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第30話


 俺は背中に走った初めての衝撃に一瞬蹲った。

 それは例えるならば、鉄製の鈍器で背中を打たれた様なもので、この歳まで大人しく生きてきた俺には縁の無いものだった。


「司っ‼︎」


 俺に呼びかけながらも構えをとるルチルを俺は制止した。


「待て、ルチル‼︎」

「え?」

「こいつは俺がやる」


 俺はそう言い一匹のワーウルフに対峙した。

 ワーウルフの身体は190センチを少し切るぐらいだろうか、俺よりも頭二つ分は上背があった。

 その手には何も得物を持たず、先程の一撃が素手によるものだと認識させた。


(恐ろしいな、あれ程の威力を素手でやってのけるなんて)


 あれが魔物の常識的な力なのか、魔空間による活性化を得たものなのかは解らないが頭部にでも貰えば一撃でお陀仏だと理解した。

 そんな事を考えながらも同時に、痛みは残るが不思議な程動く自身の思考と身体に疑問を抱いた。


「まあ、今はそんな事言っている場合じゃ無いし、悪いが実験に付き合って貰うぞ‼︎」

「ガァァァ、グルッ」

「実験?」


 背後でルチルが頭にクエスチョンマークを浮かべた様だったが、俺は返答はせず素早く混沌を創造せし金色の魔眼を開いた。

 その様子にワーウルフが一瞬怯んだ隙に詠唱を行った。


「行けっ、暗闇を駆る狩人‼︎」


 俺により生み出された闇の狼は、屈強な身体を持つワーウルフの喉元を正確に噛みちぎった。

 その傷口から天に向かい上がった血飛沫との、黒と赤とのコントラストは一枚の絵画の様だった。


「グガァァァ‼︎」

「どうだ?」

「・・・」


 仕留めたか?その疑問にワーウルフはその巨体を力無く崩れ落ちさせる事で応えた。


「よし、戻れ」


 俺の指示に反応した闇の狼は俺の足下に戻り、身体の中へ溶け込んでいった。

 それに反応する様に俺の背にあった痛みは完全に消えてしまった。


(良し、成功の様だな)


 俺が魔法の成功に喜んでいるとルチルが心配そうに声を掛けてきた。


「司、凄かったね、・・・って背中は大丈夫?」

「ああ、問題無い」

「いや、問題無いって・・・、薬草を持って来れば良かったなぁ、・・・取り敢えず見せて」


 ルチルはそう言って俺のシャツの裾を襟足まで引き上げた。


「あれ?どういう事?」

「どうした?」

「うん、内出血どころか、腫れもしてないんだよ?」

「そうか・・・」


 そういえば折角なら見た目の状態の変化も確認して貰えば良かったな。

 俺はそう思い少し後悔した。


「なんでだろう、無防備に一撃入れられてたよね?」

「ああ、確かにダメージはあった」

「じゃあ・・・」

「さっきの魔法で回復した」

「ええ、でもあれって攻撃魔法だったんじゃ無いの?」

「ああ、ワーウルフから体力を吸収して回復した」

「吸収って?」

「無いのか、ドレイン系の魔法?」

「ドレイン?何それ、禁呪の類い?」


 禁呪、そう口にしルチルは俺から距離をとった。


(失礼な態度だなぁ、ただ禁呪ってのは少し魅力的でもあるが・・・)


 この系統の魔法を基礎知識が無い人間に説明するのはかなり面倒なので、俺はその様なものだとだけ言っておいた。

 ルチルは最初こそ気味悪がってたが、結局便利そうだなぁ、私が怪我しても治せる?と聞いてきた。

 この状況で確認するのは怖かったので、多分無理だろうと言うと残念がっていた。


「さて、こいつの魔石はどうしよう?」

「あ、荷物になるし僕のアイテムポーチに入れとこうか?」

「ん、ああ助かる」


 そうして絶命したワーウルフの背中を、アームから受け取った剣で切り開いた。

 ただこれが中々手間の掛かる作業で、その背中はかなり堅く魔石を取り出すのはかなり時間が掛かった。


「ふう、じゃあ頼むよ」

「うん」


 取り出した魔石をルチルに渡すと、その腰にあった制御装置付きのポーチに収めた。


「それって?」

「ああ、これ?マジックアイテムだよ」

「幾らでも入るのか?」

「はは、そんなには無理だよ」


 そうなのかぁと残念がる俺に、ルチルはこれは安物だから旅行鞄二つ位の容量だと言った。


「う〜ん?」

「どうしたの司?」

「ああ、ワーウルフから喰らった一撃なんだが・・・」

「どうしたの、やっぱり酷くなった?」


 俺は心配そうにするルチルに、不思議と痛みが無かった事を告げると、もしかしたらと言われた。


「魔流脈を魔力が循環?」

「うん、きっとそうだよ、凄いなぁ」

「ん?魔法を使う時に誰でも流すんじゃ無いのか?」


 俺はそう言ったが、ルチル曰くそれとは違うものだと言った。

 魔流脈の魔力循環とは常に自身の全身に魔力を循環し続けて、その力を使い自らの身体能力を飛躍的に向上させる事だそうだ。


「僕らは学院に通ってるから勘違いしがちだけど一般的な魔導士では、中級魔法を使える者は100人に1人と言われてるんだ」

「ほぉ」

「その中で上級に辿り着く者はまた100人に1人なんだよ」

「なるほどぉ」

「こほん」

「う、いやちゃんと聞いてるぞ」

「ホントにぃ?」


 そう言われても学院の常識ですらよく解って無いのに、この世界の魔導士の常識を語られてもなぁ・・・、まあ、内容は興味あるんだけど。


「どこまで話したっけ?」

「上級の話だ」

「ああ、そうそう、そしてその中でも歴史に名を残してきた魔導師は皆、魔力循環が行えたって言われてるの」

「それじゃ最近朝身体が軽かったりするのは」

「きっとそうなんだよ」

「・・・」

「あれ?嬉しく無いの?」

「いやぁ・・・」


 確かに最近の体力の充実や先程発揮した耐久力は素直に嬉しいのだが・・・。


「でもそんなに力が強くなった感じがしないんだが?」

「それは司が元々持ってる力が弱いからだよ」

「そ、そうだよなぁ〜」


 俺はルチルの当然といった表情でのツッコミにただただそう返すしか無かった。

 そんなにひ弱に見えるか?


(よし、強い男になろう 。)


 そう心に誓った俺に、ルチルは良ければトレーニング付き合うよと言ってくれた。

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