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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
災害級魔物を斬る
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第39話―デーモン討伐の祝勝会始まる―

 俺達は晩飯が出来たということで、野営地に向かっている。正直ボロボロだ。早く帰って飯でも食いたいもんだな。

 そんなことを思っていると、リンネが突然俺の顔を舐めた。ああ、リンガたちとの戦いで小さな傷でもついてたかな。俺は、リンネを撫でてやった。


「ありがとう、リンネ。なにこれくらいすぐに治るさ」

「キュウ~……」


 俺が声をかけると、リンネはガクッとして、後ろを歩いているミサキを見ていた。ミサキもガクッとうなだれている。

 ……なにか企んでいたな? ミサキのことだ、リンネに何か吹き込んだらしいな。

 なんのことかわからないが、そんなリンネの首筋をくすぐってやった。


「キュ、キュウウゥゥゥ~~~」


 リンネは俺の肩の上で悶絶しているようだ。……よし、仕返しはしてやった。


「……なあ、ムソウ」


 俺がリンネで遊んでいるとき、リンガが声をかける。


「ん? なんだ?」

「このまま、歩いていくのも面倒だし、いっそ競争でもするか?」


 リンガはただ歩いて野営地に向かうのが飽きたらしい。ふと、周りの奴らの顔色を窺うと、リンガと同様に退屈そうにしている。別に、早く行くのは良いが、何故競争しようという話になるのか……。俺ほど疲れていないのだろうか。俺も歳を取ったものだと感じる。

 ただ、それを認めるのは、何となく恥ずかしいので、リンガの申し入れに頷いた。


「ああ、良いだろう。……他の皆はどうだ?」


 皆は頷いた。やっぱり、こいつらも暇だったんだなあと、思っていたが、ミサキはやれやれといった感じに、首を横に振る。


「私はいいや~。エンテイに乗って帰る~」


 そう言って、魔獣の姿に戻ったエンテイに乗るミサキ。人界最高峰と言えども、少女というのは変わらないらしい。皆もよくやるね、と言った達観した目で、リンガたちを眺めていた。

 リンネは……あれ、ついていかないな。俺の肩に乗ったままだ。


「……ん? お前は良いのか?」

「キュウッ!」


 俺の問いにリンネは力強く頷いた。どうやらリンネも参加したいらしい。預けられた時はボロボロだったが、すっかり元気を取り戻したようだな。先ほどまでは、サンロウシと遊んでいたというのに、元気いっぱいのようだ。ここで、遊ばせたら、夜は静かに寝るのだろうなと、頭を撫でてやった。


 そして、俺、ハクビ、リンガ、ジンラン、リンネが横に並ぶ。

 勝っても負けても何もないが、これはこれで楽しめそうだ。気を付けないといけないのはリンガとハクビ。森の中では強そうだからな。特にリンガの素早さは侮れない。人の姿でも、油断はできない。続いて、ジンランの順で警戒しておこう。リンネは……問題なさそうだ。見失わないようにしよう……。


「それじゃ、行くよ~、位置について~……よーい、どん!!!」


 ミサキの合図で、皆一斉に駆けだす。先に皆より一歩前に出たのはやはりリンガだ。すぐさま木に飛び乗って、木から木へと移動していく。

 次に出たのはハクビだった。リンガの後を追うようにどんどんと先へ進んでいった。


 次に出たのは俺、その後を追うようにジンランが走ってくる。……あれ? リンネは?

 俺はリンネの姿を確認しようと、立ち止まり、周囲を見るが居ない。

 その隙をついて、ジンランが前に出た。先に行かれた、と思い、ジンランの背中を見ると、あることに気付いた。


 ……リンネがジンランの背中につかまっている。


「あ」

「キュ~♪」


 リンネは茫然とする俺を横目に前足を上げている。手を振っているつもりらしい。


「あのやろっ! 待て~!」


 俺はジンランの後を追うように一目散に走った。


 すでに、リンガとハクビの姿は見えない。一番は諦めるとしても、リンネには負けたくない。


 俺は必死にジンランの横に追いついた。


「む? ムソウ殿、速いな。魔獣の我と互角とはな」

「もう歳なんだ。全盛期なら余裕だが、こういうのは流石にきつい。それに……」


 俺はリンネを見る。リンネはジンランにばれないように必死で隠れているみたいだ。


「ん? どうした? ムソウ殿」

「いや……何でもない……」


 俺は取りあえず、リンネのことは黙っていることにした。賢い子だなと思ったのが、本音だ。呆れを通り越して、感心してしまい、何も言えなかった。


 ……お、野営地が見えてきた。そして、リンガとハクビがお互いを妨害しあっているのが見える。


「お! なかなかやるなあ! だが、白餓狼に負けるわけにはいかないんでな!」

「フッ、若さとはどういうものか教えてやる!」


 先頭に立っているのは、ハクビだ。そして、後を追うリンガが追い付けないように、周囲の枝に気をぶつけているハクビ。足場が無くなり、万事休すと思いきや、リンガは、木に爪を立てながら、移動していき、ハクビに追いついて、肩を引き合うようになった。


 二人がもみくちゃになっている今は、好機だ。これだと、二人に追いつき、一番着も狙える。


 俺は最後の本気を出して、ジンランを抜いた。


「む!? 負けてられるか!」


 俺が抜くと、ジンランも少し焦ったようだ。速度を上げ始めた。フッ・・・だがもう遅い。俺は前に居た二人を抜き去る。


「あ!? この野郎ッ!」

「待て!」


 俺に抜かれた二人は争いをやめて、すぐさま駆けだす。


 いや、もう誰も俺には追い付けなかった。俺は一目散に走り、野営地へと一番に着いた。


「よしッ! 疲れたが俺の勝ちだ!」


 続けて、ジンラン、ハクビ、リンガの順で、野営地に到着する。柄にもなく、その場で喜んでいると、リンガが汗を拭いながら気持ちよさそうに口を開く。


「いやあ、疲れた。だがハクビに邪魔されなかったら俺が一番だったな」

「それはこちらのセリフだ。リンガ殿が邪魔さえしなければ私が一番だった」

「まあ、我は二人のおかげで二着だったからそのあたりはどうでもいいがな」


 三人は着いた途端に負け惜しみなのか、そんな話をしている。まあ、俺は一番だ。結局疲れることになったが、文句はないな。

 ただまあ、リンガとジンランは本来の姿ではない。いずれ、魔獣の姿の二人に、こういう勝負でも勝ちたいものだと思っていた。


「さて、腹減ったな。ウィズ、待たせたな。これから晩飯を――」


 早く食いたいなあと思い、焚火を前に座っているウィズの肩に手をかけようとした途端、周りの景色がゆがみ始めた。


「……は!?」


 俺達は周りの異変に困惑していた。そして、歪みが収まったと思ったら、俺達は未だ森の中に居ることに気付く。


 どこだ、ここは?


 俺達が茫然と立ち尽くしていると、遠くの方から声が聞こえる








「キュウウウウ~~~~~ッッッ!!!」


 声のする方を見るとそれは、野営地に駆け出し、待っているミサキに飛びつくリンネの姿だった。ミサキの他にはウィズやレイカ、サンロウシ、エンテイも居る。皆、よくやったとか言いながら、リンネの頭を撫でていた。


 あれ、どうなっている? あそこにあるのは確かに野営地で、今まで俺達が居た野営地で……? ……あれ、どうなってる?


「チッ! そういうことか!」

「やりおったな! あの妖狐!」

「やられた……!」


 俺以外の三人は何かに気付いたようで、俺を残し、駆けだ出す。俺は少し遅れて走り出し、結局、一番最後に野営地に着いた。


「はいっ! それまで~! 一位はリンネちゃん! 最後はムソウさ~ん!」


 俺が膝に手をつき、息を整えていると、大丈夫? と言って、ミサキとレイカが、顔を覗き込んできた。ミサキの手の中で、リンネは嬉しそうに笑い、前足を俺に振ってきた。


 え? 何だ? なにが起きた……


 困惑する俺に、ミサキは、はあ、と小さく息を吐き、クスクス笑いながら口を開く。


「ムソウさんたち、リンネちゃんに化かされたんだね……」


 ミサキの言葉に驚く。

 え、化かされる? つまりは、幻を見せられたということだ。ハクビがミニデーモンにやられたという話では、こんな感じでは無かったよな。あれとは別物なのか?


 俺が茫然としていると、ハクビたちが、やれやれという顔で近づいてきた。


「やられてしまったな、ムソウ」

「化かされるって次元か!? あれが……」

「そうらしいな。しかも、俺とハクビの鼻を欺くとはな……」

「しかも、走る私の背中でそれをやってのけたのだからな」


 ジンランは感心しながら、リンネの頭を撫でる。リンネが何をやったのか、未だ分からないでいると、ハクビが教えてくれた。

 妖狐は確かに幻術を見せることもあるというのだが、野営地周辺の森の景色のみならず、臭いさえもごまかすのは凄いことらしい。ましてや、ミニデーモンが集団で陣魔法を使わないとできないような難しい魔法を単体で出来るなんてな……とハクビは最後にそう言った。

 質は違えど、似たようなものらしい。ハクビが受けたものは、いわば、頭の中に作用させるもので、リンネの行ったものは、現実の俺達の目の前に作用するものということで、見事、いっぺんに俺達を騙せたとのことらしいが……どうにも、この結果は納得いかないな。そう思っていると、ミサキが声を荒げる。


「とにかくっ! 勝ったのはリンネちゃんだからね! 文句はないね!?」


 ミサキが俺やリンガの不服そうな顔を見てそう叫ぶ。


 確かに、最終的に勝ったのは、まだ幼いリンネだ。流石に何も言えないと、ぐっと黙る俺達。


「とくに、ムソウさん! リンネちゃんの頑張りを見て、何も思わないなんて許さないよ!」


 ミサキは俺を見ながら、魔法を起動させようとする。手を上げ、そこに特大の魔力を込める。


「待て待て待て! 分かった! 認める! 一番はリンネだ」


 慌ててそう言うと、ミサキはにこっと笑って、魔力弾を引っ込めた。ゼブルの時に使えば良いものをと思うくらいの魔力だった。本気になると、コイツも、俺を慌てさせるくらいにはなるんだなと、改めて実感。


 そして俺に近づいてリンネを差し出してくる。


 ……ご褒美か……なるほどね。


 俺は、リンネの頭を思いっきり撫でてやった。


「よくやったな。偉いぞ」

「キュウウウウ~~~~~~」


 リンネは声を上げて喜んだ。ハクビとリンがもそれで納得したのか、リンネの頭を次々に撫でていく。その度にリンネは笑い、喜んでいた。そして、リンネは俺の肩に乗った。


 何はともあれ、急に競争して、腹が減った。飯だ、飯にしよう。


 俺達は用意されてあった机に座る。……やはりどれも魚だな。だが、昨日の俺が作ったものと違って、ちゃんと料理してある分、ましだなと感じる。誰が作ったのだろうか……。何となくだが、ミサキではない気がする。この中だと……エンテイか? もしくは、ウィズか。どれも美味そうなにおいがしてきて、がぜん食欲をそそった。


 じゃあ、食べるかと思い、俺が箸を持つと、ミサキが口を開く。


「待って! まずは乾杯でしょ!」


 ミサキは盃を上げながら、立ち上がる。渋々、皆も俺も盃を持ち、ミサキの乾杯の音頭とやらを待った。


「え~、それじゃあ~、見事、ウィズ君とレイカちゃんを助け出し、さらに弟子まで持つことになった私にかんぱ~い!!!」


 ミサキはそう言って飲み物をぐいぐいと飲みだす。酒……ではないようだ。後で聞けば、ミサキは酒に弱いので、エンテイに止められているとのこと。皆は、やれやれと納得した様子で飯にありつく。あ、ウィズだけ笑ってくれているな。

 ……だが、それはどうでもいい。聞き逃しちゃいけないものが何個かあったぞ。


「ちょっと待て! 俺の活躍がないぞ! ゼブルを倒した俺の活躍は!? あと、弟子って何だ!?」

「あれ~、ムソウさんって自分の活躍とか気にする感じなの~? ヤダッ! うける~」

「チッ……まあ、それについてはどうでも良い……それよりも……弟子って?」

「なんだ、ムソウは知らなかったのか」


 俺の問いにハクビが意外そうな顔で見た。他の皆も同様な顔つきで、こちらを見ている。

 ……ん? なんだ? この妙な疎外感は……。

 すると、ウィズがクスっと笑い、口を開く。


「僕がお願いしたんですよ。ミサキ様の弟子にしてくださいって。そしたら承諾してくれて……」


 ウィズは、弟子になるまでの過程を話し出した。他の皆は、うんうんと頷きながら聞いていた。話は大体合っているらしいが……。


「……というわけなんです」

「……なるほど……大変だと思うが、頑張れよ。

 ……だが、何故、俺だけ知らないんだ?」

「ああ、私はウィズから先ほど聞いた」

「私は皆を待っている間に」


 ハクビとレイカはそう答えた。あれ? じゃあ、リンガとジンランは? ずっと俺と一緒に居たよな? 誰か何か言っていたっけ? そう思って、二人を見ると、


「ああ、俺達は四神同士の念話で聞いた」

「うむ。いささか驚いたが、ミサキが決めたのだからな仕方あるまい」


 リンガとジンランはそう答えた。聞けば、四神同士は、口を開かなくても、頭で念じるだけで会話することが出来る、「念話」という魔法が使うことが出来るらしく、ここに帰ってきたときに、エンテイとサンロウシから、こっそり聞かされたとのことだ。


 ……ん?


「ほう。……で、なんで俺に誰も言わなかったんだ?」


 俺は皆の顔を眺める。すると皆は視線を外すように下を向いた。ミサキにいたっては、ハッとした様子で、小さく震えているようだ。


 ……ん? 何かあるな、これは……。よし、確かめてみよう……。とりあえず……


「なあ……レイカ。なんで俺には言わなかったんだ? 何もしないから教えてくれよ」


 俺はにっこり笑ってレイカに尋ねてみた。それを見たレイカは、安心したのか、パッと顔を上げて、俺と同じく、満面の笑みを浮かべる。


「あのね! ミサキちゃんがね! おじちゃんに教えるときは驚かす時だよ! きっと面白いからって言ったの!」


 レイカは、ミサキを指さしながら、はしゃいでいた。ふむ……そう言うことか……。

 俺はレイカの頭を撫でて、ミサキの方をゆっくり向き、近づく。


「……ミサキ、どういうことだ?」


 俺はミサキにも笑みを向ける。お……皆、俺の気持ちわかってくれたか。全員下を向いたまま、ピクリともしない。レイカだけはキョトンとしているが。


「えっと、それはね~……」

「ミサキ、前に言ったよな……次は無いって……」


 魔龍を呼び出した際に、今度俺を騙すことがあれば、容赦しないと言っていたが、ミサキは覚えていたのだろうか。

 次、同じことをしたら、本気で怒るという言葉を思い出しのか、ミサキは慌てて、俺に弁明してくる。


「いやっ……でも、ちゃ、ちゃんと言おうとはしたんだよ? 普通に、正直に、ゆっくりと……」


 ミサキはどこか、焦った様子で喋り続ける。だが、俺は聞き逃さなかった。


「嘘だな」


 ミサキが聞こえないように、小さく発せられたリンガの言葉と、それに頷く、他の四神たちの姿を確認した。

 俺は更に笑って、ミサキに近づいていく。


「……ちゃんとは言おうとしたんだよな? それはわかる。うん、そう言いたかった気持ちはわかる……」

「そうでしょ!? だからね! お仕置きは――」


 ミサキは懇願するように俺を見るが、この流れは慣れている。なにせ……


「サヤもそう言ってた!!!」


 ゴツンッ!


 俺はミサキの頭を殴った。ミサキは、そのまま椅子の背もたれにもたれかかって、ピクリとも動かなくなり、宙を見ていた。


「あぁ~……」


 なんか声上げてるな。まあ、いいや。


 俺は自分の席について、盃をウィズに向けた。ウィズは一瞬ぴくっとした。


「まあ、何はともあれ、改めて、頑張れよ」

「……は、はい、ムソウさん」


 ウィズは俺の持ってる盃に自分の盃を当てた。


「さて、それじゃ、食うか!」


 俺はようやく、飯にありついた。他の皆もそろ~っと食べ始めるが、段々と、普通に食べるようになった。リンネも、皆が食べ始めるのを待って、自らの前に置かれた料理を食べ始める。


「キュウ~!」


 美味しかったようだ。目を輝かせて、焼いた魚を食っている。うん、やっぱり大勢で食べる晩飯は美味い。


 お、どうやらミサキが、目を覚ましたみたいだ。エンテイが、頭の方を癒しているのが見える。余計なことしやがって……。


 エンテイ、もしできるなら、そいつの頭の中も治しといてくれ。


 俺は祈るようにエンテイを見つめ、またすぐに飯を食い始めた。そして、俺達の宴会は続いていく。


 意識を取り戻したミサキはなおもわーわー言っているが気にしない。


「う~……ムソウさん……ひどいよ~」

「俺を嵌めようとして、それくらいで済んだんだ。逆に感謝しろ……」


 そう言って、飯を運び続ける。


「……にしても、ウィズを弟子にな……ウィズがいいならいいが、大変なんじゃないか?」

「なに? 私が人にものを教えるのができなさそうって思ってるわけ? 言っとくけど、米の製法をはじめとして、いろんなことをこの世界で教えて広めたのは私なんだからね!」

「いや、そのことじゃなくてだな……」


 俺は四神達を見る。すると、四神達は心配そうな目で頷いた。やっぱりか……。


 ウィズ、ハクビ、レイカはキョトンとしている。わかってないみたいだな。


「まあ、いいや。……じゃあ、ウィズは、これからはミサキと一緒に行動するのか?」

「ええ、そのつもりです。強い人と一緒に行動した方が強くなりますし、難易度の高い依頼を受けて、優秀な素材も手に入りやすくなりますからね」

「ああ、ハクビも同じこと言っていたな」

「私の言ったものとは多少意味合いは異なるがな。でも確かに、自分よりも強い者と組んでおけば、いざという時には何とかなるものだ。今回のようなことも減るだろうし」

「そうだな。……で、ハクビはこれからどうする? 以前言っていたように、一人で依頼をこなしていって、やばそうなものは、俺に頼るようにするか?今回の戦いでそれも必要ないんじゃないかと思ったが」

「うーん……。先ほど目的が出来たからな。私も、ミサキ殿についていこうと思っているのだが、ダメか?」


 ハクビは、ミサキに何か伺いを立てているようだ。


「お、ぴよちゃんが言っていた白餓狼の件だね。そこまででも大丈夫だし、それ以降も大丈夫だよ~」


 ミサキの言葉に、ぴよちゃんと四神たちも続いて頷いた。どうやらハクビもミサキについていくようだ。

 白餓狼の件か……俺も事情を知っているから、後で聞いてみることにするか。


「なら、マシロに帰った後はウィズと共に、私もミサキ殿についていくことにする。すまんな、ムソウ」

「気にすんな。……で、レイカはどうするんだ?」

「私も考えていたんだけど、魔法の威力や精度をあげたいからね~。……ミサキちゃん、だめ?」


 レイカは、おねだりする子供の様な目をしながら、ミサキの顔を見つめる。すると、ミサキは目を見開き、喜んだ。


「レイカちゃんも来るつもり!? いいよ、いいよ! 旅は大人数でした方が楽しいもんね!」

「わーい、ありがとう!ミサキちゃん!」


 ミサキはすぐに、レイカの頼みを承諾した。一気に三人を連れるということで、確かに大所帯となるが、四神やぴよちゃんは、喜んでいる。


「フム。ミサキ様もだいぶ大所帯になるな」

「だが、これだけいれば安心だ」

「ああ。今までだと、朱雀が呼ばれる度に大変そうだったからな。良かったな、エンテイ」

「ふふ、そうですね」

「……それで、ムソウ殿はこれからどうするんじゃ?」


 俺は、サンロウシの言葉に少々悩む。ここの所、突発的に発生した依頼にしか行っていないからな。帰ってからのことはあまり考えていなかった。

 そして、あ、と思い出したことがあり、口を開く。


「ひとまず、マシロに帰ったら、しばらくは、マシロ付近の魔物討伐依頼でもやって、過ごすよ。リンネも鍛えないといけないからな」

「ワイアームの大量発生で増えたっていうやつね~」

「ああ。ワイアームの一件は全て片付いたと思ったら、これだからな。俺も関わった分、ちょっとは役に立っておかないとな」


 一昨日までは、調査もろくに済んでいなかったからな。今回のことで調査に出ていた奴らもロウガンの呼びかけによって街に帰ってきているだろうし、それにより、新しい依頼もあるかも知れないから、それに挑戦しよう。


「関わったというより、ムソウさん中心でいろんなことが起こったんだけどね……」

「……ムソウはオオイナゴを倒した後もいろいろやってたんだな……」

「俺達なんかまだ依頼の初達成もまだなんですよ……」

「試験の時から思ってたけど、やっぱりとんでもないね」


 ミサキはやれやれと頭を抱え、ハクビ、ウィズ、レイカは呆れたような目で俺を見てくる。ウィズとレイカは、早いところ異界の袋を手に入れないとな、と、揶揄うと、ウィズは苦笑いしながら頷き、レイカはムスッとしながらそっぽを向いた。


「だが、今回は相手が悪かっただけだろ?」

「終始圧倒的だったムソウさんが言うと、違和感があるのですが……」

「まあ、な。ただ、今となっては、リンガとジンランの二匹、あるいはミサキ一人いれば大丈夫だったんじゃないかとも思ってる」


 デーモンは魔法が効きづらいとロウガンは恐れていたが、ミサキにとってはどうでも良いような感じだったからな。龍言語魔法もあったし、四神の召喚もあるミサキ一人でも何とかなっていたのではと思っていると、ハクビが口を挟む。


「それは言い過ぎだぞムソウ。私が助けなかったら、ミサキ殿は洞窟の罠で死んでいたからな」


 ああ、あの罠の時か。確かに、ハクビが居なかったら、あの時点で終わっていたなあと、皆で笑った。すると、ミサキは声を荒げる。


「あ~!!! 内緒にしようとしてたのに~! ハクビさんだって、そのあとのデーモンキングに気付いてなかったじゃない!」

「む、そう言われるとな……」

「ま、まあ、結果的に俺達は助かったんですから、良しとしましょう」

「そうだね! 皆もありがと!」


 レイカがニパっと笑うと、ミサキも和んだようで、クスっと笑い、頷いた。こうして見ると、子供って良いなあと思う。

 何人かも同じことを思ったようで、サンロウシがレイカの頭を撫でながら、穏やかに笑っていた。


「ふむ……やはり、子供は無邪気でいいのう……」

「む~、サンロウシさん! 私は子供じゃないよ! もう200年も生きているんだからね!」

「なんと!? ……では儂の3倍は生きているのか!? ……恐れいったのう」

「へっへーん!この中では私が一番年長者だからね!」


 スッと立ち、胸を張るレイカ。無邪気な様子に、皆、苦笑いしながら頷いている。


「……精神年齢は一番下だろう」

「なんか言った? おじちゃん」


 思わず口に出してしまった本音に、レイカはジロっと俺を睨んだ。話を変えよう……。


「いや、何も……。ところでお前ら契約獣は何歳なんだ?」

「サンロウシが一番上で60くらいか?他は、40~50位じゃないのか?」

「そうですね……あの大きな蛇と闘ったときにはすでに成獣となっていましたので、あの時がおよそ30年前ですから、そうですね、大体そのくらいです」

「確か、ミサキ殿と出会ったのが、闘いの20年ほど前になるのか?」

「そうだよ~、私もちっちゃくて、皆もちっちゃくて可愛かったな~。ちょうどリンネちゃんくらいの時だったな」

「へ~、じゃあ、リンネもいっぱしになるにはそのくらいかかるのか?」

「どうじゃろうの~? 魔獣によっては成長も早いかもしれないし、何よりこの子はもういっぱしではないか?」


 あ、やっぱり、種族が違うと、年齢による成長も、魔物の中でも変わって来るのか。まあ、確かに、皆、俺と同い年くらいには見えないからな。ただ、サンロウシの言うように、リンネは二歳でも、もう、そこらの魔物よりは強力な力を持っている気がする。


「私たちを化かすくらいだからな」

「そうだな」

「うむ」

「まあ、そうだな。これからこいつがもっと強くなったとして、俺、やっていけるのかな……」

「そうなったら、二人合わせて世界最強だね!ムソウさん!」

「キュウッ!」


 ミサキの一言に、リンネは笑って頷き、俺に尻尾を振る。オウガ達に頼まれた、コイツを強くするという約束、案外、早く済むのではないかと苦笑いしながら、リンネを撫でた。


「はは、嬉しそうだな。ムソウ、頑張れよッ!」

「あ、ああ。……で、なんの話だっけ?」


 さて、話を戻そうとしたのだが、何の話をしていたのか忘れた。すると、ハクビが口を開く。


「ムソウのこれからの予定だろ? マシロ周辺の魔物を狩り尽くしたらどうするのだ?」


 狩り尽くすって……俺を何だと思っているのだろうか。 


「おっかないこと言うなよ。せめて奴らが森に帰るように……って、それもだめだな。精霊人たちに悪いからな」


 出来るだけ、危害を加えないのなら魔物たちも見逃そうとは思っていた。ただ、よくよく考えると、森に返すだけでは、精霊人たちに被害が及ぶ可能性もある。やはり、俺の手で、魔物を狩り尽くした方が良いのかと思っていると、ミサキが心配しないで、と言ってきた。


「精霊人たちなら大丈夫でしょ~。精霊人の魔法はすごいんだから!」


 言われなくても、凄いと感じていた精霊人の魔法に“魔法帝”のお墨付きが出た。まあ、あの長老が居たら、魔物たちも、あの集落に手を出すということは無いというわけか。

 森に帰ったとしても、あいつらなら何とかやっていけるかと安心する。


「……ああ、そうだったな、ミサキ。俺もあいつらを信じてみようかな。

 さて、マシロ周辺のことが片付いたら、旅にでも出ようかと思ってる」

「旅ですか。良いですね」

「ああ、冒険者なのだからな」

「それで、どこに行くかは決まっているの?」

「いや、特に決めてはいないが……」


 何せ、この世界に来て、まだひと月も経っていないのだからな。どこに何があり、どんなものがあるのか分かっていない。旅をしたい気持ちはあるが、どこを目指せばいいのやらという気持ちもある。

 どうしたものかなと悩んでいると、ミサキがスッと手を上げた。


「だったらさ、お勧めの場所があるよ~!」

「ん? どこだ、ミサキ」

「クレナ領のトウショウの里だよ!」

「ああ、あそこなら良いな」

「確かに! ムソウさんだしね!」


 クレナ領……どこかで聞いたことがある。どこだっけ?

 しかし、ミサキの提案に、ハクビとレイカも頷いているところから、よほどお勧めらしいが……。


「そこは何なんだ?」

「えっとですね、武神サネマサ・タケダ様の故郷でして……」


 ウィズの言葉に、精霊人の森で、アイツと話したことを思い出した。


「ああ、そんなこと言ってたな、アイツ」

「お会いになったのですね!」

「ん? まあな。で、何があるんだ?」

「トウショウの里は文字通り、たくさんの鍛冶職人がいる。そこでだったら、魔物を倒しつつ、より強く精巧な武具が手に入るというわけだ」


 ……ああ、刀匠ね。一瞬、何のことか分からなかった。なるほど、職人街となっているというのなら、確かに興味はあるな。


「さらにトウショウの里には刀精の祠っていうのがあって、そこでは自らの武器に宿る精霊とお話ができるの!私もこの杖の精霊とお話しできて、楽しかった~」


 ……ん? 何とも聞き慣れない言葉が飛び出してきたな。


「武器の精霊?」

「そうです。この世界のありとあらゆるものには精霊が宿っているとされています。武具もまた、然り。ただ、精霊というものに出会うのはかなり難しいとされているのですが……」

「その祠では、なぜだか、武器に宿る精霊のみに関してだが、現れやすくなるという。……ムソウ、謎だらけのお前の、謎だらけのその無間という刀の秘密、知りたくはないか?」


 あ、それで、トウショウか……。精霊についての話なら、俺もギルドで読んだ本に書いてあったから、何となくは分かっている。

 精霊族がこの世界に居ないというのも、精霊人の森で聞いていたから何となくわかってはいたが、この無間は、前の世界から、俺が持ってきたものだ。果たして精霊が居るのかどうかは怪しいものだが、興味はある。無間は謎だらけの武器だからな。


「……確かにな。さっきもジンランに迷惑かけたし」

「気にするな。だが、その刀は確かに謎の多いものらしいからな。我もトウショウの里に行くことを勧める」


 ジンランも、俺がそこに行くことを勧めてきた。一緒に強くなって、また闘うという約束だからな。今度はすっきりと終われるように、俺は皆に頷いた。


「……そうか。じゃあ、ひとまずそこを目指してみるかな」

「うん! それにね、トウショウの里ってちょっと私たちの世界で言うところの古い感じで、サネマサさんやムソウさんの世界によく似た感じの風情があるところだから気に入ると思うよ!」


 お……珍しく、ミサキが良いことを言ったな。そう言うことなら俺としても、過ごしやすいかも知れないな。がぜん、期待が高まっていくが、その時、ハクビが何やら思い出したらしく、苦い顔をして、口を開いた。


「……なあ……確か、あそこの支部長は、“あばれ姫武将”のアヤメ殿だったか?」

「そうだよ。ハクビさん、よく知ってるね~」


 ミサキの言葉に、あちゃ~という顔をして、頭を抱えるハクビ、レイカ、ウィズ。何のことだろうかと思っていると、ハクビがこちらに振り向いた。


「知らない奴がいるのか?……ムソウ。アヤメ殿は気性が荒いが、話せばいい人間だとはわかるはずだ。安心しろよ」

「安心できるか! まあ、支部長になるくらいだからな。よっぽどの人間じゃないとは思うが……」


 あのハクビが、気性が荒いと言う奴か……。ちょっと不安は残るが、ギルド支部長になったのだから、それなりに、まともであるとも思っているので、そこまでの心配はしていないと、言うと、ハクビは頷く。


「うむ。それくらいで十分だ。……それで、ミサキ殿。我々はマシロに帰った後はどこへ行くのだ?」

「う~んとね、基本的にウィズ君とレイカちゃんの修行はどこででもできるから、ハクビさんが、すぐにオウキ領に行きたいっていうならそれでも良いけど、その前に、今回のことを報告しろって、セイン君が言ったらレインに行くことになるかな~」

「王都に行くの!?」

「レイカちゃん、落ち着いてね。もしもだよ、もしも」

「それでもだよ~。楽しみ~」

「ははは……。それでね、報告が済んだら、私の故郷に行って、やりたいことがあるんだ。だから、早くてもオウキはそのあとになるかな……」

「私はそれで大丈夫だ」

「俺もです」

「私も~!!!」

「じゃあ、決まりだねッ! その前にマシロに行ってロウガンさんにこのことを伝えて、私はウィニアに伝令魔法を飛ばして、結果が返ってくるのは5日くらいかかると思うから、その間は皆好きに過ごすってことで……あ、ウィズ君と……レイカちゃんは修行ね!」

「「はい!」」


 あっという間に、ミサキ達の予定は決まったな。人数が多いからどうなるかとは思ったが、そのあたりは、やはり皆、ミサキのことを一応は、十二星天という偉人として見ているので、すぐに指示には従った。


「では、その間は私も討伐依頼をこなすかな」

「また、一緒に行くか?」


 ハクビに、そう尋ねると、コクっと頷く。


「ああ、是非頼む」

「よしっ! とりあえずは各々これからの予定は決まったな。さ~て、じゃあ俺はあっちで酒でも飲もうかな……」

「おいっ!ムソウ!酒を飲むなら俺も混ぜろ~!」

「私も~!」


 話が一区切りついたところで、俺は焚火のところへ行って、酒を取り出す。と、レイカとリンガもついてきたな。虎と子供に酒飲ませて大丈夫なのだろうか……。


 まあ、いっか。俺はそれぞれの盃に酒を入れて飲んだ。


 向こうの世界でもこうやって過ごしてい……ないか。あの時はまだ、俺がガキだったからな。で、サヤの誕生日で酒を飲んで、サヤが倒れて、抱きついてきて、そして、次の日に……。


 フッ、ちったあ、こういう風に皆と旅をしても良かったかもしれないな……。


 昔の俺は……なんというか、悪ガキだったからな……。


 ふと、皆の方を見ると、大きな魚の身に飛びついているリンネを見ながら、皆は笑っていた。やはり、こういうのも、悪くないと感じながら、焚火を見つめ、酒を呑んでいた。


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