爽やか男子
「……サ、ミサ?」
はっと顔を上げると、机の横にマユが立っていた。
「あれ?」
さっきまでショートホームルームだったはずなのに、いつしか担任の姿は消え、クラスメイトも荷物を手に次々と教室を出てゆく。
「考えごと? もしかしてユウキのこととか?」
マユがわたしの前の席の椅子に腰を下ろす。
「まさか。違う違う」
「まさかって、ひどい言い様だね」
苦笑するマユを前に、しまった、と反省をする。これをユウキが聞いていたら、傷つけてしまうかも――と思い周囲を見渡す。
その矢先に、教室のうしろのドアのところに当人の姿を見つけてしまった。
マユもすぐに気づいて、まずい、という顔になる。
わたしの席は、廊下側のうしろから二番目。会話が聞こえてもおかしくない距離だ。
「トモヤから伝言だよ。教務室まで没収された携帯を取りに行かないといけないから、三人で先に帰っててくれ、だって。説教が長くなりそうだから、って」
ユウキが笑いながら教室の中へと入ってくる。聞こえなかったのか、聞こえなかったふりをしているだけなのか。
聞こえていなかったのならいい。でも、もし聞こえていたら?
「あれ、でもユウキって自転車通学だよね?」
マユが首をかしげる。
「最近、朝、なかなか起きられなくってさ。今日も寝坊して電車で来たんだよね」
ぽりぽりと頭をかきながら笑うその姿を見て、胸がちくりと痛んだ。
「ごめん、ユウキ」
さっきの言葉は無神経すぎた。
それに、これまでのことも、これからのことも。
これまでなんとなく避けてしまってごめん。これからも、ユウキの気持ちに応えることができなくてごめん。
突然謝られたユウキはわたしを見て数度瞬きをすると、苦笑を浮かべた。
「気にしないで、わかってるから。でも、できれば前みたいに一緒に遊べると嬉しいな、とは思ってるよ。ただの友だちとして、でもね」
たったひと言。
その『ごめん』だけでユウキには全部伝わったらしい。
ユウキはいいやつなのに、なんでわたしはユウキのことを恋愛対象として好きにならないんだろう。
自分でも不思議だった。