第30ゴミ拾い 流星と疾風
「くそ……なんなんだこいつは……」
疾風の格闘家風の男、はるとが毒づく。
相手は1人。
こちらは4人。
純粋に疾風の勝ちだと思われた。
しかしそうはいかなかった。
ガローが手に持つ紫色に光る剣を振ると、周囲にその破片が飛び散った。
「まただ! 気を付けろ!」
疾風のリーダーで、戦士のような恰好をしているたいちが鋭く注意する。
飛び散った紫色に光る破片は、まるで意志を持ったかのように疾風に襲い掛かった。
「あんたの力でもどうにもならないの?」
魔術師の恰好をしたあやねが聞くと、はるとが叫び返す。
「無理だ! この俺様の体を貫いてきやがる!」
『……はるとは元々体を鍛えている上に、その能力は体を硬くする力……それでも防げないあの刃はかなり殺傷能力が高いと見て間違いない……しかも色によって力が変化する可能性すらある』
はるとが傷つけられているのを見て、はるとは即座にガローの能力をおおよそ理解した。
「あの剣を振らせるな!」
はるとが手に持つ剣でガローの紫色に光る剣の動きを止める。
「任せて!」
あやねがおぼえた呪文を使うと、突風が発生した。
その突風のせいで、ガローは手に持つ紫色に光る剣を取りこぼした。
「いただき!」
その隙をはるとは見逃さない。
落とした光る剣を蹴り飛ばす。
「くだらん!」
蹴られた剣には目もくれず、緑色に光る剣を手に持ちだした。
「好きなだけ剣が出せる能力か!」
はるとがその剣めがけてパンチをくりだす。
「それは悪手だろ」
ガローがにやりと笑う。
「いいや。悪手じゃねーよ。少なくとも以前の俺たちとは違うから」
たいちが言うと、たいちの背後から黒い影が現れた。
影はガローが手にした剣を盗んだ。
「盗人風情が生意気な……」
今度はガローが黄色く光る剣を手に持つ。
「色の種類がたくさんあって綺麗だね」
あやねが岩の壁を地面から出現させる。
「ほう? 黄色い剣を見て雷属性だと思ったわけか?」
ガローが息を吐く。
「それだけじゃないけどね」
今度はあやねがニヤリと笑う。
ガローが辺りを見渡すと、周囲を岩の壁に囲まれていた。
「逃げ道はねーぞ?」
ポキポキと。はるとが指の骨を鳴らす。
「俺のパンチを受けたことねーだろ?」
はるともにやりと笑う。
「よゆーだったな」
たいちの隣で緑色に光る剣を盗んだ、あやとが言う。
盗賊のような恰好をしており、最近疾風に加入した男だ。
その手には、先ほど盗んだ緑色に光る剣が握られていた。
「その剣は不気味だから捨てておけ」
たいちが言うとあやとは素直にその言葉に従った。
今までに何度も、たいちが危機を救ったことがあるから、たいちへの信頼度は高い。
「お前のそういう目はさすがだな。能力に関係しているのか?」
あやとが聞くが、たいちは首をすくめるだけで、自分の能力を明かさなかった。
それを視界の端で見たガローが小さく呟く。
「あの男がこのパーティーの要か……」
しかし今は目の前のことに集中しなければならない。
周囲を岩の壁で囲われ、明らかに身体の強さで自分よりも勝る敵が目の前に立ちはだかっている。
「やれやれ。骨が折れる仕事だな……」
「余裕こいてるんじゃねーよ!」
ふぅ。と息を吐くガローに向かってはるとが殴りかかる。
ガローは余裕でそれをかわそうとした。
――しかし。
「何?」
はるとのパンチはガローには当たっていない。
しかしガローは確かに殴れた。
にやりとはるとが笑って、更にパンチを繰り出す。
今度はガローも余裕を見せない。
黄色く光る剣の効果は雷系統ではなく、スピードアップ。
その力を使って、明らかにはるとから距離を取る。
それでも――
「ぐっ」
やはりガローはダメージを受けた。
そのダメージは決して大きくないが、何か得体の知れないものに、ガローは攻めあぐねてしまう。
「その能力に関係があるな?」
ガローの問いにはるとは答えない。
代わりにまたパンチを繰り出す。
避けてもやはりガローはダメージを受けた。
「……やっぱ。これじゃだめだな」
はるとがそう言うと、空気が変わったのがガローには分かった。
次は本気で倒しにくる。
歴戦のガローがそう直感した。
「随分と人気じゃねーの」
次の瞬間、ガローを囲む岩の壁の上から1つの影が現れた。
「仲間に入れてちょうだい」
たいちの背後からも声がした。
「流星……」
はるとが息をのんだ。
●
アドたちはダンジョンの出入口になんとか辿り着いた。
「大丈夫ですか?」
心配そうにイリが駆け寄る。
全員満身創痍だった。
「ダンジョンの嘆きとうねりがほぼ同時に起きたんだ」
「ダンジョンに起こる不思議な現象ですか……」
「ボクはもうだめかと思ったよ」
もうダメー。とザクロはベッドに倒れ込む。
「けいちゃん。肩を揉んでよ……」
全員がザクロを見る。
「あ……そっか。けいちゃんはもういないんだった」
「私が揉んであげるわ」
イリが寝転ぶザクロの足元に乗っかり、お疲れ様です。と言いながら肩を揉み始めた。
「能力で生み出したぬいぐるみなら、また作れないのかな?」
お茶を飲みながら反対側に座るシャラにアドが訊く。
「偶然に作れた物なら、難しいんじゃないでしょうか」
ふーむ。と少し考えてからシャラが答える。
それに……と更に続ける。
「人格はきっと変わってしまうのではないでしょうか。今までの記憶などはないように思います」
「今までの記憶かぁー。確かにそれはなくなるかもね……」
「私たちがけいちゃんの代わりになってあげれるでしょうか?」
シャラが不安そうにアドを見る。
「代わりにはなれないけど。新しい支えになれるとは思うな」
アドがイリとザクロを見ながらそう答える。
「新しい支えですか」
シャラが椅子から立ち上がる。
「それならもっと頑張らないといけないですね」
ポンポン。とお尻を叩きそのままザクロの方へ歩いて行く。
「次こそは2階層へ行きましょうね!」
笑顔をアドに見せた後、ザクロの方へとシャラは行ってしまった。
ザクロさん。私もマッサージをしてあげますよー。とか言っている。
その光景を見ながらアドは心の底から微笑んだ。
ずっとこんな仲間が欲しかった。
もう絶対に失いたくない――
●
流星の実力は、たいちが聞いていた以上だったようだ。
『数ではこちらが上だが質は向こうがかなり上か……』
岩の壁の上から現れたブロは、自分の背丈と同じくらいの巨大な剣を軽々と振り回した。
「何なんだこの大男は!」
はるとが悪態をつく。
「こういう筋肉達磨の相手はあんたの役目じゃないの?」
あやねがキーキー叫ぶ。
「うるせぇ! てめーだってその力でどうにかしてみろよ!」
ブロが周囲の岩の壁を軽々と粉々にする。
「よう。もう逃げれるぞ?」
ニヤリと笑うブロをガローが小突く。
「誰が逃げるかよ」
「私の役目は無しってわけ?」
たいちの背後に現れた能花が残念そうに言う。
「ま」
ポンポン。と足をはたきながらガローが何でもないかのように言う。
「素質は悪くねぇ。俺たちと組むのも問題はないだろ」
「手を組む? 俺たちを潰しに来たんじゃないのか?」
たいちが訊く。
「もしも本気で潰すつもりならとっくに潰してる。そうだろ?」
ガローが皮肉混じりに言うのを、疾風のメンバーの誰もが言い返せなかった。
実力差がありすぎるからだ。
「俺様たちはまだまだってことか?」
はるとがぶっきらぼうに聞くと、ガローは首を横に振った。
「ダンジョンでの生活を考えたなら悪くはない」
「ダンジョンでの生活?」
そこに違和感を覚えたのはたいちだ。
「さすがはパーティーの要でリーダーなだけある。洞察力や観察力が半端ないな」
そう前置きをして話しを続けた。
「俺たち流星は、対ダンジョンではなく対パーティー用に組まされたパーティーだ」
「対パーティー用?」
さくらが聞き返すと、あやとが即座に理解した。
「モンスター討伐は行わず、ギルド戦争に参加するためのメンバーか」
「ご名答。我々メリダのギルドが他のギルドに戦争を仕掛けているのは知っているな? 我牙のギルドと同盟を組んで更に戦争を有利にする。そのために、そっちのギルドへ案内してほしい」
「客人の案内ってそういうことか……」
たいちが呟き、これを受け入れた。
元々、たいち達もギルドから客人を自分のギルドまで案内する任務を受けていた。
こうして、世界最大とも言われる我牙のギルドと獰猛なギルド、メリダのギルドが同盟を組んだ。
このことが、世界に激震を走らせたことは言うまでもない――




