第40話―前の世界の仲間を語る―
俺は焚火を見ながら、酒を飲んでいる。皆の方を向くと、ウィズの修行についての話で盛り上がっているようだ。ミサキばかりに教えさせるのは気が引ける、だとかサンロウシが、わしの体に傷をつけられれば免許皆伝とかいろいろ言っている。
ハクビとぴよちゃんは、二人でなにか話しているようだ。さっきちらっと聞いた白餓狼の件って奴かな。……ウィズのことといい、知らないことが多いな……。
そうやって皆の方を眺めていると、顔を真っ赤にしたリンガとレイカがやってきた。
「おい! ムソウ。お前、何ちびちびやってんだ! 酒はこうやって飲むんだよ!」
リンガは酒瓶からそのまま飲み始める。レイカは横で、お~、すご~いと言いながら拍手をしていた。
「ぷはあ! ……ほれ、次はお前だ!」
一気に赤ら顔になり、呂律も回らなくなったリンガは俺に酒瓶を渡した。
「……あ? 結構残ってんな。……もったいねえ」
リンガは見かけよりも飲んでいないが、かなり酔っているのはわかる。そんなに強いのか、これ。
俺は黙って、酒瓶に口をつけて飲みだした。
……おお、すっきりしていい味だな。そこまで辛くない。これならごくごくといけそうだ。そして、そこまで強くない……。これなら酒に弱い奴でも楽しめそうだ。……てことは、ミサキは弱いのか? ……いや、弱そうだな。
などと思いながら、あっという間に酒を飲み干してしまった。
「む? 空になったな……すまん、まだあるか?」
あまりにも飲みやすいので、一瞬で無くなり、少し残念だ。今度はもう少し、落ち付いて、ゆっくりと呑もうと思い、俺はリンガに空になった酒瓶を渡して聞いたが、二人は口を開けて俺を凝視していた。
「……驚いた~、おじちゃんってお酒強いんだね~」
「そんなに強い酒でもないだろう。それよりうまかった。もうないのか?」
レイカにそう聞くと、他の皆も集まってくる。すると、ミサキが酒を持ってきてくれた。
「……へ~、ムソウさんお酒強いんだ~。これあげるけど、その代わりに何かお話しして?」
「……どういう理論なんだ、それは」
「例えば、このあと、ムソウさんがそれを思いっきり飲んで、酔いつぶれて、皆に迷惑をかけてしまわないように、話しながらゆっくりと飲ませようという、私の作戦だよ~」
「心配性だなあ~。まあ、いいか。ほれ、何か話すからよこせよ」
俺はミサキから酒瓶を奪い取る。ついでに、ウィズが持ってきてくれていた、干し肉をあぶったものと、魚の燻製のようなものを口にしながら、渡された酒をちびちびと飲み始める。
「あっ、……も~う」
「で、どんな話が良いんだ?」
焚火の前に座り、皆を見ると、ハクビが手を上げる。
「……なあ、さっきミサキ殿を殴ったときに、俺を嵌めようとしてそれくらいで済んだんだ、感謝しろ、と言っていたが、ムソウを嵌めたら、もっとひどいことが起こるのか?」
と、聞いてきた。
「ああ、それか。確かに、昔、俺を嵌めた奴らにいろいろやったが……なんだ? その話でもいいのか?」
皆は頷く。そして、焚火を囲むようにして座った。
「さて、じゃあ話すぞ……」
俺は、酒を一口飲み、その時のことを語る。
◇◇◇
昔、傭兵稼業をしていた時に、仲間に頼まれて、ある砦に密偵として送り込まれたことがある。密偵というのは危険だ。なにせ敵の懐内に、身一つで行かねばならないからな。
俺は無間という目立つものを持っている。これでは駄目だと、無間を待機する仲間たちに預け、その砦へと向かった。砦内は、一つの街になっていて、そこで戦う兵士たちの娯楽のための施設や店も多くあった。
長引く戦いに疲れた兵士たちにとっては確かにこの砦はいい場所かもしれんな。だが、逆に旅商人を装って中に入ることも容易だった。仕事の内容は、砦内の情報と、兵力、そこに囚われている奴らの規模などを纏めて、報告すること。
そして、俺はしばらくその砦内にできた街で過ごすことになった。仲間たちは、ひと月経っても帰ってこなかったら、助けに行くと言っていたので、それまでに情報を集めないとな、と思い、来る日も来る日も、情報集めに奔走したが、何一つ収穫はなかった。
意外とこいつら、しっかりしているなと感心しつつも、なかなか思い通りにいかず、疲れたなあと思っていると、一人の遊女らしき女が声をかけてくる。すごく美人だったと思う。その女はやけに俺のことを気遣い、一緒に酒を飲みながら、俺の苦労話をうん、うん、と聞いてくれた。
その夜、俺は、今日はその女が家に泊めてくれるっていうから、ついていった。それまで野宿だったからな。そして、家に着いて、布団の中に入ろうとすると、女が部屋に入って、服を脱ぎだした。そして、そのまま俺に抱き着いてきて……
……というところで俺は急激に眠くなり、寝てしまった。そして、目が覚めると、牢屋の中にいた。牢屋の外にはその砦の指揮官と、先ほどの女が居た。指揮官と女は俺を見ながら、けたけた笑っている。
その時に気付いた。嵌められた! と。指揮官曰く、俺の存在には気づいていて、女を差し向けて捕らえようとしたが、ここまで簡単だったとはな! と侮蔑の視線で俺を笑っていた。
そして、女の方を見ると、女も嘲笑の声を上げている。こんなに引っ掛かりやすいなんて、馬鹿な男ね、と。
……その日から、俺への拷問の日々が続いた。作戦と仲間たちの潜伏の場所を聞きたかったらしいが、俺は耐えていた。そう、もう少しで仲間が助けに来てくれると思っていたからだ。
……だが、いつまで経っても仲間は現れなかった。何やってんだよ、あいつら……と、正直、生きた心地がしなかった。俺は当時の仲間に対して、ひどく悲しみを覚えたものだ。なにせ、色々あってできたすごく信頼していた奴らだったからな……。
そして、俺は自らの腕にはめている、腕輪を見つめる。その腕輪は、仲間の証だ、と言って、前にそいつらから貰ったものだ。今回の作戦では目立つから、外していこうと思っていたのだが、仲間の一人が、
「……これも持って行って……ザンキ……私たちは……いつでも……一緒……どんな時でも……力になる……」
と言って、渡してきたものだ。
……はあ、こんなのあっても、何も……。
と、思っていると、あることに気付く。小手のその細工……彫金を施したところが、外れそうになっていた。なんだ? と思い、ゴソゴソしていると、そこが横にずれて外れて、中には、紙切れと小刀の刃のようなものだけが入っていた。俺は紙切れを広げると、俺に小手を渡してくれた、仲間の一人の字で、
「死なないで、ザンキ。何かあったらこれを」
と、書いてあった。
俺はわけがわからなかったが、良いものを手に入れたと、思った。
今まで思っていたことを改め、その仲間に感謝し、次の拷問まで時が来るのを待った。
そして、拷問の時が来ると、いつものように相手方の兵士たちが俺の部屋へやってきた。俺は、隠し持った刃で、そいつらの一人の首筋を斬り、そいつの刀を奪って、その兵士たちを殺した。
そのまま、他の囚われていた者たちを解放し、協力を申し出る。その後はそいつらと共に、砦内の他の捕らえられていた奴らを救い出し、各所で暴動を起こしてもらった。
その隙に、俺は指揮官の部屋へと向かった。指揮官は、俺を嵌めた女と寝ているようだったが、知らない。そのまま二人ごと、一刀のもとに切り伏せた。
「俺を嵌めた報いだ。良かったなあ、ある意味一つになれて……」
その後、刀の血を払って、外を見た。砦内の鎮圧はまだのようだ。ふと、上を見上げると、桃色の煙が上がっている。それは、俺達の仲間がよく使うのろしの一つで、「準備完了」の合図だった。
俺は砦内で戦っている奴に指示を出し、砦の門を開けさせた。すると、俺の仲間たちが武器を構えて突っ込んでくる。先頭は、その時の隊長と、俺に小手を渡してくれた、小柄な女の忍びだった。
「待たせたな! ザンキ!」
「待たせ過ぎだ、馬鹿ッ! 死ぬところだったんだぞ!」
「いやいや、これも作戦だったんだよ!」
「……違う……偶々……ザンキ……騙されないで……」
「おう! もう、金輪際、アイツの立てた作戦は信用できねえ! だが、お前は信用できる! 今回もありがとよ!」
「……ザンキ……嬉しい……これ……渡す……」
そいつは自分の小さい体に括り付けられている無間を俺に差し出した。重たいのにここまで持ってきてくれたか。ありがたい!
「すまねえ!」
「……ザンキが……無事なら……いい」
俺は無間を手に取ると、そいつと役立たずの部隊長と共にその砦を制圧することに成功した。
◇◇◇
「……ということがあってな。そのあと、祝勝会でとりあえずそいつを吊るしておいたが、他の仲間たちや、砦内に囚われていた奴らから、そろそろ許してやれよ、と言われて、下ろしてやった……」
俺が話し終えると、皆は、なにか俯いている。ふと、リンガが口を開く。
「……要するにお前は色仕掛けにあった腹いせに、そいつとその指揮官を殺して、砦の鎮圧をしたのか?」
「まあ、結果的にだがそうなるな。その時の思いもあってか、何か言い寄ってくる女は基本的には信用していないし、俺も好かん。そして、俺を嵌めてくる奴には全力で仕返ししてやろうと心に決めた」
「……よく何日も拷問に耐えれましたね」
「それはな、ウィズ、今回のお前らと一緒だよ。きっと仲間たちが来ると思っていたからな。ま、最後の方はほぼ絶望していたけどな……」
「ははは……。でも、ムソウさんには素晴らしい仲間が居たんですね」
「ああ。あいつらが居なけりゃ、俺はただの人斬り……いや、本当の悪鬼に成り下がっていただろうな……」
盃の中の酒を揺らしながら、前の世界のあいつらのことを思い出した。今頃、何をしているのだろうか。俺が居ないことには……流石に、まだ気づいてはいないだろうが……。黙っていなくなって、悪いことをしたなあと、酒を呑むと、ミサキが震えながら、口を開く。
「ね、ねえ、ムソウさん?」
「……ん? なんだ、ミサキ……?」
「もし、だよ、もしも、次ムソウさんを騙すようなことしたら、私はどうなるの?」
おお、ミサキはすっかりおびえているな。いや、この時は敵だったし、俺も下手をすれば死んでいたかもしれないって状況だったから、叩き斬ってやったわけだが、ミサキのいたずらごときなら、特に何もしないんだがな……。
まあ、いい薬にはなりそうだ。こういう時の答え方は、サヤにやったように……
「……どうなるとおもう?」
「ひっ!?」
俺が満面の笑みをたたえて、ミサキに言うと、ミサキをはじめ皆の顔が引きつっていた……。
「……さて、俺の話は以上だ。……て、ん? 酒が無くなってるな。話している途中に無くなってしまったな」
「早いぞ! ムソウ!!!」
「ハハハッ!酔い覚ましに良いこと教えてやるよ」
俺がそう言うと、皆、こちらを見る。
「この先に温泉がある。片付けが済んだら、皆入って、今日の疲れをゆっくり落とそうとするか?」
俺の言葉に、皆は喜んだ。ちなみに女性からどうぞ、と言うと、リンガ、ハクビ、エンテイ、レイカは喜んでいる。あれ、ミサキは……と、なんか驚いた表情でこちらを見ていた。
「え!? 温泉なんて初耳だよ!? ムソウさんいつ知ったの?」
「昨晩の漁の帰りだ」
「え、じゃあ、昨日も入ったの?」
「ああ、なかなか気持ちよかったぞ」
「なんで教えてくれなかったの~~~~~~!!!!」
そう叫ぶミサキに、にっこり笑って言ってやった。
「……お返しだ」




