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私の魔法使い  作者: 小高まあな
第五章
22/27

5−2

 次の日、学校に行くと、久しぶりに机に落書きがしてあった。うんざりしながら、マジックで書かれたソレを見て、動きがとまった。

「このビッチ」

 大きく書かれたその言葉と、へたくそな絵。セーラー服が、男にキスしている、絵。

 かっと耳が熱くなる。

 見られていた?

 誰に?

 咄嗟に、絵は鞄で隠す。

 落書きから目を逸らしたいのに、縛り付けられたように動けない。

 くすくす笑いが聞こえる。

 ああ、だって、誰が。

 どくどくと心臓が音を立ててなって、吐き気がする。

 どうしたら。

 思っていると、

「あんたさ、でくの坊なの?」

 冷たい声。それと同時に、横から腕が伸びてきた。その腕が、持っていた細長い容器を、逆さまにする。

 鼻をつく、匂い。

 液体が、溢れる。

 腕はそのまま、雑巾で机を拭き出した。

「……見てないで、あんたがやりなさいよ」

 うざそうに睨みつけられた瞳は、澪のものだった。

 澪の手に握られたのは、除光液。それが、机のインクを、少し薄めてくれる。

「ビッチとか、あてはまらなさすぎてうける」

 澪が文字を消しながら、鼻で笑った。

 鞄で隠した絵に、澪は多分、まだ気がついていない。あれを見たら、澪がなんていうかわからない。

 私は慌てて、澪の手から雑巾を奪いとった。

「自分でっ、やるから!」

 そう言うと、澪は僅かに不満そうな顔をしてから、

「あっそ」

 つまらなそうに言い捨てて、除光液を机の上に置いた。

「あげる。新しいの、買って返しといて」

 それは、あげるって言わない。

 なんで除光液を持って学校にいるのかも、わからない。あれがビッチじゃない?

 そんな言葉が一瞬、頭をかすめる。

 そんなことよりも、机だ。

 言葉よりも重点的に、絵を消すように力を入れる。

 完全には、綺麗にならなかったけれども、気にならない程度にはなった。

 それにほっと、息をついたころ、先生が入って来た。

「うわっ、なんだ。誰だ、マニキュア塗ったやつ!」

 露骨に顔をしかめる。

 あ、そうだ。じゃばじゃば使ってしまったから、教室中が除光液臭い。

「柴山さんでーす」

 教室の前の方で、男子がげらげら笑いながら言った。

 先生がこちらをみて、机を拭いている私を見て、何かを悟ったらしい。

 一瞬、唇がきゅっと結ばれる。

 あ、せっかく隠して来たのに、ばれてしまっただろうか。大人に。

 そう思って、ぎゅっと力強く雑巾を握る。

 だけど、

「……窓、あけろー」

 先生はやる気なさそうにそれだけ言って、教壇に立った。

 特に私をとがめることはせずに。

 事なかれ主義で。

 なあなあに。

 担任が、面倒ごとが嫌いなのは薄々察していたが、まさかここまでとは思わなかった。

 一言、私を怒ってくれさえすれば、もしかしたら私は、変わったかもしれないのに。なにかを、訴えることができたかもしれないのに。仮定の話だけど。

 ここの一体どこに、助けてくれる人がいるというのだろうか。

 唇を噛み締めると、黒板を睨んだ。

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