第2話
空っぽの冷蔵庫からお茶を取り出して、悠人はコップ2つに注ぐ。
シンクの中には何枚かのお皿と鍋が重ねられている。
扉を開いてリビングに入る。
「その……どうぞ」
目の前にいる女性にコップを渡す。
彼女は部屋を見回していた視線を、悠人へと向けた。
部屋に入ってから、二人は一言も話していない。
25くらいだろうか。
少なくとも、自分より年上なのは間違いなさそうだった。
「ここが悠人の部屋なんだね」
女性はお茶を一口飲む。
つられるように悠人もコップに口を付けた。
「あの……一つ聞いてもいいですか?」
「うん。なんでもいいよ」
悠人は一度呼吸を整え、改めて目の前の女性を見る。
彼女は変わらず笑顔で答えた。
「その、あなたは誰ですか?」
「……あっ、そっか。悠人は私の名前を知らないのか」
女性の反応に、悠人は思わず首を傾げた。
「汐見海未っていいます」
海未はまっすぐな目で悠人を見つめる。
「えっと……汐見さんはなんで僕の名前を知ってるんですか?」
悠人は一度言葉を切り、海未の顔を見た。
「それになんで部屋の前にいたんですか……?」
「…っ」
海未の視線が少しだけ揺らぐ。
「えっとね……まずなんで悠人の名前を知ってるかなんだけど……」
「私ね……悠人の彼女なの」
そう言った海未の目は悠人を捉えていた。
部屋に時計の針が動く音だけが響く。
「この部屋に来たのもね、悠人がここに住んでるって知ってたからだよ」
この部屋に悠人が住んでるのを知ってるのは親か翔ぐらいだ。
悠人は言葉を出そうとしたが、なかなか出てこない。
「その……僕に彼女はいないはずなんですけど……」
今の悠人が絞り出せたのはこれだけだった。
「そんなはずないよ!」
海未は思わず声を上げた。
「今日もご飯行こうねって話してたし、悠人は約束破らないもん」
「……いつしましたっけ」
「いつって……えっ……いつだろう」
海未の笑顔が、だんだんと崩れていく。
「あっスマホに予定入れてあるはず。えっと……」
海未は鞄からスマホを取り出し、画面をタップする。
画面が明るくなり、見慣れたホーム画面が見えた。
「あれ……?」
海未はカレンダーを開く。
今日の日付には何も入ってなかった。
「待ってね……悠人と撮った写真があるはず……」
写真フォルダを開いても、そもそも写真が1枚も無かった。
「……なんでないの」
海未はカレンダーと写真フォルダを何度も開き、中身を確かめる。
5月17日
何度見てもその日は空白だった。
隣から画面を覗き込んだ悠人は、日付の上の数字に目を留めた。
「2031年……?」
壁にあるカレンダーを見る。
2026年5月17日。
海未のスマホへ視線を戻す。
2031年5月17日
何度も見るが、どちらの日付も変わらない。
「えっと……汐見さん。汐見さんが僕と約束してたのって2026年の5月17日ですか?」
悠人はそう言って、海未の方を見る。
海未の視線は悠人へ向いており、もう焦った表情をしていなかった。
「気づいちゃったんだね……」
「……悠人も信じられないと思うんだけど、私」
海未は壁のカレンダーとスマホを1回ずつ見る。
そして最後に悠人を見た。
「未来から来ちゃったみたい」
そういう海未の表情は明るく、純粋な笑顔だった。
感想、アドバイスなど貰えたら嬉しいです!




