第29ゴミ拾い ダンジョンのうねり
アド達は穏風のダンジョンの1階層を熟知している。
今はモンスターに囲まれてピンチだが、出入口までのルートは把握している。
確かにピンチではあるが、絶体絶命というわけでもない。
しかし――
ダンジョンの構造が急遽変化した。
「これは?」
ザクロが絶句する。
「ダンジョンのうねりだ! ダンジョン内の構造が変化するぞ」
「なんでこんなことが立て続けに起こるんだよー!」
ザクロは文句を言いながら走っている。
「俺だって冒険者初心者なんだから知らないよ! ただ――」
「ただ?」
ザクロがキョトンとする。
「前のパーティ―では何度か経験した……」
アドの声が落ちる。
「アドさん……」
シャラは、どう声をかけていいのか分からない様子だ。
「アド。キミは前のパーティ―を抜けて今のパーティ―を作ったの?」
「いや。違う」
アドは首を横に振る。
「パーティーを追放されたんだ……」
「ついほー?」
「俺の能力はゴミ拾い。その特性で拾った物を捨てたり誰かに渡したりできないんだ。なのに、アイテムの近くに行くだけで自動的にアイテムを拾ってしまう……最悪だろ?」
はは。と力なく笑う。
「ま。今はスキルレベルが上がってかなり使える能力に発展したけどね!」
迫ってくるドドをナイフで倒しながらアドが言う。
「それに。たくさんの仲間もできた! もう昔のことは思い出したくないな」
「確かにボクも昔話しをするのは嫌いだ」
ごめん。と言いながらザクロは土角を3匹まとめて倒した。
「ではあとはここからどうやって脱出するかですね」
シャラの言うとおり、モンスターの包囲は今のザクロの攻撃で崩せた。
しかし、ダンジョンのうねりのせいで出入口がどこなのか分からなくなってしまっている。
「とりあえず歩くしかないね……」
アドが先頭に立ち、歩き始めた。
『昔のパーティ―か……』
●
アドがかつて所属していたパーティーは、疾風と呼ばれてかなり有名になっていた。
所属するギルドは、あの英雄と同じ我牙のギルドだ。
「この依頼をこなしたらいよいよA級パーティ―として認められるかもな!」
リーダーが意気込む。
いかにも戦士らしい恰好をしている。
「私もたくさんの呪文を覚えたから、いつでも頼ってよね!」
魔導士のような恰好をした女の子だ。
「恰好だけはいっちょ前だな」
背後から声がする。
「誰だ!」
格闘家風の男が振り返りながら、戦闘態勢をとる。
「さすがはA級に近いと言われるだけあるな。どんな時でも戦闘態勢を取れるのは強さの証だ」
拍手しながら男が現れる。
この男は流星のリーダー、ガローだ。
かつてアドをコケにして騙し、アイギルドが調子がいいとメリダのギルドに報告した張本人だ。
「だぁれ?」
かつてアドをずっと庇っていた、神官の恰好をした少女が問う。
「俺はガロー。流星のリーダーをしている。メリダのギルドに所属してるから疾風のあんたらとは敵ってことになるな」
この言葉を聞いた瞬間、疾風のメンバーがガローを取り囲んだ。
「おいおいいきなり物騒だな」
ガローがニヤリと笑う。
「疾風と流星で戦争でも起こすか?」
ガローが紫色に光る剣を構えた。
●
「また行き止まり……」
ザクロが膝に手をつく。
「ダンジョンの内部が変わるだけでこんなにも難易度が上がるなんて……」
アドが愚痴る。
「さすがはダンジョンは迷宮と言われるだけありますね……」
シャラも息が上がっている。
この3人の中で一番体力があるシャラですら、疲労が隠せない様子だ。
さっきから何度道を変えても行き止まりにしか辿りつかなかった。
更に不気味なことに、さっきまでモンスターに囲まれていたのにモンスターに遭遇しなくなったのだ。
「ダンジョンの嘆きの効果が無くなったのかな?」
ザクロが首をひねる。
「それにしても、モンスターの遭遇率が低くありませんか?」
そう。シャラが言うようにこれは異様だった。
まるで――
「誰かがダンジョンに入ったみたいだな……」
アドが零す。
「へぇー。鋭いね」
背後から声がした。
「誰?」
ザクロがサッと。アドの後ろに隠れる。
曲がり角から現れたのは、2人の女性だった。
アドは一瞬にしてその内の1人の女性に目を奪われた。
2人はそっくりの容姿をしているのにアドが目を奪われたのは片方だけだった。
「やめなさい白薔薇」
アドを魅了していない方の女性が咎める。
「私たちは戦争をしに来たわけでも戦闘をしに来たわけでもないわ」
「でも黒薔薇!」
「私の言うことが聞けないの?」
黒薔薇と呼ばれた女性がすごむと、白薔薇と呼ばれた女性は大人しく引き下がった。
「俺たちに何か用が?」
アドが問うと、黒薔薇は嘲るような笑みを見せた。
「私たちがあなたごときに用事があるとでも?」
「じゃあ何しに来たの?」
ザクロを一瞬見て、黒薔薇が口を開く。
「あぁ。あなたは出来損ないね」
黒薔薇の言葉を聞いて白薔薇がクスクス笑う。
「お姉さま。こんなやつらここで殺してさっさとこんなダンジョンから抜けましょ。私たちの目当てはここにはありませんわ」
「やめなさいと言ったはずよ?」
どうやら黒薔薇はあくまでも戦闘はしたくないようだ。
『きっとこの2人は俺たちよりも格上だ……やり過ごせるならそれに越したことはない……』
「ボクのことを出来損ないって呼んだな?」
アドの気持ちとは裏腹に、ザクロはヤル気満々のようだ。
アドは背筋に悪寒が走るのを感じた。
「それがあなたの力ね。確かに強力だけど最強ではない」
ギロリと黒薔薇が睨むと、ザクロが出現させた兵士たちが霧散した。
「あなたの能力は特に、私の能力と相性が悪いようね」
ふふふ。と黒薔薇が不気味な笑みを浮かべる。
文字通り、黒い霧となって消え去った兵士を見てザクロは初めて戦慄した。
「お友達が出せなくなった……」
「多分……分からないけど……」
アドは言いよどむ。
「消滅したのかもしれない……あの黒い霧……あれが……」
「へぇー。意外と観察眼はあるみたいね」
アドの答えに黒薔薇が褒める。
「ご褒美に私たちのことを少しだけ」
「ちょっとお姉さま!」
止めようとする白薔薇を黒薔薇が一睨みで黙らせる。
『黒薔薇の方が実力は上か……』
アドがじっくり後ずさりするが、後ろは行き止まりだった。
「安心して? 危害を加えるつもりはないわ」
その様子を見て黒薔薇がクスクス笑う。
「私たちは英雄ってゆーパーティーのメンバーなの」
知ってる? 英雄って。と白薔薇が嘲る。
「あの英雄?」
シャラが驚くが、アドとザクロはピンと来ていないようだ。
「えーゆーってなに?」
「誰かを救うヒーローみたいなもんだ」
「ボクにとってのアド?」
アドが笑って、その通り! って言おうとしたらシャラが遮った。
「違いますよ! 世界にギルドもパーティーもダンジョンも有数ありますが、その頂点にいるのが我牙のギルドに所属している英雄です」
「私たちのことはこの際どうでもいいわ。とにかく、英雄は今とあるプロジェクトを進めているの。そして私とこの白薔薇はそのプロジェクトの一部を担当しているわ」
「そしてそのためにこうして辺境の初心者向けのダンジョンにまで足を運んでいるわけ」
観念したように白薔薇が補足する。
「プロジェクト?」
「残念だけど、そこまでは教えられないわ」
アドの問いに黒薔薇は、片手をひらひら振って答える。
「ボクのお友達はどうなるの?」
「残念だけど、私の力で消滅してしまったわ」
黒薔薇が肩をすくめる。
「あの……」
立ち去ろうとする黒薔薇にシャラが声をかける。
その声は半分尊敬、半分恐れが混じっていた。
「私たちは初心者冒険者なのですが、このダンジョンが突然嘆きとうねりを始めました。こういうことはよくあることなのですか?」
「シャラ?」
ザクロが言うと、シャラはザクロとアドに諭すように言う。
「英雄って。本当にその名の通り英雄なんですよ。困っている人を助けてくれたり自分たちの利益にならなくても率先してやってくれるパーティーなんです」
シャラは目を輝かせて、そのまま黒薔薇を見た。
「ダンジョンの嘆きとうねりがほぼ同時に起こったのね?」
ふぅ。と息を吐いてから黒薔薇が言う。
白薔薇が、お姉さま。それってまさか。と何か知ってる風なことを言うと、黒薔薇は黙って頷いた。
「ダンジョンに起こる不思議な現象はランダムに起こるわ。私たちからすればそれは別に珍しいことでもないし、そういうアクシデントを突破できないあなたたちがまだまだ未熟というだけよ」
最後に黒薔薇は、それと。と付け足した。
「最初に威嚇行為をしてしまってごめんなさいね。ちょっと私たちも気が立ってたの」
さよなら。と白薔薇も言って2人は立ち去った。
「ね? いい人たちでしたよね?」
シャラが笑顔で言うがどうにもアドには腑に落ちなかった。
「いきなり攻撃を仕掛けるようなことをしてきたぞ?」
「ダンジョンでは気が立ってるんですよきっと」
「戦争をしに来たわけでも戦闘をしに来たわけでもないって言ってたしな……」
考えすぎか。とアドはダンジョン攻略に意識を切り替えた。




