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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
はた迷惑な貴族を斬る
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第49話―小さな依頼に挑む―

 俺はマシロの街を歩いていく。一応、前貰った魔法防御の外套が残っていたので、それを羽織った。姿を隠すのにはちょうどいい。前のように、こちらを見られたり、ひそひそ話をされることもなくなった。

ミサキのおかげで住民たちからの評価は良いものになったが、やはり落ち着かないからな。やはりこういうのは今度買っておこう。この外套、ちょっと重たいし、今の時期だと少々暑いからな。


 さて、しばらく街の中を散歩し、何か面白いことはあるかなと思いながら、噴水のある広場に到着した。ミサキが呼んだ魔龍と闘った場所でもある。本当に、出会いは最悪だったなと苦笑いしながら、その場にあった長椅子に座る。


 リンネはぴょんと、地面に降りて、そこらを駆け始める。俺は、そばにあった枝を拾って、投げる。リンネはそれを拾って、俺の方に駆け寄ってきた。ちょっと面白かったので、その遊びを続ける。


 しばらく遊んでいると、リンネは、俺が投げた枝を素早く追いかけ、地面に落ちる前に口で咥えるようになっていく。いろんなことに対して、こいつの成長は早いな……。

俺は嬉しかったが、リンネは枝を地面に置き、俺のそばへ来て、ちょこんと座った。そして、後ろ足で頭を掻いている。……飽きたんだな。


「キュアァァァ~……」


 リンネがあくびをした。……俺も何となく、けだるい感じになり、地面を眺めた。


「はあ~……暇だ……」


 依頼に出ない日というのはこうも暇なのか……。というか俺がこの世界に来てからは怒涛の日々だったからな……。こんな日は久しぶりだ……。暇なのがいいのか、忙しいのが良いのか、俺にもわからなくなってきた。

 これなら、ギルドで調べものをしたり、どこかに買い物に行ったりした方が良かったのではと、今更ながらに思う。

 ただ、ひとしきり遊んだ俺は、既にそこから動きたくも無かった。何も無ければ、このまま噴水を眺めるだけというのも悪くないかもなと思いながら、リンネを撫でていた……。


 ―適度に、なんか面白いことないかなあ……―


 俺が、そんなことを思っていた時だった。


「……ねえ」


 ふと、俺を呼ぶ声が聞こえる。なんだ? と思い顔を上げると、そこには十歳くらいの少女が居た。いつから居たんだ? 全く気付かなかったぞ。


「おじさん……暇なの……?」


 少女は無表情で俺に尋ねてくる。……むぅ、幼い少女に、昼間から暇かと聞かれたら、何やら堪えるものがあるな……。


「……ああ、今日は特に何も用事がないからな。暇と言えば暇だ」


 俺がそう言うと、少女は俺の腕輪を指差した。


「……冒険者の人?」

「ああ、そうだ。……と言っても、この腕輪は違うからな」


 俺は懐から、ギルドの紋章が入った腕輪を取り出した。それを見た少女は、


「……じゃあ……私のお願い……聞いて」


 と言ってくる。こんな子供が、俺に何の用だろうと思い、俺は頷く。……暇だからな。


「父上が……今日……誕生日なの……父上に……何かを……贈りたいの……」

「ほう……親孝行な子だな。……で、何を贈りたいんだ?」


 俺が聞くと、少女は街からよく見える、近くの大きな山を指差した。頂上付近は未だに白くなっている。高い山というのは、地上と季節が違うからな。まだ、雪が残っているようだが、あそこに何があるというのだろうか……。


「あそこに……生える……白露の花」


 少女が言う、白露の花というのは、マシロ領の特産物らしく、加工して乾燥花にすると、装飾品や薬などにもできるらしい。

だが、この花は、清らかな山の雪解け水でしか育たず、山の頂上付近でないと採れないという。山は魔物も多く、人の整備が出来ていないような場所だ。普段は冒険者ギルドに頼むのが一般的だが、


「お小遣い……足りない……」


 とのことらしい。


 ……なるほど。それで暇そうにしていた、冒険者である俺に声をかけてきたというわけだな……。

 俺はしばらく考えた。今日は確かに暇で退屈だったからな。ちょうどいいか……。ふとリンネを見ると、キラキラした目で俺を見て、尻尾を振っていた。……お前も行きたいんだな……分かった。


「良いだろう。その頼みに、力になろうじゃないか」


 俺がそう言うと、少女は頭を下げた。


「……ありがとう」


 お、喋り方は少し片言な感じだが、礼節を良く知っているな。何より、親のために頑張るというこの子の頼みは叶えてやりたい。俺も、人の親だったからな……。


 というわけで、俺達は山へと向かった。


 ◇◇◇


 山へ着くと、想像以上に道がないことに気付く。獣道のようなものはあるが……。俺はまだしも、少女の足では辛そうだな。どうしたものか……。


 お、そうだ。


「リンネ、大きくなれるか?」


 俺がそう言うと、リンネは頷き、大きく変化した。


「わ!」


 少女は驚いているようだ。俺はそのまま、驚いた様子の少女をリンネの背中に乗せ、自分もリンネに跨った。


「重くないか?リンネ」

「クワン!」

「大丈夫みたいだ……お前は大丈夫か?」

「うん……気持ちいい」


 一応は魔物ではあるが、少女はリンネに臆することなく、背中を撫でる。リンネは気持ちよさそうに笑った。

さて、準備も整ったということで、山の中へと入っていく……。


 山の中を進んでいくが、花らしきものはない。やはり、山頂近くまで行かないと駄目かな。そう思って、すこしリンネを急がせる。何せ、時間的にマシロに帰るのは夕方近くになりそうだ。


 少女によると、白露の花を採取した後は、マシロに居る魔法使いに頼み、乾燥させたいそうだ。その魔法使いを探す時間も欲しいからな。少し、先を急ごう。


 すると、魔物たちの集団に出くわした。こちらに敵意は無いみたいだが、リンネは低く唸り、臨戦態勢をとる。


「クウウウゥゥゥ……!」

「待て、リンネ。あちらに敵意が無い以上、無理に争うこともない。何とか説得して、道を譲ってもらおう」


 俺がそう言うと、リンネは唸るのをやめて、魔物たちと何やら話し始めた。しばらくすると、魔物たちは頷き、こちらにも敵意は無いということを悟ったのか、道を開けてくれた。

 流石、山の大将の子供だな。なんというか、そのあたりの威厳もあるみたいだ。


「よし。よくやったな、リンネ。えらいぞ」


 俺はちゃんと言うことを聞いてくれたリンネの頭を撫でる。リンネは嬉しそうにして、しっぽを振った。それを見た少女も、リンネの頭を撫でる。


「……リンネちゃん……えらい」

「ク~~~~~……」


 リンネはまた、嬉しそうにしていた。


 さて、魔物たちが道を譲ってくれたので、俺たちは先を行く。段々と上っていくと、草木が減って、地面が見えてくる。それと同時に、寒さも若干増してきた。少女が寒そうにし出したので、外套でくるんでやると、ペコっと頭を下げられる。

 その後、しばらく進むと、山頂付近まで来た。すると突然、少女が何かを見つけたように、上の方を指さす。


「……あった」


 少女の指の先を見ると、白い花が、崖の途中に咲いていた。……あれか。確かにきれいだ。俺の世界でいうところのユリに近いかな……。


「よし、待ってろ」


 俺は崖に手をかけて登ろうとする。しかし、崖自体がもろいのか、掴んだところから崩れてしまう。何度か上がろうとしたが、駄目だった。


「う~ん、どうすればいいかな……」


 俺と少女が考え込んでいると、


「クワン!」


 と言って、リンネが変化を始める。そして、リンネはエンテイの姿になって、翼を広げた。


 なるほど、確かにその姿ならあそこまで行けるか。


「お、いいぞ、リンネ。では……お前、リンネに乗って取りに行くんだ」


 俺が少女に言うと、少女は不機嫌そうに俺に振り向く。


「……「お前」じゃない……シロン」

「む? そう言えば名前を聞いたのは初めてだな。すまん。

訂正して……シロン。行ってくるんだ」


 俺が言い直すと、シロンは頷いて、リンネの背に乗った。リンネは羽根を広げて、飛び上がる。


 すぐに、花のところまで行ったが、今のリンネでは大き過ぎたようで、ギリギリのところまで行けるが近づけないみたいだ。


 すると、シロンは身を乗り出して、花に手を伸ばした。


 おいおい、なんだか危なっかしい体勢だな。


 落ちるなよ~と思いながら見守っていると、シロンの手が花を掴んだ。


「や、やった――」


 シロンは花を掴んで安堵したのか、一瞬力を抜いた。すると、ずるりとリンネから落ちる。

……まあ、想定通りというか、なんと言うか。俺は既にシロンの下に移動している。落ちてくるシロンを受け止め、抱えた。


「大丈夫か?」

「……大丈夫……ありがとう」


 俺が聞くと、シロンはそう答えたが少し、震えているみたいだ。そこへ、リンネが下りてくる。リンネは心配そうに、そして、謝るように、シロンを見ている。


「ん……大丈夫……けがはないよ」


 そう言ってシロンはリンネを撫でた。リンネは喜び、翼を広げた。ふと、シロンを見てみると、その手にはしっかりと、花が握られている。


「よし、では街に戻ろう。早くしないといけないからな」


 そう言って、俺はシロンを抱えたまま、エンテイに化けているリンネの背中に乗った。エンテイの姿でも、重さは問題ないようだ。リンネは、俺達に頷くと、山を下りて行った……。


 街に着くと、早速、乾燥花を作ってくれる魔法使いを探したが、なかなか見つからない。白露の花はやはり、ユリに近いものらしく、乾燥させるには緻密な水分操作をしなければならなく、そこらの魔法使いでは駄目らしい。

その所為で、多くの人間に断られた。また、山から下りてきたのが、夕暮れ前ということもあって、人通り自体が少なくなってきている。


 そんな町中を俺達はトボトボと歩いている。


 ……なんと言うか、依頼には成功して、目的は遂行できなかったというそんな気持ちだ……。


「……すまないな。せっかく、花を手に入れたのに……」

「いいの……これは……このまま渡す……」


 シロンは少し残念そうに俺に言った。そして、少し俯いている。そんな様子を見て、リンネがシロンの肩に乗って、前足で、シロンの頬を撫でた。


「ん……リンネちゃん……ありがと」


 シロンはリンネの頭を撫でた。俺はそんな様子を見て、また歩こうとした……。


「あれ? ムソウさんじゃん!」


 ふと、俺を呼ぶ声が聞こえた。そちらを向くと、そこにはミサキが袋を抱えて立っていた。


「……ああ……ミサキか……」

「何~? その反応薄い感じは~?」


 ミサキはそう言ってニコニコと近づいてくる。はあ~……疲れてるときには会いたくなかったな。


 ミサキが俺達に近づいていくと、リンネがミサキの肩へと飛び移って、ミサキの頬をぺろぺろと舐め始めた。……やっぱ懐いてんだな。


「……で、お前は何してんだ?」

「買い物だよ~。今日はハクビさんとも一緒に採集の依頼を一日中やっていてね、皆クタクタだからね~」


 ……ああ、なるほど。だからハクビもギルドに来なかったんだな。……俺も誘ってくれれば良かったのに……。


「ムソウさんは何してるの? ……その子は?」


 ミサキはシロンに近づき、顔を覗き込む。


「……シロン」


 シロンはミサキにやや、鬱陶しそうにしながらも、自分の名前を言った。やはり、こんな時に、ここまで明るい奴には会いたくなかったようだ。


「へ~、シロンちゃんっていうの~。かわいいね~」


 ミサキは楽しそうに、シロンの頭を撫で始める。シロンはやはり、少し鬱陶しそうにしていた。そんな気分じゃないよな……。

そして、ミサキはシロンの持っている花に気付く。


「わあ! 白露の花? 綺麗だね~……」


 ミサキは花を見つめてうっとりしている。綺麗なのは綺麗だが、これじゃあ、いけないという、こちらの意図が分からないミサキは、能天気なものだなと、頭を抱えた。もう少しだけ、凄腕の魔法使いを探そうと、ミサキと別れようとした時だった。


 ―……ん? あれ……待てよ……?―


 俺はあることに気付き、その場に立ち止まる。


「な、なあ、ミサキって魔法使いだよな?」

「え……何急に……当たり前のことを急に聞かないでよ。どこからどう見ても、魔法使いでしょ~」

「凄腕の魔法使いだよな?」

「何言ってるの? 十二星天だよ。“魔法帝”だよ。凄腕どころじゃないよ!

一緒にデーモンを倒したんだから知ってるでしょ!」


 ミサキは、俺の背中をバシンと叩いて、胸を張る。

俺とシロンは顔を見合わせた。シロンは信じられないという目で俺を見ている。俺はコクっと頷くと、シロンはミサキに白露の花を渡した。


「これ……ドライフラワー……できる?」


 差し出された白露の花を不思議そうに眺めるミサキだったが、すぐに頷く。


「これ? うん! 出来るよ!」


 シロンの顔が心なしか明るくなった。何のことだかわからないという表情のミサキに俺は事情を説明する。

 ミサキはふむふむと聞いて、


「……なるほど……いい子だねえ~。じゃあ、特別にやってあげる!」


 ミサキは、白露の花を置いて、杖をかざした。


「まずは乾燥……これは吸水魔法で……よし……後は色……活性化を弱めて……できた!……あ、それと……」


 ミサキは何か呟きながら作業を進める。いつになく真剣な顔に、俺は少々驚いている。


「――はい! 出来たよ!」


 ものの、数分でミサキは作業を終えて、花をシロンに渡した。色がそこまで変わっていないが、何か変わったのだろうか? そんなことを思っていると、花を受け取ったシロンが目を見開く。


「……渇いてる」


 シロンの一言に驚き、俺も花に触れてみる。おお、どうやら成功したみたいだ。

ミサキは花を乾燥させたついでに、自らが編み出した時間魔法を少しばかり使って、花の劣化を遅らせたという。ゆえに、色がそこまで変わらず、綺麗な純白のまま、花が乾燥されたたということだ。


「どう? シロンちゃん、これでいいかな?」


 ミサキはシロンに尋ねると、シロンはコクっと頷いた。


「ありがとう……ミサキ様……あと……あなたも」


 ミサキに礼を言った後、シロンは俺の方を向いて、頭を下げる。

 最後の方は人任せになったというのに、きちんと礼を言ってくるシロン。やはり、礼儀正しい子だなあと感心した。


「おう。気にすんな。それより早く帰ってお父さんを喜ばせてあげな」


 シロンは笑顔になって、頷く。……おお、可愛いな。初めて真顔以外の顔を見た気がする。すると、リンネが前足を上げている。手を振っているつもりらしい。

別れ際、シロンは俺とミサキに代金を払おうとしたが、俺は最後まで出来なかったからと、受け取るのを拒否し、ミサキも、こんなの、仕事のうちに入らないと言って、金は受け取らなかった。本音を言えば、俺もミサキも、早いところ、誕生日を迎えるお父さんとやらを喜ばせてやって欲しいと思っている。

シロンはコクっと頷き、俺達に手を振りながら、街の中へと走って行った。


 走っていくシロンを見送り、俺はミサキの方を向いた。


「ミサキ、ありがとな。俺にはどうすることもできなかった」

「気にしなくていいよ~。私たち仲間でしょ?」


 ミサキはそう言って、俺の顔を覗いてきた。俺は笑い、ミサキの頭を撫でた。少し嬉しそうにするミサキ。


「じゃあ、私、行くね。皆がお腹を空かせて待ってるから」


 そう言って、ミサキは指で、リンネの首筋を撫でた後、家の方向に向けて駆けていった。

 空を見上げると、夕焼けに染まった空が目に映る。今日は良い日だった。たった一人の少女の小さな依頼をこなすことが出来て。偶にはギルド関係なく、こういうことをするというのも悪くはない。


 そう思い、リンネの首筋を撫でる。リンネは相変わらず気持ちよさそうにしていた。


 ……さて、明日はどんな一日になるかな。俺はそう思いながら、ギルドへの帰路を歩いていった……。


 ◇◇◇


 ここは、マシロ領主、ワイツ・マシロ卿の邸宅。現在、ワイツ卿の誕生日を祝うパーティーが開かれていた。ワイツ卿は町中の者達からの誕生日プレゼントを貰いながら、愉快に食事をとっていた。


 すると、そこへ一人娘が近づいてくる。食事の手を止めて、どうしたのかなと、振り向くと、娘は、何やら小包のようなものをワイツ卿に差し出した。


「父上……これを……」


 ワイツ卿は娘から渡された小包を開く。すると中には、この地の特産物である、白露の花が使われた、ブローチが入っていた。


「おお、シロン。これを私に?」

「父上……誕生日……おめでとう」


 娘がそう言うと、ワイツ卿は目に涙を浮かべ、素直に喜んだ。


 そのブローチは手作りらしく、すこし、いびつな形をしているが、乾燥させた花を土台に、リボンと小さなガラス玉があしらわれたそれは、見事なものだった。特に、白露の花は、乾燥させているにも関わらず、まったく劣化していないように見える。よほどの、技術だと、ワイツ卿は驚いた。きっと、高名な者に、娘が私のために頼んでくれたのだろう。

いつも仕事で忙しく、あまり相手をしてやれない自分に、娘が苦労して手に入れ、作ってくれたブローチは、今日貰ったものの中で、一番嬉しかった。


「ありがとう。シロン。早速つけてみるかな」


 ワイツ卿は自分の胸に、そのブローチを付けた。娘の愛情が詰まったその贈り物を身に着けて、ワイツ卿は口を開く。


「シロン……今日ほど、幸せな誕生日はない。本当にありがとう。このブローチは我が家の家宝にするぞ!」

「父上……大げさ……でも……嬉しい」


 ワイツ卿の娘シロンは、自らの父親の胸の中に飛び込んだ。それを見て、周囲の者は手を叩く。


 こうして、ワイツ卿の誕生日を祝うパーティーは盛り上がっていく……。



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