表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたり並んで  作者: ユウリ
5/11

ふらふら男子

 少しばかり座ったところで彼の体調が良くなるわけもなく、ふらふらと電車を降りてゆく彼を見かねて、わたしも同じ駅で降りた。


「なんでついてくるんだ」


 よろよろと歩きながら、彼がわたしに迷惑そうな視線を向ける。


「なんでって……あ!」


 わたしは慌てて彼の腕をつかんだ。


「わっ。なにするんだ」

「柱! そこ柱あるから!」


 わたしに言われてようやく柱を認識した彼は、不機嫌そうに口をつぐむ。

 柱にぶつかりそうになったところをわたしに見られたのも、それを助けられたのも不本意だったらしい。


「家はどこ? 送って行くよ」

「断る」

「ひとりじゃ危ないって」 

「平気だ」


 どこが平気なのよ、と心の中で反論したけれど、これ以上押し問答していても彼は折れなさそうだ。どうしたものかと考える。


「あれ、ミサちゃん?」


 ふいに名前を呼ばれた。振り向くとそこにはユウキが立っていた。


「ユウキ!? どうして?」

「どうして、ってぼくの最寄り駅だからね。それよりミサちゃん、さっきはどうしたの? 

突然どこかに行っちゃうから、ぼくもマユちゃんも心配してたんだよ」


 ユウキもこの駅を利用しているとは知らなかった。マユはここよりも前の駅で既に下車し

ているはずで、ユウキはひとりだった。


「わたしは……」


 説明を待たず、ユウキはわたしがつかんでいる腕の主に視線を向ける。


「あれ、ナカ?」


 と、ユウキが目を丸くした。


「誰?」


 ナカと呼ばれた彼は、訝しそうな目つきでユウキを見やる。


「誰? って、ナカは相変わらずだなぁ。ぼくだよ、ユウキ。中三のとき同じクラスだったでしょ」

「えっ!?」


 わたしは思わず声を上げる。

 ユウキのクラスメイトだったんだ、この人。


「ああ、そうだっけ……。それじゃあ」


 すごい偶然だ、驚くわたしとは反対に、ナカは興味なさそうにそう言うと、わたしの手の中からするりと腕を抜いた。


「あっ! ちょっと」


 エスカレーターに乗るナカの後ろ姿が微妙に揺れている。


「ミサちゃん!」


 追いかけようとしたわたしを、ユウキが引き止める。


「なに?」

「あいつと、どういう関係?」

「どうって……たまたま電車で乗り合っただけだよ。なんだか具合が悪そうだったから、気になって……」

「そうだったんだ。じゃあ、あとはぼくに任せて。ナカのことは、ぼくがきちんと家まで送るから」


 ユウキが、どこか硬い表情で告げる。


「家を知ってるの?」

「まあね。実は小学校も同じなんだ。家が同じ町内だから」 

「そうなんだ……。なら、わたしも一緒に行くよ。荷物を持つくらいできるし」

「でも……」

「早く追わないと、どこかで倒れてるかも」


 既にナカの姿は見えない。

 わたしは『歩かない、走らない』と書かれた貼り紙を尻目に、エスカレーターを駆け上がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ