。
「これって、連れ帰れ、ってことか?」
「だが、遺骸はどこにある? オーガに殲滅されたのだぞ」
「取り戻すのか?」
「オーガ相手にか?」
「もう喰われてしまっているに決まっている」
「だが、門のところに突き刺された剣は、先遣隊のひとりが持っていたものだ、との証言もある。剣だけが戻ってきたとでも言うのか?」
「それは誰かが持ってきたに違いない」
「誰が、ですか? そんな言葉では、騎士たちは納得しませんよ?」
「ムムッ」
「あの煉獄の実もそうです。どうやって、あそこに置いたのか。あれで、私の部下が使い物にならなくなったのですぞ! どなたでしたかな、勝手に指示を出したのは?」と怒り。
「す、すまん」
「謝るくらいなら、指揮系統くらい、守ってもらわねば困ります! 帰ったら、軍事法廷に直訴するつもりですからな! 首を洗って、待っていてください!」
「そ、そこまで――」
「そこまでのことです! 今にはじまったことではないのですぞ! あなたがどんなに偉かろうが、もう我慢の限界です! このまま、ここで更迭してもよろしいのですぞ! 今回の作戦は、みなが反対してまいりました! それをゴリ押しされたのは、どなたでしたかな? 王弟殿下」
おっ、王弟殿下だって。
「だが」と別の隊長。「ここまで来られたのは、王弟殿下の作戦があったればこそではないか」
「ゴウヨークの民に何をしたのですか、王弟殿下! あんなに気が触れた人間など、見たことがない! おかしいおかしい、と首を傾げてきたが、どうやら王弟殿下の工作員が何かをしたようですな」
「わ、私がやった、と申すか!」
あっ、これは部隊の誰も麻薬のことを知らない、のか。
これを見ても、わかるかなぁ。
王弟殿下の前に、例の像を置く。
なんだ?という顔の面々だが、ただひとりだけが、悲鳴を上げて逃げ出した。王弟殿下だ。
意味がわからない面々。
ふむ。これは、ちと厄介なことになったな。
仕方ない。
「失礼する」とドアそばで隠遁を解く。
「何者か!」と全員が剣の柄に手をやる。いいねぇ。練度が高い。
「サブと申します。ゴウヨーク国国王の工作員とお思いください」
「な、何!?」
「今の王弟殿下との会話を聞いておりました。どうやらあなた方は、真実を知らされていないごようす。その像は、密輸するために作られた、高純度の麻薬です」
「麻薬?」
「はい。本来は、バグラール侵攻のために用意され、捕虜に使用して、バグラールに戻し、反乱を起こさせるためのものです」
「バグラール侵攻は、知っているが、麻薬を使用しているとは、聞いたことがないぞ」
「だが」と別の隊長。「侵攻速度が早いのは、不思議だった。麻薬を使用してのものであれば、考えられなくもない」
「おい、待て」また別の隊長。「今回の侵攻速度、バグラール侵攻と同じくらいの速度じゃないか? 麻薬を使用しての侵攻ならば、あの民たちのようすもうなずける」
考えながらうなずく面々。
「これを見て」とオレ。「逃げ出した王弟殿下は、麻薬の存在を知っていることになります。こんな卑怯な手がある、とは知っていても、それがどれほど恥ずかしい行為かは、おわかりいただけると思います。いかがですか?」
「我々、騎士団をバカにしている!」
「そうだ。人道にもとる行為だ」
「この侵攻で、我々は歴史に名を残すだろうな、汚れた存在として」
「騎士道精神に反する行ないだ」
「ならば」とオレ。「王弟殿下を拘束しても良いのでは? 兵士でもない民たちを貶めた張本人でしょう? この先にもそうした町や村があります。まだ禁断症状が出ていませんから、治る可能性はあります。しかし、このまま、進軍するのであれば、あなた方は、恥の上塗りをすることになる」
ひとりが立ち上がった。窓へと歩く。大きく開けて、叫んだ。
「王弟殿下をお連れせよ! 必要ならば、捕縛も許可する! 急げ!」
彼がおのれの席に戻る。
「サブと申したか? それで、これからどうするおつもりか」
「その前に、先遣隊の遺骸について、話したい」
「ん?」
「先遣隊は、街道脇に煉獄の実が大量発生したために、街道を逸れることになりました。そして、進んだ先にはオーガの集落。そこで殲滅されました」
「そう報告が来ている」
「オーガに喰われる直前に、私が全員の遺骸を回収しました」
「な、に?」
「さきほど、あなた方の背中に載せたのは、その遺骸です」
「悪ふざけが過ぎる」と頭を抱えた隊長のひとり。
「申し訳ない。ですが、撤退を選択して欲しかったのです。わかりますよね」
「うむ」と全員がうなずく。
「とにかく、遺骸は、お返ししたい。どう処理するのかは、お任せいたします」
「わかった。受け取ろう」
「ありがとうございます。では、次に、進軍するのか撤退するのかを決めてもらいたい」
「撤退する。卑劣な手によって、得られた勝利など、いらぬ」
「ですね。では、次に、ここまで進軍してきたのです。ゴウヨークに対して、いかがされるおつもりでしょうか?」
「いかが、と申されても」「民たちは狂っていて、斬り捨てるしかなかった」「おい、滅多なことを言うな」
「つまり、被害を与えたのは、認めますね?」
「認める」
「ならば、エルゲン国として、ゴウヨーク国への詫びを入れねばなりませんね」
「確かに」
「とはいえ、あなた方は騎士団、政治を云々することはできないでしょう」
うなずく面々。
「ですが、あなた方には、進軍し、民を殺してきた事実はある」
「認める」
「だいたい、麻薬をゴウヨークに持ち込んだ時点で、かなりの罰則がかかります。本来ならば、死刑ですからね」
「そうなのか」
「村々を見てきたあなた方なら、どうしてかは、言わずともわかりますよね?」
「そうだな」
「しかも麻薬を飲食物に入れて、中毒にするようなことまでした。麻薬の供給が止まれば、民たちは狂い出す。その中毒を癒やす必要があります。これを保証してもらわねばなりません」
「必要な処置だな」
そこへ、騎士ふたりに引っ張られるようにして、王弟殿下が入ってきた。
「ご苦労! 暴れなかったか?」
「初めは。ですが、縄を用意したのを見て、諦めたようです」
「そうか。みなの動揺はあるか?」
「どうしたのだろう、という感じです」
「わかった。下がって良い」
「「失礼します」」
連れてきた騎士が下がる。
「王弟殿下、現在、あなたには、国家間問題に、重要な役割を果たした容疑が掛けられております。ゴウヨーク国では麻薬の持ち込みは死刑だそうです。しかも麻薬を使っての侵攻など、王命であったとしても、許されないものです。ですので、あなたを更迭し、ゴウヨーク国との話し合いを経て、その身の処遇が決められることとなります。よろしいですね?」
「何を言っておる! その者は、誰か! 王族を愚弄するのも大概にせよ!」
「黙らせてもいい?」とオレ。
うなずく隊長たち。
オレは、スタンガンを出して、王弟殿下に打ち込んだ。
彼は、その場に倒れた。
「命に別状はありません。雷魔法で痺れさせただけですから」
「魔導具か?」
「ええ。売り物にできないので、それが悲しいんですがね」
それからいろいろと話し合った。その結果を報告書にまとめると、エルゲン国の王都冒険者ギルドへと送られた。それが王城へと運ばれ、王の手のもとへ。
どんな答えが返ってくるか。
オレからも、ミハス町に状況報告を送った。そこから王都冒険者ギルドに伝わり、王城にも届くだろう。
こちらもどんな答えが返ってくるか。
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