5−2
次の日、学校に行くと、久しぶりに机に落書きがしてあった。うんざりしながら、マジックで書かれたソレを見て、動きがとまった。
「このビッチ」
大きく書かれたその言葉と、へたくそな絵。セーラー服が、男にキスしている、絵。
かっと耳が熱くなる。
見られていた?
誰に?
咄嗟に、絵は鞄で隠す。
落書きから目を逸らしたいのに、縛り付けられたように動けない。
くすくす笑いが聞こえる。
ああ、だって、誰が。
どくどくと心臓が音を立ててなって、吐き気がする。
どうしたら。
思っていると、
「あんたさ、でくの坊なの?」
冷たい声。それと同時に、横から腕が伸びてきた。その腕が、持っていた細長い容器を、逆さまにする。
鼻をつく、匂い。
液体が、溢れる。
腕はそのまま、雑巾で机を拭き出した。
「……見てないで、あんたがやりなさいよ」
うざそうに睨みつけられた瞳は、澪のものだった。
澪の手に握られたのは、除光液。それが、机のインクを、少し薄めてくれる。
「ビッチとか、あてはまらなさすぎてうける」
澪が文字を消しながら、鼻で笑った。
鞄で隠した絵に、澪は多分、まだ気がついていない。あれを見たら、澪がなんていうかわからない。
私は慌てて、澪の手から雑巾を奪いとった。
「自分でっ、やるから!」
そう言うと、澪は僅かに不満そうな顔をしてから、
「あっそ」
つまらなそうに言い捨てて、除光液を机の上に置いた。
「あげる。新しいの、買って返しといて」
それは、あげるって言わない。
なんで除光液を持って学校にいるのかも、わからない。あれがビッチじゃない?
そんな言葉が一瞬、頭をかすめる。
そんなことよりも、机だ。
言葉よりも重点的に、絵を消すように力を入れる。
完全には、綺麗にならなかったけれども、気にならない程度にはなった。
それにほっと、息をついたころ、先生が入って来た。
「うわっ、なんだ。誰だ、マニキュア塗ったやつ!」
露骨に顔をしかめる。
あ、そうだ。じゃばじゃば使ってしまったから、教室中が除光液臭い。
「柴山さんでーす」
教室の前の方で、男子がげらげら笑いながら言った。
先生がこちらをみて、机を拭いている私を見て、何かを悟ったらしい。
一瞬、唇がきゅっと結ばれる。
あ、せっかく隠して来たのに、ばれてしまっただろうか。大人に。
そう思って、ぎゅっと力強く雑巾を握る。
だけど、
「……窓、あけろー」
先生はやる気なさそうにそれだけ言って、教壇に立った。
特に私をとがめることはせずに。
事なかれ主義で。
なあなあに。
担任が、面倒ごとが嫌いなのは薄々察していたが、まさかここまでとは思わなかった。
一言、私を怒ってくれさえすれば、もしかしたら私は、変わったかもしれないのに。なにかを、訴えることができたかもしれないのに。仮定の話だけど。
ここの一体どこに、助けてくれる人がいるというのだろうか。
唇を噛み締めると、黒板を睨んだ。




