ダンジョンへ
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更新遅くなりました
すみません。
「先生っ!」
案内された宿舎のドアを開けるとその中は、状況確認に訪れていたらしい騎士たちで溢れかえっていたが、俺の声が珍しくよく通り、騎士たちの視線が一斉に集まった。
「あっ……」
正直皆からの視線を集めるのは嫌なのだが、今はどうしても先生たちの無事な姿が見たい。
「ちょっとすみません。奥に通してもらえませんか」
「後から来た者が何をっ」
――ひぃ。
俺より背が高くてゴツイ騎士にすごい形相で睨まれた。いつもの俺だったらすぐに回れ右をして引き返していたんだけど、今はどうしても先生たちを確認してからでないと落ち着かない。
「そこをなんとか……」
「我々も勇者殿に確認したいことがある。後に……おや?」
俺が割り込もうとしていることを、非常識だと腹を立てたらしいその騎士は俺のことを凄い形相で睨んでいたが、すぐに何かに気づいたらしくその表情が柔らかなものになった。
「君は……いや、貴方様は勇者殿、ですか?」
「え、あ、はい。一応……そう呼ばれてます……」
――俺のことを知ってたよ、この騎士!?
騎士の言葉に驚いたが、けどその騎士の様子がおかしい、というか俺のことを見ていないように見える。
――ん?
けどそれも、目の前の騎士の視線を追ってすぐ理解した。どうやら俺が勇者だってことは、背後にいるメイド騎士のお姉さんと執事騎士のマルスさんがいたから分かったのだ。
先ほどから目の前の騎士の視線は、背後にいるお姉さんとマルスさんのほうへと向けられていた。
そして、そのお姉さんとマルスさんも頷いて応えているから、これはもう間違いない。
――そうだよな……知ってるわけないか。
「こ、これは失礼しました。お前たちっ、通路を開けろ。こちらの勇者様を通すんだ」
その騎士のおかげで、ざわつきながらも騎士たちが壁際に寄ってくれたことで人一人が通れる隙間ができた。
「ありがとうございます。確認できたらすぐに出ていきますので……邪魔してすみません」
仕事を邪魔して申し訳ないので、俺は軽く会釈をしながら騎士たちの間を通って行く。
「すみません……前失礼します……すみません……ありがとうございます……」
すると、ドアが開いたままになった部屋が正面に見え、その開いたままのドアから部屋の中にいるメイド騎士や執事騎士たちの姿が見えた。
――ん? あそにいるのは……田中たちのメイド騎士か? じゃあ……あそこに先生たちが……
お姉さんやマルスさんと同じ格好だし、ほかの騎士たちと少しデザインが違うからわかりやすい。俺たちの足取りは自然と速くなった。
「あの部屋に先生たちが……」
「はい。勇者様、そうだと思います」
「ああ、コウサカ様。やっとお会いできます……」
まだ会ってもいないのにマルスさんの目には涙が浮かび、ほんとうに先生のことを心配しているのが窺えた。
俺はなんとなく彼の肩をポンポンと叩き、すぐに目の前の部屋へと急いだ。
――――
――
「先生っ」
先ほどのこともあり、今回は控えめに先生を呼んだ。だが、先生からの返事はない。
――なんで?
その代わりにドアに一番近い位置にいたメイド騎士が、俺のほうに向き直った。
「勇者様は手当をしていると今申し上げたばかり……これは、失礼いたしました」
「いえ……」
「あ、あなた様は……勇者様……ですね」
どうやらこのメイド騎士は、部屋の外にいた騎士たちが入ってきたと勘違いしたらしいけど、すぐに俺でなく後ろのお姉さんやマルスさんを見て言葉を正した。
「はい。俺は山野木と言います。それで今、手当と言いましたけど、先生や小西さんたちも今手当をしているんですか?」
「えっと……先生とはコウサカ様ですか?」
そのメイド騎士は少し言葉を濁しつつも、俺が先生のことをなぜ聞くのかと言いたげで、不思議そうに首を少し傾げた。
――え?
先生は直接ダンジョンに転移したけど、ここに戻っていれば分かるはずなのだ。俺はイヤな予感がした。
「そうですけど……まさかいないのですか?」
「は、はい……こちらにお戻りになられたのはタナカ様、スズキ様、カワダ様、コタニ様……です。
その皆さまも、憔悴し身体中キズだらけでしたので先に手当をしているところ……です」
そのメイド騎士も少し言いづらいところがあるのか、ところどころ声が小さくなって聞き取りずらい。
だが、なんとなく状況がつかめてきた俺は怒りでどうにかなりそうになった。
「……ぐっ」
拳を握りしめてなんとか理性を保ったが、このままでは関係のない目の前のメイド騎士に当たってしまいそうだ。
「と、とても……すぐには話せる状態ではなかったので、状況の確認は少し落ち着いてからにと、お、お思いましたので……」
「そこっ、どいてください」
俺は、まだ何かを話そうとするメイド騎士を横に押し退ける。
メイド騎士や執事騎士、近くには医師や看護師らしい人も見えた。
でもそんなことは関係ない。
「どいてくださいっ」
俺はその人たちをも横に押し退けた。身体強化の効果が切れていないので簡単に押し退ける。
突然のことで驚き俺のことを睨みつけ怒声を放つ者もいたが構うもんか。
するとその先にベッドで横たわり手当を受けている四人を見つけた。
――くっ……やはり四人だけ……
四人の頬はコケ、身体中からは汗や汚れ泥などが混ざったような鼻を摘みたくなるような異臭放っていたが――
「なぜだ。なぜお前たちだけなんだっ!! 説明しろっ!」
気づけば俺は、田中の胸ぐらを掴み片手で持ち上げていた。殴られなかっただけでも感謝してほしい。
「うぐっ……ぉ、お、お前は山野木……」
そこで、初めて俺の存在に気づいたらしい、横になっていた鈴木、川田、小谷も慌てて上体を起こした。
「「「や、山野木っ」」」
だが、その三人は俺から顔を背けて黙り込んだ。
「おいっ。お前たちは勝手に六人でダンジョンに入ったんだろ。その後に先生も来たはずだ。それなのに、この状況。どういうことか説明しろっ」
今度は隣のベッドにいた鈴木の胸ぐらを片手で掴み上げた。俺は田中と鈴木を掴み上げていることになるが、二人から抵抗らしい抵抗はない。
すると、一番気の小さかった小谷が口を開いた。
「う、うるせえ……俺たちは悪くない。あいつの足が遅いからだよ」
すると、それを皮切りに川田や鈴木が少しずつ口を開いた。
「あ、赤いやつ……あいつらなんなんだよ」
「ち、ち力が……出なかったんだ。どうしようもないだろ」
各々が口を開いてすぐに、その時の状況を思い出したのか、田中たちの四人は、揃いも揃って震えはじめたが、これだけでは何も状況が分からない。
「おいっ、田中。お前がリーダーだろ。理解できるように話せっ」
「わ、分かった……分かったから……下ろして……くれ」
俺が二人をベッドに下ろすと、二人は咳き込んだが、俺が急かすと田中が少しずつその時の状況を話しはじめた。
――――
――
「……先生にいいところを見せようと思ったんだ。なのに力が無くなって……こんなつもりじゃなかった」
「くっ……」
そう言って自責の念に押し潰されそうになっているのか、田中が布切れを頭から被り丸まった。ヒクヒク聞こえるのでおそらく泣いているのだろう。
「泣きたいのはこっちだ……」
田中、鈴木、川田、小谷はこともあろうに先生と小西さんと大野さんをダンジョンに残して戻って来ていた。
田中が言うには、ダンジョンに入って途中までは順調だった。順調だったからこそ、このまま攻略までして先生を驚かせてやろうと思ったらしい。
というのも、ダンジョンを進んでいると突然、黄金のオーラが皆の身体に現れた。
これは加護の力が後押しをしてくれている、そのときは都合よくそう理解したそうだ。
けど、それと同時に赤いオーラの魔物が現れたのは不思議に思っていたけど、問題なく倒せていたので気にしていなかったそうだ。
だから、黄金のオーラを放つ自分たちを某アニメキャラのようだと称して、そのキャラになりきって戦っていたらしい。テンションMAXで……
それが突然自分たちのオーラが萎み、やがて消えてしまった。
するとその途端に力が使えなくなって、魔物は目の前に迫っているわで、焦ったらしい。
おそらく、そこでとんでもない数の加護憑きが田中たちの近くに現れでもしていたのだろう。憶測でしかないけど……
それでこいつらは、そこで初めてキズを負い慌ててその魔物の群れから逃げ出した。
その時は、大したケガもなく運良く小部屋みたいなところに逃げ込んで、その場はやり過ごしたらしいけど、相変わらず力は使えない。
どうしようかと皆で話し合っている間にも時間が経ち、ある日突然、先生がスキルを使って現れた。
けど、先生も同じくすぐに力が使えなくなり結局はその小部屋から出ることができなかった。
でも、そのままでは携帯食が尽きるのは目に見えている。そこで先生の提案で力が使えるところまで走って逃げることにした。
もしかしたら、先生は俺がオーラのことについて、こうではないかという仮説、俺の曖昧な考えを伝えていたから、そう判断したのかもしれない。だとしたらかなり責任を感じるけど、田中たちの話を聞いて尚、その仮説がそれほど間違っているようにも思えない。
それで、周りに魔物がいないのとを十分に確認してから七人で逃げ出した。
でも、走り出してすぐに魔物に見つかり元々足の遅い小西さんは加護の力がなければ、当然逃げ遅れる。
先生と大野さんは、小西さんと速度を合わせ逃げていたらしいが、こいつらは、振り返りもせずそのまま全力で逃げて来たのだという。
途中からは加護の力も戻っていたからかなりの速度になっていたらしいけど、テンパっているこいつらは戻ることしか頭になかったようだ。
はっきり言って状況はかなり悪い。気が滅入りそうになるが――
――!?
俺は、ふとあることを確認していなかったことに気がついた。
「その追いかけてきた魔物は、赤いオーラを纏っていたのかっ」
「し、知るかよ」
「お、俺も知らない……」
「お前らっ」
鈴木と川田は何度もぶるぶると首を振って否定する。本当に見ていないらしい。
――くそっ……
俺が、布切れに蹲る田中に目を向けたところで――
「……ない」
「? 小谷、今なんて言った?」
「纏ってなかった」
「それは本当なのかっ!」
「本当だ」
期待していなかった小谷が俺の望む答えをくれた。これで少し希望が持てる。どうやら小心者の小谷は追いかけてくる魔物が怖くて何度も振り返って確認していたらしい。
――あとは、その魔物が弱い部類に入ることを祈るだけだ……
「それで、その魔物どんなヤツだった」
「二足歩行のイヌみたいなヤツだ」
「二足歩行のイヌ……」
「おそらく、その魔物はコボルトでしょう」
すると、いつの間にか、俺の背後で聞いていたらしいマルスさんが我慢できなかったのが割って入ってきた。
「コボルト……」
俺はその名前を聞きすぐに某ゲームのコボルトを想像するが、強さまでよく分からない。すると、俺の表情をみて察してくれたのか、続けてマルスさんが口を開いた。
「コボルトもよく集団で行動しますが、単体であればゴブリンよりは強いですがオークには劣ります。
ヤマノコ様。コボルトていどならコウサカ様は遅れをとるはずありせん」
それは加護の力込みでの話しだろうと思ったけど――
――いや、まてよ……
コボルトはゴブリンより身体が少し大きいくらい、らしいけど脚が短くてそれほど俊敏ではないそうだ。
けど腕が太く何かしらの武器を振り回すため、油断すると一振りで絶命させるほどの破壊力があるらしい。
ここでも俺のコボルトイメージが崩れてしまったけど、俊敏で持久力のある先生ならば素の状態でも剣術は使えるし、もしかしたらという期待が湧く。
「ですから……ヤマノコ様」
「もちろんです」
マルスさんが言いたいことは分かる。俺もそう考えていたから。
「お前たちも着いてくるんだ。案内してもらう」
「「「ぇ……い、いやだぁ……」」」
俺たちはすぐに準備に取り掛かった。行きたくないと騒ぐ田中たちも、もちろん連れて行く。
加護憑きに対抗するには、こちらも加護の力がある者を一人でも多く連れて行ったほうが、事を有利に運べると思ったからだ。
ケガ? 田中たちは大袈裟に騒いでいたが、浅いキズしかなかった。意外に躱すのは上手いのかもしれない。
だから、十分な食事と薬湯で十分だ。
準備が整うと俺とお姉さん、マルスさん、田中たちでダンジョンに向かおうとしたら――
「ま、待ってください」
田中たちのメイド騎士も、責任を感じていたらしく、連れて行って欲しいと懇願された。
「私どももどうか……」
そこに小西さんと大野さんを心配する執事騎士の二人も加わりの十三人に。
「じゃあ、これで……」
「勇者殿」
すると部屋の外で待機していた騎士たちも話を聞いていたらしく、当然とばかりにその九人の騎士も着いてきた。
計二十二人という結構な人数となったが、俺たちは先生たちを救出するべく災悪のダンジョンに入った。
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