状態回復魔法の神紋と白
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更新遅くなりました。
すみません。
一番乗り? っと思ったが見張りの兵士さんがいました。
――そりゃそうか……
ダンジョンの側には、昨日俺たちが使用した武器などが置いてある。見張りなくそのまま放置じゃ危ないもんな……
――ん? あ、どうも……
その兵士さんたちと視線が合った気がして軽く会釈をしてみたが無視されてしまった。
――はぁ、世界が変わっても同じか……
これはいつものことなのだが、地味に恥ずかしさとともに心にダメージを負う。
――まあ、いいや。クラスメイトはまだ誰もいないんだ……よし!
お姉さん(俺の心に中では既にお姉さん呼びになった)から全身マッサージをしてもらったおかげで大分マシになったとはいえ、痛む身体を押して早めに部屋を出た甲斐があったというものだ。
俺はクラスメイトが誰もいないことをいいことに、昨日は重く感じた小剣を手に取り軽く振ってみる。
ほら、みんな強力な加護あるし、普通に振る俺を見て変に思うヤツもいるかもしれないからね……
――むむむ。まだ、少し重く感じる……
正直、もっと筋力強化Dのアビリティには頑張ってほしかった。
――期待しすぎ……ん? それとも、あれか、俺のもともとの筋力が低いとか? うーん……
あれこれ考えてもよく分からない。なんとなく力こぶを作ってみる。
「……」
――この小剣振ってたら筋肉つくかな?
試しにもう一度振ってみる。短剣よりも、ずっしりとした重量感が腕から伝わってくる。
――うん。これなら筋肉がつきそうな気もする。少し無理をするけど大丈夫だろう……
小剣とは言えこの剣、結構全長がある。これだけ長ければ(80センチくらい?)木の棒だって持って行かなくても鞘に入れたままなら神紋が描けそうに思える。
――どれ……
地面にガリガリガリッと音を立てて一本の線を書いた。
――……描けるな。
次に手加減した軟化スキルを展開しつつ線を引いてみる。
――おお。
今度は、スーッと豆腐に包丁を入れたように抵抗なく線を引くことができた。
――軟化スキルって凄いな!
何度も軟化スキルを使用し微調整をしていく。
――よし、これくらいなら鞘もスレなさそ……
「おはようタロウくん!」
「タロ、はよ〜」
――ぃ!?
急に俺の背後から元気な声が聞こえ、反射的に声の方に顔を向けた。
――小西さんと、大野さん!!
最近、高校では挨拶されることなんてなかった。
それが今は……二人の異性から挨拶されている。同性じゃない、異性だ。しかも、大野さんに至ってはくだけた感じで俺を呼ぶ。
――俺、挨拶されてる……
免疫のない俺は、たったこれだけのことで嬉しくなり舞い上がりそうになる。見張りの兵士に無視され荒んだ心も一瞬で吹き飛んでいった。
――俺ってチョロ男? いやいやそんなはずは……
そうは思うが、嬉しさはどんどん込み上がる。
――も、もしかして俺に気があったりして。
なんて、あり得ない妄想まで膨らませて思わず口元が緩みそうになった。
――おっと、挨拶、挨拶だ。
「ぉ、おはよう」
久しぶりで少し声が裏返ってしまったが……どうだろう、俺はちゃんと挨拶できたのか?
「うん」
「それ、何書いてたの?」
軽く流されて拍子抜けしたが、どうも二人は俺の書いた横線だらけの地面を不思議そうに眺めているようだ。
「こ、これは、なんでもないんだ。ちょっと暇だったから」
「そうだったんだ」
「ふーん」
そう言いつつ、足で地面の横線をさっさと消していく。その際、辺りを見渡すと、クラスメイトが結構集まっていた。
――いつのまに……!?
昨日より明らかに付き添いのメイドさんと仲良さげの男子生徒と、イケメン執事に手を引かれる女子生徒が目に止まるが――
――ぬ。
さらに見渡すと全ての生徒が、ってわけじゃないことに気づき、俺の心にほんのちょっと余裕が戻ってきた。
自然に四人ずつの班に別れているので、パーティーメンバーは仲の良いメンバーが集まってできた班だったことが分かる。ん? 俺? 俺は余り、拾ってもらったんだよ。
「タロウくん?」
「ん?」
「今日は寝不足は大丈夫なの?」
小西さんが俺の顔色を見ようとしているのか、少し俺の方に近づいてきた。
「寝不足?」
「あれ? 違うの?」
――そうだった。昨日は寝不足ってことにしていたんだ、身体中が痛くて忘れてた。
「ぁ、ああ。き、今日は寝不足は大丈夫だよ。よく眠れたし……」
「そうなの……」
なぜか小西さんがしょんぼりしたように感じる。俺が寝不足じゃないと困るのか?
「……あ、でも、今日も身体は本調子じゃないんだ」
俺はみんなより身体能力が劣るから、こう言っとけばあとで誤魔化しもできるだろう。
――しかし、動いてれば身体がほぐれて少しは良くなるだろうけど……初っ端、みんなについていけるかな。
考えだすとすこし不安になり、ゆっくりと屈伸をしてみる。
――いててて……
やはり痛い。これはストレッチを十分にしとかないと、入ってすぐ置いて行かれることになりそうだ。
「タロウくん。私が治してあげるよ」
肩を落としていた小西さんはどこへ? 満面の笑みを浮かべた小西さんが俺の肩をポンと叩いた。
「……治す?」
叩かれた肩を意識してしまいそうになるが、なんとか堪えて平静を装った。
「回復魔法をね、少し練習したんだ」
小西さんが少しハニカミながらそう言った。
――小西さんは回復魔法が使えるんだっけ。俺のは魔法陣見られるから使えなかったし……
「いいの?」
この筋肉痛とおさらばできるならすごくありがたい。俺は思わず身を乗り上げていた。
「へへ、じゃあいくよ」
小西さんが俺に両手の平を向けた。神紋がしっかりと浮かび上がる。
――これは回復の玉だな……
もう知っている神紋なので大人しく待っているとぽかぽか心地よく感じるとともに、白っぽい光に包まれた。
「どう?」
小西さんが少し不安そうに尋ねてくるが……
何も変わらない。身体中の痛みは何も変わらなかった。よくよく考えれば俺は身体中が痛いだけの筋肉痛。キズがあるとか、体力が消耗し疲れがでているわけではない。
――筋肉痛に回復魔法は効かないのか。
それでも、俺のためにかけてくれた回復魔法を効かないって言えるわけない。
「う、うん。なんだか良くなった気がする」
ピキピキッ痛みが走るが、ぎこちなくも両肩をぐりぐり回してみせ、さも、よくなった風に見せてみた。それなのに……
「本当に?」
小西さんの目が細められ、何だか疑わられているように感じる。今狼狽えてしまったらウソがバレてしまう。俺は必死に平静を装って肯定する。
「ぅ、うん。本当だ」
するとどういうわけか、大野さんのメガネがキラリと光りを放った。
「大野さん?」
「タロ。ウソついた」
「やっぱり……」
なぜか、ウソだと決めつけた大野さんの言葉に、小西さんまで納得している。
「な、なんで……」
それが本当のことだからタチが悪い。
――は!? もしかして大野さんはウソ発見器のようなスキルを持ってる? ええ、それなら何も言えないぞ。
俺がどう答えようか口ごもっていると――
「ふふふ……無言になったということは当たりだね」
大野さんはなぜか勝ち誇ったように仁王立ちになっている。
「うぐっ」
「アキちゃんありがとう。もう。タロウくんはウソついたら、めっだよ」
「ぁ、う、うん」
小西さんが子どもを叱るように俺のことを注意してくる。全然怖くないがウソがばれてしまって何も言い返せない。
――やはりウソ発見器みたいなスキルを所持しているのか……
「じゃあ、こっちはどうかな……」
考えごとをして聞いていなかった俺を気にすることなく、小西さんが再び俺に両手の平を向けてきた。
――ん?
すると小西さんの両手の平の前に見たことのない神紋が浮かび上がっていた。
――これは……!?
状態回復魔法だった。今度は緑色の粒子が俺を包み浸透していく。
すると、不思議と身体中に炎症を起こしていたような痛みがスーッと消えていく。
「痛くない……痛くないよ小西さん」
「うん」
「ふふふ、今度は効いたようだね」
「あ、ありがとう」
今度こそ気持ちを込めてお礼を言った。
「うっすって、タロウ? 何、頭下げてる」
「え、山田くん。いや、俺は……」
「ははん。さては、小西のスカートでも捲って謝っていたのか? どれ俺にも見せろ」
と言いつつ山田は小西さんと大野さんのスカートをぺろんと捲った。二人の純白が俺の目にも入り思わず口元が緩む。
「なんだ、白かよ」
「きゃっ!」
「こんのぉ山田!」
小西さんはすぐにスカートを抑えたものの、大野さんはスカートを抑えることを諦め、にやにやしていた山田の鳩尾に右拳をお見舞いした。
ドンッ! 小さな大野さんが繰り出したパンチとは思えない打撃音が辺りに響いた。
「ぐぇ! ば、バカぉ、おおの……モロ……入った」
「ふん!」
見た目ヤンキーの山田は大野さんの右拳一発で撃沈。膝から崩れて落ちた。
――こ、殺される。加護の違う俺がくらえば間違いなく……ブルブル。
すぐに小西さんが回復魔法をして山田は何事もなく立ち上がったが……
恐怖を植え付けられた俺は今日も腹筋をしようと誓った。
――状態回復の玉の神紋も覚え、純白も見れて、今日はツイていると思ったのに……
最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^