平凡な人生だろうと……
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更新遅くてすみせんm(__)m
予想もしていなかった展開に辺りはパニック寸前。かくいう僕も、戦いを挑むなどもってのほか、どうにかして逃げなければいけないと本能が訴えてくる。
――あれはダメだ。
逃げ出したくて、何度か後方を振り帰るも、トビラは固く閉じている。
――まずい、まずいぞ……
そう感じたのは僕だけじゃなかったようで。
「いやだ、いや……」
「う、ううん……」
大野さんと小西さんも互いに抱きつき震え上がり。
「うわわ、せ、先生……」
「あ、あんなの無理だ……」
「せ、先生……」
田中たちも恐怖でガクガク震えていて、後ろ足に先生の側まで近づいて来ようとしているようだけど、視よろよろと足下はおぼつかなく、いつ転んでもおかしくなかった。
そんな中、先生だけが声を張り上げ魔法を放とうとヤツに右手を向けた。
「や、ヤツをこちら側に入れるなっ!」
先生が雷の槍を放った。
ピロピロン♪< 雷の槍陣を覚えたよ>
新たな神紋を覚えるが、先生の魔法の行方の方が気になる。
激しい光が走り、轟音が遅れて届く。先生の放った雷が、こちら側に身体の半分以上を乗り出していた異形を貫いた。
『ギギギッ……』
貫かれた異形からは悲鳴のような甲高い音が聞こえてくる。
「うぁ」
「ああ……」
――ぐっ。
俺も皆も、その不愉快な音に耳を塞ぎ片足をつくが、すぐに立ち上がりヤツを確認する。
――ヤツは……?
うれしいことに先生の魔法は異形の身体にサッカーボールサイズの穴をポッカリと開いており、その動きまで止めていた。
「おお」
「やったか!」
「いや、待て……」
鈴木と川田から聞こえた歓声に、田中が待ったをかける。
――効いていない……?
「くっ……」
先生も気づいて苦虫を噛み潰したような顔をしてから再び魔法を放つ。
「な、な、なんでだよ」
そう先生の放った魔法は異形の身体に穴を開け二、三秒ほど動きを止めたが、ただそれだけだった。何事もなかったかのように、すぐに穴が塞がり異形の存在が再び動き出す。
「皆もヤツに魔法を……あれをこちら側に入れたら危険だ! たのむ。皆も魔法を放てっ! 放ってくれ!」
先生から焦った声が上がり、皆もそれにどうにか応えようと、何度か頷いたあと、次から次に魔法を放つ。
「くるな、くるな、来るなっ!」
「この、このっ!」
「来るんじゃねぇぇ!」
俺も少しでも押し返したいという思いで神紋紙を二枚広げてから火の玉を十個放つ。
「火の玉っ」
皆の魔法が集中してぶつかりヤツの周囲に爆煙が広がる。
『ギギギッ、こざかしいっ!!』
異形から甲高い声のような音が聴こえて来て耳鳴りがする。
――ぐうぅ、効いているのか?
激しい耳鳴りに思わず耳を塞ぎ片膝をつく。皆も同じように膝をつき攻撃の手が止まる。
――まずい……
爆煙でヤツの姿は捉えることができないが、そう感じた俺はすぐに立ち上がり、さらに神紋紙を二枚取り出して魔法を放つ。
「……火の玉っ!」
俺の展開した十個の火の玉が爆煙に向かって飛んでいく。
『ククク……これでキサマらを……』
爆煙の方向から甲高い声が聞こえてきたかと思えば、今度はその周囲で火の玉が弾け飛んだ。
――……弾かれた!
俺は焦り皆の支援が欲しくて、周囲に目を向けるも、皆はまだ立ち上がれていなかった。
「皆……」
その理由は爆煙が晴れてきてすぐに分かった。
『ギギギ……』
異形が割れた空間からこちら側に入り込み三メートルほどの人型サイズになっていたのだ。
未だ縮んでいるように感じるが、もぞもぞと蠢く真っ黒な見た目は変わらず、身体中にある真っ赤な目玉をギョロギョロと動かしていて背筋がゾッとする。
『ワレは腐神……』
甲高い声に聞こえていた異形の声が、頭に響きハッキリと聞き取れるようになったかと思えば、吐き気を伴う頭痛がする。俺は咄嗟に頭と口を抑える。
「うっ」
なぜヤツの声が突然聞こえるようになったのかなんて考えるまでもない。ヤツは腐神と言った。カオス神側の邪神。つまり神なのだ。神ならばそんなことができたとしても不思議ではない。
「ぐぅ……」
――こ、これはやばくないか……
しかも、ヤツの周囲には真っ黒なオーラが漂っていた。その影響だろう。皆の身体から見えていた金色のオーラが消えていた。意識すれば俺の消していた黄土色のオーラも消えている。
加護力が消えてしまった今、俺だけが立ち上がれたのは身体強化と神紋強化の強化魔法の効果の差なのだろう。
元々加護のない騎士やお姉さんたちはまだ酷く、すでに四つん這いになり肩で息をしている。額には脂汗を浮かべ苦痛に顔を歪めていた。
『この世界を全て腐らせてやる……クハハハ』
腐神の嬉々とした声が頭に響き頭痛がすれば、腐神は身体をコキコキと動かし、まるで凝り固まった身体をほぐしている様に見えた。
――ぐぅ……
頭痛と吐き気を我慢して俺は数枚の神紋紙を右手に取る。これならば加護力を失っていても、すでに魔力は込めている。あとは神紋言を呟くだけて発動できる。
そう思うと同時に、この魔法を放ったところでこの状況をどうにかできるのかと、意味がないのでは? という思いが頭に過ぎる。
「……」
――くそ……
俺はかぶりを振って腐神を見る。悍しい存在。どうにかしたくてもどうしようもできないだろうと、俺の心が絶望に染まりはじめていそんな時。
「神鎧……」
「……解放……!?」
「それだと……」
「……やれる?」
「……分かりました」
先生たちが何やら呟いているのが聞こえたかと思えば、先生がよろよろと必死に立ち上がり早口で話す。
「皆も創造神から、神鎧を解放すれば一時的にだが神すらも倒せる力を得ると聞いただろうか?」
「はい」
俺以外の皆が頷く。どうやら俺が腐神に対して絶望を感じていた今し方、先生たちは創造神から何かしらの神託を受けていたらしい。
「だが神鎧を初めて解放した場合その力がなじむまでに三分ほど時間がかかるそうだ。そこまで理解しているか?」
皆が頷くので、俺も頷いておく。
「では皆、すぐにその力を解放しろ……神鎧解放」
先生の加護に何かが起こっているのだろうけど、見た目では分からない。
たぶん「神鎧解放」がそのワードだったのだろう、先生につづいて皆もそのワードを口にする。
「神鎧解放」
俺も僅かな期待を込めて同じように呟いてみるが、何かが起こりそう気配は感じられない。
――俺の加護では無理か……
ショックは受けるが元々それほど期待はしていない。このまま成り行きに任せるしかないかと思っていると、ふらついて立っているだけでも辛そうな先生からとんでもない言葉が飛び出す。
「その三分……私が囮になり時間を稼ぐ」
先生はそう言うと長剣を抜き、鞘を杖がわりにしてよろよろと歩き出した。
――!?
囮も何も、オーラの消えた今の先生は魔法も使えない。ただ身体強化の魔法効果が残り、身体能力が二倍ほどに引き上げられている一般人と同じ状態。
だがその効果すら腐神のオーラによって妨げられている。
「……先生」
立ち上がることのできない皆は、先生を見て悔しそうする。
皆と見比べてみても先生の地力が相当高かったことが分かるが、あの状態では腐神が何かしら仕掛けてきたとしても躱すことできず、すぐに殺されてしまうことは必至。
――はぁ……
でも俺ならば、神紋強化で先生よりは動けるし魔法だって神紋紙で展開できる。
――あーあ……
俺先生や皆を見渡したあと、最後に辛そうにしているお姉さんを見る。俺がこの世界で一番お世話になった人。こんな俺にも優しくしてくれた人だ。
加護が皆と違うと知っても変わらず接してくれた。未習得だが闘気術も教えてくれていた師匠でもある。
この異世界じゃないと会えなかった人。
だからこそ異世界に来れたことは純粋に嬉しかった。けど、俺は別に勇者や英雄になりたかったわけじゃない。
学校でも目立つほうではないし、目立ちたいとも思ったこともない。
そりゃあ多少の苦労はしていたけど、それは元の世界に戻るまで。元の世界に戻ったら戻ったで、学生生活を終えた俺は、普通の会社に勤めて、平凡な社畜として歳をとり、ごく平凡な人生を送るものだと思っていた。
まあ、その過程でパートナーでもできれば御の字、うれしい限りだけど、俺の性格ではたぶん無理だろう。
それなのに……
――っ!?
『ギギギ……加護持ちは全てワレの糧にしてやろう……残りは纏めて処分する……ん? ほう』
先ほどよりもより二メートルほどに縮み人型により近い存在となっていた腐神が一人歩み出ていた先生に気づき右手を向けている。
『そうだな。まずはお前から喰ってやるか……ギギギ』
腐神から先生に向かって真っ黒なモヤの塊が伸びていく。
「くっ」
先生が長剣を構えてみせるが、どう見ても長剣でどうにかできるようなものじゃない。小西さんや大野さんから声になってない悲鳴が聞こえる。
――くそっ!
俺はすぐ神紋紙を取り出し火の玉を五つ放ち。
「火の玉っ!」
次の神紋紙を準備しながら、先生の前面に躍り出る。
運がよかったのか、それとも腐神がこちらを舐めていたのか分からないが、五つ火の玉の爆風が腐神のモヤを吹き飛ばしてくれた。
――なんとか、なったか……
「先生、俺が囮やりますよ」
「山野木、お前どうして……」
驚いている先生に説明する暇なんてなかった。
『ギギギ……ほう』
まるで俺を見て笑っているかのように、無数の真っ赤な目玉が不気味に光りゾクゾクっと悪寒が走ると。
『ククク……』
腐神がニヤリと笑った気がした。そして、先ほどのモヤが再び伸びてくる。しかも今度は五つで、先ほどのものよりもかなり速い。
「くっ」
慌てて俺は火の玉の神紋紙を五つ展開し、うまく相殺できたが、それは腐神との距離が空いていたからギリギリ対応できたことだった。
――速い、速すぎる……
俺は額の汗を拭うと神紋紙の入った内ポケットに右手を伸ばした。
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